魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


まさにファンタジー

あれから四日。

ソウジ達は現在、【海上の町エリセン】から西北西に約三百キロメートルの地点で強化改修を施した潜水艇を停泊させていた。

ミレディはこの辺りに七大迷宮【メルジーネ海底遺跡】が存在することと、“月”と“グリューエンの証”に従えとしか教えなかった為、詳しい場所はわからない。

今日の昼間にこのポイントに到達したので、ものの試しで海底を探索したのだが、それらしき痕跡は何処にもなかった。

なので、探索を切り上げて、ミレディの教えに従って待つ事にしたのだが……

 

 

「……綺麗だな」

 

「そうだな……」

 

 

潜水艇の甲板で、地平線の彼方に沈んでいく真っ赤に燃える太陽を見つめるハジメとソウジ。どこの世界でも、自然が作り出す光景は美しいものだ。

ちなみに、ハジメとソウジが揃って甲板にいる理由は、女性陣の暴走からである。

潜水艇に備え付けられたシャワールームに、女性陣がシャワーを浴びようとした時、ティオがハジメもと誘ったのだ。それに香織とシア、ユエまで賛同した上に、アタランテとジークリンデも二つに分けてシャワーを浴びることを提案したのである。

勿論、恋人以外の女とは肌の付き合いをするつもりのないハジメとソウジは速攻で甲板へと逃げた。身の危険を感じて。

 

 

「何でこうなったんだろうな……」

 

「ある意味運命かもな……」

 

「どんな運命だよ……」

 

 

この世界に来てからの女性絡みのトラブルに、揃って遠い目となるハジメとソウジ。そんなソウジのすぐ近くには、二振りの刀を納刀している一つの鞘が置かれている。

ハジメと強力して作った新しい中二臭い形状の刀、“絶天空山”―――“空間魔法”、“纏雷”、“金剛”、“熱耐性”等を付与し、非常に強靭な強度を実現させたこの二刀は、素のアザンチウムですら容易く斬れる程の出来映えである。鞘も魔力操作のギミックで連結を解除出来る優れものだ。

ちなみに、空間魔法の扱いは本当に難しく、新しく作った“宝物庫II”も家庭用の倉庫くらいの大きさが現状の限界だった。

そんな風に二人揃って穏やかに夕日を眺め続けていると、香織を先頭に、アタランテ達が甲板に出てくる。

そのまま日本での昔話に花を咲かせていくと、その流れで八重樫の話題が上がる。

 

 

「そういえば、雫ちゃんはソウジくんのご家族が経営する本屋で色々買っていたね。恋愛小説とかファッション雑誌、あと、動物の写真集も」

 

「へー、あの八重樫にも可愛いところがあるんだな」

 

「……以外と乙女チック?」

 

「そうだね。『可愛い動物大全集』とか、『愛と涙のワルキューレ』とか、『ロミ○ュリ』とか、フリフリ系のファッション雑誌とかを部屋の押し入れや天井裏に隠していたからね。あと、くじ引きで手に入れたぬいぐるみも」

 

 

八重樫の秘密がものの見事に親友に暴露される光景に、ソウジは何とも言えない気分になる。単に八つ当たりで痛い二つ名を広められるという不安からだが。

 

 

「……香織。八重樫についてもっと詳しく教えてくれ。報酬は、ハジメがブルックで風呂上がりで体を拭いたタオルだ。瓶の中で保管していたやつのな」

 

「ちょっと待てアタランテ。何故そんなものを持っているんだ?」

 

「元々はユエへの交渉材料として回収していたものだ。だが、実際は役に立ちそうになかったからずっとお蔵入りだったのだが……」

 

「……アタランテ。それは私に渡して。代わりに、こっそり回収したソウジの靴下が入った瓶を渡すから」

 

「……!?」

 

「アタランテさん!あっちで雫ちゃんの秘密を話すからその瓶を早く此方に渡して!!」

 

「……こちらに渡せば、靴下だけでなく下着も追加する。どう?」

 

「ムムム……!?」

 

 

そんなこんなで。

八重樫の恥ずかしい秘密の公開―――ハジメ作成の八重樫の秘密集(イラスト付き)としてアタランテの手元に渡り、例の衣類は本人達が回収、処分―――後日、布切れとして与えられたと知らず―――していると月が顔を出したので、ハジメはグリューエンの攻略証のペンダントを月にかざしてみる。

少しして、ペンダントのランタンが月の光を吸収するように底の方から光を溜め始めていく。

 

 

「昨夜も試したんだけどな……」

 

「此処でないと効果を発揮しないよう、ペンダントに細工が施されていたのかもな」

 

「きっと、そうなのじゃろうな」

 

 

やがて、ランタンに光が溜まりきり、ペンダント全体が光を帯びると、ランタンから一直線の光が放たれ、海面のとある場所指しを示す。

 

 

「……域な演出。ミレディとは大違い」

 

「全くだ。俺、ちょっと感動してるわ」

 

「まさに、“月の光が導く”だな」

 

「そうだな」

 

 

