魔王の剣   作:厄介な猫さん

59 / 157
前後に分けます
てな訳でどうぞ


無双するはかつての足手まとい達:前編

「本当に空山くんなの……?本当の本当に?」

 

 

八重樫の半信半疑の質問にソウジは僅かにピクリと眉をつり上げる。本人だと認めたにも関わらずあんまりな態度に、ソウジはとあるカードを切ることにする。

 

 

「疑うなら滝川書店で購入したお前の本のタイトルをここで叫んでばらしてやろうか?最初に買った本は“可愛い」

 

「わかった信じるわ。だからその先は言わないでちょうだい!!」

 

 

明らかに本人しか知らないワードを言おうとした事で八重樫は痛みも忘れ、別の意味で必死になって声を上げる。

 

ハジメの方も白崎に向かって、何故か持ち出されていた自身の制服の返却を求めるという直前までの空気が崩壊しかける中、ユエ達が飛び降りて来る気配を感じたので、ハジメはユエとシアを、ソウジはアタランテをお姫様抱っこで受け止め脇に降ろす。

 

 

「お前らぁ!余波でぶっ飛ばされただろ!!ていうか、いきなり迷宮の地面をぶち抜くとか何考えてんの!?」

 

 

最後に降り立った遠藤は文句を言いながら周辺を見渡し、その場の光景に気がついて「ぬおっ!?」などと奇怪な悲鳴を上げる。そんな遠藤に、永山と野村が叫んだ。

 

 

「「浩介!!」」

 

「重吾!健太郎!助けを呼んできたぞ!!」

 

 

遠藤のその言葉に硬直していた全員が我を取り戻し、魔人族の女がソウジ達を凝視する。だが、ハジメとソウジはそんな視線に構うことなく、ユエとアタランテに天之河達を守るように、シアにはメルド団長の容態を見て場合によっては神水で治療するよう指示を出す。

 

そして、不安そうにする白崎と八重樫の周りに六本の紅雪と三機のクロスビットを“瞬光”状態で瞬時に配置する。

 

突然、虚空に現れた浮遊する十字の剣と十字架に目を白黒させる白崎と八重樫にハジメとソウジは背を向け、まだ()()()()()()()()敵ではない魔人族の女に彼らなりの慈悲の提案する。

 

 

「そこの赤毛の女。死にたくなければさっさと消えろ。今なら追いはしない」

 

「……何だって?」

 

「死にたくなければ消えろと言ったんだ。わかったら、どうするか迅速に決めろ」

 

 

ハジメとソウジの傲慢とも言える言葉に、魔人族の女は表情を消して「殺れ」とハジメとソウジを指差し魔物に命令を下した。

 

 

「それが答えか?」

 

「“敵”ってことでいいんだな?」

 

 

二人がそう呟いたのと空間の一部が揺らめいたのは同時だった。白崎と八重樫は焦燥感を露に警告を発しようとするが。

 

ズバッ!!

 

ソウジは左側に体を向けて炎凍空山を抜刀して振り抜いており、空間が揺ぐと同時に左右真っ二つにされたキメラの姿が現れ、そのまま慣性の法則に従って地面を滑っていく。

あまりにあっさりと魔物を倒したソウジに魔人族の女や八重樫達が唖然とする中、ハジメはドンナーを抜き、一見、何もない空間に向かってレールガンを撃ち放った。

 

ドパンッ!ドパンッ!

 

乾いた破裂音を響かせながら、二条の閃光は空を切り裂き、姿を隠して佇んでいる二体の魔物を問答無用に撃ち抜く。

そして、先ほどと同じように空間が揺らぎ、頭部を爆散させたキメラと心臓を撃ち抜かれたブルタールモドキが現れ、僅かな停滞のあと地面に崩れ落ちる。

 

 

「な、何でわかったのさ……」

 

 

魔人族の女は信じられないようにそう呟くが、奈落の魔物と比べたら動くだけで空間が揺らめき、風の流れ、空気や地面の振動、視線、殺意、魔力の流れ、体温などが隠蔽できていない魔物など彼らからすればあまりにもお粗末すぎるのである。

 

そしてハジメとソウジは戦場、否、処刑場へと踏み出す。これから始まるのは、化け物達による一方的な処刑だ。

未だ唖然とする魔人族の女とハジメの武器に度肝を抜かれている永山達をおいて、指示を受けた魔物達はハジメとソウジに襲いかかる。

 

黒猫が正面から襲いかかると同時に、背後からも黒猫が忍びよるが、正面はソウジが目に映らない程の剣速で黒猫を両断し、背後はハジメが振り向きもせず、手首を返しただけで後ろに向けたドンナーを発砲し黒猫の頭蓋を食い破って始末する。

 

続いて左右から二体ずつ、四つ目狼が同時に飛びかかるも、ソウジは“無拍子”で引き抜いた風雷南雲の“風爪”で二体同時に体を上下に両断、ハジメはドンナー・シュラークで同時に頭部を吹き飛ばす。

 

ハジメとソウジが四つ目狼を始末する間に二人の真上へと舞い上がった黒猫が触手を飛ばすも、二人は既に弾けたように飛び出ており、触手は虚しく空を切る。その直後、ハジメのドンナーが火を噴いて上空にいた黒猫を爆散させる。

