観光区でアジトを潰していたソウジはシアからの連絡で、ミュウは現在観光区のオークション会場にいるという情報を知り、向かう途中で合流したハジメやユエと一緒に現場へと急行した。
目的の場所に到着すると、その入り口には黒服に身を包んだ二人の巨漢が待ち構えており、下手に騒ぎを起こしてミュウを移送されないために裏路地に移動し、ハジメの錬成で地下へと侵入する。
最初はダンボール変わりの木箱に隠れつつ移動する方法を提案したが、ユエから気配遮断を使った方が早いと反論された為、ハジメとソウジは渋々木箱を諦め、気配遮断を使って素早く移動していく。
やがて地下深くに無数の牢獄を見つける。入り口に監視がいるが眠っており、その監視を素通りしつつ人型形態の翼丸を監視の近くに待機させとく。
中には人間の子供達が十人ほどおり、冷たい石畳の上で身を寄せ合って蹲っている。そんな子供達にハジメは静かな音声でミュウが来なかったかを尋ねる。
この牢屋の中にはミュウの姿がなかったので他の牢屋か連れ出された後なのかを確かめる為に聞いてみたところ、七、八歳くらいの少年が少し前に連れて行かれたと教えてくれた。その少年は不安そうに誰なのかとも聞いたので簡潔に答える。
「助けに来たんだよ」
「えっ!?本当に助けてくれるの!」
ハジメのその言葉に驚愕と喜色を浮かべて少年はつい大声を出してしまう。その声は薄暗い地下牢によく響き渡り、少年は慌てて口を両手で抑える。
当然監視にもばっちり聞こえており……
「何騒いでうおわ!?」
目を覚ました監視の目に最初に映ったのは人型形態の翼丸であり、見馴れないゴーレムに監視は驚愕する。そんな驚愕等お構い無しと言わんばかりにソウジは翼丸を操作し、監視の身体を両腕で締め上げ、“纏雷”を最大出力で食らわせる。
「アバババババババババ!?」
“纏雷”をマトモに食らい、背骨も締め上げでへし折られた監視は黒焦げとなり、地面に放り飛ばされる。
入り口でそんな事が起きているとは知らない子供達は監視が来なかった事に安心しており、それを尻目にハジメは錬成で鉄格子を分解する。
「ユエ。悪いがこいつ等を頼めるか?ソウジはミュウの方を頼む。俺はフィナーレの準備に入る」
「ん……任せて」
「分かった」
ハジメの言葉にユエとソウジは強く頷いてそれぞれの行動を開始していった。
―――――――――――――――――――――
ミュウは現在、二メートル四方の水槽の隅で膝を抱えて縮こまっていた。衣服は剥ぎ取られ、手足には金属製の枷がはめられている姿は酷く痛々しい光景だ。
そんなミュウの姿に構う事なくオークションは進んでいく。競りでざわつく会場にミュウは更に縮こまり、その手に持つ眼帯とバンダナを強く握り締める。ちなみにハジメとソウジは現在、予備の眼帯とバンダナを着けている。
その二つが小さな拠り所のミュウは、彼らにもう一度会えたら、謝って、二人の持ち物も返すから、今度こそどうか一緒にいて欲しいと願い続ける。
そんなミュウにオークションの司会者は業を煮やし、水槽を蹴り飛ばす。
その行為にミュウはますます怯えて縮こまり、司会者は係の人間に棒を持ってこさせる。
「全く、人間様の手を煩せるんじゃありませんよ。半端者の辛気臭いガキが!!」
司会者は焦りを浮かべて脚立に登りながらそう言い、上から棒をミュウ目掛けて突き降ろそうとした。ミュウは目を瞑り、衝撃に備えるも―――
「お前が言うな。クソ野郎」
そんな声と共に天井より人影が舞い降り、司会者の頭を踏みつけ、そのまま脚立ごと猛烈な勢いで床に押し潰した。
突然天井から現れた人物―――ソウジはそれに構うことなく水槽に向き直ると同時に炎凍空山を抜刀し、水槽を袈裟斬りに両断する。
両断された水槽から水が一気に放出される。ミュウは隅っこで縮こまったままだったが、恐る恐る目を開けると、会いたいと思っていた人が目の前にいた。
「……お兄ちゃん?」
「どっちのお兄ちゃんかは分からないが、髪を引っ張られた挙げ句バンダナを取られたお兄ちゃんならオレだな」
ソウジは苦笑いしながらそう返す。その言葉にミュウはまん丸の瞳を潤ませ……
「お兄ちゃん!!」
そのままソウジの首もとに抱きついて嗚咽を洩らし始める。ソウジは優しげな顔でミュウの頭を撫で、手早く毛布にくるんで抱き抱える。
そんな二人に水を差すように、黒服の男達がソウジとミュウを取り囲んでいく。その光景にミュウは再び不安になるも、ソウジは少し煩くなるから耳を塞いで、目を閉じていてくれと言い、ミュウの手を取って耳に当てさせる。ミュウは不思議そうにしながらも、素直にソウジの言葉に従っていく。
「商品に傷をつけるな!ガキは―――」
完全に無視された事にリーダー格の男が叫ぶ途中で、突如血飛沫を上げて仰け反り、そのまま崩れ落ちる。額には氷の短剣が深々と突き刺さっている。
突然の光景に、誰もが硬直していると。
ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!
