魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


笑顔は自然に

「ヒャッハー!ですぅ!」

 

 

左手側にライセン大峡谷と右手側の雄大な草原に挟まれながら、シュタイフと翼丸、ブリーゼが太陽を背に西へと疾走する。街道の砂埃を巻き上げながらも道に沿って進んでいる翼丸とブリーゼとは異なり、シュタイフは蛇行して爆走していた。

 

 

「……ご機嫌だなシアのやつ」

 

 

ソウジは翼丸を運転しながら、シュタイフでエセマフラーを吹かせながら曲乗りしているシアに呆れた視線を送る。

最近は人数が多くなり、ブリーゼも定員オーバーで全員を乗せられないので、ブリーゼと翼丸での移動が主流となっている今、ブリーゼではハジメとくっつけないシアは、ハジメからシュタイフの運転を教わって、お気に入りの風切り走りを堪能する事にしたのだ。

シュタイフの操作は魔力の直接操作で行うので、曲乗りの難易度はそれほど高くなく、シアはドリフトやウイリー走行、ジャックナイフやバックライドなど、数々の技を習得してしまった。

 

 

「お兄ちゃん!お兄ちゃんもあれをやって欲しいの!!」

 

 

ハンドルを握りながら逆立ちし始めたシアを指差し、ソウジに同じことをやって欲しいと瞳をキラキラさせてお願いし始めたのは、チャイルドシートを取り付けたサイドカーに乗っているミュウだ。

 

 

「ミュウちゃん。あれは危ない運転でやってはいけない事なんだ。だからそのお願いは聞けないんだよ」

 

「やーなの!お兄ちゃんにもやって欲しいの!」

 

 

ソウジはやんわりと断るも、ミュウは両腕を振って駄々をこね始める。そんなミュウにソウジの後ろに座っているアタランテは優しげな表情ながらもしっかりと注意する。

 

 

「ミュウ、あまりわがままを言うものではないぞ。ハジメパパもミュウを二輪に乗せるのを反対したのを、ソウジが説得したのだからな」

 

 

ミュウが二輪に乗りたいと言った際、ハジメが危ないからと真っ先に反対したのだが、ソウジがチャイルドシートの作成とサイドカーに乗せると必死に伝え、ハジメも渋々ながら折れて、安全の為のチャイルドシートとヘルメットを作成して、危険運転はしないという条件でミュウの乗車を許したのだ。

アタランテの注意にミュウは唸り声を上げながらしょぼくれ、ちょっとだけ不憫に思ったソウジはブリーゼへの通信機能をONにする。

 

 

『ソウジ、急にどうした?』

 

「ミュウちゃんがシアの真似を欲しいと言ってきてな。代わりにスピードを上げて楽しませたいんだがどうだ?」

 

『あ?ダメに決まっているだろ?』

 

 

予想通り、怒気が若干含まれた言葉に、ソウジは苦笑いしながら食い下がる。

 

 

「チャイルドシートはしっかりと固定されているし、少しの時間でもダメか?」

 

『…………十秒だけだ。後、スラスターは絶対使うなよ?』

 

「ああ。ありがとよ」

 

 

少しの沈黙の後、条件付きで速度を上げる事を許したハジメにソウジは礼を言って通信を切り、ミュウとアタランテに十秒だけ加速する事を伝える。

 

 

「それじゃあ、しっかり掴まってろよ?」

 

 

ソウジはそう言って翼丸の速度を上げ、ブリーゼとシュタイフを置いてきぼりにしていく。

 

 

「すごいのー!速いのー!!」

 

 

速度が上がって風切り走りの体感が上がった事に目を輝かせてはしゃぐミュウの姿を見たソウジは、つい魔が指してしてしまい、翼丸をウイリーさせてそのままスラスターを全開で起動。スラスターの爆発的な加速により、翼丸は軽く空を跳ぶ。

 

 

「すごいのー!またお空を飛んでるのー!!」

 

 

サプライズに近い行動に、ミュウは恐がるどころか更におおはしゃぎする。着地も軽くバウンドする程度で大きな問題もなかった。

 

 

「ありがとうなの!お兄ちゃん!!」

 

 

満面の笑みでお礼を言うミュウに、ソウジはやってよかったとほっこりするも。

 

 

「……ソウジ。危険運転はしないのではなかったのか?」

 

「……あ」

 

 

アタランテの呆れを多分に含んだ言葉に一気に現実へと引き戻される。

 

 

“……ソウジ。後で覚悟しとけよ?”

 

 

当然、この危険運転にパパは激昂。この後、ソウジはお仕置きの“纏雷”を食らう事となった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

ソウジ達は現在、ホルアドに来ていた。

本来なら素通りでもよかったのだが、イルワからの頼まれごともあったので寄り道をする事にしたのだ。

ハジメとソウジは懐かしげに目を細めながらギルドに向かって歩いていると、ハジメに肩車してもらっているミュウがソウジの方を見ながらハジメのおでこをペシペシと叩く。

 

 

「パパ?お兄ちゃん?どうしたの?」

 

「ん?あ~、いや、前に来たことがあってな……」

 

「まだ四ヶ月程度なのに、数年前に感じててな……」

 

「ああ。えらく濃密な時間を過ごしたもんだな。ここで一晩過ごして、次の日に迷宮に潜って……俺とソウジは奈落に落ちた」

 

 

ハジメのその言葉に、ユエとアタランテはそれぞれの愛しい人を見つめ、ティオとジークリンデは興味深げに二人に尋ねる。

 

