魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


どこの世界でもメイドは普通じゃない

愛子先生が攫われた。

それがリリアーナの第一声だった。そのままリリアーナはフィアと共に話を進めていく。

最近、父である国王を含めた国の重鎮達が今まで以上に教会に傾倒していき、同時に妙に生気のない騎士や兵士達が増え、リリアーナは違和感を覚えていったようだ。

そのことを、リリアーナはメルドに相談しようとしたが、その当の本人は少し前から姿見えず、時折、天之河達の訓練に顔を出しては直ぐに何処かへ行ってしまう為、相談することはできなかった。

そんな中で、愛子先生が王都に帰還し、ウルの町での詳細な報告を受けた後、ハジメとソウジの異端者認定が強行採決されたのだ。ハジメとソウジの功績も、愛子先生の意見を全て無視してだ。

 

 

「無論、リリアーナ王女と、勇者御一行への労いの為に王宮に招待され、事態を聞きつけたアリア様はエリヒド王に猛抗議しました。……もっとも、アリア様は完全に無視したソウジ様を自身の虜にするという目的からでありますが」

 

 

そのリリアーナとアリアの猛抗議を前にしても、エリヒド王は考えを変えなかった。むしろ、リリアーナには信仰心が足りないと、アリアには部外者が口を出すな等と言い始めたのだ。

当然アリアは、魔人族の件を引き合いに出し、今は内輪揉めしている場合ではないと告げても、エリヒド王は考えを改めず、逆に彼らを魔人族ごと討伐すればいいと言い出す始末であった。

明らかに様子おかしいエリヒド王を前に、リリアーナは咄嗟に理解した振りを、アリアは諦めた振りをしてその場を後にし、その足で愛子先生に会いに行き、リリアーナは自らの懸念を伝えた。その時は帝国人であるアリアも一緒だったのだが、不安に駆られていたリリアーナにそこまでの余裕はなかった。そして、愛子先生は、二人が奈落の底で知った事と旅の目的を夕食時に生徒達に話すから、同席して欲しいと頼まれたそうだ。

その後、アリアは個人的な会話のために愛子先生の部屋に残り、リリアーナはそのまま愛子先生の部屋を辞した。そして、夕刻となり、リリアーナが愛子先生達が食事をとる部屋に向かう途中で最悪の光景を目撃したのだ。

愛子先生とアリアが謎の銀髪の修道女に気絶させられ、攫われている光景に。

 

 

「その時、私はアリア様の要望でお茶を運んでいた途中でした。そして、愛子様とアリア様が銀髪の女に気絶させられたのを目撃した私は、咄嗟にすぐ近くにいたリリアーナ王女ごと、固有魔法“幻露(げんろう)”……相手に幻覚を見せ、幻影を作り出す魔法とその派生“認識阻害領域”を使用して姿と気配を隠し、その銀髪の女の目を欺き、難を逃れました。本来ならすぐにお救いすべきでしたが、あの女は私でも勝ち目がないと悟った相手でしたので」

 

 

その後、難を逃れたリリアーナとフィアは、ソウジ達に助けを求めるべく、王宮の隠し通路から王都に出た。天之河達に救援を求めなかったのは、間違いなく監視されているだろうと判断したからだ。そして、フィア曰く、「戦うという意味を全く理解していないであろう、なんちゃって勇者が足を引っ張って絶対に役に立たない」からと、今までの情報から判断した為でもある。

その後、ユンケル商会に同乗を頼み込み、アンカジ公国を目指したのである。アンカジ公国であれば彼らに会える可能性が高く、彼らに会えずともゼンゲン公の助力を得られる可能性からだ。

 

 

「モットー様は同乗を頼み込んだ時点でリリアーナ王女に気付かれましたので、二、三、話して信用に足る人物と判断し、アンカジ公国へと向かっていました。その道中で貴方方と会えたのは行幸と言っても差し支えありません。……厚かましいのを承知でお願い致します。どうか、アリア様達の救出にお力をお貸し下さい」

 

 

