魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


迷宮は泣く

階層を下げる毎に、マグマを翼から撒き散らす蝙蝠、壁を溶かして飛び出てくる赤熱化したウツボモドキ、炎の針を飛ばしてくるハリネズミ等、魔物のバリエーションが増えていく。

生半可な攻撃はマグマか赤熱化した肉体で無効化する上、そこかしこに流れるマグマを隠れ蓑に奇襲を仕掛けて来るのだ。

そして、階層を下げる毎に暑さは刻一刻と増していっているのだが……

 

 

「……まだ暑いですぅ」

 

「……暑いと思うから暑い。十分涼しいと思えば、まだいける」

 

 

ユエとシアは汗を流しながらも、意識はしっかりとしていた。

 

 

「ソウジ、ジークリンデ。もう少し冷気を強くできないか?ユエとシアが割と参っているぞ」

 

「だから、これ以上は限界だって」

 

「すいません。これ以上強めると後々に響いてしまいます」

 

 

ソウジは半目で、ジークリンデは申し訳なさそうに、若干汗をかいているハジメに不可能だと伝える。

ソウジの“吸熱”と“冷気操作”、ハジメのアーティファクトに加え、氷魔法に一番適性があるジークリンデが協力して冷気を生み出してはいるが、やはり完全とはいかないようだ。これ以上冷気を強めると、魔力の消費量が流石に看過できる域を超えてしまい、迷宮攻略の支障になる可能性があるからである。

 

 

「……仕方ない。少し休憩するか」

 

 

ハジメは顎先に僅かに滴る汗を拭いながら広間に出ると、マグマから比較的に離れている壁に“錬成”を行って横穴を空ける。そこに全員が入った後、熱気が入らないように入口を最小限まで閉じ、部屋の壁を“鉱物分離”と“圧縮錬成”を使って表面だけ硬い金属でコーティングして安全を確保した。

 

 

「あ~~、涼しいですぅ~」

 

「……ふみゅ~」

 

 

ソウジ達の冷気放出はまだ続いていたため、快適な空間となった部屋でユエとシアは抜けた声を洩らす。

 

 

「だれるのはいいけど、汗くらいは拭いておけよ」

 

 

ハジメはそう言いながら“宝物庫”からタオルを取り出し、ソウジ以外に配っていく。ソウジにタオルが配られなかったのは“熱耐性”の技能のおかげで汗を一つもかいていないからだ。

 

 

「ユエとシア以外は余裕そうじゃの?」

 

「いや、俺もお前達ほど余裕じゃない。ソウジとジークリンデがいなかったら、ヤバかった」

 

「私も完全には“適応”できていなかったようだ。時間が経てば完全に“適応”するだろうが、それまでは少しキツいな」

 

「オレは炎を纏って使えるからな。温度を下げているからこのくらいなら大丈夫だ」

 

「ふむ……なら、この暑さがこの迷宮のコンセプトなのじゃのうな」

 

「成程……それなら納得がいきますね」

 

「「コンセプト?」」

 

「うむ」

 

 

首を傾げるハジメとソウジに、軽く汗をかいているティオは頷いて説明していく。

ティオの推察では、【オルクス大迷宮】は数多の魔物とのバリエーション豊かな戦闘で経験を積むこと。

【ライセン大迷宮】は魔法抜きであらゆる攻撃への対応力を磨くこと。

そして、この【グリューエン大火山】では暑さによる集中力の阻害、その状況化での奇襲への対応をコンセプトにしているのではないかということだ。

 

 

「なるほどな……」

 

「試練そのものが“教え”になっているのか……」

 

 

普段はドMのティオの考察にハジメとソウジは素直に頷く。残念なものを見る眼差しとともに。

しかし、暑さから少し浴衣を着崩していたティオとジークリンデから流れる汗が滴り落ちて、胸の谷間へと消えていく光景を見て、ハジメとソウジは何となく顔を剃らす。そして、その視線の先には汗を拭いているユエ達がいた。

ソウジの視線はアタランテに釘つけとなってしまい、アタランテがバトルベストを脱いで汗を拭く姿は……とても色っぽかった。

 

 

「……そんなに見つめるなソウジ。思わず、恥ずかしくなってしまうではないか」

 

 

少し顔に赤みを帯びたアタランテが恥ずかしそうにそんなことを言う姿に、ソウジは顔を赤めて視線を壁に向けてしまう。

その隣ではユエがハジメに汗を拭いて貰おうと迫り、それを見たシアとティオが自ら服を脱ごうと暴走しかけたが―――

 

 

「ティオ様、シア様。裸をお見せになるのはどうかと思いますよ?」

 

 

ジークリンデの底冷えする声色が部屋中に響く。その声色によってシアとティオは先ほどとは売って代わり、大人しくなって身体の汗を拭いていった。……ティオは若干息を荒げていたが。

 

 

「しかし、本当に暑いよな。今は快適だが」

 

「十分に休憩が取れたら攻略と静因石集めを再開すっか」

 

