改めて静因石の採取の依頼を引き受けたソウジ達は、ランズィ達と共に香織とシアが獅子奮迅の活躍をしている医療院に訪れていた。
香織は十メートル以内に集めた患者から魔力を一斉に抜き取っては魔晶石にストック、病の進行を遅らせると同時に回復魔法も行使して衰弱を回復させ、シアは身体強化をフルに使って患者達を一気に運んでいた。
もっとも、シアのこの光景を見た者が医療院に駆け込むという弊害が発生していたが。
そんな香織にソウジ達がやって来て、ランズィが大声で水の確保と元凶の排除がなされた事を伝える。ランズィのその言葉に、アンカジの人達から一斉に歓声が上がり、笑顔を浮かべた。
そんな歓声の中で、ハジメはこれから【グリューエン大火山】に挑むから患者達は後どれくらい持つのかと香織に問いかける。最初はハジメの姿を見て嬉しそうに表情を綻ばせていた香織も直ぐに真剣な表情となって虚空を見つめ、計算し終えた香織は“二日”だとハジメを見つめ返して答える。
「私はここに残って患者さん達の治療をするね……この世界の事に関心がないのは分かっているけど……」
香織は道中で既にハジメとソウジから全てを聞いている。全てを聞いた上で香織はハジメに付いていくという意志を貫いて同行しているが、アンカジの人々を助けたいとも思っていた香織は、まるで自身のわがままに付き合わせたような複雑な気持ちとなっていた。
「静因石を大量に集めるなら、どっちにしろ深部まで行かなきゃならないだろ」
「それに、ミュウをここに置いて行く以上、そんな光景を見せるわけにはいかないしな」
「ソウジの言う通りでもあるから、あんまり気にすんな」
当の本人達はあっけからんとした感じで香織に言葉を返していた。
「ふふ……そうだね。ミュウちゃんの事は私がしっかり見ているから……無事に帰ってきてね、ハジメくん。待っているから……」
「……あ、ああ」
愛しげ細められた眼差しと、まるで戦地に夫を送り出す妻のような雰囲気を発した香織に、ハジメは思わずどもってしまう。
あの告白以来、香織のストレート発言に拍車がかかっているなぁ……とソウジは傍観していると、ミュウが爆弾を落とした。
「香織お姉ちゃん、そのままパパにキスするの?さっきのユエお姉ちゃんみたいに」
「?見えておったのか、ミュウよ?」
「う~?あっちのおじちゃんがキスって慌てて言っていたんだけど、違うの?」
ミュウの無邪気な言葉にほっこりしつつ、ランズィに「何余計なこと口走ってんだ!」と言わんばかりの視線をぶつけるハジメとソウジ。
その睨み殺さんばかりの視線を一身に受けたランズィはビクゥッ!!と身体を強張らせ、ティオは「その視線!その視線を妾にぃ!」と興奮し始める。当然、そのティオの反応にジークリンデは目尻に涙を浮かべながら項垂れるも、今はどうでもいいことだ。
なぜなら……
「……どういうことかな、ハジメくん?ハジメくん達はお仕事に行っていたんだよね?ひょっとしてユエとキスするために別れたのかな?」
香織が瞳からハイライトを消して、刀を肩に担ぐ般若のス○ンドを出現させたからだ。
ハジメは誤解だと弁明するよりも早く、ユエが口を開いた。
「……美味だった」
「……あは、あはははは」
「ふふ、ふふふふふ」
そして、香織とユエは互いに笑いあう……背後に刀を振り回す般若と、暗雲と雷を纏う龍を背負って。
「……あっ!その別れが私とハジメくんの仲を深めるなら―――」
「ふっ。一度オルクスで別れたにも関わらず、ハジメとの仲を深められなかった香織が何を言う?」
「むきぃーッ!!」
「むむむ……ッ!」
香織とユエはそのままキャットファイトを開催。背後の般若も二振りの刀をビュゴビュゴッ!!と振り回し、龍も雷雲から稲妻と雷鳴を轟かせ、激しく争っている。
そんな香織とユエの修羅場をハジメは、争っている二人にデコピンを決めることで収めた。
「別にそういうことをしたくて別行動したわけじゃない。それと、俺とユエは恋人同士なんだ。それも全て承知で付いてきたんだろ?」
「……そうだけど……これは、理屈じゃないんだもの……」
一先ず、修羅場は収まったので、ソウジは空気を変えるために、これから向かう【グリューエン大火山】についてハジメに確認することにする。
「確か【グリューエン大火山】は普通の火山とは全然違うんだよな?」
「ああ。円錐ではなく溶岩円頂丘のような形だから、山というより巨大な丘だな」
「……ぺったんこ?」
ユエのその呟きに、香織が目敏く反応した。
「ふっ……どこのユエとは言わないけど、まるで誰かさんの胸みたい!?」
不敵に笑いながらユエを挑発していた香織だが、今まで動向を見守っていたアタランテが香織の後ろに回り、そのまま羽交い締めされた。
「えっ、えっ!?アタランテさん!?」
「……ユエ、やれ」
「……ん。香織、ハジメから教わった百○拳を今から叩き込んでくれる……!」
驚く香織を他所に、アタランテのサインに従ってユエは緩慢な動作で北○の拳のケン○ロウのような構えを取っていく。そして、そのまま香織の肋骨と胸に北○百○拳を叩き込んだ。
「あばばばばばばばばっ!?ふ、二人が、かりはズルッ、いよッ!!」
「「うるさい」」
百○拳を叩き込まれている香織は抗議するも、静かに怒っているユエとアタランテは構わず、龍と獅子の幻覚を漂わせながら制裁を続けていく。
……いつの間にかアタランテもス○ンド使いになっていた。今見えているス○ンドも、獅子が般若を踏みつけて押さえこみ、龍が尻尾で般若の顔を往復ビンタしている状態だ。
アタランテがいる前で胸ネタを話すとは……こればっかりは香織の自業自得である。
「……はぁ~……」
「お姉ちゃん達、またケンカしてるの?」
「いや、あれはじゃれあっているだけだ」
なので、助け舟は出さず、ハジメは溜め息と共に見守り、ソウジはお怒りモードのミュウをあやすのであった。他三名はそれぞれの己の殻に籠って役立たず状態である。
そして、じゃれあい(という名の制裁)が一段落したのを確認したあと、ソウジ達は、二手―――アンカジに香織とミュウ、【グリューエン大火山】にはハジメ、ソウジ、ユエ、アタランテ、シア、ティオ、ジークリンデ―――に別れて、それぞれのすべき事のために、動くのであった。
ちなみに、ハジメは香織とミュウ、何故かシアと互いの頬にキスを、ソウジはミュウと互いの頬にキスをしてから、【グリューエン大火山】へと出発した。
ちなみに……
「……チュ」
「……チュ」
「……チュゥウウウウ~……」
道中、ブリーゼ・ハオスの運転席と助手席で、ソウジとアタランテは互いの頬にキスした後、互いの唇にキスするのであった。
「これは……なんという剣だ……ッ!」
「性能と作りもさることながら……僅かに漂う血の匂いからしても、相当の使い手が使っていたに違いないッ!!」
(ごめんなさい皆さん!!その血は空山君が試し切りとして魚等の食材を捌いた時のものです!!相当な使い手なのは間違ってはいませんけど!!)
王国の錬成師が四皇空雲に対する評価に、事前に聞いていた為、内心で謝罪する雫の図。
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