ウラノスより一回り小さなサイズの水色の翼なき竜は、ウラノスが纏う威圧感を上回る威圧感を放ってフリード達を睨み付ける。
「ガァアアアアアアアアアアアアア―――ッ!!」
水色の翼なき竜―――“竜化”したジークリンデがフリードとウラノスに向かって咆哮を上げる。ジークリンデは竜人族であることを知られるリスクを理解した上で“竜化”したのだ。
ジークリンデがソウジ達に同行する事を決めたのは、ハジメに着いていくと決めた、ドMの変態となってしまったティオを放置できないからもあるが、里の任務の為でもあった。だからこそ、自分達が竜人族であることは、極力隠しておきたかった。里の掟もあってその考えは当然であり、“落ちこぼれ”故に、一際里の誇りを大事にしていたジークリンデにとっては尚更だった。
だが、ソウジが重傷を負ったその姿を目の当たりにして、ジークリンデの胸中は激しく動揺し、傷つけた存在に怒りを露にした。
その時にジークリンデは明確に自覚したのだ。自分がソウジに“惚れて”いたことに。
だからこそ、里の者達に糾弾されるのを覚悟した上で、“竜化”することを決断した。ここで掟を優先して仲間を死なせれば、もはや胸を張って生きていくことは出来ないし、惚れた男を死なせては誰にも顔向けできなくなる。
“覚悟しなさい!これ以上、ソウジ様を傷つけさせはしません!!”
ジークリンデはその巨大な顎に水色の魔力を瞬時に集束・圧縮し、直ぐ様絶対零度のブレスをフリード達に向かって放った。
「ルァアアアアアアアアア―――ッ!!」
ウラノスが直ぐ様極光のブレスを放って応戦するも、完全に拮抗。壮絶な衝撃波を撒き散らしてマグマの津波を形成していく。
「くっ……!まさか貴様、竜人族か!?よもや生き残りがいたとは……ッ!」
フリードはジークリンデの正体に気づき、歯噛みしながらもエアノスに指示を出そうとした直後。
「ッ!!ウラノス、避けろッ!!」
自身に迫りくる黒色の閃光に気づいたフリードはウラノスに回避を命じ、ウラノスもブレスを止めて回避行動をとって上空へと飛んでいく。
直後、水色と黒色のブレスはすれ違うように交差し、その先にあった壁を、水色のブレスは氷結させ、黒色のブレスは抉りとった。
「くっ……まさか竜人族がもう一人いたとは……」
フリードは黒竜―――ティオを睨み付け、仕方がないといった感じで懐から新たな布を取り出し、別の空間魔法を使う為に詠唱を始めた―――その直後。
「させねぇよ」
“限界突破”を使い、背後に回っていたハジメがドンナーを連射したことで中断させられる。
そして、そのままフリードはハジメによって手傷を負わされてしまう。
「くっ……エアノス!」
“魔衝波”の回し蹴りでウラノスの背から吹き飛ばされたフリードは、すぐにエアノスを呼ぼうとするも、それより早く、ハジメと同じく“限界突破”を使っていたソウジが平突きの構えを取って“縮地”と“空力”で空を駆け、さらに“爆縮地”で段階的に加速してエアノスに迫っていく。
通常の弾速を超えた速度に、ボロボロのソウジの身体は悲鳴を上げるも、構わずに速度を上げていく。
「キルルルルルルルルルゥ―――ッ!!!」
対するエアノスは防衛を優先して嵐の障壁を展開、迎撃態勢に入る。
その嵐の障壁を前に、ソウジは炎凍空山を突きだし―――迷わずに突撃した。
ビュバァアアアアアアアアアアア!!!
