カオスな状況にハジメとソウジがウンザリし始めたとき、遂に魔物の大群がやって来る。
「!」
「……来たか」
オルニスから送られる山脈地帯からの光景には、ブルタール、三、四メートル程の黒い狼、六本足のトカゲ、背中に剣山をはやしたバイソン、四本の鎌をもったカマキリ、体のいたるとこに無数の触手が生えた巨大な蜘蛛、二本角を生やした真っ白な大蛇等、バリエーション豊かな魔物の大群が大地を鳴動させ土埃を巻き上げ猛烈な勢いで進軍している。山で確認した時よりもその数は倍近く増えているようだ。
さらに大群の上空には何十体ものプテラノドンモドキの魔物おり、その内の一際大きな個体の上に例の黒ローブの男がいる。
「来たぞ。予定よりかなり早いが、到達まで後三十分ってところだ」
「数はおおよそ六万。複数の魔物の混成だ」
増えた魔物の数に、畑山先生達は顔を青ざめさせるが、ハジメとソウジは壁の上に飛び上がりながら肩越しに不敵な笑みを見せる。
「そんな顔をするなよ、先生。これくらい想定の範囲内だ」
「予定通り、万一に備えて戦えるやつは“壁際”に待機させといてくれ。出番は来ないだろうがな」
何の気圧いもない二人の言葉に、畑山先生は少し眩しいものを見るように目を細める。
「……わかりました……ここに立たせた先生が言うことではないかもしれませんが……どうか無事で……」
畑山先生はそう言って町の方へと戻っていき、騎士と生徒達も、一度ハジメとソウジに複雑そうな目で見て、畑山先生を追いかけて走っていく。だが、園部はハジメの背中に視線を向けたまま、その場に残っていた。そして、意を決したように口を開く。
「あ、あのさ南雲!オルクスの時、助けてくれてありがとね!!」
どうやら園部はハジメに用あったみたいなので、ハジメの隣にいるソウジは園部の言葉をしれっと聞き流す。ハジメの「お前は根性があるやつだ」という言葉も聞き流し、一通りいい終えた園部はそのまま踵を返して畑山先生達の後を追いかけていった。
ウィルとティオ、ジークリンデもその場に残っていたが、ウィルはティオとジークリンデに何かを語りかけると、ハジメとソウジに頭を下げて園部と同様に去っていった。疑問顔のハジメとソウジに、ティオとジークリンデが苦笑いしながら答える。
「今回の出来事を妾達が力を尽くして見事乗り切ったなら、少なくともウィル坊は冒険者達の事を許すという話じゃ……」
「もちろん、それがなくとも助太刀させていただきます。竜化せずともティオ様の炎と風は見事ですし、私もティオ様程ではありませんが、氷と風には自信があります」
竜人族は亜人族に分類されてはいるが、魔物同様に直接魔力操作が出来、ユエとアタランテ程ではないが、適性のある属性魔法なら無詠唱で行使できるようだ。
メロンを強調するティオと梨の前で手を握って気合いを入れているジークリンデにハジメは宝物庫から魔力タンクの指輪やアクセサリーを取り出し、幾つかをソウジの手元に出現させる。ソウジはめんどくさいと思いつつも、それをジークリンデの方に向かって投げ渡す。
「えっと、これは……?」
「魔力タンクの装飾品だ。貸してやるから、砲台として役目を果たせ」
「あ、はい。分かりました」
ソウジの説明に疑問顔だったジークリンデも納得してアクセサリーをかけていく。ちなみに魔力タンクの指輪はアタランテにも送っており、「これはユエが言っていたプロポーズなのか!?」と、顔を真っ赤に動揺していたのは記憶に新しい。ティオの方はハジメが渡し、渡されたティオはかつてのユエと同じリアクションをし、その事にユエは嫌そうな顔をしていた。
