魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


簡単だった条件

夜天を焦がす巨大なキノコ雲をポカン口を開けて見つめるソウジ。そんなソウジに念話が届いた。

 

 

“ご、ご主人様、ソウジ殿よ……そっちはどうじゃ?”

 

“お?おぉ、ティオか。こっちはどっちも終わったところなんだが……”

 

“ふむ、それは重畳。流石じゃ。ちょうど、こちらも終わったところなんじゃが、合流できるかの?”

 

“終わったって……じゃあ、あの大爆発はお前、いや、お前()の仕業か……?”

 

“う、うむ……。その説明の為にも合流できるかの?”

 

“はぁ、わかった”

 

“……了解”

 

 

ソウジは絶対にアリアが関わっていると確信しつつ、ティオ達との合流を急ぐ。上空に上がってすぐに黒竜姿のティオを発見し、その背にウンウンと頷くアリアと、狼狽えまくっている愛子先生も居た。

 

 

「……全員無事みたいだな」

 

「な、南雲君、空山君!よかった、無事で……」

 

“うむ。一瞬、死ぬかと思ったが何とか生きておるよ、ご主人様”

 

 

ハジメの言葉に愛子先生とティオが答えている間に、ソウジはアリアに半目で質問をする。

 

 

「……歌姫、お前一体何をした?」

 

「違いますよ。あれは私ではありません。ティオさんの攻撃を高めたのは、豊穣の女神様ですよ?」

 

“うむ。妾のブレスの威力をあれほどに昇華させるとは、流石、ご主人様とソウジ殿の先生殿じゃ。天晴れ見事”

 

 

猫被りな態度で答えるアリアの姿は、一見すれば自然ではあるのだが、素の口調を知っているソウジからすれば違和感バリバリである。だが、それ以上にあの大爆発は愛子先生が大きく関わっているという事実の方が驚愕だった。

 

 

「……先生、一体何をしたんだ?」

 

「……本当に何をしたんだ?先生」

 

「あわわわわ、ち、違うんです!こんなつもりではなかったんです!ちょっと結界の力が強かったので……アリアさんが状態異常の魔法を阻止している間に、何とか結界を破壊しようと……」

 

「それで愛子さんは自身の“作農師”としてのお力を使い、教会周辺に発酵操作を使い、急速に可燃性ガスとやらを発酵させていったのです」

 

“それを妾が風の魔法で一定範囲に留めておったのじゃ。そして、十分に溜まったと満場一致で決まり、ブレスを放ってみれば……”

 

「「……こうなったと」」

 

「ええ。その衝撃で私達も吹き飛ばされましたが、中々に見事な一撃でしたよ」

 

“うむ。妾の長い人生の内でもこのような方法は思いつかんかった。流石、ご主人様とソウジ殿の先生殿じゃ。感服じゃよ”

 

「違うんです!結界を破るには、半端ではいけないと思っただけなんです!!嘘じゃありません!!はっ!?教会の皆さんはどうなりましたか!?」

 

 

愛子先生は必死に弁明をしながら、廃墟化した教会に視線を彷徨わせる。ソウジ達も一緒に視線を向けるが……

 

 

「……まとめて吹き飛んだだろうなぁ」

 

「あの大爆発で連中が無事とは思えないしなぁ……」

 

“教会の結界の力を過信しとった感じじゃったしのぉ。無防備なうえ、不意討ちであの爆発では助からんじゃろうて”

 

「とりあえず、冥福だけは祈りましょう。彼らに気が狂う程の激痛の眠りを」

 

「あ、ああ……そんな……いえ、覚悟はしていたんですが……」

 

 

自分の行動がもたらした結果に、愛子先生は顔を青ざめさせ、その場で嘔吐してしまう。そんな愛子先生にハジメが寄り添い、愛子先生は教師と生徒ということを忘れてハジメの胸の中で嗚咽を洩らしていく。

……完全に禁断のフラグが立ったのをソウジは無視して、礼を述べるためにアリアに話しかける。

 

 

「歌姫。遅くなったがありがとうな。あれはマジで助かった」

 

「いえいえ、お礼なんて結構です。彼らに一矢報いたかっただけですので……(強さに惚れちまった奴の足手まといなのが、すんげぇ嫌だっただけだし……)」

 

 

髪をくるくると指で靡かせ、明後日の方向を向くアリアにソウジは若干疑問に思うも、とりあえず、愛子先生が落ち着くまでは周辺の警戒に努めることにする。しばらく周囲を警戒していると、廃墟となった教会の瓦礫のとある一角に、白い法衣のようなものを着た、体が透けてユラユラと揺らいでいる禿頭の男が佇んでいた。

同じくその禿頭の男に気づいたティオがハジメにその存在を伝えながら警戒していると、禿頭の男はソウジ達が自分の存在に気づいたのを察したかのように、無言で踵を返し、幽霊のようにスーと移動を始めていく。自身が見えなくなる直前で此方へと振り返るのを見る限り、ついて来いと伝えているようである。

 

 

“どうするのじゃ?”