中々にファンタジー溢れる演出にソウジ達は感動しつつ、ペンダントの導きに従って潜水艇を航行させる。

潜水艇はスクリューから竜巻を噴出させながら今までより早い速度で海底へと向かっていく。

ハジメとソウジはスクリュー部分に“嵐陣”と“重力魔法”を付加させ、潜水艇の推進力を大幅に上げることに成功したのである。

少しして、ペンダントの光が指し示す場所に辿り着く。そこは昼間も探索した場所でその時は何もなかったのだが、ペンダントの光に呼応するように、岩壁が左右に開き―――大迷宮への入口を露にした。

昼間の探索が徒労だったことに、ハジメは肩を落としつつも潜水艇を操作してその入口へと侵入し、速度を落として道なりに深く潜行していく。

 

 

「この“せんすいてい”?がなければ、まず、平凡な輩では、迷宮に入ることもできないのぅ」

 

「……強力な結界が必須」

 

「他にも、活動と移動に必要な魔法も同時に使えないといけませんね」

 

「ですが、最低でも【グリューエン大火山】を攻略しないといけませんから、その時点で普通じゃないですよね」

 

「当人達からしたら、これくらいは簡単に出来なければ無理だよ、という感じだろうな」

 

「たぶん、空間魔法の使用が前提かもな」

 

 

潜水艇無しでの攻略方法について考察しつつ、ソウジ達は進んでいく。その直後に激流が潜水艇を襲うも、既に対策済みだったので、両翼に取り付けた鉱石から、潜水艇全体を覆うように“嵐陣”を展開。同時に船底の重力石も使って船体をすぐに安定させる。

 

 

「マジでこの“嵐陣”は便利だな。激流をものともしないとはな」

 

「とりあえず、この激流に沿って進んでみるか」

 

「ああ」

 

 

一先ずは激流の流れに乗って移動することにする。少しして魚型の魔物の大群が後方から迫ってきたので―――

 

ドォゴォオオオオオオ!!!

 

改良した魚雷と―――

 

ビュボォオオオオオオオ!!!

 

スクリューからの竜巻であっさりと撃退し、文字通り海の藻屑にしていった。

その後も同様の魔物を容易く撃退しながら進んでいくも、一向にゴールは見えない。それどころか。

 

 

「……ここ、さっき通ったよな?」

 

「ああ。あのトビウオモドキの死体や、破壊された壁は魚雷や竜巻で壊れたもんだ」

 

「と、なると、今度は注意深く進んでみるか」

 

 

円環状の洞窟という事実に、今度は周囲に注意しながらゆっくりと進んでいく。この激流も現在展開している“嵐陣”の激流が上手く防いでくれているから問題ない。

そうしてゆっくり進んでいると……

 

 

「あっ、ハジメくん。あそこの壁に何か刻まれているよ!」

 

 

香織が何かに気づいてフロント水晶(頑丈な透明な鉱石)越しに洞窟のとある一点を指を指して示す。

とりあえず近くで調べる為に潜水艇を操作してその一点へと近づく。その一点は大きさは五十センチくらいの五芒星であり、その内の頂点の一つが、中央にある三日月のような文様と一本の線で繋がっている。

 

 

「五芒星の紋章か……それに例のペンダントも光を半分残してるし、もしかしたら……」

 

 

ソウジの呟きに、ハジメは頷きながら例のペンダントを取り出し、フロント水晶越しに紋章にかざしてみる。すると、ランタンから光が一直線に紋章に向かって伸び、光が当たると、紋章が一気に輝き出す。

 

 

「これだけか?」

 

「たぶん、他にもこの紋章があるんじゃないか?ペンダントの光も残っているし」

 

「かもな。定番と言えば定番だな」

 

「これ、魔法で来てたら大変だね……すぐに気が付かないと魔力が持たないよ」

 

 

その後、例の紋章を探しながら進んでいき、案の定、頂点と三日月を繋ぐ線以外が全く同じの紋章を見つけ、ランタンの光を注いでいく。

そして、五つ目の紋章にペンダントをかざして光を与えると……

 

ゴゴゴゴッ!

 

遂に、円環の洞窟から先に進む道が、洞窟の壁から現れた。そのまま奥へ進み、真下へと通じる水路を進んでいると―――

 

 

「おぉ?」

 

「んっ」

 

「うおっ」

 

「むっ?」

 

「ひゃっ!?」

 

「ぬおっ」

 

「うわっ」

 

「はうぅ!」

 

 

突然、船体が浮遊感に包まれて一気に落下し、少しして、エレベーターの急ブレーキ感がソウジ達を襲う。どうやら、未だに展開していた“嵐陣”がクッション変わりとなって衝撃を抑えてくれたようだ。

こうして、【メルジーネ海底遺跡】の攻略が―――

 

 

「…………」

 

「……香織、どうしてしがみ付いているんだ?」

 

「……偶然。偶然だから」

 

「……おのれ香織。またしてもそこに……」

 

 

……本番を迎えるのであった。

 

 

 




「―――ッ!?……どうしてかしら?急に悪寒が……」

暴露話を受信して、身震いした雫の図。

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