ソウジ達は現在、ブリーゼ・ハオスを爆走させてホルアドに向かっている。
ソウジ達はエリセンを発った後、香織のアンカジのオアシスを再生魔法で元に戻せるかもしれないという提案から特に反対する理由もなくアンカジへと向かい、再会したランズィ達の立ち会いの下でオアシスを元の姿へと戻した。
オアシスが元の姿に戻ったことに、ランズィは改めてソウジ達に感謝しつつ、汚染された土壌とまだ放置されていた作物が放置されている農地地帯へ移動しようとした。
だが、教会の司教と神殿騎士達が“異端者認定”を受けたハジメとソウジを討伐しようと現れた。司祭がソウジ達から離れるようランズィに迫るも、ランズィは救国の英雄であるソウジ達を守る決断を下し、教会の要求を突っぱねたのだ。事態を聞きつけて駆けつけたアンカジの国民達も救国の英雄を守る方を選び、教会に怒りの言葉と投石を投げつけていった。それを一身に受けた教会連中はすごすごと教会へと退散していった。
正直、異端者認定自体は予想通りだったから特に気にしなかったのだが、いきなり自分達以外の人々によって衝突が回避されたことにハジメとソウジは曖昧に笑いつつも、これも“寂しい生き方”をしなかった結果なのかと思った。
だが、【メルジーネ海底遺跡】で見た光景が頭を過ったので、あまり悠長にはしていられないと思い、アンカジで羽を休めつつ、装備を改めて整えてから出発したのである。
まあ、当然運転はソウジが行い、ハジメ達は居住スペースでたむろっているのだが……
「……ん?」
前方の遥か先で、相対する二組の集団が激しい攻防を繰り広げていた。ソウジが“遠見”で確認すると、何処かの商隊が賊に襲われている。商隊全体を覆う結界と、大鎌を手に持つフード付きのローブで身体全体を隠している人物達の活躍で拮抗、否、押し返している。
商隊を襲っている賊達も何故か虚空に向かって得物を振るったり、何十人もいる大鎌の人物の内の一人が手傷を負わされると、その人物の身体がグニャリッ、と歪んで溶けるように消えていき、その隙を突かれて背後から切り裂かれていっているのだ。
「魔法による幻影か……同時に賊達に幻覚も見せているようだから、かなりの使い手だな。使い手本人の近接能力も大したものだし」
「それにあの結界も中々のものだ。結界越しに魔法を放っているから賊も堪ったものではなさそうだ」
「賊も引くか押し切るべきか悩んでいますね。あれほどの結界は長くは持ちませんが、あちらが大分盛り返していますしね」
ソウジの呟きに、助手席にいるアタランテとジークリンデが同意する。
商隊の護衛らしき何人かは重傷を負っていたり、血の海に沈んでいるが、賊の方は大鎌の人物によって何十人も血の海に沈んでいるのだ。普通なら撤退を選ぶだろうが、賊は意地になっているのか、撤退の準備を始めようとはしない。
その時、居住スペースにいる香織の焦燥を滲ませた声色が通信機から響き渡る。
『お願い!彼等を助けて!もしかしたらあそこに……』
香織が救援を求めていると、商隊を覆っていた結界が効力を失い溶けるように虚空へと消えていったので、ソウジは最後まで聞かずにブリーゼ・ハオスを加速させて商隊の元へと向かっていく。同時にコンテナ後方の両サイドからブースター装置が展開され、一気に火を噴かせて際限なく加速させていく。
『ねぇ、まさかとは思うけど……』
「もちろん、このまま突っ込んで先制攻撃だ」
『救援を頼んだ私が言うのも何だけど、その方法での先制攻撃はどうなの!?』
『犯罪者を見たらアクセルを踏むのは、教習所で習うことだろ?』
『習わないよハジメくん!勝手に交通ルールを歪めないで!』
ハジメと香織の漫才はスルーして、ソウジはどんどんブリーゼ・ハオスを加速させていき―――後方にいた賊の集団を容赦なく吹き飛ばした。
その光景に、ほとんどの人物が硬直する中、大鎌の人物は一足先に我に返ったように動き出し、未だに硬直している賊達を一気に血の海へと沈めた。
その後、ブリーゼ・ハオスを商隊の近くに停車させ、真っ先に車から降りた香織が治癒魔法で治療していくも、ソウジ達が来る前に血の海に沈んでいた護衛の人達は既に事切れていたようで、何人かは助けられなかった。
そんな香織に、例の結界を張っていたフードを被った不審な人物が駆け寄っていく。
「香織!」
「リリィ!やっぱり、リリィだったのね!?どうしてこんなところに!?」
「実は……」
「香織、治療は終わったか?」
「知り合いなのか?」
香織とフードの人物にハジメとソウジが話しかけると、フードの人物は暫くハジメとソウジを見つめて考える素振りを見せた後、二人に話しかける。
