魔王の剣   作:厄介な猫さん

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気まぐれ投稿!
てな訳でどうぞ


奈落と敗北

「ぐっ……」

 

 

水の流れる音が聞こえ、下半身の冷たい感覚でソウジは目を覚ます。

 

 

「…………ここは一体……痛ッ」

 

 

ぼんやりとした思考で起き上がろうとして左目からの激痛で思わず左目に手を当てる。指の間を開けたにも関わらず、ズキズキと痛む左目からの光景は右目から見える薄暗い緑色の光で見える洞窟と違ってずっと真っ暗なままだ。

 

 

「そうだ……あの時、南雲を助けようとして……」

 

 

そこでソウジは南雲の存在を思い出し、急いで周りを見回すも、南雲の姿は欠片も見当たらない。

 

 

「南雲は一体何処に……はくしゅっ!」

 

 

焦りと共にくしゃみが上がり、続いて身体が寒さから震え上がる。

 

 

「……まずは服を乾かすか……へくちっ!」

 

 

ソウジは川から上がり、濡れた服を脱いで絞っていく。服を絞り終え十センチ位の魔方陣を書き、“火種”を使って暖をとりつつ、服を乾かしていく。

 

 

「状況からして水に流されて助かったのか……?だとしたら剣が流されなかったのは不幸中の幸いと言うべきか?」

 

 

助かった理由を考えながら暖をとって十分ほどでソウジは“火種”を消し、まだ若干乾いていない服を着直していく。

ここが何処かはわからないが、少なくとも迷宮の中であることは間違いない。魔力量が相変わらず少ないままなのでこのまま使い続けるといざという時にガス欠で倒れてしまいかねない。潰れた左目は上着の裾を幾らか切り取った布で覆うことにした。

ソウジは先ず川沿いから捜索を開始した。南雲も同じように流されている可能性が高いからだ。

物陰から物陰に隠れながら、川沿いを下って進んで行くが、南雲の姿は一向にない。

そうしてしばらく進んでいると何かしらの影を見つけた。

ソウジは物陰から顔を少しだけ出してその影を確認すると、その影は後ろ足がやたらと発達した中型犬ぐらいの大きさをもつウサギだった。しかもそのウサギの体には幾本もの紅黒い線がある。

 

 

(どう見ても、やばい魔物だ……)

 

 

物陰から様子を窺っているとそのウサギはどうやら川の水を飲んでいるようだ。

一度ここから離れようと考え、今の内に立ち去ろうとすると。

 

 

「グニャアッ!!」

 

 

岩影から赤い体毛の猫のような魔物が現れ、あのウサギに目掛けて襲い掛かっていった。その猫の大きさもあのウサギ同様であり、目が三つ、体毛のせいで分かりにくいが、ウサギ同様に紅黒い線がある。しかも別の岩影からもう一体、三つ目猫が飛び出す。

 

 

「キュウ!」

 

 

ウサギはその場で飛び上がって最初に襲い掛かってきた三つ目猫に脳天目掛けて回し蹴りを放ち、鳴ってはいけない音と共に、猫の首があらぬ方向へと捻じ曲がった。

もう一体の三つ目猫は全身から炎を放ち、その炎を口の前へと集めて、熱線として空中にいるウサギに向けて放つもウサギは空中を蹴って向かってくる熱線をかわし、ウサギはそのまま三つ目猫に肉薄し、同様の回し蹴りで三つ目猫を地面にへと沈めた。

 

 

(……冗談抜きでやばいぞ……)

 

 

その戦いを見ていたソウジは顔をひきつらせる。どう見ても、トラウムソルジャーやベヒモスよりも強い。少なくとも見つかったら絶対に死ぬという確信が持てるほどに。

幸いあのウサギはまだこちらに気づいてはいない。沸き上がる恐怖を必死に堪えて、ゆっくりとその場から立ち去ろうとして―――気づいた。辺りが妙に寒くなっている事に。

 

 

「ブルルル……」

 

 

そんな低い唸りが聞こえたと同時に、奥から新たな魔物―――全身が氷で覆われた二メートル程の巨大な牛がゆっくりと姿を現した。氷で覆われていない部分にはやはり、紅黒い線がある。

その氷牛は左右の立派な角の間に、白い輝きを放つ球体を形成していく。それを見た蹴りウサギは、我に返ったように、脇目も向けずに逃げようと後ろを振り向くと―――

 

氷牛は形成した球体をレーザー光線のように放ち、蹴りウサギを瞬く間に凍らせた。

凍らせた蹴りウサギを目前まで歩み寄ってきた氷牛はその前足で容赦なく砕き、砕いた欠片をバリボリと喰らっていく。

その光景にソウジは思わず後退りをしてしまい―――

 

 

―――カラン

 

 

足下の小石にぶつかってしまい、ぶつかった音がやたらと大きく響いた。

 

 

(―――しまった!?)

 

 

ソウジは氷牛の方に目を向けると、氷牛はこちらを見ており、先程の球体を再び形成していた。

氷牛はそのまま冷凍光線を放ち、ソウジは咄嗟に横に跳んでかわすも―――

 

 

「―――あぁあああああああああああああッ!!!!」

 

 

その冷凍光線はソウジの右膝から下の部分に当たり、容赦なくその部分を凍らせた。

凍らされた部分からは痛みは感じない。だが、近くからは焼けるような凄まじい激痛が襲いかかる。

それが氷牛に対する恐怖を増長させる事となる。

 

 

「あ……ぁあ…………あああ………………」

 

 

ゆっくりとこちらへ向かいながら、三再び冷気を集める氷牛。その余裕のある目を見てソウジは確信した。さっきのは外れたのではない。外したのだと。

あの氷牛は何時でもこちらを殺れるということなのだ。その事実にソウジは―――

 

 

「ぁあああああああああああああああああああああああああああああ―――ッ!!!!」

 

 

何とか立ち上がり、“縮地”を連続で使ってその場からあの蹴りウサギ同様、脇目も向けずに逃げ出した。

氷牛はソウジに向かって再び冷凍光線を放つも、今度はソウジには当たらず、着弾した地面を凍らせる。

ソウジは無我夢中で逃げ続けるが―――

 

 

「―――うあッ!?」

 

 

逃げている間に凍った右脚は削れ続け、遂にポッキリと折れてしまい、その場で転げ倒れてしまう。

それでもソウジは必死に逃げようと這いつくばって進み、その道中の壁にあった空洞を見つける。その空洞は這いつくばって進むことでギリギリ入れる大きさだ。

ソウジは逃げるようにその空洞へと確認もせずに入っていく。その空洞の中をソウジは必死に進み続け、その奥らしき、通路と比べて広い場所でソウジは意識を手放した。

頬に水滴を感じながら―――

 

 

 




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