魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


説得力のない言葉

天之河の声を無視しながらハジメとソウジはメルド団長に寄り添うシア下へと歩みを進め、ユエとアタランテもソウジ達の方へと向かう。ユエとアタランテの背後から「お姉さま方ぁ!」と誰かが叫んでいるが当然スルーである。

 

 

「シア、メルドの容態はどうだ?」

 

「後少し遅ければ助からない程危ない状態でした。……指示通り“神水”を使いましたが良かったのですか?」

 

「ああ。この人には、それなりに世話になったからな」

 

「きちんと教育しきれていないようだが、この人の抜ける穴は色んな意味で大きいからな。数少ない人格者だし、死なせるにはいろんな意味で惜しいんだよ」

 

「後、勇者パーティーに変なのがつくのも困るしな」

 

 

未だ睨みつけている天之河をチラ見しながら、シアに、メルド団長への神水使用許可の理由を話した。ちなみに、ハジメが言った“変なの”とは、イシュタルのような狂信者の事である。

 

 

「ありがとな、ユエ。頼みを聞いてくれて」

 

「んっ」

 

「アタランテも、オレとハジメの都合に付き合ってくれてありがとな」

 

「礼を言う必要はない。他ならぬソウジの頼みだからな」

 

「……あの~、私を放置しないで下さいですぅ……後、周りも集まって来てますよ!」

 

 

ソウジ達の間に桃色空間が形成されかけるが、一人蚊帳の外だったシアが手を鳴らしながらツッコミを入れて正気へと戻していく。

天之河以外から別の意味で睨む視線が増えた気がする中、天之河が口を開く。

 

 

「おい、空山。なぜ、彼女を……」

 

「ハジメくん……色々聞きたい事があるけど……取り敢えずメルドさんはどうなったの?見た感じ致命傷だった筈なのに、傷が塞がって呼吸も安定しているし……」

 

 

メルド団長の容態を見ていた白崎が、天之河の言葉を遮ってハジメに名前呼びで尋ねる。ハジメは白崎の視線に肝が冷えるような感覚を気のせいと思いながらその疑問に答える。

 

 

「ああ、それな……飲めば瀕死でも一瞬で完全治癒する特別な薬を使ったからだ」

 

「そんな薬、聞いたことないよ?」

 

「まぁ、伝説のもんだから普通は手に入らないし、数にも限りがある……だから、八重樫は治癒魔法をかけてもらえ。魔力回復薬はやるからよ」

 

「え、ええ……ありがとう……」

 

 

ソウジの言葉に、八重樫は少しどもりながらも薬を受け取り礼を言う。白崎もハジメから薬を渡され、それを飲み干していく。

 

 

「二人とも。メルドさんの事は礼を言うが、なぜ……」

 

「ハジメくん、空山くん。メルドさんを助けてくれてありがとう。私達のことも……助けてくれてありがとう」

 

「……そうね。空山君、南雲君。私達を助けてくれてありがとう」

 

 

再び言葉を遮られた天之河が、物凄く微妙な表情になる中、白崎がお礼を言い、続いて八重樫もハジメとソウジにお礼を言う。

そしてハジメの目前まで歩み、涙を流しながら白崎はハジメを見つめ続ける。

 

 

「ハジメぐん……生きでくれで、ぐすっ、ありがどうっ……あの時、守れなぐて……ゴメンねっ……ぐすっ」

 

 

ハジメの目の前で顔をくしゃくしゃにして泣く白崎に、永山達は生暖かい眼差しを、小悪党組は苦虫を噛み潰した目を、天之河と坂上は理解できていないようなキョトンとした顔を浮かべ、シアは難しい表情をし、ユエはいつも以上の無表情で白崎を見つめ、アタランテは大変だなと言う意味で苦笑していた。

 

ハジメの方はこれほど強く思われていたことに少しだけ罪悪感が沸き上がって、何とも言えない表情となり、ソウジも少し困ったような表情となった。

ソウジはひとまず、本来の目的である八重樫への義理をしっかりと果たす事にした。

 

