「ま、待ってくれ!意味が全くわからない。香織が南雲を好き?付いていく?どういう事なんだ?なんで、いきなりそんな話になる?南雲!いったい香織に何をしたんだ!」
「……何でやねん」
半ば聖剣に手をかけながら憤然とする天之河に、ソウジは呆れを多分に含んだ溜め息を吐き、ハジメは関西弁でツッコミを入れてしまう。
天之河はそのままハジメに歩み寄って来るが、八重樫が頭痛を堪えるような仕草をしながら天之河を諌めにかかった。
「そんなわけないでしょう光輝。あんたが気づいていなかっただけで、香織は日本にいる時からずっと南雲君を想っていたのよ。でなければ、あんなに頻繁に話しかけていないわよ。空山君の店で南雲君とよく会っていたのも知っているでしょう?」
「………何を言っているんだ雫……?あれは、香織が優しいから、ほとんど一人の南雲を可哀想に思ってしてたことだろ?協調性もやる気もない、いつも寝てばかりいたオタクな南雲を香織が好きなるわけないじゃないか。店の方も単なる偶然で、話しかけていたのも教室と同じ理由だろ?」
天之河と八重樫の会話に、ハジメは頬をピクピクとさせ、ソウジは呆れを多分に含んだ盛大な溜め息を再び吐く。
白崎は、天之河達の騒動に気づき、ケジメのためにはっきりと語る。
「光輝くん、みんな、ごめんね。自分勝手だってわかってるけど……どうしてもハジメくんと行きたいの。だから、私はパーティーを抜けます。本当にごめんなさい」
白崎はそう言って深々と頭を下げる。女性陣ははしゃいでエールを送り、永山パーティーは気にするなと苦笑いしながら手を振る。
だが、天之河は全く納得していなかった。
「嘘だろ?おかしいじゃないか。香織は俺の幼馴染みで……ずっと俺の傍にいて……これからも俺と一緒にいるのが当然だ。そうだろ、香織」
天之河のその言葉に、白崎は困惑しながらも幼馴染みだけどずっと一緒にいるわけじゃないと言い、八重樫も呆れて注意する。白崎と八重樫の言葉に天之河は呆然とし、次にハジメとソウジに視線を向ける。ハジメとソウジの周りにいるユエ達も視界に収めた天之河は、次第に目をつり上がらせていく。そしてとんでもない事を言い放った。
「行ってはダメだ香織。よく見るんだ。彼らは女の子を何人も待らして、あんな小さな子まで……しかも兎人族の子は奴隷の首輪を付けさせられているし、黒髪の女性も南雲の事を『ご主人様』と呼んでいた。そう呼ぶように強制されたに違いない。アイツらは女性をコレクションか何かと勘違いしている最低なやつらだ。空山は簡単に人を殺し、南雲は強力な武器を持っているのに協力しようとしない。仲間である俺達にだ。香織、君のためにも、俺は絶対に行かせはしない!!」
天之河のその言葉に、白崎達は唖然となる。天之河はそんな白崎達の様子に気づかず、何を思ったのかユエ達に視線を転じる。
「君達もだ。これ以上、その男達の元にいるべきじゃない。俺と一緒に行こう!!共に人々を救うんだ。俺と来てくれるなら直ぐに奴隷から解放するし、ご主人様とか様付けとかして呼ばなくて大丈夫だから」
そんな事を言って爽やかな笑顔を浮かべながら、天之河はユエ達に手を差し伸べる。そんな天之河の周囲に翠色に発光する矢が数本突き刺さる。
「え……?」
その事に天之河が困惑していると、翠色に発光する矢―――魔力矢から光の線が迸っていき、瞬時に魔法陣が形成されていく。そして、完成した魔法陣が一際強く光ると、クレーターを作ると同時に天之河を地面へと押し潰した。
「!?!?!?!?!?」
突然地面を這いつくばった天之河は理解できない顔となりながらも必死に立ち上がろうとする。だが、頭上に出来上がった四方十メートルの巨大な四角い氷の塊に更に押し潰される事となり、頭に強い衝撃を受けた天之河はそのまま意識を手放してしまった。
「「「「「「「………………」」」」」」」
その光景に白崎達は絶句。ハジメとソウジは何とも言えない顔になり、ミュウは呆けた顔で氷塊を見上げ、ユエとシア、ティオは下手人のアタランテとジークリンデを見て「よくやった!!」と言わんばかりにウンウンと頷いていた。
その天之河を黙らせた張本人であるアタランテとジークリンデは誰が見ても分かるほど不機嫌な顔になっており、どちらもゴミを見る目であった。
そんな二人にソウジは苦笑しながら話しかける。
「随分と思いきってやったなぁ、二人とも……」
