ソウジ達が【メルジーネ海底遺跡】を攻略し、潜水艇も悪食によって航行不能な程無惨な姿だった為、“竜化”したティオの背に乗ってエリセンに帰還してから、早七日。ハジメとソウジは揃って桟橋に腰掛けていた。
「もう七日目、だなぁ……」
「恨むぞ、先生……」
口ではそう言いながらも笑みを浮かべながら、ソウジはハジメと協力して、大軍用殲滅兵器の各種パーツを作り上げている。
その大軍用殲滅兵器の名前は“太陽光集束レーザー兵器:ヒュベリオン”と、“冷気集束ビーム兵器:ユミル”だ。
“ヒュベリオン”は巨大な機体の中で太陽光をレンズで収束し、その熱量を設置された“宝物庫”にチャージして、重力魔法が付加された発射口を通して放つ、試作中の兵器だ。一応、各種部品に“熱耐性”、または“熱耐性”、“火属性無効”を付加した鉱物で表面をコーティングして対策を施しているが、実際に使わないとどうなるか分からない。
“ユミル”は“ヒュベリオン”とは真逆であり、“冷気集束”で集めた冷気を同じく“宝物庫”にチャージし、発射も“ヒュベリオン”と同じ方法で溜め込んだ冷気を放つ、同じく試作中の兵器である。こちらは現時点で予想される欠点はチャージに時間がかかるという点だ。
これから先、大軍用殲滅兵器は必須となる可能性は濃厚なので、あれこれ議論しながら作っているのだが……
「……いい加減、出発しないとなぁ」
「分かってはいるんだが……ミュウに何て言うべきか……はぁ……」
そう、エリセンに未だに滞在しているのは、ミュウとのお別れに踏ん切りがついていないからである。
残る大迷宮は【ハルツィナ樹海】の【大樹ウーア・アルト】、【神山】、【シュネー雪原】の【氷結洞窟】の三つ。特に後者の二つは敵の懐の中だ。そんな危険極まりない場所にミュウを連れて行く訳にはいかないので、この町でお別れしなければならない。
だが、その話を切り出そうとする度に、ミュウは無言の超甘えん坊モードに突入するため、中々言い出せず、ずるずると鍛練や開発を言い訳にして今日まできてしまったのである。
それでも、向こうで楽しそうに遊んでいる彼女達を見ると、“寂しい生き方”では見ることは出来なかっただろうという想いも湧いてくる。
そんなハジメとソウジの下に、海水から無事に快復した水着姿のレミアが、海中からハジメの危ない場所に現れ、ハジメとソウジを見上げる。
「有難うございます。ハジメさん、ソウジさん」
「?何だいきなり?」
「どうして急にお礼を?」
「娘のためにこんなにも悩んで下さっているんですよ?母親としてお礼の一つも言いたくなりますよ」
どうやらバレバレだったらしい。互いに苦笑して肩を竦めるハジメとソウジに、レミアは真面目な表情で娘本当は分かっているから、どうか悩まずに、すべき事のために進んで欲しいと告げる。
「……妹に気を遣われているとか、本当に情けないな……」
「そうだな……わかった。今晩、はっきり告げるよ。明日、出発するって」
あの無言の甘えもこちらを気遣っていたと知ったハジメとソウジは、お別れを告げる決意をする。そんな彼ら、否、ハジメにレミアは優しげな眼差しを向ける。
「では、今晩はご馳走にしますね。あ・な・た♪」
……盛大な爆弾と共に。そして、ハジメへと迫り来るブリザードを前に、ソウジは無言でその場から立ち去った。
「おいソウジ、何処に行くつもりだ!?」
ハジメの呼ぶ声は空耳だ。空耳と言ったら空耳なのだ!!
