魔王の剣   作:厄介な猫さん

46 / 157
てな訳でどうぞ


幸せを求め、願うなら

ブリーゼが行きよりも早い速度で帰り道を爆走し、後ろに続くサイドカーを取り付けた翼丸も同じように爆走している。翼丸のシートにはソウジとアタランテが、とある理由から座り心地があまり良くないサイドカーにはジークリンデが乗っている。そのジークリンデはティオの変貌に未だショックを受けており、顔を覆って泣き続けている。

その道中で、鬼気迫る表情の護衛隊と遭遇。サンルーフから体を出した畑山先生を視界に入れると、恍惚とした顔で両手を広げてスタンバイ。気持ち悪い笑顔をする騎士達に、ハジメはブリーゼを減速せずに逆に加速。騎士達は大慌てで進路上から退避し、まるで恋人と無理やり引き裂かれたような悲鳴を上げて、猛然と後を追いかけ始めた。

その後、ブリーゼの天井に磔にされたティオが終始、恍惚とした表情を浮かべていたことを知った際、ジークリンデは身体を丸めて大号泣、ユエは悲しげな表情でジークリンデにすりより、慰めていた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

町に着いて早々、ウィルが真っ先に飛び出してしまい、ここで畑山先生達と別れてウィルを連れてフューレンに向かうつもりだったソウジ達は仕方なくウィルと畑山先生達の後を追って町長のいるであろう役場にへと向かって行く。

その道中で屋台の串焼きやら何やらを食べつつ、役場に着くと、役場には町の重鎮達が集まっており、皆一様に畑山先生達に掴みかからんばかりの勢いで問い詰めていた。

ちなみに、ティオとジークリンデの正体と黒幕が清水幸利である可能性は、伏せることで一致している。ティオ達の正体は本人達からの要望と、無用な混乱を招くことから承諾。清水の方はまだ可能性の段階だから不用意なことを言いたくないという、畑山先生の頑なな要望からだ。

そんなことはさておき、ハジメとソウジは周りの混乱などどこ吹く風で無視し、ウィルに話しかける。

 

 

「おい、ウィル。勝手に突っ走るなよ。報告が終わったなら、さっさとフューレンに向かうぞ」

 

「な、何を言っているのですか?まさか、この町を見捨てて行くつもりで……」

 

「どうせ、町は放棄して救援が来るまでは避難するしかないんだ。他の人より少し早く避難するだけだから、問題ないだろ?」

 

「そ、それは……でも、自分だけ先に逃げるなんて出来ません!私にも、手伝えることが何かあるはずなんです。ハジメ殿にソウジ殿も……」

 

 

駄々を捏ねるウィルに、ハジメとソウジは冷めきった眼差しを向け、凍てついた言葉を放つ。

 

 

「はっきり言わないと分からないのか?オレらの仕事はお前をフューレンに連れて帰ること。この町のことは仕事外だし、どうなろうと知ったことじゃないんだよ」

 

「どうしても付いて来ないというなら、手足を砕いてでも連れていく……だからさっさと決めろ。自分の意志で帰るか、無理やり連れて帰られるのかをな」

 

「なっ、そ、そんな……」

 

 

二人の雰囲気から、その言葉が本気だと察したウィルが裏切られたかのような表情となって後退りする。そんなウィルに、ハジメとソウジが決断を迫るように歩み寄ろうとするも、畑山先生が立ちふさがり、真っ直ぐな眼差しで二人を見やる。

 

 

「南雲君、空山君……君達なら魔物の大群をどうにかできますか?いえ……できますよね?」

 

 

畑山先生のその言葉に、町の重鎮達が一斉に騒めく。その言葉と眼差しを、ハジメとソウジは振り払う素振りを見せ、誤魔化すように否定しようとする。

 

 

「いやいや、先生。無理に決まってんだろ?」

 

「見た限り四万は超えてるんだ。いくらなんでも……」

 

「でも、山にいた時、君達は“出来ない”とは言いませんでした。それに南雲君は“こんな場所では殲滅選はやりづらい”と、空山君は“確実性に欠ける”とも言ってましたよね?それは平原で二人一緒なら殲滅が可能……いえ、確実という事ですよね?」

 

「……」

 

「……よく覚えてんな」

 

 

下手なことを言ってしまったと内心で後悔するハジメとソウジ。そんな顔を逸らした二人に、畑山先生は更に真剣な表情のまま頼みを伝える。

 

 