奥の方から破裂音が響き渡り、ソウジとミュウを取り囲んでいた黒服の男六人が頭部を爆ぜらせて崩れ落ちていく。その間にソウジも氷の短剣を投げ飛ばし、黒服達を次々と地面に沈めていく。
その光景を前にして、客達は一目散に出口にへと殺到し始め、唯一残った黒服の男は混乱し、恐怖に戦きながらも、虚勢を張って声を荒げて問いかける。
「お、お前は、何者なんだ!?何が、何で……」
「奪われたもんを取り返しに来ただけだが?」
その疑問に答えたのはソウジではなく、奥からドンナー・シュラークを構えて出てきたハジメであった。
「そっちの準備は終わったか?」
「ああ。あと、連れに手を出したらこうなるという見せしめのためにも、最後は派手にいかせてもらうぞ?」
ハジメはソウジに軽く答えた後、黒服の男に向かってそう言い、ソウジ共々、“空力”を使って、天井から建物の外へと出る。ミュウは律儀にソウジの言いつけを守っていたので、ソウジはもういいぞと伝える。
目を開けたミュウは外の光景に驚きつつも、ソウジの隣にいるハジメに気づいて、再び瞳を潤ませていく。
「ハジメお兄ちゃん!!」
ミュウがハジメに近寄りたそうにしていたので、細心の注意を払ってミュウをハジメに渡し、ハジメも嫌がることなくミュウを抱き抱える。
「さて、フィナーレといこうか」
ソウジは竜殺剣を取り出し、振りかぶる体勢で構える。そして、竜殺剣に蒼い輝きと圧倒的な熱量が宿り始める。
「ミュウちゃん。今から派手な光と花火が見られるぞ?」
「光と……花火?」
「ああ。花火ってのは……爆発だ」
「爆発?」
いい加減な説明にミュウは首を傾げるが、すぐに分かるだからだろうと二人は気にしていない。
「そんじゃ、決めるぜ―――“
ソウジは現時点での最大限圧縮した斬撃―――“蒼煌・熱閃”と“天翔閃”、重力魔法を複合させたオリジナル技“蒼牙天翔”を真下のオークション会場目掛けて放った。
まるで某騎士王様の星剣の斬撃の如く放たれた一撃はオークション会場を焼き焦がし、衝撃で周辺を巻き込みながら跡形もなく吹き飛ばしていく。
ハジメも「た~ま~や~」と間延びした声と共に遠隔起爆装置を起動。フューレン全体にあるフリートホーフの関連建物を爆破する。
さらに、ソウジ達から少し離れた空に突然二つの暗雲が立ち込め始め、片方は四体の“雷龍”が、もう片方からは数多の雷の矢―――アタランテのオリジナル魔法“
“雷雨”は半壊状態だったフリートホーフの建物を完封なきまでに破壊し、四体の“雷龍”は重要拠点四ヵ所に同時に“落ちる”。
この時のフューレンは、まるで空爆にでもあった戦闘中の町のようであり、この光景を建物の屋上で夕日の景色を堪能していたアリアと、彼女の隣に佇んでいる、メイド服を着た二十歳くらいのオレンジの狐の耳と尻尾を生やした女性は唖然としていた……
「アハハ……アタシの虜にするしがいがあるな……」
「アリア様、素が出ておられますよ……後、頑張って下さい……」
彼等の仕業だと察し、乾いた笑みを浮かべるアリアに、首に奴隷の首輪が付いている狐人族―――フィア・ドラートは主人たるアリアに注意しつつ、力のないエールを送った……
―――――――――――――――――――――――――――
「倒壊した建物四十八棟、消滅した建物二十三棟、死亡が確認されたフリートホーフの構成員百十名、再起不能と重傷、共に十名、行方不明者二百名…………言い訳はあるかい?」
「カッとなったので計画的にやった」
「敵となった奴等に容赦するつもりは微塵もなかった。だから反省も後悔もない」
「はぁ~~~~~~~~~~~」
冒険者ギルドの応接室で、報告書片手にジト目でハジメとソウジを睨むイルワだったが、当の本人達はミュウと茶菓子を食べており、言葉にも反省の欠片がない。
壊滅活動の途中、冒険者から届けられた念話石で今回の事をハジメの方から一方的に伝えられ、一時真っ白になっていたイルワは盛大に深い溜め息を吐いて脱力した。ついでに水族館の人面魚―――リーマン逃飛行騒動の事も聞くと、シアの目が一瞬泳いだので再び深い溜め息を吐く。
