魔王の剣   作:厄介な猫さん

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酷いな、ホント
てな訳でどうぞ


迷宮と戦闘

一夜明け、一同は【オルクス大迷宮】の正面入り口がある広場に来ていた。広場にはあちこちに露店があり、お祭りのように賑わっている。

まるで博物館の入場ゲートのような入り口を潜り、迷宮の中へと入っていったのだが·····

 

 

「……うん。やっぱ、周りがチートすぎるわ……」

 

 

ソウジは遠い目をして呟き、天之河達の戦闘を見やる。

天之河達は魔物達を容易く倒しまくっている。彼らのスペックにはメルド団長達も苦笑い状態だ。

周りが俺ツエーするなか、ソウジと南雲はほとんど何も出来ていない。一応二人も、連携して魔物を倒したのだが、全部騎士団員が半分ほど弱らせてこちらへと弾き飛ばしてきた魔物であり、ソウジが魔物を剣で足止めし、その隙に南雲が地面を錬成して落とし穴にはめ、最後にソウジが脳天を貫く。その繰り返しである。

 

 

「ほとんど寄生型プレイヤーだよね……」

 

「言うな。余計空しくなる」

 

 

ソウジは溜め息を吐きながら自身のステータスプレートを見る。レベルは二つほど上がったが、魔力は相変わらず同じままだ。

 

 

「何時になったら魔力が上がるんだよ……」

 

「地道に頑張っていけば何時か上がるよ」

 

「その何時かがもの凄く遠いんだけどな……」

 

「あはは……」

 

「「ハァ……」」

 

 

魔力回復薬を飲みながら互いに溜め息を吐く二人を、騎士団員達は感心したように見ていた。

どちらも正直、あまり期待していなかったのだが、ソウジが魔物を足止めしている時の剣さばきは彼らも唸らせるものであり、南雲も錬成を実戦で使うという、自分達の常識をいい意味で覆していたからだ。

そんな騎士団員達の視線を、気落ちしている二人は全く気づいていない。

そんな感じで小休止していると、先頭で戦っていた白崎がこちらを向き南雲を見つめる。南雲は気恥ずかしさからか視線を反らした。

二人の様子が今までと違っていたのでソウジは確認の為に小声で南雲に話しかける。

 

 

「昨日、白崎と何かあったのか?」

 

「べ、別に何もなかったよ!?」

 

「オーケー。大体察した。さっきから感じる、この視線の理由もな」

 

「……やっぱり気づいてた?」

 

「ああ。大方、白崎が俺らの部屋に訪れたのを誰かが見てたんだろうな」

 

「ゴメンね空山くん。完全なとばっちりを与えちゃって」

 

「お前は悪くないだろ。どっちかというとこの嫉妬の視線の主が悪い。文句があるなら堂々と言え、という気分だな」

 

「「ハァ……」」

 

 

もう何度目かわからない溜め息を同時に吐く。南雲と白崎の間に進展があったのはいいことなのだが。その代償がこの陰湿な嫉妬の視線なのがイラッとくるが。

そんな視線にうんざりしながらも二十層を探索していく。

その道中でロックマウントという、カメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物が襲いかかるも、天之河が大技でソイツを仕留めた。

 

 

「こんな狭い場所で大技を使うな。崩落でもしたらどうするんだ?」

 

「……す、すみません……」

 

 

メルド団長からお叱りを受ける結果となったが……

 

 

「……あれ、何かな?」

 

 

そう呟いた白崎が指差す方へ視線を向けると、その先には青白く発光する宝石が壁に埋もれていた。

メルド団長が言うには、あれはグランツ鉱石という鉱石だそうで、白崎がその鉱石をうっとりと見つめ、チラリと南雲に視線を向けると……

 

 

「だったら俺が取ってきてやるよ!」

 

 

檜山がそう言って、壁を登っていく。メルド団長の制止も無視し、檜山がグランツ鉱石に触れたその瞬間―――

 

 

「団長!トラップです!」

 

 

トラップを発見するアーティファクト―――フェアスコープでグランツ鉱石の辺りを調べていた団員から警告が飛ぶも一歩遅く、檜山はグランツ鉱石に触れてしまっていた。その瞬間、鉱石を中心に魔法陣が展開され部屋全体に広がっていく。

メルド団長が部屋からの脱出を促すも間に合わず、魔法陣の光が視界を潰し、一瞬の浮遊感の後一同は巨大な石造りの橋の上に転移された。

しかも、階段側から魔法陣が現れ、その魔法陣から骨格だけの剣を携えた魔物“トラウムソルジャー”が大量に出現していく。さらに反対側にも魔法陣が出現し、そこから一体のトリケラトプスのような巨大な魔物が出現した。

