てな訳でどうぞ
ズガァアアアアアアン!!
オルカンと轟天丸から発射されたロケット弾が黒竜に着弾すると同時に、派手な爆音が辺りに響き渡る。
「ちょ、ちょっと!?何故いきなり殺そうとしてるのですか!?」
遭遇早々の先制攻撃の爆発に、ジークリンデは泡を食った表情でハジメとソウジに問い質す。畑山先生達も「ええー……」と、若干引いている。そんな一同にハジメとソウジはすまし顔で答える。
「目を覚まさせるなら強烈な衝撃を叩き込んだ方が効率的だろ?」
「それに竜人族は頑丈なんだろ?現に……」
そう言ってソウジが上空を見やると、爆煙が吹き飛ばされ晴れていき、黒い鱗にヒビが入りながらも、大してダメージを負っていない様子の黒竜が姿を現す。
「「ピンピンしているしな」」
「ガァアアアアアッ!!」
黒竜が咆哮を上げる。その咆哮は確かに意志が感じられず、黒竜自身からも敵意も何も感じられない。その黒竜はウィルとジークリンデに視線を向けると、おもむろに頭部を持ち上げ仰け反ると、鋭い牙の並ぶ顎門をガバッと開けてそこに魔力を集束しだした。
キュゥワァアアア!!
不思議な音色を発するそれが例のブレスだと分かり、ソウジ達は咄嗟に回避行動に移ろうとするも、ユエ、シア、アタランテを除く一同は黒竜の咆哮に気圧されて体を動かせず、ウィルは恐怖から動けず、ジークリンデはまだ回復仕切れていないのか、動きが遅い。
「チィッ!!ソウジ!」
「!ああ!!」
ハジメの呼び掛けで、ソウジはハジメの思惑を察し、“縮地”と“空力”を使って上空へと上がり、ハジメは宝物庫から二メートル程の柩型の大盾を取り出す。
上空へと上がったソウジは炎凍空山を抜き、切っ先を地上の方へ向けてから“氷刻”を使い、刀身に幅四メートル、厚さ五十センチ、長さ七メートルの超巨大な氷の剣を“魔法剣術”の補正によって二秒で作り上げる。さらにその氷の刀身に“火属性無効”を生成魔法で付加し、自身の体重を重力魔法で重くして氷の超特大大剣と共に急降下する。
急降下した先はブレスを吐く黒竜とブレスを大盾で防いでいるハジメ達の間―――ブレスの真っ只中に突き刺さる。
氷の超特大大剣は地面に深々と突き刺さり、既に放たれていた黒竜のブレスを遮る。そのブレスの威力そのものは凄まじく、衝撃によって徐々に亀裂が入り、後数秒で崩壊してしまうだろう。だが、時間稼ぎで十分である。
「“
氷の超特大大剣が崩壊する寸前で、ハジメの指示を受けていたユエが重力魔法“禍天”を発動。黒竜の頭上に直径四メートル程の黒く渦巻く球体が現れ、落下すると押し潰すように黒竜を地面に叩きつける。
「グゥルァアアアア!?」
地面に叩きつけられた黒竜は悲鳴を上げながらブレスを中断し、何とか圧力から逃れようと踏ん張るが、そこに容赦なくもう一つの“禍天”―――アタランテが放った重力魔法が黒竜を完全に地面を這いつくばらせる。その間にソウジは氷の超特大大剣から炎凍空山を抜き、ハジメは大盾を宝物庫に仕舞い、代わりにシュラーゲンを取り出す。ユエとアタランテは魔法を継続させながらウィルの元へ移動し、ハジメ、ソウジ、シアが配置についたのを確認して“禍天”を解く。
重力から解放された黒竜はすぐに起き上がるも。
「おぉりゃぁあああああああ!!」
シアのドリュッケンのフルスイングが黒竜の顔を殴り飛ばし、牙を数本へし折る。さらにハジメのシュラーゲンから放たれる加減されたレールガンが黒竜の腹部を叩き、本来の威力より弱いながらも腹部の鱗にヒビを入れる。
「グルァアアアア!!」
痛みを感じているのか悲鳴を上げる黒竜に、居合いの構えをしたソウジが黒竜の片翼に狙いを定め―――
「“
居合いの要領で炎凍空山を抜いた。抜刀された炎凍空山から蒼い斬撃が飛び、黒竜の片翼を容易く切り裂く。
“蒼牙爪”―――“蒼煌”と“飛爪”を“魔法剣術:限定複合魔法”で組み合わせたソウジのオリジナルの技である。
ちなみに翼を切り裂いたのは、魔法で変身しているんだから斬っても問題ないだろうという、軽い理由からだ。
「クゥワァアア!!」
片翼を切り飛ばされた黒竜はさらに悲鳴を上げるが、ハジメ達は容赦なく黒竜に追撃をかまし、(物理的に)洗脳を解こうとしていく。
振動破砕、手榴弾、“豪脚”の踵落とし、徒手空拳で放つ○突・零○での“豪腕”……
ありとあらゆる攻撃手段で黒竜をヒット&アウェイでフルボッコにしていくハジメとソウジ。シアは二人の意図を察したユエとアタランテからその意図を伝えられて途中離脱。今はユエの傍らで観戦しており、ジークリンデは本当に大丈夫なのかとヒヤヒヤしながらアタランテの隣で蹂躙劇を見守っている。それ以外の面々はハジメとソウジの圧倒的な戦闘に目を奪われている。
ハジメとソウジは黒竜の洗脳を(物理的に)解くついでに畑山先生達に自分達の戦闘力を見せつけておこうと考えたのだ。実際、黒竜は“当たらなければどうということはない”が十分に実践できるくらい単調な動きしか出来ていないので、畑山先生達と別れた後、教会や国、勇者達に畑山先生達から情報がいっても安易に強硬手段に出られないように、実力を示しておこうと思ったのだ。あんまり意味がないだろうが。
「グルゥ、グワッン!」
そんな都合と合わさってフルボッコにされて、声に泣きが入っている黒竜はすごく哀れであった。
そろそろ、キツイ一発を食らわしてやろうと、ハジメはパイルバンカーの杭だけを取り出し、ソウジは炎凍空山の刀身に三メートル程の氷の大剣を形成する。ソウジはその即席の大剣を手に“爆縮地”で黒竜の頭部に接近、その氷の大剣を叩き込んだ。氷の大剣は、形成と同時に重力魔法を同時にかけていたので見た目に反して凄まじく重く、その一撃を食らった黒竜の頭部は、氷の大剣を砕きながらも地面にめり込んだ。
頭部を地面にへと叩き込まれ、ビクンビクンと痙攣する黒竜にハジメは黒竜の尻尾の付け根へと近づき、やり投げの選手のような構えを取る。手には当然、パイルバンカーの杭がある。
全員、ハジメのしようとしていることを察し、頬をひきつらせる。特にジークリンデは「待って下さい!それは……!」と止めさせようと近寄っていくが既に遅い。
ハジメはそのまま黒竜の“ピッー”にズブリと、パイルバンカーの杭を突き刺した。
“アッーーーーーーーーーーなのじゃあああああああーーーーーーーーー!!!”
パイルバンカーの杭が突き刺さり、くわっと目を見開いた黒竜から悲痛な絶叫が上がる。声質からして女性のようである。
“お尻がぁ~、妾のお尻がぁ~”
黒竜の悲しげで、切なげで、それでいて何処か興奮したような声音が広域版の念話のように響く。その声音にジークリンデは「……え?」と呟いてその場で固まってしまう。
黒竜に掛けられた洗脳は解けたようだがまだ一波乱ありそうである。
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