魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


果たすべき義理

ハジメとソウジの呟きに、遠藤浩介は、しきりに辺りをキョロキョロと見渡し、それでも見つけられないのか、苛立ったように大声を出し始める。

 

 

「南雲ぉ!空山ぁ!何処なんだ!生きてるなら早く出てきやがれ!!南雲ハジメェ―!!空山ソウジィー!!」

 

 

人の名前を大声で叫び、連呼する遠藤に、冒険者達から一斉に視線を向けられているハジメとソウジはうんざりしながら遠藤に声をかける。

 

 

「あ~、遠藤?ちゃんと聞こえてるから大声で名前を連呼するのは止めてくれ」

 

「!?その声は南雲か!どこだ!!」

 

「こっちの声が聞こえてるなら一回落ち着け、遠藤」

 

「今度は空山の声が!!一体何処にいるんだ!?」

 

 

声をかけたにも関わらず、こちらに微塵も気づいていない遠藤にソウジはこめかみに青筋を浮かべて遠藤に近づいていく。

 

 

「くそっ!!声が聞こえるのに姿が見当たらねぇ!!やっぱりゆぎゅ!?」

 

「目の前で呼んで気づかないとはいい度胸だな遠藤?書店でも三回に二回の確率で自動ドアすら気づかないお前に気づいてやっていたのに本当にいい度胸してるな?」

 

 

頬を鷲掴みにして言葉をぶつけるソウジに、遠藤は目を見開いてソウジを見やる。その様子からようやく気づいただろうと判断したソウジは手を放す。鷲掴みから解放された遠藤はまさかという面持ちで声をかける。

 

 

「まさか……お前が空山で……そっちの白髪眼帯が……南雲……なのか?」

 

「ああ、そうだ。書店で参考書買いに来て、普通の対応に涙を流した透明じゃないのに透明人間の遠藤」

 

「こんな見た目だが正真正銘の本人だ。影の薄さランキング生涯世界一位の遠藤」

 

 

記憶にある二人の余りの違いに、遠藤は半信半疑だったが、顔の造形と自身の影の薄さを知っている事に、メンタルが傷つきながら信じる事にした。

 

 

「……生きていたのか」

 

「なに当たり前の事を言ってるんだ」

 

「だって、見た目とか雰囲気とか口調とか……えらく変わっているんだけど……」

 

「奈落の底から互いの自力で這い上がったんだぞ?多少は変わるぞ」

 

「そ、そういうものかな?っていうかお前ら……冒険してたのか?しかも“金”て……」

 

「ん~、まぁな」

 

 

ハジメのその返答にホッとしていた遠藤の表情が切羽詰まった表情にがらりと変わり、二人に詰め寄っていく。

 

 

「……つまり、二人は迷宮の深層から自力で這い上がれる上に、最高ランクの“金”を貰えるくらい強いってことだよな?」

 

「そうだな」

 

「なら頼む!一緒に迷宮に潜ってくれ!早くしないと皆が死んじまうんだ!!今は一人でも多くの戦力が必要なんだ!!」

 

「ちょ、ちょっと待てよ。いきなり過ぎて話がわからないぞ?」

 

「大体、天之河がいれば何とかなる筈だろ?あの時より実力は上がっているし、メルド団長もいるだろうから……」

 

 

ソウジのその言葉に、遠藤は酷く暗い表情となって床から崩れ落ちる。そして、押し殺したような低く澱んだ声でポツリと呟く。

 

 

「……んだよ」

 

「?聞こえないぞ。何て言ったんだ?」

 

「死んだって言ったんだ!メルド団長も他の皆も!迷宮に潜っていた騎士は、俺を逃がすために皆死んだんだ!!俺のせいで!死んだんだよぉ!!」

 

「「……そうか」」

 

 