フィアは最後にそう言って深々と頭を下げる。それに対し、ソウジの答えは―――

 

 

「……先生を助けるついでに、そいつも助けてやる」

 

 

嘆息と共にそう答えるのであった。

愛子先生が攫われた理由は間違いなく、神の真実とソウジ達の旅を話そうとしたことが原因だ。おそらく、天之河達に不審の楔を打ち込まれる事が不都合だと判断し、一緒にいたアリア共々、連れ去ったのだろう。

攫う時点で殺す気はないと思うが、クソ連中の手中の時点で何をされるか分かったものではない。それに、愛子先生には恩もあるし、愛子先生だけを助ければ、この場合は“寂しい生き方”に繋がるかもしれない。

だから、選ぶ。見捨てず、助け出す選択を。

 

 

「取り敢えず、先生は絶対に助けに行かないとな。利用しようとした責任もあるし」

 

 

ハジメも同様に、愛子先生を助ける決断をくだす。その言葉に、フィアはにこやかな笑みを浮かべて受けとる。

 

 

「ふふ……すんなりとお力をお借りできそうで良かったです。でなければ、少々“交渉”しなければいけませんでしたから」

 

「ふーん、交渉ねぇ……一体どんな交渉をするつもりだったのやら……」

 

 

そんなソウジの興味本意の呟きに、フィアはにこやかな雰囲気のまま、その“交渉”内容を口にした。

 

 

「“紅き爆炎の錬成師”、“蒼き氷炎の剣士”……」

 

「「!?」」

 

 

目を見開いて驚愕するハジメとソウジに構わず、フィアは微笑を保ったまま、更に言葉を続けていく。

 

 

「“雷光の殲滅者(ライトニング・デストラクター)”や“業炎の執行者(バーニング・インフォーサー)”等……手を貸してもらえなければ、ありとあらゆる“痛い”二つ名を世界中に広めようと思っていたのですが……」

 

 

とんでもない交渉カードに、ハジメとソウジは揃って顔を青ざめさせる。

 

 

「確か、異世界では“ちゅうにびょう”というものでしたね?お二方はこのような精神攻撃に弱いという情報を得ていたので、断られた際には、このカードで交渉しようと思ったのですが……杞憂に済んで良かったです」

 

 

本当に手を貸す決断を下してよかったと、ハジメとソウジは心から思った。そんな中、シアがおずおずとフィアに話しかける。

 

 

「あの……少しいいでしょうか?」

 

「何か?」

 

「フィアさんは奴隷……ですよね?なのに、どうしてその人を助けようと思っているのですか?」

 

「あら?もうお気付きかと思っていたのですが、随分とお鈍いのですね?贅肉兎様」

 

「……へ?」

 

 

雰囲気は全く変わっていないのに、フィアの口から自然に出てきた毒に、シアは間抜けな顔となる。

 

 

「負け兎が勝ち兎になっているの割りには、この首輪が唯の飾りだと気付かない程鈍感だと申したのですよ、常識ブレイカーの肉食兎様。これだけ言ってもまだ分からないのですか?」

 

「違いますよ!私は常識を持ったピュア兎ですぅ!!そうですよね、ハジメさん!?」

 

「いや、この狐女が正しい。お前はバグってきた肉食兎だ」

 

「そんな!?」

 

「……オレ達のこと、何処まで把握しているんだ?」

 

 

フィアがシアの現状を的確に当てたことに、ソウジは嫌な予感を覚えつつも聞かずには要られなかった。それに対し、フィアは相変わらず微笑を保ったまま、容赦なく言葉を放っていく。

 

 

「そうですねぇ……漢女を生み出す白髪の少年、同じく漢女を生み出す如何わしい詩集を書いている少女、衣服を切り裂き裸族を生み出した灰髪の少年、股間スマッシャーガールに唆されて、殿方とのお楽しみの道具を買った弓使い、お仕置き道具を買って息を荒げるドMな変態女性に、その事にショックを受けて泣きべそをかく女性、とある男性の衣服を盗んでその臭いを嗅ぐ、もしくは隠し持っている少女、くらいですね」