 

互いに飛び出た先にはメイスを振りかぶったブルタールモドキが待ち構えていたが、“空力”で空へと跳躍し、ソウジは“無拍子”による予備動作無しの“飛爪”で、ハジメはドンナー・シュラークを連射してブルタールモドキと近くにいた他の魔物達を葬っていく。

 

地面に着地し、ハジメがガンスピンリロードをしている間にソウジは次の獲物として六足亀アブソドへと接近していく。対するアブソドは口から純白の光が溢れており、次の瞬間、砲撃となって発射される。

 

射線上の地面を抉り飛ばしながら迫りくる死の光に、ソウジは何の迷いもなく炎凍空山を垂直に振りおろし、“蒼牙爪”をアブソドに向かって飛ばす。地面を這うように放たれた蒼き炎の飛ぶ斬撃は、魔力の砲撃を真っ二つに切り裂いて進んでいき、アブソドをそのまま通過していった。斬撃を食らったアブソドは左右にパックリと割れ、重力に従い、力なく地面に沈んだ。

 

アブソドを仕留め、大技を放って硬直しているように見えるソウジに隙が出来たとキメラや四つ目狼が襲いかかるも、ソウジは間髪入れずにバネのように弾け、一回転しながらキメラと四つ目狼を炎凍空山で切り裂き、回転しながら振りかぶった風雷南雲で後ろから迫りメイスを振り下ろしていたブルタールモドキをメイスごと切り裂いて両断する。

 

愚直さが目立つがまるで一つに繋がっているかのように描かれる剣線。それは一つの極みであり、奈落での圧倒的な戦闘経験がソウジを剣士としての至るべき境地の一つに至らしめていた。

 

 

「綺麗……」

 

「すごい……」

 

 

そのソウジが描く剣線を八重樫は目を奪われたように見つめ、白崎もハジメの無双振りに目を奪われていた。対して、ハジメのレールガンで肩の白鴉を吹き飛ばされた魔人族の女はあり得べからず化け物達の存在に震えていた。

 

 

「何なんだ……彼らは一体、何者なんだ!?」

 

 

体を横たわらせた天之河がそんな事を呟く。それは永山達も同様であり、彼等は二人の少年がハジメとソウジだと気付いていない。

 

 

「はは、信じられないだろうけど……あいつらは南雲と空山だよ」

 

「「「「「「は?」」」」」」

 

 

当然、答えをもたらした遠藤に天之河達は一斉に間の抜けた声を出す。そんな彼等に遠藤は肩を竦めながら説明していく。

 

 

「だから、あいつらは南雲ハジメと空山ソウジだよ。白髪眼帯の方が南雲で、灰髪バンダナの方が空山だ。迷宮の底で生き延びて、自力で這い上がってきたらしいぜ。ここに来るまでも道中の魔物が完全に雑魚扱いだったし、信じられねぇって思うけど……事実だよ」

 

「え?南雲と空山が生きていたのか!?」

 

「……どこをどう見たら南雲と空山なんだ?完全に別人じゃねぇか……」

 

 

天之河は驚愕の声を洩らし、義手の肘から放つショットガンで背後から襲いかかろうとしたキメラの頭部を爆散させたハジメと、ムーンサルトをしながら義足の仕込み刃で四つ目狼を三等分にしたソウジを改めて見て、坂上はやはり信じられない思いでそう呟くも。

 

 

「気持ちはわかるけど本当なんだって。ステータスプレートも見たし」

 

 

遠藤は再度、乾いた笑みを浮かべながら彼らが本人であると伝える。誰もが信じられない思いでハジメとソウジの無双ぶりを茫然と眺める中、檜山がひどく狼狽した声で遠藤に喰ってかかった。

 

 

「う、うそだ。あいつらは死んだんだ。適当なこと言ってんじゃねぇよ!!」

 

「うわっ、何言ってんだよ?ステータスプレートも見たし、本人達が認めてんだから間違いないだろ!」

 

「うそだ!何か細工して、なりすましで何か企んでるんだ!!」

 

「いや、マジで何言ってんだよ?」

 

 

檜山は遠藤の胸ぐらを掴み、錯乱気味で二人の生存を否定する。実はあの日、二人を殺そうとしたのはこの檜山なのだ。ハジメの時はどさくさに紛れて火球を放って殺そうとし、ハジメが助かりそうだったから咄嗟に風の魔法を使って瓦礫をソウジに向かって飛ばしたのだ。ソウジの時は直ぐにバレるのではないかと肝を冷やしたが、周りはあの光景に思考も硬直しており、檜山の所業に誰も気づかなかったためすぐに安堵していた―――ただ一人、気づかれていたとも知らず。

そんな檜山に物理的に冷水が浴びせられた。

 

 

 




「ハジメくん······」

立ち上がろうとした白崎からパサリと、ハジメの制服が地面に落ちる。

「「··········」」

「白崎、何故俺の制服を持っている?とりあえず、今すぐ返せ」

「えっと·····これは·····ただの元気の出るお薬······」

「嘘をつくな」


感想お待ちしてます

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。