魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


肉壁と不本意極まりない噂

「だったら、俺達もついて行くぞ!この世界の事をどうでもいいなんていう奴らにリリィ達は任せられないし、お前達が何もしないなら俺がこの世界を救う!そのためには力が必要だ!神代魔法の力が!お前達についていけば神代魔法が手に入るんだろ!!」

 

 

非難しながら頼るという、意味不明な発言をかます天之河。そんな勝手に盛り上がる天之河に―――

 

 

「いや、場所は教えてやるから勝手に行けよ」

 

「そんな“甘い”考えでついて来んな。迷惑だ」

 

 

ハジメは鬱陶しげに、ソウジははっきりと“甘い”と切り捨てて冷めた視線を送って返した。そんなハジメとソウジに、愛子先生がおずおずと以前の二人の言葉を指摘する。

 

 

「南雲君、空山君、以前、今の私達では大迷宮に挑んでも返り討ちと言っていましたよね?」

 

「ああ、確かに言ったな。魔人族の《キライマスシリーズ》ならまだしも、魔人族の使役する他の魔物に苦戦しているんだからな。だが、はっきり言って一から神代魔法を手に入れる手伝いをするなんざ、オレ達にとっては時間のロスでしかない。わかったら、真の【オルクス大迷宮】でも、ライセンにある大迷宮にでも、好きなところに逝ってこい」

 

 

愛子先生の指摘にソウジがバッサリと返す。世界を越える手段を手に入れた暁には、クラスメイト達が便乗するくらいなら許容するが、彼等の神代魔法の取得の手伝いは本当にごめんだからだ。天之河が激しく睨んでくるが、勿論無視である。

そんなソウジに、否、ハジメとソウジに八重樫が再び話しかける。

 

 

「空山君、南雲君、お願いできないかしら。一度だけでいいから貴方達の攻略について行かせて欲しいの。一つだけでも神代魔法を持っているかいないかで、他の大迷宮攻略に決定的な差ができるから」

 

 

「…………」

 

「もちろん、寄生したところで、魔法は手に入らないことはわかっているわ。本当に助けられてばかりで、また頼ることになって、本当に申し訳ないけど、お願いします。もう一度、力を貸してください」

 

「鈴からもお願い。恵里ともう一度話し合うために強くなりたいの。だから、連れて行ってください!!」

 

「俺からも頼む、南雲、空山。もうこれ以上、何もできず、仲間や親友が倒れる姿を見るのだけは嫌なんだ……」

 

 

愛子先生の言葉から、八重樫が助力をして欲しいと懇願する。八重樫はソウジが天之河に対して言った“甘い”理由を正確に読み取っているようであり、また頼らなければならない事を心苦しく思っているのか、その顔は酷く強ばっている。

ずっと黙っていた谷口も八重樫に感化されて、必死な表情で頭を下げており、坂上も色々と堪えていたらしく、八重樫と谷口同様、深々と頭を下げている。

本当ならバッサリと断るところなのだが、ノイントやノインツェーンの存在が脳裏に過り、少々判断に困った。

 

何故なら、アタランテの話では“神の使徒”は何百、何千万といるそうだ。大軍殲滅兵器を多数用意してぶっ飛ばせばいいだけ、という考えは幾らなんでも傲りが過ぎるというものだ。

それなら、連中にぶつける戦力として天之河達に力を持たせておくのもいいのではないか?

ソウジはハジメに視線を送り、その視線の意味を理解したハジメも肩を竦めるだけで特に意見してこない。アタランテ達にも同様に確認するが、特に反対はしないようである。

 

 

「……なら、連中が仕掛けた時にぶつける肉壁前提で一度だけ同行を許してやる」

 

 

ソウジのその言葉に、八重樫達は言葉を失い、天之河は再び睨み付けてくる。他のクラスメイト達もソウジの物言いに「うわぁ……」と引いてしまっているが、そんな周りの反応に構わず、ソウジはこれからの事に思いを巡らせる。

旅の終わりが見えてきたが、順風満帆とはいかないだろう。それでも、理不尽が迫るなら、この世界で手に入れた“大切”と共にぶちのめし、共に故郷に、“家族”の下に帰る。

その決意を、ソウジは改めて誓うのであった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

ソウジは現在、依頼報告の為にアタランテ一緒にギルド本部へと向かっていた。ハジメとユエは八重樫の案内で大結界を張るアーティファクトの修繕に向かっており、他のメンバーは王宮でお留守番である。

ソウジとアタランテはホットドッグモドキを頬張りながら、王都のメインストリートを歩いているのだが……

 