「だけど、また暑い空間を進むんですよね……」

 

「ん……」

 

「だが、冷気だけを強めても意味がないぞ。効率よく冷気を閉じ込めなければ……」

 

「「「「「「「……あ」」」」」」」

 

 

一同はここで、現時点での解決策を思いついた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

休憩が終わった一同再び深部を目指すのだが……

 

 

「大成功だな、この方法」

 

「完全に別世界ですぅ!……私だけ何もしていませんが……」

 

「ん……気持ちよく進める」

 

「完全に盲点でしたね……」

 

「やっぱ、地味に暑さにやられていたのかもな」

 

「わざわざまともに進む必要はなかったな。攻略を認められるのか、若干の不安要素があるが……」

 

「大丈夫じゃろう。あくまで集中力を高め、奇襲への対応を磨くことの筈じゃからの」

 

 

一行はソウジの“吸熱”と“冷気操作”、ジークリンデの氷魔法、ユエとアタランテが風魔法と重力魔法を複合させて作り出した二重の風の膜、ハジメの冷房型のアーティファクト、ティオの内部を循環させるための風魔法で快適に進んでいた。

ハジメは空になった魔晶石に魔力を込めつつ、“蓄雷”で限界量の八割まで溜め込んでいた電気を魔力に戻しながら進んでいる。シアだけは役立たずである。

進む間も静因石もしっかりと集めている。どうやら静因石は火山の活動が穏やかな場所に多くあることもわかり、大きな静因石も採取できている。

そして、宙に流れるマグマが大きく壁を迂回するように流れている場所で予備用に静因石を集めようとしたのだが……

 

 

「おい、ハジメ。その壁の奥の方にマグマが結構あるみたいだぞーッ!?」

 

 

“熱源感知”で確認していたソウジが、ハジメが静因石を“鉱物分離”で採取しようとしたハジメを止めた。

 

 

「マジかよ…………本当だな。こりゃ、下手に取ったら噴き出てくるかもな」

 

 

ソウジの呼び掛けにより、同じく“熱源感知”で確認したハジメは顔をしかめて壁を睨み付けてから、その場から離れて戻ってくる。

 

 

「こうなったら、別の場所で採取するか」

 

「そうだな……」

 

 

周囲を見回していたハジメとソウジは急に黙ってしまい、何かを考えるような表情になる。

 

 

「なぁ、ハジメ。思ったんだが、わざわざ歩く必要があると思うか?」

 

「奇遇だな。このマグマの流れに乗れば、楽に深部に行けるかもなっと思ったところだ」

 

「「ははははははははははは……」」

 

 

互いに笑い出すハジメとソウジ。そんな二人の様子に他の面子は不安を覚えていく。

 

 

「あ、あの?ハジメさん、ソウジさん?一体何をするつもりなんですか?」

 

「?何かいい方法が思いついたのかの?」

 

「……大丈夫なのですか?ユエ様、アタランテ様」

 

「……さすがハジメとソウジ。人には出来ないことをやろうとする」

 

「……大丈夫だろう。多少の危険は伴うがな」

 

 

そんな不安が漂い始めるなか、ハジメが錬成で()付きの分厚い小舟を作り始めていき、ソウジは“熱耐性”と“火属性無効”を生成魔法で艪と小舟に付与していく。

やがて、出来上がった小舟にソウジはアタランテ達を手招きして舟へと乗せ、ハジメはさっきの場所に近寄っていく。

 

 

「え?ま、待ってください。まさか……」

 

 

ここで漸く、シアがハジメとソウジのやろうとしていることに気がつくも既に遅い。ハジメは“鉱物分離”でその壁の静因石を取り出すと、“縮地”と“空力”を使ってその場から離れる。その瞬間、壁の奥からマグマが勢いよく噴き出した。

噴き出したマグマは亀裂が入ったダムから水が噴出するように決壊し、どんどん流れ込んでくる。

やがて、小舟はマグマの上に浮かび、噴き出る勢いに乗って流され始める。

 

 

「ハジメ。小舟は大丈夫か?」

 

「ああ。全く問題がない」

 

 

艪を漕ぎ始めたソウジに、取り出した静因石を“宝物庫”にしまってから小舟へと華麗に着地し、状態を確認していたハジメはサムズアップしながら伝える。

 

 

「マジでやりやがりましたぁ……」

 

「流石、ご主人様達じゃな」

 

「常識がどんどん壊されていきますね……」

 

「……そんなハジメに私は惚れ直す」

 

「せっかくだから楽しむとしよう。このような事は滅多に体験できないからな」

 

「普通は体験しないですよぉ……マグマを舟で移動するなんて……」

 

 

シアの力なき言葉が虚しく響いた。

迷宮攻略は船旅に突入し、あの世の迷宮の創設者はきっと、涙を流しただろう。

 

 

 




「ちゃんと手入れしないといけないわよね。日頃の手入れが大切なんだから……」

そう言いながらほぼ毎日、一時間以上丹念に四皇空雲を手入れする雫の図。

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