魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


駆除には新兵器でも対処

【グリューエン大砂漠】は大小様々な砂丘が無数に存在し、風に煽られ常に波立っている。照りつける太陽と、熱気を大量に放つ大地によって四十度は軽く超えているだろう。

そんな赤銅色の世界と表現すべき環境をブリーゼ・ハオスで爆走しているソウジ達には関係なかった。

 

 

「……外から送られてくる映像がすごいですね……普通の馬車とかじゃなくて本当に良かったです」

 

「全くじゃ。流石に、この環境を積極的に外に出て進みたくはないのぉ」

 

「ああ。こんなに砂が吹き荒れていると煩わしく感じるな」

 

 

居住スペースのソファに座っているシアとティオ、アタランテが遠透石から送られている室内のモニター型の遠透石の映像を見てそんな事を呟く。ティオの隣に座っているジークリンデはティオの鬱陶しげな反応にホッとしている。

 

 

「前に来た時とは全然違うの!!パパはすごいの!!」

 

「そうだね~。ハジメパパはすごいね~。ミュウちゃん、冷たいお水飲む?」

 

 

以前誘拐された時とは違う快適空間におおはしゃぎするミュウに、香織が賛同しながら冷たい水の入ったボトルを差し出す。ブリーゼ・ハオスはエアコン完備、キッチン、冷蔵庫、寝室にはフカフカのベッドと至りつくせりであり、ハジメの拘りが強く出ている。

 

 

「なぁ、しら……香織。パパ呼びは勘弁してくれ。物凄くむず痒いんだ」

 

「?ミュウちゃんには普通に呼ばれてるのに?」

 

「……まぁ、最初はすごく反対してたからなぁ。勘弁してやったらどうだ香織?」

 

 

生来の面倒見の良さから積極的にミュウの世話をし、ミュウの傍ではハジメパパと呼称する香織に、ハジメは微妙な表情で懇願する。ソウジも苦笑しながらハジメの援護に回っている。

香織の名前呼びは本人からの懇願の結果であり、居住スペースに全員がいるのはミュウのお願いの結果である。

ブリーゼ・ハオスも魔力操作で運転するので必ずしも運転席にいる必要がなく、ブリーゼ・ハオスの前後左右に遠透石を取り付けてあるので運転には一切支障がないので全員が居住スペースでたむろっていた。

 

 

「そう?それなら呼ばないけど……でも、いつか子供が出来たら……」

 

 

ハジメチラチラ見ながら頬を真っ赤に染めて香織はそんな事を言う。ミュウを除いて、車内に妙な雰囲気が漂い始める中、ユエが口を開いた。

 

 

「……残念。先約は私」

 

「!?」

 

「……ご両親への紹介も約束済み」

 

「!?」

 

「……明るい家族計画は万全」

 

「!?」

 

「……当然、故郷デートも」

 

「!?」

 

 

ユエの言葉の杭が次々と香織の胸に深く突き刺さっていく。しかし、香織は負けじと反撃を開始する。

 

 

「私はハジメくんのことを沢山知ってるよ!ハジメくんの好きな作品とか、将来の夢とか!!ユエは、ハジメくんの好きなアニメや漫画を知らないでしょ?」

 

「むっ……だけど、それは日本に行ってから教えてもらえば……」

 

「甘いよ。今のハジメくん、どうみてもアニメキャラなのに?」

 

「「グフッ!?」」

 

 

香織の口撃がハジメと、ソウジの胸に突き刺さった。

 

 

「武器だって、あのクロスビット?はファ○ネル……ううん。ソウジくんの紅雪?と合わせて考えればダブ○オーのGNビッ○かな?クロスビットがシールドビッ○で、紅雪がソードビッ○をモチーフにしてるだろうし……どっちにしろ、今のハジメくんも十分にオタクなんだよ。っあ、ソウジくんのあの“蒼牙天翔”?もfa○eのエクス○リバーを参考にしてると思うから、ソウジくんもオタクだね」

 

「グボアッ!?」

 

「ガハッ!?か、香織……」

 

 

大体はユエと香織の言い争いにハジメが精神的なダメージを負うのだが、今回はソウジにも飛び火して、二人は胸を抑えて俯く。ちなみに、香織がソウジのことも名前で呼んでいるのは本人曰く、筋が通らないからだそうである。

そんな香織に、ユエはハジメとの“夜”の話を切り出そうとした所で、ミュウが「ケンカばかりするお姉ちゃん達なんてキライ!!」とむくれてソッポを向いた事でユエと香織の女の戦いは中断、二人は必死に仲良しアピールをする事となった。

シアがむくれるミュウを宥め、ハジメは死んだ魚のような目で天井を見つめ、同じく死んだ魚のような目となったソウジがアタランテに慰められる中、ティオとジークリンデは映し出されているモニターに何かを発見する。