 

「……あー、八重樫?」

 

「……何?」

 

「その……悪かったな……いらん荷物を背負わせちまってたようで……この通り、しっかり生きてるし……色々と文句あるだろうが……あの時の口約束は果たせたから……出来れば多少は勘弁してくれ」

 

 

ソウジが苦笑いしながら口にしたその言葉に、八重樫は少しだけ目を見開くも、すぐに呆れを含んだ苦笑いの表情に変わる。

 

 

「色々言いたい事はあるけど……確かにあの約束は果たされたわね……だけど」

 

 

八重樫はそう言って、ソウジの額に左手でデコピンを食らわせる。避けることも出来たが、ソウジは敢えてそのデコピンを受け止めた。

 

 

「それとこれとは別問題よ。心配させた分はこれで勘弁して上げるから感謝しないさい」

 

「……ハイハイ」

 

 

八重樫の言葉にソウジはおざなりで返す。ソウジと八重樫の気安いやり取りをアタランテは探るような瞳で見つめている。ハジメの方は白崎が抱きついており、流れに任せている状態だ。

 

 

「……ふぅ、香織は本当に優しいな。クラスメイトが生きていた事を泣いて喜ぶなんて……でも、南雲は近くにいたにもかかわらず、空山を止めなかったんだ。無抵抗の人を殺した空山同様、話し合う必要がある。もうそれくらいにして、南雲から離れた方がいい。雫も、空山から離れるべきだ」

 

 

白崎の気持ちに微塵も気づいていない天之河はそう言いながら、永山達の「空気読めよ!!」という非難の眼差しに気づきもせずハジメを責めるように睨みつつ、白崎をハジメから引き離そうとし、ソウジにも同様の厳しい視線を送る。

 

 

「ちょっと光輝!二人は私達を助けてくれたのよ?そんな言い方はないでしょう!?」

 

「だが、彼女は既に戦意を喪失していたんだ。殺す必要はなかったし、空山のした事は許されることじゃない。南雲も同様だ」

 

「いい加減にしなさいよ、光輝?大体……」

 

 

天之河の物言いに、八重樫が目をつり上げて反論し、永山達はどうしたらいいのかオロオロとし、檜山達はハジメとソウジが気にくわないこともあって天之河に加勢し始める。

次第に、議論が白熱し始めていき、ハジメの胸元から離れた白崎も何かを考え込むように難しい表情で黙る中、比喩的な意味で彼等に冷水が浴びせられる。

 

 

「……くだらない連中。もう行こう?」

 

 

絶対零度のように冷たい音声でユエが小さい声でそう呟き、ハジメの手を引いて部屋を出ていこうとする。用事が済んだハジメもユエの手に引かれるままに進み、ソウジも追従し、アタランテは冷めた眼差しで天之河達を一瞥してから続いていく。シアも周りを気にしながらもソウジ達に追従していく。

そんな彼等に、天之河が待ったをかける。

 

 

「待ってくれ。こっちの話は終わっていない。南雲と空山の本音を聞かなければ仲間として認められないし、君は誰なんだ?助けてくれた事には感謝するけど、初対面の相手にくだらないなんて、失礼だろ?それと、一体何がくだらないっていうんだい?」

 

 

天之河のその言葉に、ユエは既に見切りをつけて視線すら合わせようとしない。アタランテも天之河をゴミを見る目で一瞥した後、視界にすら入れようとしなくなった。そんな二人の態度に、天之河は少し苛立ったように眉をしかめるも、直ぐにいつも女の子に向ける優しげな微笑みを携えて再度、ユエとアタランテに話しかけようとする。

 

このままだと埒があかないどころかユエとアタランテを不快にさせると判断し、ソウジは本当に面倒臭い表情で答える事にした。

 

 

「天之河。考えの無いお前にいちいち構ってやる義理も義務もないが、さすがにしつこいから指摘させてもらうぞ」

 

「俺が間違っているとでも言うつもりか空山?俺は、人として当たり前のことを言っているだけだ。それと考えが無いとはどういう事だ」

 

