魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


神の使徒との戦い

月下で銀翼がはためく。

ノインツェーンがはためかせた翼から射出された銀羽の魔弾が無数に殺到し、その壁と形容すべき銀羽の弾幕を幾条もの蒼き斬撃が弾き飛ばして穴を開け、紙一重な回避を実現していく。

 

 

「おい!そんな気を使った動きをするな!多少の乱暴な動きには耐えてやるからもっと激しく動きやがれ!」

 

「何で命令口調なんだよ……?」

 

 

ジェットコースターなど遥かに超える機動にも関わらず、平然として逆に文句を言うアリアにソウジは思わず呆れた声を洩らす。今のソウジは激しい機動を避け、“瞬光”状態で最小限の動きで襲い来る弾幕をかわしているのだが、アリアは自分がお荷物になっていることに相当苛ついているようである。

 

 

「じゃあ、少しだけギアを上げる。噛まねぇように口は閉じてろよ!」

 

「ふんっ!少しといにゃッ!?」

 

 

幾分か急に激しくなった動きにアリアが舌を噛んで若干涙目となるが、ソウジは構わずに“空力”と“重縮地”による三次元機動で銀羽の魔弾をかわし、迫り来る銀色の砲撃を槍の如く飛ぶ斬撃―――“飛爪・鋭”で魔法の核をピンポイントで切り裂いて霧散させる。

 

 

(本当に滅茶苦茶強いなコイツ!虜にするつもりが、逆に虜になりそうだぜ!)

 

 

空中戦が始まってからのソウジの動きとその剣の技量による強さに、アリアは不覚にも魅入ってしまう。そんなアリアの心情等知らないソウジはハジメからティオが此方に向かっている連絡を受けて、その事をアリアに伝える。

 

 

「もう少ししたらオレらの仲間が此方に来るから、それまでは辛抱しろよ。歌姫」

 

「……悔しいが、あのヤローはアタシじゃぶちのめせねぇ。だから絶対にあのヤローをぶちのめせよ?」

 

「元からそのつもりだ」

 

 

アリアのその言葉に、迫り来る銀羽を叩き落としながらソウジは当然と言わんばかりに返す。

 

 

「……雑談とは随分と余裕ですね」

 

 

その直後に背後から機械的な冷たい声色が響く。ソウジは咄嗟に凄まじい速度で背後に振り返りながら絶天空山を滑らせ、横凪ぎに振るわれていたノインツェーンの大剣を激しい火花を散らせながら上へと捌く。すぐさまノインツェーンはもう一方の大剣を振り下ろすも、すぐさま引き戻した絶天空山に受け止められ、そのまま激しく鍔迫り合いをする。

 

 

「……分解が効いていない?一体どんな手品を使っているのですか、イレギュラー」

 

 

蒼光の魔力を纏う絶天空山が、“分解”を付与されている銀光を纏う大剣を普通に受け止めていることに、ノインツェーンが無機質な表情でソウジに問いかける。

 

 

「わざわざ教えると思っているのか?」

 

 

対するソウジは不敵な笑みを崩さずにあっさりと返す。ノインツェーンの分解があまり効いていないのは、以前、ブルックで作った魔力分解耐性の腕輪のお陰である。この腕輪のお陰で分解に対抗できているが、“神の使徒”の力は尋常ではなく、“金剛”の防御に普通にヒビを入れる程だ。

そんなソウジの返しに、ノインツェーンは相変わらずの無機質な表情で無駄と判断し、一度距離を取ってからただの銀閃と形容すべき程の剣速で大剣を叩き落とす。当然、ソウジは絶天空山でその一撃を受け流し、同時に横凪ぎに迫っていた二之大剣も受け止める。

ノインツェーンは絶天空山とぶつかった反動を利用して回転し、横凪ぎに振るっていた大剣を再びソウジに向かって振り抜こうとする。

ソウジは横に倒れるように落下しながら二本の紅雪で横から迫る大剣を上へと滑らせるように受け流し、ノインツェーンに向けて絶天空山を横一文字に振るって右脇腹から左肩を斬ろうとするも、ノインツェーンは大剣の腹で防御し、無理に留まらずに少し後退する。ソウジはノインツェーンに紅雪を突撃させて貫こうとするも、ノインツェーンはかわす、大剣で弾く、もしくは受け流して追撃を捌いていく。

 