 

「……何でお前達も付いてきているんだ?」

 

 

ソウジがジト目で背後を振り返った先には、フィアの“幻露”で一般市民に変装したアリアとフィアが付いてきていた。

 

 

「ここ数日はずっと王宮に籠りきりで暇だったからな。気分転換も兼ねてお前達に付いていっているんだよ」

 

「フフッ、トラブルメーカーのお二方に付いていけば、何か面白いものが見れるとお思いでしたしね?」

 

 

素の口調であっけからんと明かす赤髪のアリアに、失礼だが間違ってもいない理由を明かす人間姿の黄色い髪のフィア。

 

 

「後、あの脳内お花畑の勇者がスンゲェ煩いしな」

 

 

アリアのその発言に、ソウジとアタランテは確かにと同意する。

解散の前に、フィアが先の面倒事を避ける為、隠していた理由も含めてその正体を明かしたのだが、案の定、天之河が見事に暴走した。

フィアの首輪がカモフラージュであることや、奴隷ではなく使用人だという本人の弁を無視して、天之河は倫理観等をアリアに説いていったのだ。八重樫がその間に割って入ったが、天之河は聞く耳を持たず、今すぐフィアさんを奴隷から解放しろとか、人として恥ずかしくないのか、と身勝手な正義感をかざし続けたのだ。

 

当然、フィアはにこやかに笑顔を保ったまま、天之河を投げ飛ばそうとしたのだが、それより早くアリアが動き、天之河を一瞬で頭から地面に叩きつけたのだ。しかも、体を半分以上、地面にめり込ませて。

その光景に当然香織と八重樫、クラスメイト達は硬直。ソウジとハジメは「マジか……」とジト目でアリアを見やり、アタランテ達はアリアに称賛の拍手を送っていた。そんな周りに構うことなく、アリアは天之河の片足を掴んで引っこ抜いた後、こう言ったのだ。

 

 

「文句がおありでしたら、実力で示してください。もっとも、お子様である今の貴方様では無理でしょうが」

 

 

それだけ言い残し、アリアはフィアを連れてその場を立ち去ったのだ。その後、現実に戻ったクラスメイト達は「歌姫、やべぇ……」と思ったのは言うまでもない。

そんなこんなで、ソウジ達は冒険者ギルド王都本部へと辿り着く。冒険者達が忙しそうに出入りしているのを視界に収めつつ、ソウジ達はギルド内へと入り、本部のカウンターへと赴く。

本部の受付は全員美人だったが、ソウジは特に気にすることなく、受付カウンターへと向かっていく。アタランテの握る手が妙に力が込もっていた事に苦笑しつつ、辿り着いたカウンターで自身のステータスプレートと、ミュウをエリセンへ送り届けた事を証明する書類を提出していく。

 

 

「依頼の完了報告だが、フューレン支部のイルワ支部長に本部から伝えてもらうことはできるか?」

 

「はい?……指名依頼……でございますか?すいません、少々お待ちを…………!?」

 

 

受付孃は少し困惑しながらソウジのステータスプレートを確認すると、困惑の表情から一気にギョッとした表情へと変わり、何度もステータスプレートとソウジの顔を見比べていく。そして、慌てて立ち上がった。

 

 

「そ、空山ソウジ様で間違いございませんか?」

 

「?そうだがどうしてだ?」

 

「実は、空山様、もしくは南雲ハジメ様がギルドに訪れた際は、奥に通すようにと通達されておりまして……申し訳ありませんが、応接室までお越しいただけませんか?」

 

「……ハァ、今度はどんな面倒ごとなんだ?」

 

 

ソウジは溜め息を吐きつつも、渋々ながら受付孃の案内で応接室へと向かって行く。当然、アタランテ達も付いてきている。

応接室で待機して少し、ギルドマスターらしき顎鬚をたっぷりと生やした細目の老人が案内した受付孃と共に現れる。

マッチョジジイを思わせる老人―――バルス・ラプタは、単にイルワから自分達の事で連絡が来ていたから一目会っておきたかっただけのようだ。依頼達成報告もどうやら問題はないようだ。

用事も終わり、ソウジ達はギルドを後にしようとするのだが、それに待ったをかける人物が現れる。

 

 

「そこの君。随分とバルス殿に目を掛けられていたね?」

 

 

キザったらしいセリフ聞こえてきたが、ソウジ達は無視して出ていこうとするも、そのキザったらしいセリフを吐いたであろう金髪のイケメンがソウジ達の通り道を塞ぐように割って入った。

 

 