 

ソウジの言葉に天之河は不機嫌そうに反論するも、ソウジは構わずに言葉を続けた。

 

 

「誤魔化すな」

 

「いきなり何を……」

 

「お前は、人が死ぬのを見たくなかっただけだ。そして、あの女を殺した事自体を責めるのはお門違いだと分かっているから()()()の相手を殺したと論点をずらした。見たくなかったものと、自分に出来なかった事をやってのけられた、その八つ当たりをさも、正しい事を言っている風に装ってぶつけているだけだ。当然、ご都合解釈のお前にはその自覚はないだろうがな」

 

「ち、違う!勝手なことを言うな空山!お前が、無抵抗の人を殺したのは事実だろうが!!」

 

「無抵抗以前に、あの女は敵だ」

 

「ああ。その敵を殺して何が悪い?」

 

「なっ!?何がって、人殺しだぞ南雲!悪いに決まっているだろ!!」

 

「その悪い事を自覚していなかったお前が言っても何の説得力もないぞ」

 

「なっ……!?」

 

 

ソウジのその指摘に天之河は完全に絶句する。実は、ソウジ達がピンポイントであの場所に落ちたきたのは偶然ではない。ちょうど上階を移動中に莫大な魔力の奔流を感じ、感知系能力をフル活用して階下の気配を探り、錬成とパイルバンカー、竜殺剣による“蒼牙天翔”でぶち抜いたのが真相である。

 

その魔力の奔流の源が天之河であることもわかっており、遠藤に確認した事も合わさって、あの窮地を招いた原因も看破していた。故に“考えの無さ”と言ったのである。

それでも天之河は何かを言い募ろうとしたので、ソウジは最後にこう言い放つ。

 

 

「議論する気はないから、最後にこれだけ言っておく。―――お前の考えの無さと軽さが周りに何をもたらしかけたのか、自覚しておけ。それと、敵対した奴に容赦するつもりは一切ない」

 

「ああ。明確な理由がない限り、敵は必ず殺す。これはあくまで俺達の価値観だから他人に強制するつもりはない。が、それを気にくわないと言って立ちはだかるなら……」

 

 

ハジメは一瞬で天之河との距離を詰めて額に銃口を押し付ける。同時に“威圧”も使って濃密な殺気を周りに大瀑布のごとく叩きつける。

 

 

「元クラスメイトでも躊躇いなく殺す」

 

「な、南雲……」

 

「俺達は、戻って来たわけじゃない。ましてや、お前等の仲間でもない。それぞれの義理を果たしに来ただけで、ここを出たらお別れだ」

 

 

ハジメはそう言ってドンナーをホルスターにしまい、“威圧”も解く。永山達は盛大に息を吐いて複雑そうにハジメとソウジを見つめるが、天之河はやはり納得出来ないのか、また何かを言い募ろうとする。だが、それは今度はソウジの“威圧”によって阻まれる。

ピンポイントで殺気をぶつけられた天之河は、口をつぐんで後退りする。

 

 

「これ以上しつこくするなら、面倒だからマジでぶっ飛ばすぞ。議論する気は一切ないんだからな」

 

 

ソウジはそれだけ言って“威圧”を解いて踵を返し、紅雪と、パイルバンカーと“蒼牙天翔”の餌食となった魔物の肉を回収する。

 

その後、意識を取り戻したメルド団長から何故か謝られ、パイルバンカーの杭を回収したハジメ共々、未だ消耗している天之河達をメルド団長からの頼みで地上に出るまでの同行を許し、道中の魔物を軽く瞬殺しながら地上へと向かって行った。

 

 

 




「お前達を死なせかけたのは、俺の責任だ」

メルド団長から目を逸らす勇者パーティー。

「すまない。あの時、何もしてやれなくて·······」

ソウジに向かって謝るメルド団長に相変わらず目を逸らす勇者パーティー。理由は神水が入った容器が○の穴に刺さっているから。(後にメルド団長は気付き、顔を俯くこととなった)

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