 

「……ユエ達と合流したいところだが、元々は神代魔法目当てだからな。もしかしたら、関係があるかもしれない」

 

「今手がかりを逃すわけにはいかないから、このままあの男を追おう」

 

“うむ”

 

 

ハジメとソウジの言葉にティオは素直に頷き、瓦礫の山に降り立つ。そして、ソウジ達を降ろしてから竜化を解き、ハジメ共々、汚れた服を着替えてから、愛子先生とアリア共々禿頭の男の後を追いかけていく。

それから五分程追いかけ続け、禿頭の男は目的地に辿り着いたのか、真っ直ぐにソウジ達を見つめて静かにその場に佇んでいた。

 

 

「あんたは何者なんだ?何が目的だ?」

 

「…………」

 

 

ハジメの質問に禿頭の男は答えず、ただ黙ってとある瓦礫の山を指す。男の眼差しがそこに進めと言っているので、ソウジ達は互いに頷いて瓦礫の場所へ足を踏み入れる。その瞬間、瓦礫がふわりと浮き上がり、その下に描かれてあった大迷宮の紋章が淡く輝きだす。そして、地面の発する淡い輝きがソウジ達を包み込み、見知らぬ空間―――中央に魔方陣が描かれた黒塗りの部屋に転送されていた。

ソウジ達は、大量の?を浮かべる愛子先生と目をぱちくりさせるアリアと共に魔方陣に踏み込み―――“魂魄魔法”の知識が頭の中に刻み込まれた。

 

 

「……これで五つだな」

 

「名称通り、魂に干渉できる魔法のようじゃな……」

 

「やっぱり、ミレディはこの魔法でゴーレムに魂を定着させてたんだな……」

 

 

これで万が一の対策が用意出来るようになった事に、ハジメとソウジは内心で拳を握り締める。

そして、頭に知識を刻み込まれるという経験に、頭を抱えて蹲る愛子先生と、困惑するアリアを尻目に、ソウジ達は魔方陣の傍の台座にあった古びた本に目を通していく。

どうやらこの本はこの迷宮の創設者、ラウス・バーンの手記のようであり、自分は最初は“抗わない者”だったとか、一度“解放者”達と敵対していた等の文をスルーして、最後のページの攻略の条件について目を通していく。

 

最低、二つ以上の大迷宮攻略の証を持っていること。

神に対して信仰心を持っていないこと、もしくは神の力が作用している何らかの影響に打つ勝つこと。

その二つの条件を満たすことで、あの映像体が姿を現し、攻略が認められるのだそうだ。つまり、【神山】のコンセプトは神に靡かない確固たる意志を有することだろう。

 

愛子先生とアリアも攻略が認められたのは、信仰心で自身の気持ちが全く変わらなかったのと、教会打倒に十分手を貸したと判断されたからだろう。

異世界人のソウジ達や竜人族のティオ、実力至上主義の帝国出身で、神や信仰心等もっぱら後回しのアリアからすれば、【神山】の攻略条件は軽いものだった。

台座の上に置かれていた、攻略の証の指輪も回収し、愛子先生とアリアに移動を促してソウジ達はその場を後にする。再び、ラウス・バーンの紋章が輝いて元いた場所に戻る。

 

 

「大丈夫か?先生」

 

「歌姫も平気か?」

 

「は、はい。何とか……」

 

「アタ……私も大丈夫です。まさか神代の魔法が手に入るとは夢にも思わなかったのですが……もっと強くられそうです」

 

 

どちらも大丈夫そうだったので、ソウジ達はアタランテ達との合流を目指し、強制フリーフォールで王都へと向かっていく。

強制フリーフォールという体験に、愛子先生は悲鳴を上げ、アリアは爽快な笑顔で堪能していく。そのまま地面に降り立ったソウジ達は、愛子先生とアリアを預けるために、香織達がいる場所へと向かう。

そこでは、最悪の光景が広がっていた。

 

 

 




「そういえば歌姫、個人的な会話で先生と何話していたんだ?」

「ふふ、秘密ですよ」

「確か、空山君のじゃぐえっ!?」

うっかり口を滑らせようとした愛子先生を、残像が見えるのではないかという程の挙動で喉元に貫手を放って強引に口を塞がせた歌姫の図。

「……あの歌姫、マジで何者なんだよ?」

「オレが聞きたいくらいだ」

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