その後、緑の水着の上に白いシャツを羽織ったアタランテと水色のセパレートの水着のジークリンデもソウジと共に立ち去り、ブリザードを無視し続けるのであった。
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その日の晩、ソウジ達は夕食の前にミュウにお別れを告げた。それを聞いたミュウは、泣くのを懸命に堪えてある質問をする。
「……もう、会えないの?」
「「…………」」
ミュウのその質問に、ハジメとソウジは答えられない。二人の最終目的は故郷の日本に、家族の下に帰ることだが、具体的な方法はまだ分かっていない為、どのような形でどのタイミングで帰るのかも分からない。最悪の場合、神代魔法全てを手に入れた瞬間に帰ることになるかもしれないのだ。当然、旅が終わるまでエリセンに来ることはないだろうから、これが今生の別れとなる可能性がある為、安易なことは言えなかった。
「……パパとお兄ちゃんは、ずっとミュウのパパとお兄ちゃんでいてくれる?」
「ああ」
「……ミュウがそれを望むなら」
ハジメとソウジがそう答えると、ミュウは、涙を堪えて口元を緩めてニッと笑みを作る。まるで、困難に戦いを挑む時の二人が浮かべる表情のように。
「なら、いってらっしゃいするの。今度はミュウがパパとお兄ちゃんを迎えに行くの。ミュウはパパの娘で、お兄ちゃんの妹だから、ミュウも行けるの」
幼子ゆえの拙い発想から出た現実不可能な目標。だが、その力強い宣言を笑い、馬鹿馬鹿しいと切り捨てられはしない。ミュウは確かに自分達の背中を見て、成長していたのだから。
そんなミュウに、ハジメとソウジはある誓いと約束を立てる。
「ミュウ、待っていてくれ」
「全部終わったら、必ず、みんなと一緒にミュウのところに戻ってくる。その時は、俺達の故郷にミュウを連れて行ってやる」
「……ホントに?」
「オレやハジメがミュウに嘘を吐いたことがあったか?」
ソウジの言葉に、ミュウはそんな事はないと、ふるふると首を振る。ソウジは、妹をあやすように、ミュウの頭を撫でていく。
「だから、いい子でママと待っていてくれ。きっと、驚くぞ。オレ達の故郷はミュウにとっては新鮮だからな」
「はいなの!もちろん、ママも一緒だよね?パパ?」
「あ~、それは……」
レミアに視線で謝罪していたハジメが、ミュウの質問に少し微妙な表情になっていると、朗らかな表情のレミアが口を開く。
「あらあら、私だけ仲間外れですか?あ・な・た?」
「いや、そうじゃなく……マジでこことは“別世界”だぞ?」
「あらあら。娘と旦那様達が行く場所に、妻である私が付いていかない理由はありませんよ。うふふ」
ハジメに寄り添うレミアに、ハジメの胸元に抱きつくミュウに、娘をしっかりと抱き止めるハジメ。普通に夫婦である。そして、その間に割り込もうとする香織達。
最初のしんみり具合が嘘のように賑やかとなった空間で、アタランテとジークリンデがソウジに歩み寄る。
「思い切った事を決めたな、ソウジ」
「悪いか?」
「全く」
「いえ」
ソウジの質問に、アタランテとジークリンデは優しげに微笑みながら答える。
「もう答えはわかってますが、もしタイミングが選べなかったらどうします?」
「その時はその時だ、ジーク。約束は絶対に守るし、ミュウを置いて世界を越えてしまったら、またこの世界に来ればいいだけだ。元の世界に帰ろうとしてるんだから、それくらいできなきゃ無理だろ?」
「そうだな」
「ええ」
本当に分かりきった回答に、ソウジ達は互いに微笑み合い、ミュウとの最後の夜を楽しんでいった。
翌日、ソウジ達はミュウとレミアに見送られて、エリセンを旅立っていった。
「せっかく作ったテレビ電話を置いていかなくてよかったのか?」
「ああ。次会う時は迎えに行く時だと決めているからな」
「……そうか」
「後で、ミュウと遊ぶための遊具を休憩中に作らないと―――」
(やっぱり、テレビ電話を置いてくるべきだったか……?)
「今日は腕に寄りをかけて、大量に作りました」
「わぁー……文字通り、てんこ盛りだなぁ……」
「そして、それがものすごい勢いで消えていってますねー……流石、アタランテさんですぅ」
「……♪」
大量の料理の数々を満面の笑みで頬張っていくアタランテ図。
「いいなぁ……いくら食べても」
「そこから先は禁句ですよ香織様」
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