「……南雲さんに空山さん……ですね?お久しぶりです。貴方達の生存は皆様から聞いていました。貴方達の生き抜く強さに心から敬意を」
「……誰だお前?」
「……………………………………………………………………………ああ、ハイリヒの姫さんか」
「へっ?」
フードの人物―――ハイリヒ王国の王女リリアーナ・S・B・ハイリヒは、ハジメの全く知らない人間を見るような目と、ソウジの長~い沈黙から思い出したような呟きにショックを受けて、思わず王女にあるまじき間抜けな声が出てしまう。
そんなリリアーナに構わず、ハジメはソウジに顔を寄せて話しかける。
「知っているのか?ソウジ」
「いや、お前も会ってるぞ。ハイリヒ王国の王女さんだぞ」
「……………………………………ああ。そういえば一応、話したこともあったな」
「ぐすっ、結構心に来るものなのですね、忘れられたり、直ぐに思い出されないというのは」
「大丈夫だよリリィ!“普通”は忘れたりしないし、すぐに思い出すから!二人が“アレ”で、“特殊”なだけだから!だから、泣かないで?」
「さりげなく罵倒されてないか?俺達」
「ハジメくんはちょっと黙ってて!」
「いえ、いいんのです。私が少し自惚れていたのですから」
涙目のリリアーナが健気な事を言うので、ハジメとソウジは揃って微妙な表情となる。全面的にこちらが悪いのだが。
そんな微妙な雰囲気のソウジ達の下に、例の大鎌の人物が、手に持つ大鎌を手慣れた動作で分解収納しながら近寄ってくる。どうやらあの大鎌は各種パーツを内側に通っている数本のワイヤーで固定して使う、一種の暗器のようである。
「あんたは何者だ?この姫さんのお供か?」
ソウジの質問に、大鎌の人物は自身の身体を陽炎のように揺らめかせていく。そして揺らめきが収まると、そこにはメイド服を着た二十歳くらいのオレンジの髪色の女性が佇んでいた。
どうやら魔法か何かで姿を誤魔化していたようだが、一番驚くべきはその女性の容姿だった。
頭に狐の耳を生やし、後ろには立派な狐の尻尾が存在感を放っている。首には奴隷の証たる首輪が取り付けられており、誰がどう見ても、この女性は狐人族の女性だった。
「初めまして。アリア・リート様の付き人を務めさせて頂いているフィア・ドラートと申します。以後お見知りおきを、空山ソウジ様」
その女性―――フィアは慇懃に姿勢を正してソウジに挨拶する。対するソウジはキナ臭さを感じて目を細めるも、対するフィアは微笑を一向に崩さずに告げる。
「警戒するのは当然でしょうが、嵌めようとするつもりは微塵もありません。寧ろ、貴方様方のお力をお借りしたいが為、リリアーナ王女と共にユンケル商会に同乗し、ホルアド経由でアンカジ公国へと赴いていた途中でしたので」
「……どういう事だ?」
フィアの説明にソウジは益々警戒を強めていき、モットーと話していて、こちらの話を聞き流していたハジメも剣呑な雰囲気を放ち始めていく。そんなハジメとソウジに、フィアは微笑を絶やさずに頭を下げて言葉を紡いでいく。
「申し訳ありませんが、今、この場では話せません。ここで話すには、色々とマズイ内容ですので」
「……だったら後で話だけは聞かせてもらうぞ」
その言葉に益々キナ臭さを感じていくも、少なくとも真摯ではあるので一応は話だけは聞くことを決めるソウジ。
“おい、いいのかソウジ?”
“仕方がないだろう。それに、王都の状況も確かめたいところだったから、それについても聞けると思うしな”
“……成程な”
念話で話しかけたハジメに、ソウジがそう返すと、ハジメも納得したように言葉を零す。その間にフィアはモットーと話をつけていた。
「女神の剣の御一行様方とこうしてお会い出来ましたので、申し訳ありませんがここでお別れとさせていただきます。誠にありがとうございました。モットー様」
「私からもお礼を申し上げます。貴方方の厚意と献身のおかげで、彼等とお会いすることが出来ました。このご恩は決して忘れません。ありがとう」
「勿体なきお言葉です。貴女様のお役に立てて光栄です」
リリアーナのお礼をモットー達は、その場で深々と頭を垂れる。どうやらモットー達は多少なりと事情を知っていたようである。
そして、少し会話をしてホルアドに向かうモットー達商隊と別れた後、ソウジ達はブリーゼ・ハオスの中でリリアーナとフィアから話を聞くこととなった。
そこで二人の口から語られたものは、予想を上回る最低なものだった。
「ところで、あの鎌は何だ?」
「神代時代のアーティファクトです。名称は“簡単に携帯できる丈夫な大鎌”と非常にダサすぎるものですが」
(…………)
あの世の草葉の陰で落ち込む眼鏡の図。
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