 

「な、何つう戦闘だよ……今までのアタシの勝負が遊戯に感じてくるぜ……」

 

「戦闘に遊戯も糞もないだろ」

 

「……ハハッ、違いねぇ」

 

 

ソウジに抱きついているグロッキー状態のアリアに、ソウジが淡白なツッコミを入れる。ツッコミに返せる辺り、アリアもまだ耐えられそうである。

 

 

「足手まといを抱えながら、ここまでやるとは……やはり、ノイントが対処しているイレギュラー同様、主の駒に相応しくありません」

 

「そりゃどうも。ゲスニートに嫌われるとか、最高の評価だよ」

 

「……怒らせる策なら無駄です。私()に感情はありません」

 

「は?本心からの言葉を、なに深読みしてんだ?」

 

「…………」

 

 

ソウジの本心からの返しに、ノインツェーンは感情が無いと告げた割にはどこか怒りを宿した瞳をスッと細めてから銀翼を広げ、双大剣をクロスさせて構え直す。そして、ソウジから距離を取るように上昇し、同じく上昇していたもう一体の神の使徒―――ノイントと背中合わせとなる。

ノイントとノインツェーンが同時に銀翼をはためかせ、銀羽を宙にばら撒いていき―――銀色に輝く巨大な魔方陣を形成する。

 

 

「「“劫火浪”」」

 

 

途端、魔方陣から津波の如き大火が顕れ、それぞれが睥睨する者達に向かって迫っていく。

その迫り来る巨大な炎の津波に、ソウジはあの大火から魔法の核を探すのは無駄と判断し、六本の紅雪を自身の頭上に配置して、一つの風車のように回転させていく。さらに自身も“嵐陣”を展開して迫り来る炎の津波に備える。

直後、全てを呑み込む炎の津波が遂にソウジ達を襲うも、風車のように回転している紅雪がその津波を完全に防ぎ、横から迫る炎も“嵐陣”によって寄せ付けずに防いでいた。

紅雪は新たに付与した空間魔法により、空間切断を可能としており、対象を空間ごと斬ったり、今のように即興の防壁として使えるようになっている。実戦で試すのは今回が始めてだが上手くいったようである。

ハジメと愛子先生の方も、クロスビットに新たに搭載していた、実験段階のビーム○ィールド擬きによって無傷である。

 

 

「……これも凌ぎますか」

 

「なら、数で圧倒しましょう」

 

 

術の効果が終わり、ソウジ達の無傷な姿を視界に収めたノイントとノインツェーンは、銀羽をそれぞれに撃ち込みながら合計四十以上の魔方陣を同時展開していく。

ソウジはティオが来るまでは回避に徹しようと再び銀羽を叩き落としながらかわしていると、【神山】全体に響くような声が聞こえ始める。

ソウジが疑問に思いながら歌声のする方へ視線を向けると、イシュタル達が手を組んで祈りのポーズを取りながら合唱していた。その直後、ソウジとアリアの体に異変が訪れる。

 

 

「……ッ!?これは……」

 

「どうした!?ッ!?急に、力が……」

 

 

体から力が抜け、魔力が霧散していく。加えて、光の粒子のようなものがまとわりつき、動きを阻害していく。

どうやら、イシュタル達がノイントとノインツェーンを援護しようと状態異常の魔法を使っているようだ。歌うことで効果を発揮するとは、中々に凶悪な魔法である。

 

 

「イシュタルですか」

 

「自分の役割をよく理解していますね。よい駒です」

 

 

恍惚とした表情でノイントとノインツェーンを見つめるイシュタルに、ノイントとノインツェーンはそんな感想を述べながら感情を感じさせない眼差しで返して、戦闘を再開していく。

ソウジは自身の内包する魔力で弱体化に抗うが、その動きは先程より明らかに雑となっている。

迫りくる不規則な軌道の雷撃をソウジは“飛爪・鋭”を連続で放って魔法の核を切り裂き、銀羽を紅雪で防いでいく。その対処に集中してしまい、超速で頭上から迫っていたノインツェーンの存在に気付くのが遅れてしまう。

 

 

「ッ!」

 

 

ギリギリで気付いたソウジは絶天空山を逆手に構え直し、十字に振るっていた双大剣の交差点に滑り込ませ、そのまま回転して捌こうとするも、捌ききれずに叩き落とされてしまう。

