魔王の剣   作:厄介な猫さん

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またしてもオリキャラ投入(白目)
てな訳でどうぞ


歌姫と幼子

フューレンの街の表通りをソウジとアタランテは手を繋いで歩いている。ソウジの服装はいつも通りだが、アタランテの服装は何時も着ている服ではなく、ブラウスにジャンバースカートを身に纏っている。

 

 

「今日はいい天気だなソウジ」

 

「そうだな。いい天気だ」

 

 

とりとめのない会話をしながらソウジとアタランテは観光区を目指す。ハジメとシアもいく先は同じだが、出発時間を少々ずらして互いのデートにかち合わないように大雑把なルートを互いに確認している。

 

 

「最初は歌劇場からだったな?」

 

「ああ」

 

 

行き先を確認しつつ二人は観光区へと足を運び、迷うことなく歌劇場へと足を進めていく。途中の大道芸通りの妙技に目を奪われつつ、目的の歌劇場へと辿り着くと、意外にも多くの人がおり、客席はほとんど満席であった。二人は空いていた入り口近くの二つの席に並んで座る。

 

 

「随分と人が多いな」

 

「……ソウジ。受付で今日は有名な歌姫が歌うと言っていたぞ」

 

「そうだったのか?」

 

「……やっぱり聞き流していたのだな」

 

 

アタランテはソウジに若干呆れつつも、受付の人から聞いた話―――有名な歌姫、アリア・リートが一昨日やって来て今日ここで公演するという事を説明していく。

 

 

「ふーん。聞いた限り、アグレッシブなやつだな」

 

「まぁ予定していなかった事をその場で決める辺り、そうなのだろうな」

 

 

一応周りに気を使って小声で会話していると、舞台のホールに淡い桃色の髪をサイドテールで纏め、赤いドレスを着た一人の少女が現れる。見た目は十五、六歳くらいの少女はステージの中央へと立ち、軽く一礼をし、深呼吸をしてから歌い始める。

 

 

「~~♪~~~♪」

 

 

ピアノの伴奏に合わせて奏でる彼女の歌声に周りの観客達は静かに聴いている。誰もが目を瞑り、聞き入っている。隣に座っているアタランテも同様に目を瞑り、静かに彼女の歌声を聴いている。

ソウジは確かに有名になるなぁ、と納得しつつ彼女の歌を聴いていた。

彼女が歌い終わると盛大な拍手が沸き上がり、ステージの彼女も軽く一礼してその場から去っていく。ソウジとアタランテも同様に拍手し、次第に観客達が席を立ち始め、ソウジ達もそれに続く。

 

 

「次は何処に行こうか?」

 

「食事がしたい。それも飛びっきり美味しい料理が出る場所で」

 

 

エントランスホールで次の行き先を話し合っていると、周りの人達がざわめき始める。

 

 

「ん?」

 

 

ソウジは少し気になってざわめいている方向に目を向けると、先程の歌姫、アリア・リートが人々に手を振りながら歩いていた。

ソウジはアリアと軽く目が合ったが、興味は然程なかったので直ぐに視線を逸らす。

そのまま次の行き先を決め、その場を離れていく。

 

 

「こんにちは。本日はいいお天気ですね」

 

 

アリアが誰かに話しかけられているようだが、ソウジとアタランテは気にせずその場を後にした。

 

 

「…………」

 

「あの、アリア様……?」

 

 

心配する声に、硬直していたアリアはにこやかな笑みを浮かべて手を振って返すが……

 

 

(何なんだよアイツは!?アタシから目を逸らしただけに飽きたらず無視するとか……!あんな対応、有名になってから初めてなんだけど!?)

 

 

内心は汚い口調で凄く憤っていた。噂が広がり始めている“女神の剣”の片割れであるソウジを見つけたので、多少繋がりを持っていたら何かしらの得があると思って目を向けても視線を少し合わせただけで直ぐに興味がないと云わんばかりに逸らされ、にこやかな笑顔でアリア自ら話しかけたにも関わらず、喜んで話しかけるどころか隣の彼女もろとも気づかずに立ち去ってしまったのだからある意味当然である。

 

 

(覚えておきなよ!次会った時はアタシの虜にしてやるからな!!)