癇癪を起こした子供のように喚く遠藤に、ハジメとソウジはただ一言、そう返した。

メルド団長は何かと気にかけてくれていたので、少し残念さが胸中をよぎる。

その後、六十代くらいのガタイのいい左目に大きな傷が入っているギルド支部長が現れ、遠藤共々ギルドの奥へと向かって行った。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

「……魔人族……ね」

 

 

遠藤から話を聞き終えたハジメの第一声がそれだった。

遠藤の話を要約すると、オルクスの九十層で魔人族の女と遭遇し、その魔人族の女は迷彩能力を持つキメラ、スマートな体型のブルタール、炎と熱気を全て吸収し、レーザーの如く返してくる六本足の大亀、切断さえも治療する双頭の白鴉、動きを先読みする黒い四つ目の狼、空中移動が出来る背中に四本の触手を生やした黒猫達をけしかけて勇者パーティーを追い詰め、追い詰められた天之河達は一時撤退。だが、満身創痍で浅い階層まで向かえず、八十九層にしか撤退できなかった為、影の薄い遠藤がメルド団長に事態の報告に向かったのだ。

救援ではなく報告のために転移陣のある七十層に遠藤辿り着いて報告したが、天之河達を探していた魔人族の女が強襲し、メルド団長達は身を挺して遠藤を逃がし、転移陣で三十層へと逃げた遠藤は直ぐに転移陣を破壊するも一歩遅く、転移陣からキメラが一体現れ、三十層側の転移陣を保護していた騎士達はキメラによって全員殺されてしまい、そのキメラは遠藤によって始末された。その後地上へと脱出した遠藤はそのまま冒険者ギルドに向かい、受付で起こった事を全て話してロア支部長に奥へと連れられた。そして、現在へと繋がる。

……のだが、ハジメの膝の上に座っているミュウはモシャモシャとお菓子を頬張っているので、いまいち深刻になりきれない。ミュウが不穏な空気を感じて不安そうにしていたので、ミュウの不安を和らげる為にソウジがお菓子を与えたのだ。

 

 

「つぅか!何でその子に菓子食わしてんの!?皆が死ぬかもしれないのに!!」

 

「ひぅ!?」

 

 

ミュウの存在に遠藤は耐え切れずに怒声を上げた。それにミュウ驚いて縮こまったので、ハジメとソウジは容赦なく殺気を遠藤にぶつける。

 

 

「おい……なに妹に八つ当たりしてるんだ?」

 

「殺されたいのかてめぇ?」

 

「ひぅ!?」

 

 

二人の殺気に遠藤はミュウと同じような悲鳴を上げて縮こまる。そんな光景に、ソウジ達の対面いるロアは呆れた感じで話に割り込み、イルワの手紙の内容を話す。

 

 

「手紙には、お前達の“金”ランク昇格への賛同要請と、出来る限りの便宜を図ってやって欲しいという内容が書かれていた。概要は掴んでいたんだが……たった数人で六万近い魔物の殲滅、半日でフューレンの裏組織の壊滅……にわかには信じられんことばかりだ……」

 

 

ロアの言葉に遠藤は大きく目を見開いて驚愕するが、構わずに話を進めていく。

 

 

「だが、それらが本当なら、冒険者ギルドホルアド支部長からの指名依頼を受けて欲しい」

 

「……勇者達の救出だな?」

 

「!そ、そうだ!一緒に助けに行こう!そんなに強いなら、きっと皆助けられる!!」

 

「「…………」」

 

 

我を取り戻した遠藤は希望を瞳に宿してそう捲し立てるが、そんな事には気にも止めず、ハジメとソウジは天之河達を助ける事のデメリットを考えようとする。だが、そんな二人の芳しくない反応に、遠藤は困惑して詰め寄っていく。

 

 

「どうしたんだよ!何で迷ってんだよ!こうしている間に仲間が死にかけてるかもしれないんだぞ!」

 

「……は?仲間?勝手に俺達をお前らの仲間にするな」

 

