魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


家族を想う

空から降ってきたミュウをハジメが抱き止めてから数分、ミュウは潜水艇の上でハジメとソウジにきっちり叱られて泣きべそを掻いていた。

 

 

「ぐす……ごめんなしゃい」

 

「気持ちはわかるが、もう二度とあんな事はしないと約束できるか?」

 

「うん、しゅる。お兄ちゃん」

 

「なら、よし」

 

「俺とも約束できるか?」

 

「うん」

 

「ほらいい。来な、ミュウ」

 

「パパぁー!」

 

 

ハジメからもお許しをもらえたミュウはそのまま、ハジメの胸元に飛び付く。普通に親子している光景に、案内していた海人族達はミュウの元気な姿に安堵すると共に、少々複雑そうな、一部は憎々しげな視線をハジメへと向ける。

攫われた海人族の幼子が、人間の少年を父親扱いし、その少年も普通に受け入れているのだから、色々と複雑だろう。エリセンに向かう途中で聞いた話だが、ミュウとその母親のレミアは相当人気者らしく、『温かく見守る会』まである程だそうで、憎々しげにハジメを睨む奴らはそのメンバーだそうだ。

そんな海人族達を尻目に、ソウジはハジメから離れ、元の姿に戻ったティオに近寄って話しかける。

 

 

「ティオ、あっちに着いてからの面倒はこっちでやっとくから、先に“宝物庫”を渡してくれ」

 

「うむ」

 

 

ソウジの言葉にティオは素直に頷き、“宝物庫”をソウジに渡し、そのまま、涙を流す香織に抱きつかれているハジメの元へ向かっていく。

そして、ユエとシアも加わったハジメハーレムを華麗にスルーしつつ―――

 

 

「……なぁ、ジークリンデ。何で肩を寄せて来てるんだ?アタランテはともかく」

 

「別にいいではないですか」

 

「…………」

 

 

―――両手に華状態で海を渡り、ソウジ達一行は遂に【エリセン】へと到着する。

桟橋が数多く突き出た場所には、“竜化”していたティオを目撃したせいか、多くの人でごった返しており、共にいた海人族達の案内で潜水艇を空いているところに停泊すると、同時に完全武装した別の海人族と人間の兵士が詰めかけてくる。ソウジは特に意に介した様子もなく桟橋に降り立ち、自身のステータスプレートを一番前にいる兵士に提示する。

 

 

「“金”ランク!?」

 

「ああ、そうだ。フューレンのイルワ支部長からこの町の町長と駐在兵士のトップに宛てられた手紙も預かっている。そのトップは今ここにいるか?後、何人かは直ぐにでもミュウの母親の下に行かせたい。早くミュウと会わせてやりたいからな。怪我の治療も含めてな」

 

 

ソウジは依頼書と手紙を取り出した“宝物庫”をハジメに投げ渡しながら、こちらの要望を伝える。

 

 

「……香織が通信機のやり取りでハジメとの仲を深めていると思い込んでいる間に、私は近距離でハジメを元気付けていた。たっぷりと」

 

「ムキィイイイイイイ―――ッ!!」

 

 

……ハジメの方から聞こえる喧騒の声を無視して。ついでに、シアが死んだ魚のような瞳になったのも無視だ。

最初は警戒していた海人族の自警団達も人間族の兵士達も、ソウジ達と一緒に居た自警団達が友好的であったこと、ミュウの元気な姿を見たこと、ソウジが明かした身分によって警戒を解き、最初に対応した兵士もソウジの要望に従って駐在兵士のトップを呼びに行っている。

少しして、兵士を掻き分けるようにして現れた駐在兵士のトップらしき人物に、ソウジはもう一度ステータスプレートをその人物に見せ、イルワの依頼書と、事の経緯が書かれた手紙を提出し、目でハジメ達に移動を促す。

最初は高圧的な雰囲気を放っていたトップの隊長も、提出された物が本物であることもあり、自警団数人と一緒となって移動し始めたハジメ達を容認しつつ、手紙を食い入るように読み進めていく。やがて手紙も読み終えると、盛大に溜め息を吐き、諦めたように肩を落として敬礼をした。

 

 

「……依頼の完了を承認する、空山殿。だが、貴方からは他にも聞かなければならない事がある。時間は宜しいか?」

 

「ざっくりで良かったら今すぐに話すぞ?全部を事細かに話す気はないし、本国はオレ達のことをほとんど知っているから無駄だと思うぞ?」

 

「そうなのか?だが、王国兵士として看過はできない」

 

 

隊長のその言葉に、ソウジは肩を竦め、納得出来る範囲だけで情報を開示していく。

その隊長―――サルゼはソウジの話を聞き終える頃には盛大に疲れた表情となっていた。

 

 

「アーティファクトと一万を超えるステータス、特殊な魔法……正直、耳を疑うような事ばかりだ……」

 

「悪いが嘘じゃないし、これ以上は話せないぞ」

 

 