「どうか力を貸してくれませんか?このままでは、きっと町だけではなく、多くの人々の命が失われてしまいます」

 

「……意外だな。生徒のことが最優先だと思っていたが、見ず知らずの人々の為に、生徒に死地へ赴けと言うとはな」

 

「まるで、言葉巧みに煽動して戦争に駆り立てる教会連中と同じだな?」

 

 

二人の揶揄するような言葉に、畑山先生は動じず、“先生”の表情で一歩も引かず、二人に向き直る。

 

 

「元の世界に帰る方法があるなら、直ぐにでも生徒達を連れて帰りたい、その気持ちは今でも変わりません。でも……この世界で生きている以上、関わった人々を、少なくとも出来る範囲で見捨てたくない。勿論、優先順位は変わりませんが……」

 

 

畑山先生は一つ一つ確かめるように言葉を紡いでいく。

 

 

「二人がそんな風になるには、きっと想像を絶する経験をしてきたのだと思います。君達が苦しい時に力になれなかった先生の言葉など……軽いかも知れません。でも、聞いて下さい。君達は絶対に元の世界に帰ると言いましたよね?でも、二人は元の世界に帰っても大切な人以外の一切を切り捨てて生きますか?同じ生き方が元の世界で出来ますか?帰って早々、生き方を変えられますか?先生が、生徒達に戦いへの積極性を持って欲しくないのは、元の生活に戻れるのか心配だからです。殺すことに、力を振るうことに、慣れて欲しくないからです」

 

「「…………」」

 

「当然、二人には二人の価値観があり、先生はそれを強制するようなことはしません。ですが、どのような未来であれ、大切な人以外を切り捨てるその生き方は……とても“寂しい事”だと、先生は思います。きっと、その生き方は、幸せをもたらさない。幸せを望むなら、出来る範囲でいいから……どんな理由でもいいから……他者を思い遣る気持ちを忘れないで下さい。君達にまだ残っている大切で尊いそれを……捨てないで下さい」

 

 

世界を超えても、どんな状況であっても、生徒が変わり果てていても、全くブレずに“先生”であり続けようとする畑山先生にソウジは感心から内心で苦笑する。どこまでも“先生”として生徒の幸せを願う言葉に、ソウジは目を瞑って考える。

ハジメ同様、ソウジにとってもこの世界は牢獄だ。元の世界へ、家族の元に帰ることを妨げる檻である。そんな世界に、心を砕く事は極めて困難であり、奈落で刻んだ考えはそう簡単には変わらない。

だが、アタランテをどんな理由であれ同行させた結果、彼女と付き合うこととなり、家族に迎えたいとさえ思っている。それは、切り捨てなかった故の幸せではないだろうか。

ソウジが目を開き、アタランテに視線を向けると、アタランテは真っ直ぐにソウジと視線を合わせた。その瞳から信頼がはっきりと伝わってくる。

何故、畑山先生が“それ”が自分達にまだ残っていると言ったのかは分からないが、畑山先生は何かを感じ取っていたのだろう。納得した訳ではないが、今回は“自分の先生”の本気の“説教”を聞く事にする。

ソウジはハジメに目を合わせ、互いに同じ結論に至った事を確認すると、畑山先生に再度向き合って問いかける。

 

 

「……先生は、これからも、俺達の先生か?」

 

「当然です」

 

「……オレ達がどんな決断をしても?それが、先生の望まない結果だとしてもか?」

 

「先生の話を聞いて、なお決断したことなら、先生は否定したりしません」

 

 

二人の問いかけに畑山先生は一瞬の躊躇いもなく答える。暫く二人は畑山先生を見つめ続け、言葉に偽りがないと分かると、おもむろに踵を返して出入口へと向かっていく。ユエとシア、アタランテもすぐに続いていく。

 

 

「……流石に、数万の大群を相手取るなら、ちょっと準備しないといけないからな。話し合いはそっちでやってくれ」

 

「先生からの一番の忠告だからな……それが幸せに繋がるかもしれないなら……取り敢えず、今回は、奴らを蹴散らしておくことにしとくさ」

 

 

その返答に顔を輝かせる畑山先生を尻目に、ソウジ達は部屋を出ていった。

 

 

「妾、重要参考人のはずじゃのに……これが放置プレイ……流石、ご主ry」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……私のせいでティオ様が変態に……」

 

 

火照った表情のティオとまだ泣いているジークリンデをごく自然にスルーして……

 

 

 




感想お待ちしてます

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。