てな訳でどうぞ
聖教教会の総本山たる【神山】に建造された建物の外壁にて。
「……どうやら、彼処みたいだな」
「ああ。予想通り、それぞれが個別に監禁されているみたいだ」
闇夜に隠れるように身を潜めながら、ハジメとソウジは二つの鋼鉄の塔の天辺にある、鉄格子が嵌まっている部屋の中を魔眼石で確認しながら呟き合う。
ハジメとソウジは先ずは愛子先生とアリアの安全を確保してから大迷宮探索に動くつもりであり、それまでは大事にしないために二人だけで此処に来ている。アタランテにユエ、シアにジークリンデ、香織の五人は預け先である天之河達の安全を確認する為にリリアーナとフィアと共に王宮へ、ティオは万一に備え、全体の状況を俯瞰できるよう王都の何処かで待機している。
「じゃ、ハジメは先生を頼む。オレは歌姫の方へ行く」
「ああ」
ハジメとソウジは互いに頷いて、それぞれが監禁されている塔の天辺を、“空力”で空を跳んで近づいていく。
そして、ソウジは鋼鉄の塔の天辺―――アリアが監禁されている部屋の鉄格子を覗き込むと、清楚な服装に身を包んだアリアが椅子の上に座っていた。
「……ここから出られたら、ゼッテー目にもの見せてやる。首を洗って待ってろよ、蛆虫共」
……腕と脚を組んで目をギラつかせ、滅茶苦茶汚い言葉を吐き出しいていたが。それに、よく見れば鋼鉄の扉も少々凹んでいる。
「監禁されてから三日でここまで凹ませてやったんだ。後二日、いや、後一日で蹴り壊してやる」
……どうやら、連日扉を蹴り飛ばしていたようだ。魔眼石で見た限り、手首にあるブレスレットで魔法を封じられているにも関わらず、鋼鉄の扉に凹みを作るとは……
そんなアリアの人外ぶりにソウジは若干呆れながらも、自身の存在を知らせることにする。
「随分汚い言葉使いだな、歌姫さんよ」
「はぁ!?」
ソウジの声にアリアは素っ頓狂な声を上げて、部屋をキョロキョロと見回し、鉄格子の外にいるソウジの存在に気付き、目をぱちくりさせた後、驚きの声を上げる。
「ななな、何でテメェが―――ゴホンッ、何故貴方様が此処に?」
「いや、猫被っても遅ぇから。そっちが素なんだな」
がさつな態度から一変、実に淑女らしい振る舞いをするアリアだが、時、既に遅しである。誤魔化しが効かないと悟ったのか、アリアは再びがさつな態度でソウジに話しかける。
「それで?何でテメェが此所にいるんだよ?」
「助けに来たんだよ。お前のメイドさんからの
ソウジはそう言いながら、罠の類いがないと確認出来たので、絶天空山を抜刀して壁を斬って穴を作り、中へと入る。
「フィアが?アタシはてっきり、あいつが蛆虫共の目を掻い潜って助けに来ると思ってたんだがな」
意外そうに呟くアリアの言葉を聞き流し、ソウジは魔眼石でさらにアリアを精査し、魔法が掛けられている痕跡もなかったので、アリアに装着されている、魔力を封じるアーティファクトを解除する。
「さて、このまま天之河達の下にあんたを送り届けるが異存はないよな?」
「大有りだね。彼処は安全じゃねぇし、蛆虫共に目にもの見せなきゃアタシの気が収まらねぇ」
「安全じゃないだと?どういう事だ」
「アタシをのした銀髪ヤローが言ってたんだよ。『生徒のしようとしていることの方が面白そうだ』ってな。豊穣の女神のしようとしたことが不都合と言っていたからそう考えるのが普通だろ?」
どうやら、清水や檜山のような輩が他にもいたようである。檜山は小者だから、自分で何かを計画して実行する度胸はない。良くて、便乗くらいだろう。
ソウジは一先ず、“念話”を使ってアタランテ達に連絡を取ることにした。
と、その時、遠くから何かが砕けるような轟音が微かに響き、僅かだが大気も震える。ソウジはそれの確認も取るために再び連絡を取る。
“聞こえるか?そっちで何が起きた?”
“王都の大結界が一枚破られたようだ。二枚目ももうじき破られそうな状態だ”
“妾の方からも確認できておる。王都の南方一キロメートル程の位置に魔人族と魔物の大軍じゃ。結界を破壊しとるのはあの時の白竜と、三つ首の金の鱗の翼竜が放っておるブレスじゃ。あの魔人族の姿は見えんが、三つ首の翼竜にはローブを纏った魔人族の男らしき者が背に乗っておる。おそらく、あの魔人族と同じ攻略者じゃな”
どうやら、フリードは空間魔法による何かしらの方法で大軍を王都の目と鼻の先に転移させたようだ。しかも、別の攻略者がそこにいると来た。
“本当になんつうタイミングだ……歌姫から嫌な情報を聞いた後だってのに”
“嫌な情報だと?どういうことだ?”