 

 

「アラン!生徒達を率いて“トラウムソルジャー”を突破しろ!光輝達もアランに続け!残りはヤツを食い止めるぞ!!」

 

 

正気に戻ったメルド団長は矢継ぎ早に指示を飛ばしていくも。

 

 

「待って下さい!俺達もやります!アイツが一番ヤバいですから俺達も……」

 

「馬鹿野郎!アイツが“ベヒモス”なら今のお前達では無理だ!!」

 

 

そんな口論を尻目に、ソウジは“縮地”を利用した突きを放って、橋の隅にいたトラウムソルジャーを奈落へと突き落とし、直ぐ様“縮地”でその場を離脱し、魔力回復薬を飲む。

ハッキリ言って怖くて堪らないが、必死に己を奮い立たせて仕掛けていく。

南雲も錬成を駆使してトラウムソルジャーの足止めをしているが、誰も彼もがパニックに陥っているので、まとまりが全くない。騎士団員の言葉も彼らには殆ど届いていない。

 

 

「空山くん!今から天之河くんを呼びに行ってくる!!」

 

 

南雲はそう言って、ベヒモスの方へと走って向かって行った。

確かにこの状況を打破するには、チート最上位の天之河でないと不可能だ。

ソウジは、南雲が天之河を連れてくるのを信じ、ひたすらに魔法陣から湧いて出てくるトラウムソルジャーを奈落へと突き落としていく。

そんなヒットアウェイ戦法を続けていると……

 

 

「“天翔閃”!!」

 

 

純白の斬撃が飛来し、トラウムソルジャーの群れを中央から切り裂き、吹き飛ばした。

 

 

「皆!俺が道を切り開く!!」

 

 

ようやくこちらに来た天之河が再び“天翔閃”を放ち、敵を切り裂いていく。周りも天之河の存在と、天之河の攻撃によって一瞬見えた階段で次第に落ち着きを取り戻し、次第に統制がとれ始める。

そして撃破数が召喚数を越え、階段の道が遂に開かれた。

 

 

「皆!階段前を確保するぞ!!」

 

 

天之河の言葉で全員が階段へ向かって駆け出し、全員トラウムソルジャーの包囲網を突破した。このままおさらば、と思った矢先。

 

 

「待って、皆!あの怪物を一人で抑えている南雲くんを助けなきゃ!」

 

 

白崎のその言葉に、ソウジは急いでトラウムソルジャー越しに橋の方を見ると、そこには南雲と上半身が橋に埋まっているベヒモスの姿があった。

 

 

「そうだ!坊主のおかげでここまで撤退できたんだ!前衛組はソルジャーどもを寄せ付けるな!後衛組は遠距離魔法の準備だ!!」

 

 

メルド団長の有無を言わさぬ指示に、クラスメイト達も覚悟を決め戦場へと戻っていく。

南雲が駆け出すと同時に、ありとあらゆる魔法がベヒモスへと殺到していく。

ソウジはトラウムソルジャーを突き落としながら距離を取った時、そちらへと目を向けると―――

 

 

―――南雲の目の前で火球が炸裂し、南雲は後ろへと吹き飛ばされていた。

 

 

(―――なッ!?)

 

 

その光景にソウジは絶句し、身体の動きを止めてしまう。その間に、ベヒモスは頭部を盾のようにかざし南雲に迫っていくも、南雲は辛うじてそれを避ける。

だが、着弾地点から橋がメキメキと悲鳴を上げ…………崩壊を始めていく。

 

 

「―――くそったれぇええええええええええええええ―――ッ!!!!」

 

 

橋の崩落でようやく我を取り戻したソウジは“爆縮地”を使い南雲へと向かっていく。

このまま友人を目の前で失う訳にはいかないッ!!

そんな思いで橋を駆け抜け、崩壊していく足場の前で南雲の伸ばした手を掴み、崩れ落ち行く足場の関係から“縮地”を使って急いでその場を離脱しようと、階段の方へと向き直ろうと顔を向けると―――

 

 

―――石畳の欠片が目の寸前まで迫って来ていた。

 

 

「―――ぐあッ!?」

 

 

明らかに速度が乗っている欠片はソウジの左目に直撃し、焼けるような激痛が広がり、痛みで南雲を掴んでいない反対の手で、左目を抑えてしまう。

それが命取りとなり、足場が完全に崩壊してしまい、南雲共々奈落へと落ちていってしまう。

奈落へと落ちながら見た光景は、今にも飛び出しそうな悲痛な顔をした白崎、その白崎を八重樫と天之河が羽交い締めで抑えており、その八重樫も白崎同様、悲痛な顔をしていた―――

 

 

 




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