そして、遂に魔物の大群が肉眼で捉えられる程の距離に到達し、“壁際”にいる人達は戦闘の構えを取っていく。それを尻目に、ハジメとソウジは前に出る。ハジメが錬成で地面を盛り上げながら作成した即席の演説台にへと二人は登り、昨日ハジメが草案を出し、打ち合わせした演説を天に届かんばかりに声を張り上げて開始する。
「聞け!ウルの町の勇敢なる者達よ!」
「私達の勝利は女神様によって既に確定している!」
「そう、皆が知っている我らの“豊穣の女神”愛子様によってな!!」
その演説に愛子先生がギョッとしたようにハジメとソウジを見るが二人は構わず続けていく。
「我らの傍に愛子様がいる限り、敗北はありえない!何故なら、愛子様こそが我ら人類の味方にして“豊穣”と“勝利”の未来をもたらす、天が遣わした現代神であるからだ!!」
「私達は、愛子様の剣にして盾、彼女の皆を守りたいという想いに応えてやって来た!」
「「見よ!これが、愛子様により教え導かれた私達の力である!!」」
ハジメとソウジは声を揃えて高らかに告げると、それぞれの宝物庫からシュラーゲンと不知火を取り出し、シュラーゲンを構えたハジメはシュラーゲンの銃身からアンカーを地面に打ち込んで固定し、不知火を構えたソウジは銃口部分に蒼い熱球を集束していく。それぞれの得物を膝立ちで構え、町の人々が注目する中、プテラノドンモドキに標準を合わせ……引き金を引いた。
紅いスパークを放っているシュラーゲンから極大の紅い閃光が、重力魔法の付加によって射程と威力が大幅に伸びた不知火から極大の蒼い熱線が、一瞬で空を駆け抜け、それぞれが狙いを定めたプテラノドンモドキを木っ端微塵に撃ち抜き、その余波だけで周囲の数体の翼を粉砕、もしくは焼き焦がせ、地へと堕とす。その後も二射、三射と発射し、黒ローブの男が乗るプテラノドンモドキも余波で吹き飛ばし、ローブ男の逃走手段を奪っていく。
空の魔物を駆逐し終え、ハジメとソウジは悠然と振り返る。
「「愛子様、万歳!!」」
そして、唖然する人々に、最後の締めに愛子先生を讃える言葉を張り上げる。次の瞬間……
「「「「「「「愛子様、万歳!!愛子様、万歳!!愛子様、万歳!!愛子様、万歳!!」」」」」」」
「「「「「「「女神様、万歳!!女神様、万歳!!女神様、万歳!!女神様、万歳!!」」」」」」」
ウルの町に本当の女神が誕生し、町の人々は皆一様に、先程までの恐怖や不安が嘘のように希望に目を輝かせて愛子先生を女神として讃える雄叫びを上げた。遠くにいる愛子先生は顔を真っ赤にぷるぷる震え、ハジメとソウジに真っ直ぐに視線を向けており、小さな口が「ど・う・い・う・こ・と・で・す・か!」と動いている。
愛子先生を前面に押し出したのには勿論理由がある。一つ目は“豊穣の女神”の発言力を強め、教会連中が簡単に手出し出来ないようにする事。二つ目は愛子先生がもたらした力という事にして人々の恐怖や敵意を和らげる事。三つ目は矢面立って見せろという意思表示である。
もっとも、一番の理由は人々がパニックになると面倒なので、知名度の高い愛子先生に何とかしてもらおうという他人任せな理由ではあるが……
そうとは知らず、熱烈な愛子先生コールを送る人々、愛子先生からの鋭い視線、騎士達の笑みを浮かべた視線を受けながらハジメとソウジは魔物の大群へと向き直り、演説台を降りて前にへと進み、ハジメはシュラーゲンをしまってメツェライを二門、ソウジは新たに轟天丸を取り出す。
メツェライの弾倉を持ってスタンバイするユエ、オルカンを担ぐシア、ヤークトを構えるアタランテ、魔力タンクの指輪にうっとりしているティオ、気合いを入れ直すジークリンデに並び立ち、ハジメとソウジは魔物の大群を視界に収め……
「そんじゃあ……」
「やるか」
何の気負いもなく、そう呟いた。
感想お待ちしてます