「……まぁ、やり過ぎ感は否めないけど、裏組織に関しては手を焼いていたから今回の件は助かった言えば助かったとも言える。……これで裏世界の均衡が大きく崩れたから、色々大変になるだろうけどね……」
「今回は身内に手を出されそうだったから、俺達に二度と手を出さないよう、見せしめも兼ねて盛大に反撃しただけだからな」
「困るなら、支部長お抱えの“金”でオレ達の名前を使えばどうだ?相当な抑止力になると思うがどうだ?」
「いいのかい?こちらとしては凄く助かるが……そういうのは嫌うタイプだろう?」
ソウジの言葉に意外そうな表情で「えっ?マジで?」と瞳で語るイルワにハジメが肩を竦めて答える。
「持ちつ持たれつってやつだ。支部長ならさじ加減もわかるだろうし、世話になるからそれくらいはかまわねぇよ」
「まぁ、オレ達のせいでフューレンの裏組織の戦争が起きて、それで一般人が巻き込まれるのは気分が悪いしな」
「……ふむ。君達、少し変わったかい?初めて会った時は、仲間の事以外はどうでもよさそうに見えたのだが……ウルでいい事でもあったのかな?」
「……まぁ、悪いことばかりじゃなかったよ」
「根本は変わってないけどな」
微妙な変化に気づいたイルワに、ハジメとソウジは苦笑いしてそう答える。
この件以来、“フューレン支部長の懐刀”、“白髪眼帯の爆炎使い”、“蒼光の剣士”、“幼女キラー”等の二つ名がつく事になったが…………知ったことではない。ないったらないのだ。
大暴れした事に関しては正当防衛的な理由で不問となり、ミュウの処遇についても、正規の手続きで送還するか、ソウジ達に預けて依頼という形で送還するかの二択となった。
当然、答えはもう決まっている。
「ここまでやったんだ。そっちに問題なければ、責任を持ってしっかり送り届けるさ」
「ソウジお兄ちゃん!」
間髪入れずのソウジ返答に、ミュウは満面の笑みでソウジに抱きつく。
「確かに、ここまで情を抱かせておいてはいさよならは無責任過ぎるしな」
「ハジメさん!」
「ハジメお兄ちゃんも、ありがとうなの!!」
続くハジメの言葉に、シアは満面の笑みで喜び、ミュウも喜んで今度はハジメにへと抱きつく。
「ミュウ。悪いがお兄ちゃんは止めてくれないか?何というかむず痒くてな。普通にハジメと呼んでくれないか?」
ソウジは義妹がいるからお兄ちゃん呼びには何とも思わなかったが、一人っ子の元オタクのハジメには少々キツかったようである。
ハジメの要求にミュウは首を傾げ、暫く考え……答えを口にする。
「……パパ」
「…………………………は?」
「わ、悪いミュウ。聞き間違えたみたいだから、もう一度言ってくれないか?」
「パパ」
「パパって……ひょっとしなくても父親か?」
「うん」
「ちょっと待とうか。何で俺がパパなんだ?」
「……ミュウ、パパいないの……ミュウが生まれる前に神様のところにいっちゃったの……だからハジメお兄ちゃんがミュウのパパなの」
「何となくわかったが、頼むからパパは勘弁してくれ」
「やっ!パパなの!」
「わかった。もうお兄ちゃんでいいからパパは勘弁してくれ!どうしてもパパと呼びたいなら、ソウジに向かって言ってくれ!」
「やっーー!!ハジメパパがミュウのパパで、ソウジお兄ちゃんはお兄ちゃんなのー!!」
……この日、南雲ハジメは十七歳で父親となり、ソウジはこの世界でも兄となった。
その後、宿でユエとシアの間で、どっちがミュウに“ママ”と呼ばせるかの紛争が起きかけたが……
「ミュウお嬢様のお母様に失礼すぎますよ?」
ジークリンデの冷たい声がユエとシアの耳元で響き、その声に二人は縮こまり、ミュウ本人からも「ママはママだけなの!」という言葉で一気に轟沈した。ティオは……ミュウへの悪影響を考慮して、ハジメが縛り上げて床に転がしていた。当然ティオは興奮しており、その事実にジークリンデは四つん這いとなって項垂れていた…………
「お兄ちゃんの妹は私だけのものだったのにぃーーー!!!!」
「「倖!?」」
食事中、突如テーブルに拳を叩きつけた中学三年生の滝川倖さんの図。
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