 

「「「「「「「うぐっ!?」」」」」」」

 

 

フィアの暴露した内容に、心当たりが有りすぎるソウジ達は胸を押さえて蹲った。一体どうやって知ったのか問い質すも、当の本人は「付き人で使用人ですから♪」とにこやかに返して流すだけだ。

 

 

「少し話が脱線しましたね……これまでのお話と、そちらの魔力持ちのシア様の存在でもう察していると思いますが、私はかつて、フェアベルゲンの掟によって追放された者です」

 

 

話を戻したフィアはそのまま、アリアを助ける理由を話し始めていく。

掟によってフェアベルゲンから追い出された、当時四歳頃のフィアは魔物に怯えて【ハルツィナ樹海】の外へと出てしまい、そのまま奴隷商の人間達に捕まり、ヘルシャー帝国に搬送された。

奴隷の首輪だけでなく、魔力封じの枷まで嵌められた上で、フィアは競売に賭けられ、そこでとある帝国貴族に買われたのだ。

その帝国貴族が、アリアの両親である。

 

 

「最初はこれから地獄が始まるのだと思っていたのですが、実際には首輪こそ外しませんでしたが、魔力封じの枷を外して、身体を洗って小綺麗にして、使用人の服を着せられた時は驚きでしたね。理由を聞いたら、『お前は私達の所有物だ。だから、何処に出しても恥ずかしくない格好にする必要が有っただけだ』と。同時に不敵な笑みを浮かべながら『文句があるなら実力で示してみろ。帝国は実力主義だからな』とも」

 

 

その後、彼等の下でフィアは家事や武術等、様々な技術を身に付けていった。最初こそ失敗が多く、厳しい叱責を毎日受けていたが、それ以上に新鮮な気持ちで一杯だったそうだ。やがて、家事全般は超一流に達し、実力も護衛を勤められるくらいに高くなり、首輪もカモフラージュものへと代えられる程に認められた。そして、普段は余計ないざこざを避ける為に“幻露”で本来の姿を誤魔化すようにしたそうだ。狐の耳と尻尾を隠す程度だが。

二人の娘であるアリアとも「弱者は強者に従うのが帝国のルール。だから、どっちが強者か勝負といこうか」と、何かしらの勝負をしあうくらい仲が良好であり、今はアリアが勝ち越しているそうだ。

 

 

「ですから、私はアリア様をお助けしたいのです。このまま、勝ち越されたまま遠くの場所に行かれるのは不本意ですしね」

 

 

フィアの締めくくりの理由に、一同は思わず苦笑いしてしまう。ヘルシャー帝国の人間は実力至上主義だと聞いており、如何にも“帝国らしい”理由だと思ったからだ。

 

 

「本当に、良い縁に恵まれたんですね」

 

「そうですね。今では追放した連中に『どんな気持ちですか?追い出した忌み子が有能だと知って、どんな気持ちですか?』と煽ろうと思えるくらいに恵まれましたね」

 

 

シアのしんみりとした言葉に、フィアは相変わらずの毒舌でにこやかに返していく。

 

 

「さて、話も終わったことだし、そろそろ出発するか。なるべく早い方がいいからな」

 

 

ソウジの言葉を皮切りに、一同は王都ハイリヒへと目指していく。

愛子先生達を救出する過程で、間違いなく“神の使徒”と殺り合うことなるだろうが、誰が相手でもすべきことは変わらない。自分達に立ちはだかるなら、容赦なく殺す!

その決意を胸に、ソウジはブリーゼ・ハオスを運転するのであった。

 

 

 




「もし、ソイツが殺されていたどうするつもりだ?」

「決まっています。その下手人には生きていたことを後悔させる程、蹂躙して引き裂いて、肉と内臓は豚の餌にして、骨は粉微塵にして肥溜めに放り込んで、この世から抹消させますよ。ふふふ」

(……本当は勝てるんじゃないのか?)

ハイライト消し、大鎌を撫でるフィアの図。

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