「フン。あんな狂信者モドキは口で何を言っても無駄だから、物理的に黙らせるのが一番手っ取り早い」
「周りの話を聞かず、自らの都合の良い部分しか見ていない者には丁度いいお灸です。これで少しはマトモになって欲しいものです」
「……だそうだ、八重樫。悪いが後で引きずり出してやってくれ」
「……色々言いたいことはあるけど……了解よ」
こちらに理由を問いに来ていた八重樫に、ソウジは後の事は任せるようにお願いする。八重樫も先ほどの天之河の発言は流石に酷すぎた事もあり、目元を手で覆いながら了承した。
すると今度は檜山達が騒ぎ始め、白崎の説得が不可能と知ると、ハジメとソウジを残留させようと、心にもない事を言って説得しようとする。
ハジメとソウジはせっかくなので、あの日の真実の確認と現状解決の為に檜山に話しかけることにした。
「なぁ、檜山。火属性魔法の腕は上がったか?」
「………え?……な、なにを言ってるんだ?俺は前衛で……一番適性があるのは風属性で…」
「ああ、そうだったなぁ。風で何かを飛ばせるくらいだもんなぁ?例えば瓦礫とか」
「それと、火属性魔法が好きなんだろ?特に火球とか。思わず使ってしまうくらいに」
「……」
檜山の顔が青ざめ、白に変化する反応を見て、ハジメとソウジはあの時の犯人が檜山だと確信する。同時に動機も察して、良く無事だったなと、白崎をチラリと見てそう思う。
今更、復讐する気など微塵もないので、ハジメとソウジは檜山から距離を取って容赦なく告げる。
「謝罪なんざいらないし、過去の事もどうでもいい。俺にとって、お前らは等しく価値がない」
「それがわかったらさっさと散れ!!鬱陶しい!!」
ハジメとソウジのその物言いに近藤達は怒りを露にするも、ハジメとソウジに満面の笑みを向けられた檜山は無言で頷き、近藤達にもう止めるように言い出した。
そしてようやく邪魔者がいなくなり、白崎が荷物を取りに行っている間に、八重樫がハジメとソウジに話しかける。
「……色々とごめんなさい。それと、改めてお礼を言わせて。助けてくれて、生きて会いに来てくれてありがとう……」
謝りながらお礼を言う八重樫に、ハジメとソウジは思わず苦笑してしまう。
「謝る必要はないだろ。相変わらずの苦労人気質だな、お前は」
「ソウジの言う通りだ。俺は、白崎への義理を果たしに来ただけだし、アイツらの暴走はお前の責任じゃない。謝る要素が一つもないだろ」
「……南雲君。勝手な言い分だけど……出来るだけ香織の事を見てあげて。お願いよ」
「…………」
八重樫のそのお願いにハジメは無言を貫く。まぁ当然だよなと、ソウジが肩を竦めていると八重樫は急に不敵な笑みを浮かべた。
「……ちゃんと見てくれないと……大変な事になるわよ?」
「?大変なこと?」
「!まさか……」
「フフッ、空山君はわかったみたいね?」
「おい、ソウジ。一体どういう事だ?」
八重樫の言葉にソウジが顔を青ざめさせたことで、ハジメも嫌な予感が一気に駆け巡っていく。そんな二人に、八重樫は有効な切り札を切った。
「“白髪眼帯の処刑人”、“灰髪バンダナの剣鬼”……」
「!」
「お、おい……まさか……」
「“紅い雷の錬成師”、“蒼き炎の剣士”。他にも“破壊巡回”と書いて“アウトブレイク”、“剣線乱舞”と書いて“ソードダンサー”とか……」
「何でそんなダメージの与え方を知っている!?」
「というか、オレまで巻き添えにするつもりか!?」
「香織のオタク文化勉強に付き合ったからよ、南雲君。それと、空山君の方は説得に協力させるためよ。南雲君が頷かないなら、貴方も巻き添えにするわ」
「クッ……だったら!オレはお前が買った本のタイトルをここで盛大にばらしてやるぞ!!」
流石に痛すぎる二つ名を広められるのは堪ったものではないので、再び八重樫の秘密のカードを切るソウジ。八重樫はその言葉に一瞬怯むも、直ぐに決死の顔でソウジを睨み付ける。
「構わないわ!!この程度で止めはしないわよ!!逆にもっと痛い二つ名を広めて上げるわ!!“紅い旋風の射手”とか“蒼き黒風の閃牙”、“
「上等だ!!お前がサングラスと帽子、マスクをつけた不審者丸出しの格好で買った最初の本をばらしてやる!!タイトルは“愛と――」
「ダァアアアアアアッ!!わかった!少なくとも邪険にしないと約束するから、それ以上は止めてくれぇえええええええ―――ッ!!!!」
