てな訳でどうぞ
草木をかき分けるように雑木林の中を進んでいくソウジとジークリンデ。やがて雑木林を抜けると、半ば朽ちた、もしくは倒壊した建物があちこちに点在する集落らしき場所へと辿り着く。
「これは……廃村、ですかね?」
「建物の構造からしてそうだろうな。だが、幾つかの建物は人為的な破壊の後があるな」
ソウジの言う通り、見える範囲だけでも民家らしき建物の何軒かは放火等の破壊の跡が見て取れる。
「どういたしましょうか、ソウジ様?」
「あの教会らしき建物に行ってみよう。何か分かるかもしれない」
ソウジはそう言って、廃村の奥にある半ば崩れかけている教会らしき黒ずんだ大きな建造物に向かって歩き始め、ジークリンデも追いかけるようにソウジの後へと続いていく。
そして、廃村の中腹まで進んだところで、変化が現れた。
―――うぉおおおおおおおおおおおおおお!!!
―――ぁあああああああああああああああ!!!
「ッ!?この声は一体!?」
「ソウジ様!」
前触れのない、突然の大勢の人の叫びが聞こえたかと思うと、周囲の風景がぐにゃりと歪み始めていく。その光景にソウジとジークリンデは周囲を警戒していくが、その間も風景は歪んでいき―――人間同士が争い合う光景が広がっていた。
「これは一体……?」
「幻覚……なのでしょうか?」
目の前の光景にソウジとジークリンデは困惑していると、争い合う人々の声が耳に届いてくる。
「死ねッ!!」
「エヒト様万歳ッ!!」
「異教徒を滅ぼせ!!」
「全ては我らが神の為に!!」
「神敵に神の裁きを!!」
耳に届く人々の声はどれもが狂気に染まっていた。見れば村人らしき人々の顔も眼が血走っており、正気を削りとるような表情だ。よくよく周りを見渡せば、村人だけでなく、甲冑に身を包んだ騎士達もいる。
妙に現実味のある幻覚に二人揃って頭を捻っていると、ジークリンデの方に向かって炎弾が迫ってくる。
「ッ!“破断”!」
ジークリンデは咄嗟に、数日前に目覚めた“氷属性適性”の派生技能―――“水属性適性”によって適性が上がった水属性魔法“破断”を迫る炎弾に向けて放つ。すると、水のレーザーで撃ち抜かれた炎弾は蒸発せず、霧散するように消えていった。
その事実にソウジと魔法を放った張本人のジークリンデが、思わず目をぱちくりしていると、いつの間にか何人かの男達が暗く澱んだ目でソウジとジークリンデを見ている。
そして―――
「神罰執行ッ!!」
「神に逆らう愚か者共!大人しく罰を受けろぉ!!」
「エヒト様ぁ!我らに加護を!!」
鎌や鍬、棍棒や剣を振り上げて一斉に襲いかかってきた。ソウジは突出していた鍬を振りかぶる男を、すれ違い様に居合で斬ろうとするも。
「何っ!?」
胴体を両断するように振るった刃は何の手応えもなく、そのまますり抜けるように通過したことにソウジは驚愕の声を洩らす。そんなソウジに狂気を瞳に宿した人々が殺到するも―――
「“凍柩”!!」
ジークリンデが上級魔法でソウジに迫っていた人々を氷の中へと閉じ込めたことで事なきを得る。
自身の攻撃がすり抜け、ジークリンデの魔法が通用していることにソウジは疑問に感じていると、氷に閉じ込められた人々が淡い光となって次々と消滅していく。
「……そういう事なのか?」
その光景を見て、一つの憶測を立てたソウジは絶天空山の刀身に、“魔力放射”で魔力を纏わせ、その状態で襲いかかってきた剣を持つ兵士を切り付ける。すると、今度はすり抜けることなく兵士は切り裂かれ、淡い光となって霧散した。
「どうやらこの幻覚、魔力を伴った攻撃しか通用しないようだな」
「最初の移動を考えれば、中々嫌らしいですね。どうしましょうか?」
「全員斬るしかないだろうな。現にこちらに迫ってくる奴らが多くなってきている」
「わかりました。私は援護に徹します、ソウジ様」
「あいよ」
ソウジは絶天空山を構え、ジークリンデは両手を突き出して、迫りくる狂戦士達を迎え撃つのであった。
――――――――――――――――――――――――