 

 

アリアは内心に宿った闘志を胸に心の中で宣言した。その次の再会でアリアの宣言は崩れ去ることになろうとは、この時の彼女には想像つかなかった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

歌劇場を後にし、格式の高い場所で昼食を摂ったソウジとアタランテは、露店で買った食べ物を食べ歩きながら通りを散策していた。

昼食も五人前程食べきり、現在進行形で甘味を堪能しているアタランテは本当に幸せそうな表情だ。

以前、幾ら食べても体型が変化しないアタランテに、シアが羨ましげな視線を送った際、本人の「確かに幾ら食べても体型は変わらないな…………どこも、な……」と悲しげな表情で呟いた時は、何とも言えない空気となり、シアが謝ったのは言うまでもない。

アイスクリームモドキを美味しそう食べているアタランテを横目で眺めながら歩いていると、シアとデートしている筈のハジメとバッタリと会った。

 

 

「?ハジメどうして一人なんだ?シアはどうした?」

 

「ソウジにアタランテか。実はな……」

 

 

二人に気づいたハジメはそのまま、シアとデートしている途中で下水道でミュウと名乗る三、四歳くらいの海人族の女の子を見つけ、ミュウの世話をシアに任せ、自分はミュウの汚れた衣服の変わりとなる服を買いに向かう途中である事を説明していく。

 

 

「それならオレ達も付き合ってやる。女の子の服を買うならアタランテも一緒の方が多少はマシな筈だ」

 

「……助かる」

 

 

ハジメは素直に礼を言い、三人一緒で子供用の白乳色のワンピース、グラディエーターサンダルっぽい履き物、下着を購入してハジメの案内で女の子の居る場所に向かう。

ハジメの案内で辿り着いた袋小路には毛布にくるまれたエメラルドグリーンの髪色で耳辺りが扇状のヒレの少女―――ミュウと、ミュウを抱っこして串焼きを食べさせているシアがいた。

 

 

「あっ、お帰りなさいハジメさん。ソウジさん達もご一緒でしたか」

 

「ああ。途中でハジメと会ってな。事情は既に把握している」

 

「そうですか。素人判断ですがミュウちゃんは大丈夫みたいです」

 

 

シアがソウジ達に気付き、既に把握していると伝えられミュウの状態を報告する。ミュウもソウジ達に気付き、口をはぐはぐ動かしながらジーっとソウジ達を見つめ始める。

ハジメが買ってきた服をミュウに着せ、ハジメお手製のドライヤーで髪を乾かしている間にソウジはミュウに向かって自己紹介をする。

 

 

「オレはソウジで彼女はアタランテだ。名前は既にハジメから聞いているよミュウちゃん」

 

 

ソウジが自己紹介している間もミュウの視線は忙しなくハジメとソウジ、アタランテを交互に見ている。おそらく良い人か悪い人か判断しているのだろう。

ひとまず、アタランテが食べ物を与えながらミュウに自身の事情を聞いてみると、海岸線近くで母親と泳いで遊んでいたらはぐれてしまい、さまよっていたら人間族の男に捕らえられた事、幾日もの辛い道程を経てフューレンに連れて来られ薄暗い牢屋のような場所に入れられた事、そこには人間族の幼子もおり、少し年齢が上の少年から自分達は客に値段をつけられて売られると言っていた事、自分の番になった時たまたま地下水路への穴が開いており、そこから逃げた事を話していった。

 

 

「値段をつける……ね」

 

「完全に裏のオークションだな」

 

「……どうしますか?」

 

 

シアが辛そうに、ミュウを抱きしめる。その瞳には何とかしたいという光が宿っているが……

 

 

「保安署に預けるのがベターだろ」

 

「……それが妥当だろうな」

 

「そんなっ……見捨てるんですか……」

 

「……あのなぁ、シア。迷子を見つけたら保安署に送り届けるのは見捨てるとは言わないし、誘拐された子を勝手に連れ回したらめでたく誘拐犯の仲間入りだぞ」

 

「これはおそらく大都市につきものの闇だ。フューレンの問題にわざわざ首を突っ込む訳にはいかないし通報すれば正式に捜査されるだろうから他の子供達も保護される筈だ。……お前の気持ちは理解できるが……」