ソウジと八重樫の口合戦が始まる直前で、耐えきれなくなったハジメが投げやり気味に約束しながら二人を止めようとする。その光景を永山達とアタランテを除くユエ達は戦慄の表情を浮かべ、アタランテは目を細めてソウジと八重樫を見詰めていた。
そして、危うく自身の恥ずかしい秘密を暴露される寸前だった八重樫は安心した顔となって内心でホッとしていると、同じく、痛い二つ名を広められずにすんで安心していたソウジは思いついたような顔となって試作型宝物庫から黒塗りの鞘に入った刀を取り出して八重樫に投げ渡す。八重樫は突然投げ渡された刀を目を白黒しながらもしっかりと受け止める。
「えっと、これは?」
「得物を失っただろ?それを口止め料も兼ねて、これからも苦労するお前にやるよ」
ソウジのその言葉に、八重樫は眉間をしかめながら手渡された刀を鞘から引き抜く。刀身は光を吸収するかのように漆黒で、鍔から約二十センチ辺りに刀身と同質の薄い金属の板が刀身にサンドイッチのように挟まれている以外は日本刀と何ら変わらない形状であった。
「その刀の銘は“
「……これの機能?一体どんな機能があるのよ?」
八重樫の質問にソウジは白崎が戻って来るまでの間に説明する。
“四皇空雲”はハジメの“纏雷”、“風爪”、ソウジの“放炎”、“凍鎧”、“魔法剣術:限定複合魔法”を付加した合作のアーティファクトである。
アザンチウム製の刀身には“風爪”とその派生技能“三爪”と“飛爪”、サンドイッチに挟んだ右の金属板には“放炎”と派生技能“熱閃”と“蒼煌”、左の金属板には“凍鎧”と派生技能“吸熱”と“冷気集束”が、鍔には“纏雷”が付加されており、どれも刀身に纏わせて使用する事ができる。更に、鞘にも付加された“纏雷”を使って鯉口付近の押し込み式のスイッチを押せば鞘の鐺から高威力の針が射出される。鐺辺りに覆い被せた金属にも“凍鎧”と派生技能“氷刻”と“冷気操作”が付加されており、氷の刃を形成して緊急時の近接武器として使用できるというオマケ付きだ。
しかも、“四皇空雲”に付加された魔法は、柄や鞘の鯉口近くに編み込んでいるワイヤーに付加された“魔法剣術:限定複合魔法”で組み合わせる事が出来るという、ぶっとんだアーティファクトである。
勿論、これは生成魔法の実験と錬成の鍛練、ぶっちゃけ“遊び”で作った物で譲渡予定も、使う予定も無かったのだが、腐らせるのも勿体なかったので渡す事にしたのである。
その説明を聞き終えた八重樫は頬を盛大に引きつらせる。説明だけ聞けば国宝級のアーティファクトだが、それでも疑問が残る。
「最初の言い方からして、このままじゃ私にはそれらの機能が使えないように聞こえるんだけど?」
「聞こえるんじゃなく、今のままじゃオレ達以外にはそれの機能は使えないんだよ。魔力を直接操作できないと使えないんだからな」
「………一先ず、王国に戻ったら鍛冶師の元へ訪れるわ……それと、ありがとう。遠慮なく受け取らせてもらうし、口止め料は考えておいて上げるわ」
まだ疑問が残っていたが、正直パンク寸前なのでその疑問は放置する事にした八重樫は笑みを浮かべてお礼を言う。対するソウジは至って普通だが、内心では考える程度かとガッカリしていた。そんな中で白崎がようやく戻ってくる。
それを確認したソウジ達は入り口へと向かい、そこでハジメが昨日で武装以外は完成させた新しい乗り物―――“居住型魔力駆動大型四輪:ブリーゼ・ハオス”を取り出す。
ブリーゼ・ハオスは簡潔に言えばトラックのように長い大型のキャンピングカーであり、乗車人数は最大で十五人と余裕を持った作りにしている。突然虚空に現れた大きな乗り物に、女性陣と永山パーティー、報告を済ませて駆けつけたメルド団長は驚きを通り越して呆れている。ちなみに坂上と小悪党組は氷塊の下敷きになっている天之河の救出に尽力しているので見送りには不参加である。
ソウジ達は白崎と共にブリーゼ・ハオスにへと乗り込み、ソウジの運転でホルアドを後にした。
次に目指すは【グリューエン大砂漠】にある空間魔法が手に入る七大迷宮【グリューエン大火山】である。
運転中、ソウジは助手席に座るアタランテに八重樫との関係をしつこく聞かれる事となり、気の知れていた友人と何度も説明する羽目となった。
「四皇空雲って安直なネーミングね」
「本当は
(本気で考えた方のネーミングが痛すぎる!!)
ソウジの残念なネーミングセンスに内心でひく八重樫の図。
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