 

 

「ん?なんじゃ、これは?」

 

「車体の右側から送られている映像に、何か騒ぎが起きているようです」

 

 

二人のその言葉にモニターを見やると、大きな砂丘の向こう側に、サンドワームと呼ばれるミミズ型の魔物が相当集まり、周囲を旋回している光景が映し出されていた。

 

 

「まるで迷っているように動いているな?」

 

「そんな事があるのか?」

 

「妾の知る限り、ない筈じゃ。奴等は悪食じゃからのう」

 

 

ユエのように幽閉されたり、アタランテのように一人で隠れていたわけではないので、この中で一番知識の深いティオが首を傾げながら否定する。

理由は不明だが、わざわざ首を突っ込む必要はないので、巻き込まれる前にさっさと距離を取ろうとするも。

 

 

「っ!?」

 

「掴まってろ!!」

 

 

ハジメとソウジの顔色が変わり、ソウジが叫ぶと同時に一気にブリーゼ・ハオスを加速させ、右へ左へと乱暴な運転で砂地を駆け抜けていく。駆け抜けた後からはサンドワームが飛び出してきており、ロックされてしまっている状態だ。

その乱暴な運転で香織はハジメのお腹に顔面からダイブ。香織は頬を赤めながらそのままハジメの腰にしがみついた。

 

 

「おい、し……香織!何してやがる!」

 

「危ないから!しがみついてるだけ!!」

 

「……おのれ、香織。どさくさに紛れてそこに顔を埋めるとは……」

 

 

明らかによろしくない箇所に顔を埋めている香織に、ユエが忌々しいとばかりに香織をペシペシと叩くが、香織は一向に動かない。

そうこうしている内に、砂地から飛び出てきた三匹のサンドワームが頭上から襲いかかろうとするも……

 

 

「これでも喰らっとけ!!」

 

 

ハジメはそんな事を言いながら魔力操作でボンネットの後部をスライドさせ、中から四連ロケットランチャー付きのアームを取り出して大口を開けて迫っていたサンドワームに食らわして、爆散させる。勿論、ミュウへの配慮からモニターの映像は遮断してあるし、外の光景は魔眼石に映っているので全く問題がない。

 

 

「火器は俺が操作するからソウジは運転を頼む」

 

「ああ」

 

 

ソウジはハジメの言葉に簡潔に答え、ブリーゼ・ハオスをバックで走らせていく。ハジメはロケットランチャーをしまい、今度はボンネットの前部の左右をスライドさせ、スライドさせた二箇所から長方形型の機械を展開する。長方形型の箱の前方には大きな四角い穴が空いており、その穴から紅い光とスパークが迸り始めている。

 

 

「せっかくだから、新しく開発した兵器も試すとするか」

 

 

ハジメがそう呟くと同時に、内蔵兵器をサンドワームに照準を合わせ……躊躇いなく発射した。

 

ビガァ!!

 

奇怪な音とともに紅い閃光が放たれ、頭部に閃光を喰らったサンドワームは、一瞬に頭部を灰にへと変え、砂地にへと沈んでいく。

“荷電粒子砲:エレクトロン”―――ハジメが新たに得た“纏雷”の派生技能“蓄雷”と重力魔法を組み込んだ新しいロマン兵器である。

この派生技能はあの時回収したキリシルの肉を食べた事で獲得し、他にも“雷耐性”、“出力上昇II”も獲得している。ただし、“蓄雷”は文字通り電気を溜めるだけなので、相変わらず自身に纏わせる以外の使い方はできないが、貯蔵量は自身の魔力量の約十倍の感覚なのでハジメはホクホク顔だった。ちなみにアハトドの肉で獲得したのは、“魔力変換”の派生技能“衝撃変換”である。

ソウジの方は、アハトドに関しては同じであったが、キリシルの肉で得られたのは“雷耐性”だけであり、その事実にソウジは肩を落としたのは言うまでもない。

そんな新兵器の左右交互に放つ連射で、こちらに気づいた向こう側のサンドワーム諸とも葬りさっていく。エレクトロンでサンドワームを駆逐し終えた時点でハジメとソウジは向こう側にある何かに気付いた。

 

 

「「…………白い人?」」

 

 

最初に見たサンドワーム達がいたであろう場所に、白い衣服に身を包んだ人が倒れ伏している。

 

 

「!お願い、私をあの場所に連れてって……私は“治癒師”だから」

 

 

さすがに恥ずかしさからか、いつの間にかハジメから離れていた香織が懇願するようにお願いしてくる。ハジメとソウジは何故あの状態でサンドワームに食べられずに済んでいたのか気にもなっていたので、香織の頼みに頷いて了承し、ブリーゼ・ハオスを倒れている人に向かって走らせて行った。

 

 

 




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