 

「それは……そうですけど……」

 

「悪いがハジメとソウジの言う通りだ。それに迷宮攻略の際、一体どうするつもりなのだ?流石に情だけで動いては、この子に辛い思いをさせるだけだぞ?」

 

「……はい、ですぅ……」

 

 

三人の正論にシアは何も言い返せずに項垂れてしまう。ミュウも不穏な空気を察してか、シアの体にギュッとしがみついている。

そんなミュウに、ハジメは理解出来るようにゆっくりと話し、保安署でお別れだと告げると。

 

 

「やーーーっ!!お兄ちゃん達がいいの!お兄ちゃん達といるの!」

 

 

ミュウは駄々っ子のように暴れてハジメの言葉を拒絶した。駄々を捏ねられても一緒に連れて行く訳にはいかないし、公的機関への通報はどちらにせよ必要なのだ。なので、駄々を捏ねるミュウをハジメが抱き抱え強制的に保安署へと向かう事にした。

保安署へ向かう間、ミュウはハジメの髪や眼帯や頬を盛大に引っ張り引っ掻きと必死に抵抗していた。保安署に到着する頃にはハジメの髪はボサボサ、眼帯は奪われ片目は閉じたまま、頬に引っ掻き傷が出来上がり、ソウジ達がいなければ誘拐犯と間違えられてもおかしくなかった。

ひとまず出迎えた保安員に事情を説明し、事情を聞いた保安員はミュウを手厚く保護すると約束し、署で預かる旨を申し出る。これでお役目御免と引き下がろうとしたが·····

 

 

「お兄ちゃん達は、ミュウが嫌いなの?」

 

 

ウルウルと潤んだ瞳と上目遣いで告げられたミュウの言葉に若干たじろぐも、ソウジが根気よく説明する。

 

 

「ミュウちゃんの事が嫌いだからじゃないんだ。オレ達の旅は常に危険が付きまとうからミュウちゃんを危険な目に合わせないよう、任せられる人達にお願いしてるんだよ」

 

 

ソウジは妹に語りかけるような優しい口調で安心させようとするが、ミュウの表情は一向に晴れない。それどころか再び癇癪を起こし、ソウジのバンダナと髪を引っ張り始める。

後ろから「……………………誰?」という呟きに誰も気づかず。

その光景に見かねた保安員達が、ミュウを宥めつつ少し強引にソウジ達と引き離す。バンダナはミュウに奪われてしまい、取り返す事もせずにミュウの悲しげな声に後ろ髪を引かれつつ、ソウジ達は保安署を後にしていく。もはやデートという気分ではないので、このままユエ達と合流しようと考えた矢先。

 

ドォガァアアアアアン!!!

 

背後で爆発が起き、黒煙が立ち上がっていた。

 

 

「あ、あそこって……」

 

「チッ!」

 

「クソッ!」

 

 

ソウジ達は急いで爆発が起きた場所―――先ほどの保安署へと駆け戻っていく。辿り着いた保安署は建物自体には然程ダメージがなさそうだが、窓ガラスや扉が吹き飛んでしまっている。ソウジ達ははやる気持ちを抑えて中へと踏み込み、中の様子を確認していく。

職員達は骨が折れて気を失っているが命に別状はない。だが、ミュウの姿は見当たらない。しかも、焦った表情のシアが持ってきた一枚の紙には、ミュウを返して欲しければシアとアタランテを連れて指定した場所に来い、と書かれていた。

 

 

「……どうやら連中は欲をかいたらしいな」

 

「皆さん!私!」

 

「わーてるよシア。こいつ等はもう俺達の敵だ……」

 

「こうなった以上、全部ぶちのめしてミュウを奪い返すぞ」

 

「ああ」

 

 

再度誘拐された子供を放置するのは“寂しい生き方”になるし、連中は触れてはならない一線を触れたのだ。容赦も慈悲も必要ない。

ソウジ達は武器を構え、指定場所へと一気に駆け出した。

 

 

 




「~~~~♪」

(········魔法使って虜にしてんのかな?)

(実力に決まってんだろ!!)

ソウジの失礼な考えを受信し、一瞬青筋を浮かべ内心で反論した歌姫の図

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