“ここへ連れ去ったヤツが『生徒のしようとしていることの方が面白そうだ』と言っていたそうだ”
“……成程な。だとしたら、相当面倒だな。クソッ”
“……それなら、あいつを泣くまでボコりに行く。……ハジメを傷つけた罪をその身で償わせる”
怒気のこもったユエの物騒な物言いに、ハジメ以外は若干引き気味になる。状況的に間違ってはいないが、完全に私情を挟んでしまっている。
“なら、私も行こう。もしかしたら、三つ首の翼竜に乗っているヤツがあの魔物の生みの親かもしれぬからな”
“私も行きます。後、泣いて謝ってもボコり続けますので”
“では、私も。しっかりと落とし前を付けませんといけませんので”
ユエに続いて、アタランテ、シア、ジークリンデも私情を挟みまくった暴行宣言をする。
“まっ、待って下さい!せめてもう一人はこちらに―――”
“ユエ、シア。ハジメくんを傷つけたそいつの全身を粉微塵になるまで磨り潰してきてね。アタランテもジークリンデも頑張ってきてね”
“香織!?”
“では、なんちゃって勇者様方の下には私とリリアーナ王女、香織様の三名で向かいます。どうかご武運を”
“フィアさんまで!?私の扱いがどんどん雑に……王女なのに……グスッ”
リリアーナの泣き声を最後にソウジは“念話”を切り、蚊帳の外状態だったアリアに視線を戻す。アリアも状況を説明しろ!と目で言ってきているので答えていく。
「魔人族の襲撃だ。さっきのは王都を覆う大結界が破られた音とのことだ。取り敢えず、姫さん達に合流するが、文句はないよな?」
「……ちっ、しゃあねぇか。きっちりエスコートしてくれよ?」
アリアはしょうがないといった感じで舌打ちを咬ましたので、ソウジは片腕に座らせるような形で抱っこする。それに対し、アリアは不敵に笑ってソウジの首もとに掴まる。
その瞬間だった。
カッ!!
外から強烈な光が降り注いだのは。
「ッ!?」
その光に本能がけたたましく警鐘を鳴らし、ソウジは脇目も振らずに外壁の穴から外へと飛び出す。その直後、銀の光がソウジアリアがいた隔離塔の天辺の部屋を丸ごと呑み込み、“分解”して吹き飛ばした。
「……ちっ、これが分解というやつか……」
「ご名答です、イレギュラー」
ソウジの独り言に、冷たく感情を感じさせない声色が返した。
ソウジは声がした方へ鋭い視線を向けると、そこにはワルキューレのような衣装に身を包んだ、アタランテに瓜二つの長髪の女が銀翼をはためかせてそこにいた。
そして、その女が両手を左右に水平に伸ばすと、ガントレットが一瞬輝き、次の瞬間には、両手に鍔無しの大剣が握られていた。銀色の魔力光を纏った二メートル近い大剣を、重さを感じさせずに振り払って、告げる。
「ノインツェーンと申します。“神の使徒”として、主の盤上より不要な駒を排除します。イレギュラーの一人、空山ソウジ」
ノインツェーンと名乗った女は、そう宣戦布告する同時に噴き出した銀色の魔力が周囲の空間を軋ませる。
大瀑布の水圧を受けたかのような絶大なプレッシャーがソウジとアリアに襲いかかる。アリアは不敵な笑みを崩していないものの、こめかみから冷や汗が流れている。対してソウジは、そのプレッシャーを物ともせず、自身の蒼い魔力を噴き出させ、瞳をギラつかせる。
チラリ、と視線を横にずらすと、ハジメの方も愛子先生を抱きかかえて同じく“神の使徒”と対峙している。
それも一瞬。ソウジは視線を直ぐ様ノインツェーンへと戻し、蒼い魔力を纏った絶天空山の切っ先をノインツェーンに向け、挑発的に嗤いながら同じく宣戦布告をする。
「殺れるなら殺ってみな。木偶人形」
その言葉を合図に、二体の“神の使徒”と二人の“化け物”が衝突した。
「大丈夫だよ、リリィ。私が瀕死のピンチになった時、ハジメくんが助けに来てくれる……という夢を見てね」
「全く安心できません!」
「フフッ、それは俗言うし―――」
「そこから先はアウトです!」
不憫すぎる王女様の図。
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