「この“金”ランク、“閃刃”のアベルを無視するなんて酷いじゃないか?かなり若いみたいだけど……どうせ、まともな方法で“金”になってないんだろ、君?」

 

 

金髪のイケメン―――アベルが毒を吐いた時点で、ソウジは相手にする価値は全くないと判断し、アベルを避けて出ていこうとするも、アベルは待たしても進路を塞いで立ちふさがる。

 

 

「全く、この僕が本物の―――」

 

 

アベルの言葉を最後まで聞かず、ソウジは一瞬でアベルの胸ぐらを掴んでポイッ!と捨てるように後ろへと投げ飛ばした。面倒を避けるためにわざわざ手加減して。

障害も排除したのでソウジ達は、今度こそギルドの外へ出ていこうとするも、アベルが吠えた。

 

 

「このクズがぁ!不正で“金”になったくせに調子にのるんじゃないよ!お前なんか、僕が本気になったら一瞬で―――」

 

 

アベルが剣を抜いて敵意を向けてきたので、ソウジは一瞬で距離を詰め、神速の抜刀速度でアベルの衣服だけを切り裂いた。ここで流血沙汰は著しく面倒だからだ。

パチンッ!と納刀した瞬間、衣服は細切れとなって床に落ちていく。一瞬で素っ裸になったアベルが羞恥から顔を真っ赤に染めた瞬間―――

 

 

「……二度と現れるな“ピー”野郎」

 

「アッーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 

アタランテによって、漢女の産声が上がった。

そのソウジとアタランテの鬼の所業に、アリアとフィア以外が戦慄する中、野太い乙女チックな声がソウジ達にかけられる。

 

 

「あらぁ~ん、見事な手際ねぇ~、ソウジさんにアタランテお姉様」

 

「……誰だ?」

 

 

劇画のような濃ゆい顔に二メートル近くある身長と全身を覆う筋肉の鎧。赤毛をツインテールにして可愛いらしいリボンで纏め、浴衣ドレスの服装に身を包んだ漢女に心辺りのないソウジは本気で誰だかわからなかった。

 

 

「あら、ごめんなさい。この姿じゃわからないわよねん?以前、ユエお姉様とアタランテお姉様に告白して、文字通り玉砕した男なのだけど……」

 

「……もしや、私が蹴り潰した男か?」

 

「そうよ。覚えててくれて嬉しいわぁ~。……あの時はごめんなさいね、アタランテお姉様……」

 

 

どうやら、ブルックの町で股間ブレイクされた元男のようである。ちなみに今はマリアベルと名乗っているそうだ。

その時、ギルド内からヒソヒソ声が上がり始めていく。

 

 

「お、思い出した……あいつら、“スマ・カル”だ!」

 

「えっ!?あの“決闘スマッシャー”と“股間スマッシャー”の“スマ・カル”なのか!?」

 

「……なんだよ、その“スマ・カル”って?」

 

「数ヶ月前に突然現れた冒険者のことだよ。金髪紅目と緑髪碧目の少女は息子殺しの乙女達、白髪眼帯の少年は理不尽権化で、灰髪バンダナの少年は裸族の生みの親と、ブルックから伝わっているんだよ。実際、フューレンでもホルアドでも息子を殺された奴が大勢いるらしんだぜ?」

 

「すごくコワイ」

 

 

その不本意な噂と二つ名が王都にまで広まっていることに、ソウジは頬をひきつらせていく。そして、マリアベルに今のブルックについて聞くと……

 

 

「最近はクリスタベル店長に弟子入りする子達が増えてきているのよねぇ。裸で楽しむバーも新しく出来て結構繁盛しているそうよ」

 

 

自分達の行動が最悪の事態を引き起こしていたことに、ソウジの表情は戦慄に歪む。アタランテは最初はよく理解していなかったが、ソウジの説明でその表情が強ばっていく。

今度から、ソウジは犬○家で追い払うことを決め、アタランテは潰した後は再生魔法で元に戻すことを決めるのであった。

ちなみに、アリアとフィアは笑いを堪えていたのだが、ソウジとアタランテはその事に気づくことはなかった。

 

 

 




「急いでハジメにこの事実を伝えないと……」“……ハジメ、聞こえるか?”

“ソウジか!?一体何のようだ!?悪いが後にしてくれ!今、おっさん達に……だからなんで俺の居場所がわかるんだよ!?”

“おい、マジで何が起きて……”

“悪いが切るぞ!!”

「……本当に向こうはどうなっているんだよ」

タイミングが悪かったソウジの図。※後に情報を共有し、互いに戦慄しました。

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