「“同郷”の“他人”が何を言っているんだ?都合の良いときだけ仲間と呼んで考え事の邪魔をするな。鬱陶しい」

 

「な!?そ、そんな……」

 

 

予想外に冷たく間違ってもいない言葉に遠藤は狼狽し、召喚されてからの二人に対する態度が最悪の形で返ってきた事に項垂れる。

そんな遠藤を尻目にソウジは再び天之河達を助けるデメリットについて考える。今となっては心底どうでもいい相手だが、問答無用で切り捨てれば“寂しい生き方”に繋がるだろうし、守れるくらいには強くなると口約束した少女―――八重樫のことが頭をよぎる。

 

 

「……白崎はまだ無事か?」

 

「……あ、ああ。白崎さんは無事だ。彼女がいなかったら、俺達は無事じゃなかったし……お前達が落ちたあの日から、こっちが止めたくなる程に訓練に打ち込んでいて……八重樫さんと一緒にいつも何か考えるようになって……その八重樫さんも、どこか張りつめた雰囲気を時折纏うようになったし……」

 

 

ハジメの質問に答える遠藤に、八重樫の事も出てきた事でソウジは深く溜め息を吐き、アタランテを見やる。

 

 

「そんなに悩む必要はないだろう。お前の望むままに動けばいい。私は、お前の判断を信じる」

 

「……アタランテ」

 

「……ん。ハジメもしたいようにすればいい。私は、どこまでもハジメに付いて行く」

 

「……ユエ」

 

「わ、私もハジメさんに付いて行きますぅ!!」

 

「ふむ、妾ももちろんついて行くぞ」

 

「私もお供致します」

 

「えっと、えっと、ミュウも!!」

 

 

突然形成された桃色空間に遠藤は愕然とするが、彼女達の後押しを受けたハジメとソウジは決断を下す。

 

 

「ありがとな。神に選ばれた勇者には関わりたくないし、お前達を関わらせたくもないが……俺もソウジも義理を果たすべき相手がいるんだ」

 

「その義理を果たす為にこれから行こうと思うが……遠藤、天之河の様子はどうだった?」

 

 

今尚、生存を信じて心を砕いてくれている二人に会いに行く事を決めるが、ソウジは遠藤に天之河の事を尋ねる。

 

 

「へ?天之河?アイツも結構ヤバか……」

 

「違う、そういう意味じゃない。何か考えたり思い詰めたりした様子はなかったのかって聞いているんだ」

 

「いや、そんな様子は微塵もなかったけど……」

 

 

困惑しながら答えた遠藤のその言葉に、ソウジはやっぱりかと思って眉間にシワを寄せる。その反応にユエ達は首を傾げるが、ハジメは表情を少し険しくしていた。

あの理想の正義に凝り固まっている男が何時も通りだという事は、()()()()()()()()()()()()()()()()事に微塵も気づいていない事の裏付けだからだ。

八重樫にはあの時、天之河にしっかり伝えておくように言っておいたのだが、どうやら伝わっていないらしい。無理もなかったのかもしれないが。

一先ず、対外的には依頼という事にし、ミュウはティオとジークリンデを子守り兼護衛役としてギルドに置いていく事にして、遠藤の案内で出発した。

 

 

「おら、さっさと案内しやがれ」

 

「ケツ蹴るなよ!色々変わりすぎだろ!!」

 

「やかましい。ジークリンデがいるとはいえ、ミュウを変態の傍に置いていくんだ。あっちも急がないと何人か死ぬだろうし、義理を果たすべき相手が死んでいた、というのも後味悪いからとっとと走れ」

 

「……本当に何がどうなったらこうなるんだよ……」

 

 

遠藤はブツクサ言いながらも、親友達を助ける為に強力な助っ人を伴い、迷宮最深部に向かって疾走していった。

……俊敏値への自信を粉微塵に砕かれながら……

 

 

 




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