「……すいません。少し休憩させてください」
「確かに少し休憩した方がいいな。魔力も結構消費したし、何より気持ち悪かった」
狂戦士達を殲滅した直後、景色が再び歪み、ソウジ達は元の場所に戻っていた。
ソウジ達に襲いかかった人々は、“狂信者”という言葉がぴったりと当てはまる程に狂っており、体のあちこちから流血して哄笑を続ける者、嬉々として自爆しようとする者、自ら心臓を抉り出して天に掲げる者、子供を盾にしてそれを誇らしげにする者、ソウジ達を殺すために間にいる人間ごと殺そうとした者。その全てが“神の御為”に集約されている、あまりにも凄惨で……胸糞が悪かった。
「……おそらく、神がもたらすものを知ることがこの大迷宮のコンセプトなのでしょうね」
「だとしたら、オレ達を襲うように手を加えたのは、いずれ直面する事態を事前に教えるためもあるかもな……」
互いに背中合わせとなってこの迷宮のコンセプトについて考察する。“解放者”達は神の煽動によって“反逆者”に仕立て上げられた。つまり、神代魔法を手に入れていけば周り全てが敵、もしくは神の虜になればああなるというのだろう。
「……ソウジ様は割りと平然としてらっしゃいますね」
「そうでもない。正直あまり思い出したくない光景だったからな……そろそろ移動するか」
「……ええ」
ソウジとジークリンデは立ち上がり、再び例の教会に向かって歩き始めていく。そして、教会の壊れた扉から中に入った直後、再び周囲の空間が歪み始める。そして、周囲の景色が変わり終わると、立派な内装の聖堂の中にいた。
ステンドグラスから射し込む明かりから時刻は昼くらい、聖堂内に幾つも設置された長椅子には多くの人々が座って両手を胸の前に組み、静かに黙祷を捧げている。
「……普通の信者ですね」
「今のところはな」
あの狂信者達の真逆の人々の態度に、また凄惨な光景が広がっていると構えていたソウジとジークリンデは肩透かしを喰らったような気分になる。
その様子を暫く眺めていると、聖堂の奥から清楚な司祭服に身を包んだ穏やかそうな初老の男が祭壇の講壇の前に立つ。黙祷を捧げていた人々も敬意を込めた真剣な眼差しで司祭を見つめている。
「ありがとう、今日も集まってくれて。そなた達に感謝を」
誰からも敬われているであろう司祭の後ろには、口元を黒い布で隠した修道服に身を包んだ女が立っている。その修道女をソウジが視界に収めた瞬間、ソウジの目が細められ、鋭くなった。
「……ソウジ様?」
「……ジーク、気をしっかりもっておけよ。間違いなく、胸糞悪い光景がこの後始まるぞ」
「え?」
ソウジの警告に、ジークリンデが困惑の表情を浮かべる間も司祭の演説と説法は続いていく。そして、司祭の演説も終盤にさしかかる。
「―――そして、私はこう思うのだ…………本当に、
司祭の言葉に、その場にいた人々が揃って呆けた表情となり、互いに顔を見合わせていく。その間も司祭の演説は続く。
「“エヒト様”から罪深き私に神託があったのだ。邪神を滅ぼすために、創世神にして唯一神の我に多くの魂を捧げよ、と。安心したまえ。そなた達の邪神によって汚された愚劣な魂は浄化され、エヒト様の糧となるのだから」
司祭が両手を頭上に掲げると、聖堂の床から魔力の輝きが溢れ始め、何かしらの偽装で隠されていたらしい巨大な魔方陣が姿を現す。そして、瞬く間に魔方陣から炎が上がり、魔方陣の中にいた人々を容赦なく燃やしていく。
「ぁあああああああああ―――ッ!?」
「熱いッ!熱いよぉおおおお―――ッ!?」
「どうしてなのですか司祭様!?どうして急に―――」
「口を開くな邪教徒ども。そなた達は黙ってエヒト様に祈りを捧げていれば良いのだ。そうすることで赦されるのだから」
司祭の豹変に一人の信者が問いかけようとするも、自らも炎の中にいる司祭は会話すること自体が穢らわしいと言わんばかりに遮る。その間も炎の勢いは増し、人々は逃げることも叶わず、悲痛な叫びと助けを求める声が聖堂内に響いていく。