「キルァアアアアアアアアアア―――ッ!?」
そんな凄まじい音がエアノスの叫びと共に響き渡った。
ソウジは炎凍空山の刀身が砕け、身体の切り傷をさらに増やしていたが―――エアノスは身体に大きな穴が空き、そのまま力を失い、足場へと落下していった。
ソウジは加速に加え、“魔衝撃”と重力魔法を複合させた技―――衝撃波を切っ先に集中させた超音速の突き―――“重皇突”で嵐の障壁を強引に突き破り、エアノスを貫いたのだ。
エアノスを仕留めたソウジはそこで力尽きたように崩れて落下していくも、翠翼を展開させたアタランテに抱き止められ、近くの足場へと着地する。
「くっ……エアノスが殺られるとは……マキアスに何と言えば……ッ!」
いつの間にかウラノスの背に戻っていたフリードは、“風爪”で刻まれた胸の傷口を押さえながらエアノスがやられた事に顔を歪ませ、ソウジとアタランテを睨み付け、次いでハジメ達も睨み付ける。
「こうなっては仕方がない……この手は使いたくなかったがな」
フリードが決然とした表情でいつの間にか肩に止まっていた小鳥の魔物で何かを伝えた。
その直後。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
【グリューエン大火山】全体に激震が走り、マグマの海が荒れ狂い始めた。
「地下のマグマ溜まりを鎮めている要石を破壊させてもらった。このまま大迷宮もろとも果てるがいい!」
フリードはそう言って首のペンダントを天井に掲げる。すると、天井に亀裂が走ってそのまま左右に分かれて、地上までへの通路を開いていった。
攻略の証で地上までのショートカットを開いたフリードはそのまま天井の通路へと消えていき、残っていた灰竜達が一斉に小極光をソウジ達に放ち始めていく。
その小極光をユエが“絶禍”で防いでいき、アタランテも遅れて“絶禍”を発動して灰竜達の攻撃を凌いでいく。
その間にハジメが、ティオに先に一人で脱出するように伝える。
“ご主人様よ、妾は、妾だけは最後を―――”
「アホか。ハジメはお前に“頼って”いるんだ。期間内にアンカジに戻って“静因石”を届けるには、お前じゃないと無理なんだ。何一つ諦めていないから、こうしてハジメはお前に頼んでいるんだ」
「そういうことだ……頼む、ティオ。力を貸してくれ」
ハジメのその言葉で、ティオは本気で伴侶になりたい相手から、生死のかかった瀬戸際で大切なものを“託された”のだと気づき、心が歓喜に震えていく。
そして、ティオは応える。
“任せよ!”
ハジメはティオに“宝物庫”を預け、もう一つだけ伝える。
「“宝物庫”には実験で作った通信機もある。“試作型宝物庫”にもそれがあるから、連絡は取り合える……だから香織とミュウに“あとで連絡する”と伝えておいてくれ」
“うむ!委細承知じゃ!”
ハジメの軽い伝言にティオは力強く頷き、力強く飛び立つ。
当然、灰竜達は攻撃をティオに集中し始めていくが、ユエとアタランテが“絶禍”で圧縮した小極光を解放し、シアは炸裂スラッグ弾を乱発させ、ハジメはクロスビットを、ソウジは紅雪を飛ばしてティオの脱出を手助けしていく。
そして、紅雪はウラノスの極光を破壊されながらも防ぎきり、クロスビットも自爆攻撃をフリードとウラノスに食らわせて、ティオの脱出を無事に成功させた。
「……自爆はロマンだ」
「……ファン○ル防御も同じくな」
ハジメの呟きに、エアノスの死体をちゃっかり“試作型宝物庫”に収納していたソウジが同意と取れる呟きを返す。
その呟きにアタランテ達が訝しそうにするも、当の本人達は、何でもないと頭を振って、ハジメはユエとシアに、ソウジはアタランテと元の姿に戻ったジークリンデに支えられながら、灰竜達の攻撃を凌ぎながら中央の島にある漆黒の建造物へと向かっていく。
そして、その建造物の前にソウジ達が立つと、音もなく壁がスライドしたので中に入る。同時にマグマが中央の島もを呑み込もうと流れ込んでくるも、再び、音もなく扉が閉まり、間一髪でマグマをせき止める。
「……どうやら、この建造物自体に空間魔法が施されているみたいだな」
「振動まで遮断してるし……あの野郎の時といい、神代魔法は本当にぶっ飛んでいるな」
「ん……」
「今さらだろう。むしろ昔は詠唱無しで魔法を使える者が多くいたのだからな」