力なく呟くサルゼにソウジはあっさりと言葉を返す。

ソウジは自身のステータスの数値だけを開示して話に信憑性を持たせ、潜水艇もハジメが作ったアーティファクト、“竜化”は特殊な魔法と説明し、追求の気力を意図的に削いだのだ。加えて、香織の存在も明かした事でさらに歯車をかけている。

 

 

「隠す意味がない情報を先に出してから説明するとは……流石ソウジだな」

 

「ええ。加えて嘘は何一つ言っていませんからね。誤魔化し方が本当に上手ですね」

 

 

この場に留まっていたアタランテとジークリンデが肩を寄せ合い、小声でそんな事を呟いている。

はっきり言えば、ソウジは面倒だからやらないだけだ。これくらいの対応は時折、書店に来た悪質な客で慣れている。

一先ずは納得したサルゼはそのまま未だに騒いでいる野次馬の収拾へと入っていく。中々、職務に忠実な人物のようだ。

そして、ソウジ達三人は海人族の男の案内で、レミアがいる家へと向かっていく。やがて、とある家を見つめるざわめく人々がいる場所へと辿り着く。

 

 

「あの家がレミアさんの御自宅です。それでは失礼しますね」

 

 

案内し終えた海人族の男は、ソウジ達に一礼したあと、そのまま立ち去っていった。

ソウジ達は周りのざわめきを無視して、家の扉をノックしたあと、そのまま家の扉を開けて中へと入っていく。ソウジ達が中に入り、家の扉がしまった直後。

 

 

「お兄ちゃぁーん!!」

 

 

ミュウが満面の笑みで迎え、ソウジに飛びついた。

その後、ミュウの案内で皆がいるリビングへと入り、ソファーに座るミュウによく似た二十代半ばの女性―――レミアの足の怪我は時間を掛ければ三日で歩けるように治ることに安心しつつ―――

 

 

「お別れの日までと言わず、ずっと“パパ”でもいいのですよ?“お兄ちゃん”と一緒にね。うふふ」

 

 

―――レミアの本気とも冗談とも取れない発言でハジメの周囲に発生した、ブリザードを無視していた。

ちなみに、レミアの家で世話になることはとっくに決定事項となっていた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

その日のレミア宅の深夜。

ハジメ達が寝静まってから少し、ソウジは家の外で壁にもたれて夜空を見上げていた。

 

 

「……眠れないのか、ソウジ?」

 

「あまり遅くまで起きていては明日に響きますよ。と言っても、数日はゆっくりするでしょうが」

 

 

そんなソウジに、ソウジが外に出るのに気づいたアタランテとジークリンデが歩み寄り、それぞれがソウジの隣に腰かける。

 

 

「まぁ、ちょっとだけ黄昏てた。ミュウが無事に母親と再会出来て良かった、てな」

 

「……そうだな」

 

「ええ」

 

「それでつい、向こうの世界の家族を思い出してな。叔父さんと叔母さん、倖は元気かなって」

 

「……そうか」

 

 

ソウジの内心を察して、アタランテは短く答えてソウジの肩に自身の肩を擦り付ける。

 

 

「ソウジ様。余計なお世話でしょうが怖くはないのですか?元の世界に戻られた時、ご家族が貴方を受け入れてもらえるのか」

 

 

もう既にソウジの過去を知っているジークリンデの質問に、ソウジは空を見上げたまま、はっきりと答える。

 

 

「全く怖くないといえば嘘になる。だけど、怖いからと引き込もっていたら何も変わらない。自分が傷つきたくないから足踏みして留まったら、望んだものは手に入らないだろ?それに、今も心配しているであろう家族の不安を出来るだけ早く取り除きたいしな」

 

「……本当にお強いですね、ソウジ様」

 

 

ソウジのその答えに、ジークリンデは微笑み、自身の身体をソウジの肩に預けていく。

 

 

「おいおい……」

 

「大丈夫ですよソウジ様。アタランテ様と私がお側にいますから……」

 

「アタランテはともかく、何でお前も加わっているんだよ?」

 

「フフッ、秘密です」

 

 

訝しむソウジの疑問に、ジークリンデは笑って受け流し、この数日でジークリンデの変化を見抜いていたアタランテは肩を竦め、暫し穏やかな時間が流れるのであった。

 

 

「後、私のことはジークとお呼びください」

 

「はぁ?何で呼ばなきゃいけないんだ?」

 

「お断りするようでしたら、今度から、着いた町でソウジ様の二つ名を流しますよ?」

 

「……それは勘弁してくれ、ジーク」

 

「ふふっ」

 

 

 




「使徒様方から聞いたこの藁人形とやらで、お姉さまをたぶらかす、あの野郎を呪ってやるですよぉ」

「……何をしているのかしら?」

「おおお、お姉さま!?違うんです!これはお姉さまの為に―――」

「凍てつき、刺突と共に猛れ―――“氷雷華”」

「ほぎゃーーッ!?」

義妹(ソウルシスター)を沈める雫の図。

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