「エヒト様ぁ!私達に祝福を!救済を!エヒト様、万ざぁあああああああああああいッ!!あっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ―――ッ!!」
司祭は天を見上げるように、壊れた哄笑を上げ続け、自身も炎の海に呑まれていった。その光景を、魔方陣の外にいた修道女は何の感情も宿っていない碧い瞳で一瞥した後、頭巾の裾から覗く銀髪をたなびかせながら奥へと立ち去っていった。
そして、周囲の景色が歪んでいく。どうやら、あの光景を見せるだけだったようで、ソウジとジークリンデは元の焼け焦げた教会の入口にいた。
「これで終わり……ですか」
「そうみたいだな。おそらく、ここを探索すればいいんだろう。あの光景の後で探索とか……本当に嫌らしい趣向だな」
この世界の信仰心の行き着く果ての結果は、相当精神を追い詰めるものだ。異世界人のソウジと竜人族のジークリンデだからこそこの程度で済んでいるが、信仰心を持っている者なら相当キツい筈だ。
「それにしてもソウジ様。どうしてわかったのですか?」
何についてかは言わないまでも、その言葉の意味を正確に理解したソウジは肩を竦めて答える。
「あの修道服の女の瞳の色に見覚えはないか?」
「え?そういえば、あのお方の瞳の色はアタランテ様の瞳の色と同じ……まさか」
旅の道中、神の遊戯の話を聞いていたジークリンデはソウジの指摘にようやく気付く。
「その推察は半分当たりだ。あの修道服の女は間違いなくあの神の手下の人形だ。おそらく、司祭を“魅了”で洗脳して操ったんだろう」
そう、ソウジが凄惨な光景が広がると確信したのはあの修道女の瞳を見たからである。加えて、一瞬だけ見えた銀髪もその確信に拍車をかけている。
「……本当にヘドが出ますね」
裏で暗躍し、時に直接操って悲劇を生み出すこの世界の神のゲス振りに、ジークリンデは不快感を隠さずに吐き捨てる。
「同感だな。この先、連中はこちらにちょっかいをかけてくる可能性は高い。積極的に関わる気は毛頭無いが、迎撃出来るくらいには何とかする必要はあるだろうな」
これはハジメとの共通の認識だ。ユエのオルクス幽閉の真相が定かでない以上、全く手を付けないというのは一番すべきでない選択だ。まだ推測の域を出ていないので周りに明かす気はないが、対抗策くらいは用意しておくべきである。
その後、神の手下が去っていった方向から教会の奥へと進んでいく。道中はお化け屋敷を彷彿とさせる怪奇現象が襲いかかるも……
ビュゴォッ!!
ズバッ!!
ジークリンデは魔法で、ソウジは魔力の斬撃を飛ばして難なく対処し、最奥らしき部屋に辿り着くと、急に濃い霧が立ち込み始め、同時に扉も閉まる。
「これは……」
「……ジーク、オレから離れるなよ?」
ソウジはそう言ってジークリンデの腕を掴んで此方へと引き寄せ、“嵐陣”を展開する。ソウジを中心として吹き荒ぶ嵐は霧を飛ばしていき、ついでに物理的なトラップも吹き飛ばしていく。
そして、霧に紛れて様々な武器を持った戦士達が“嵐陣”を突破しようとソウジ達に襲いかかってくる。
「この霧……【ハルツィナ樹海】の霧によく似ているな……ジーク、オレの後ろにしっかりしがみ付いてろ」
「……はい」
一刀の絶天空山を上段に構えたソウジの言葉にジークリンデは素直に頷き、両手を回してソウジにしがみつく。ソウジはそのまま絶天空山に膨大な蒼い雷を纏わせていく。
「“爆雷衝”」
ソウジは短く呟くと同時に絶天空山を降り下ろす。途端、凄まじい雷光が部屋全体に行き渡り、戦士の亡霊達を一気に吹き飛ばし―――撃滅させた。
“爆雷衝”―――絶天空山の“纏雷”の派生技能“畜雷”で溜まっていた膨大な電気を“重力魔法”と“魔衝波”を複合させて放つ、全方位攻撃である。
雷光が収まると、亡霊も霧も綺麗さっぱりなくなっており、この部屋の奥にある魔方陣が輝きを放っている。
ソウジとジークリンデは迷わずに魔方陣に足を踏み入れた。
「……ジーク、何でまだしがみ付いているんだ?」
「別にいいではないですか」
感想お待ちしてます