 

「ご主人様達は、やり直したいとは思わんのか?元々の仲間がおったのじゃろ?」

 

「お二方のかつての境遇はある程度聞いておりますが……皆がそうではなかったのではありませんか?仲の良かった方もおられたのでは?」

 

 

まだ日の浅い彼女達なりの、仲間になるための努力による質問に、ハジメとソウジは特に気を悪くすることもなく受け止める。

確かに比較的仲の良かった人物はいる。ソウジはあの時の彼女との夜、最後に見た悲痛に染まっていた彼女の顔を思い出すが……

 

 

「確かに仲の良い奴もいたが……あの日に戻ろうとは思わない。この“今”を否定したくないからな」

 

 

ソウジはアタランテに視線を合わせながらはっきりとそう口にする。あの時、ハジメを助ける為に動いた事は後悔していないし、アタランテと出会えた事も良かったとも思っている。

 

 

「ソウジの言う通りだな。仮にあの日に戻ったとしても、ユエと会う為に、俺は何度でも同じ道を辿るさ」

 

 

ハジメもユエを見つめながらそんな言葉を口にする。そんなハジメとソウジにユエとアタランテは互いの愛しい人と腕を絡ませる。

しかし、次に続く言葉で若干不機嫌となる。

 

 

「だけど、そいつに世話になった義理くらいは返さないとな。用事が済んだ後、宿屋に一回寄るがかまわないか?」

 

「……そうだな。俺もアイツに書き置きくらいは残して置くか」

 

「「…………」」

 

 

ハジメとソウジのその言葉に、ユエとアタランテはジト目で睨み付ける。そんな微妙な空気になりつつも、一同は冒険者ギルドへと目指していく。

ホルアド支部へと到着し、金属製の扉を開けて中へと入ると、ギルドの雰囲気はピリピリしており、その場にいる冒険者達は一斉にソウジ達に視線を送り、殺気を叩きつけ始める。

冒険者達の鋭い眼光に、ミュウが怯えたので、ハジメがミュウを片腕抱っこに切り替え、ミュウがハジメの胸元に顔を埋めた瞬間……

 

ドンッ!!!!

 

ハジメとソウジは“威圧”と“魔力放射”による濃密にして巨大かつ凶悪なプレッシャーを睨み付けた冒険者達全員に叩きつけた。そのプレッシャーに未熟な冒険者達は気絶、他の冒険者達も滝のように汗を流して顔を青ざめガクブルしている。そんな冒険者達にハジメとソウジは威圧を弱め、非常に怖い笑顔を向ける。

 

 

「こっちを睨んだやつ、全員、笑え」

 

「「「「「「え?」」」」」」

 

「何戸惑ってんだ?お前達のせいでウチの子が怯えたんだぞ?なら、責任とって怖くないアピールをするのが普通だろ?わかったら早く手も振ってアピールしろ」

 

 

ハジメの言い分はツッコミどころ満載だったが、目の前の化け物達に逆らう事など出来るはずもなく、冒険者達は言われた通りに、頬を盛大に引きつらせながも必死に笑顔を作り、手も振り始める。

 

 

「表情が硬いぞ?そんな顔じゃまた怖がらせるからもっと自然に笑え」

 

 

ソウジのメチャクチャな要求に、冒険者達は「だったらもっと弱めて下さい!!」と内心で泣きながらツッコミを入れ、それでも必死に自然な笑顔を作ろうとする。

冒険者達の笑顔にある程度納得したソウジは、未だにハジメの胸元に顔を埋めているミュウの耳元でもう大丈夫だと伝え、ミュウはおずおずと冒険者達の方へと顔を向ける。最初はビクビクしながら冒険者達を見つめていたが、何か納得したのかニヘラ~と笑って冒険者達に小さく手を振り返した。

ミュウが安心した事でハジメとソウジは納得して“威圧”を完全に解き、ギルドのカウンターへと向かい、ソウジ達と同い年くらいの受付嬢に要件を伝える。

 

 

「支部長はいるか?本人に直接渡せと、フューレンのギルド支部長から言われて手紙を預かっているんだが……」

 

 

ハジメはそう言いながらステータスプレートを受付嬢に差し出し、続いてソウジも差し出す。受付嬢は緊張しながらも二人のプレートを受け取り……

 

 

「き“金”ランク!?」

 

 

二人のステータスプレートに表示されている冒険者ランクを見て受付嬢は驚愕の声を上げてしまう。周りの冒険者達もざわめき始め、個人情報を暴露してしまった受付嬢は大慌てで謝罪する。ハジメとソウジは今更感から特に気にせず、支部長への取り次ぎをお願いする。

受付嬢が支部長への報告の為に奥に消え、ミュウをあやしながら待っていると、ギルドの奥から猛ダッシュで全身黒装束の少年が床を滑りながら飛び出てきた。

起き上がった後も誰かを探すように周りを見回す人物の顔に、ハジメとソウジは覚えがあった。またしても予想外の再会に、ハジメとソウジは目を丸くして呟いた。

 

 

「「……遠藤?」」

 

 

 




「このど阿呆ぉ!!」

「ぐはっ!?」

不気味な四足魚型の乗り物を作ったハジメの顔面に、飛び蹴りを叩き込むソウジの図。(*この後、水陸両用の最高速度十キロの小型三輪車をハジメに作成させ、ミュウにプレゼントしました)

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