「うわぁ……ハジメさんの言っていたチート祭りってやつですねぇ……」
「お話し中申し訳ありませんが、そろそろ目的を果たしましょう」
ジークリンデの音頭で、一同は複雑にして精緻な魔方陣の中に入る。そして、魔方陣が輝き―――“空間魔法”を獲得する。
“人の未来が、自由な意思のもとにあらんことを、切に願う”
“ナイズ・グリューエン”
「これで後、四つだな」
「ああ。後は攻略の証を回収して、脱出するだけだ」
正面の壁に現れた文字を軽くスルーするハジメとソウジ。そんな二人に、ユエ達は少々呆れるも、特に意に介さずに攻略の証のペンダントをしっかりと回収する。
「……さて、今からマグマの中を泳いで進むか」
「……ん?」
「……え?」
「「……はい?」」
「……ハジメ、ちゃんと説明しろ。言葉が圧倒的に足りないぞ」
「わかってるって。実は、メルジーネ海底遺跡の為に作っておいた潜水艇をこの建物の外に用意していてな。それが駄目だったらティオと一緒に脱出するつもりだったが、溶けていないから大丈夫の筈だ」
「用意周到ですね、ハジメ様……」
ジークリンデの呆れた呟きに、ソウジ以外がウンウンと頷いて同意する。
「まぁ、脱出できるから良しとしようぜ?ユエとアタランテは潜水艇の搭乗口までの結界を頼めるか?」
「……んっ」
「勿論だ」
ソウジの言葉に、アタランテとユエは素直に頷き、活性化した【グリューエン大火山】からの脱出を開始するのであった。
――――――――――――――――――――――――
「済まないマキアス。報告にあった者達にエアノスがやられ、火山の迷宮も奴らを殺すために潰してしまった」
全身がボロボロとなっているフリードは、帰還中に苦渋の顔で鼠の魔物に向かって報告する。
この鼠の魔物は“変成魔法”を持っている者なら、その意志疎通を利用して互いに正確なやり取りが出来る特殊な魔物である。
『仕方がないよ。逆の立場でも僕だってそうしたさ。エアノスを失ったのは残念だけど、こうして君が無事に帰還できる事の方が重要だよ。僕達の敬愛するアルヴ様の為にね』
報告相手―――マキアス・デュランダルのこちらを気遣う声が脳内に響く。
「そうか……そうだな」
『それと、奴らの未知の武器についてだが……その内の一つを、新たに生み出したキライマスで疑似的に再現することに成功したよ』
「それは本当か!?」
マキアスの報告に、フリードは驚きを露に問い質す。マキアスは眼鏡をクイッと上げる姿を容易に想像出来る声色で答えていく。
『ああ。僕の本職は研究者だからな。彼の報告からおおよその原理を予測して実験した結果、うまくいった。そのキライマス―――『ゴライアス』が放つ一撃の物理的な破壊力は、かなりのものだったよ。……本当は同胞達が自由に放てる方が良かったんだけどね』
「いや、奴らの未知の武器を再現できただけでも凄いことだ。さすがマキアスだな」
『それも君が率先して軍備を整えてくれているお陰だよ。そのお陰で、僕は変成魔法の実験に時間を割け、強力な魔物を作れるんだからね』
フリードが安定した魔物の軍隊を作り、マキアスは様々なアプローチから強力な魔物を作り出す。それにより、マキアスは一騎当千と言える強力な魔物を作り出せていた。
「そうだな……他のキライマスはどうだ?」
『そちらも上々だよ。複数の魔石を融合させた『ミストルル』は無味無臭、多種多様な毒素を振り撒ける程に成長し、『シャルネイア』の幻影も上々。『ブレイバ』と『ケルベリア』も数を順調に増えてきているからね。『タイラント』の洗脳能力もかなり上がったさ』
「『トライドス』は?」
『もちろんトライドスも順調さ。僕が最初に生み出し、強くしている魔物だからね』
「キライマスシリーズ以外の魔物は?」
『もちろん着実に成長してるよ。水蛇にキラーへラクロス達もばっちりさ』
マキアスの報告に、フリードは不敵な笑みを浮かべていく。
『近々、ミストルルを例のこちらにコンタクトを取ってきた
「ああ、全ては―――」
「『アルヴ様のために』」
フリードとマキアスは改めて、自らの崇める主への忠誠心を強めるのであった。
敵サイドのオリキャラ登場。勇者サイドの運命はどうなる!?
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