ノインツェーンが追撃しようとするも、紅雪が割って入ったので接近を止めて銀羽で追撃を放っていく。

ソウジは必死に絶天空山を振るい、“金剛”も使って防いでいくもその表情には余裕がない。

このままでは追い詰められる……とソウジが思っていると、例の魔法を受けてから終始目を瞑り、腕を人差し指でトントンと叩いていたアリアが一息吸うと、そのまま歌声を奏で始めた。

透き通る程に綺麗な歌声。それが戦場に響いていく。

何故急に歌い出したのかとソウジが疑問に思った直後、例の倦怠感が薄まっていき、まとわりつく光の粒子も消え始めていく。

 

 

「ッ!?」

 

 

体が軽くなった事にソウジは驚きつつも、元の動きで銀羽を捌き、“蒼牙爪”の“飛爪・鋭”版―――“蒼牙爪・迅鋭”をこちらに突撃していたノインツェーンに向かって放つ。

ノインツェーンはソウジの動きが戻ったことに若干目を細めながらも、その蒼い炎の斬撃をあっさりとかわして斬りかかるも、ソウジも絶天空山を振るい、剣同士が打ち合う音を奏でながら互いにすれ違う。

 

 

「まさか……お前が打ち消しているのか?」

 

 

ソウジの質問に、アリアは歌いながらいい笑顔でサムズアップする。まさか、あれだけであの魔法を理解して自分のものにし、相手の魔法の効果を打ち消す等、とんでもない人材だ。

ちなみに“覇墜の聖歌”は司祭複数人の合唱で発動できる魔法だ。それを一人だけで発動してイシュタル達の魔法に対抗する等、アリアの人外ぶりが発揮されているのだが、その事実はイシュタル達しか気づいていない。

 

 

「足手まといが……とんだ真似をしてくれますね」

 

 

ノインツェーンは足手まといと判断していた相手の予想外の援護にそんな言葉を呟く。直後、イシュタル達の歌声が大きくなり、アリアも負けじと歌声を大きくしてイシュタル達の魔法に対抗していく。

その直後、黒き光に吹き飛ばされた銀球が教会の塔に直撃し、その塔が音を立てて崩れ落ちた。

それによりイシュタル達の魔法が止まり、アリアの奏でる魔法がノインツェーンを一時的に弱体化させる。

 

 

「ッ」

 

 

自身を襲った弱体化にノインツェーンの動きが一瞬鈍り、ソウジはその隙を逃さずに“爆縮地”と“豪脚”による飛び蹴りをノインツェーンにかまし、教会の塔へと吹き飛ばした。

 

 

「ゲホッ!!急に加速すんな!思わず噎せちまったじゃねぇか!」

 

「そうか。だけど、乱暴な動きに耐えると言ったのはお前だろ」

 

「むぐぐ……」

 

 

見事に挙げ足を取られたアリアに構うことなくソウジは空を駆け、愛子先生を“竜化”しているティオに預けているハジメに合流する。

 

 

「そんじゃ、歌姫。ここで一旦お別れだ。ティオ、悪いが頼むぞ」

 

“勿論じゃ!ご主人様からのご褒美も待っているからのぉ!!”

 

 

ティオの上機嫌な言葉にソウジはご褒美に対して苦笑いしつつも、アリアをティオの背に乗せる。そして、銀翼をはためかせた無傷のノイントと、飛び蹴りを大剣の腹で受け止め、同じく無傷であったノインツェーンへと、ハジメ共々向き直る。

 

 

「「……行け、ティオ」」

 

“承知!二人の安全を確保したらすぐに助太刀するぞ!教会の連中は妾に任せよ!”

 

「南雲君!気をつけて!それから、空山君も!」

 

「……どうか、ご武運を」

 

 

ティオの頼もしい言葉と愛子先生の次いでような言葉よりも、アリアの猫かぶりな態度による健気な言葉に、ソウジは思わず吹き出しそうになる。

そして、ハジメとソウジは其々が相手していた神の使徒に向かって宙を駆けるのであった。

 

 

 




「さっさとここから出しやがれ!!この“ピーッ”野郎ども!!」

ドガンッ!!ドガンッ!!ドガンッ!!

「…………」

僅かに盛り上がった鋼鉄の扉から聴こえる汚い言葉と凄まじい音に、思わず絶句するノインツェーンの図。

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