着陸した谷間にソウジ達が降りると、そこにはハウリア族以外の亜人族も百人近くいた。輸送馬車の中にいた亜人達はソウジ達に警戒と混乱の視線を向ける中、パルが颯爽と駆け寄り、ハジメとソウジの手前でビシッ!と見事な敬礼をする。
「お久しぶりです、ボス!教官!再びお会いできる日を心待ちにしておりました!このようなものに乗ってご登場するとは改めて感服致しましたっ!それと先程のご助力、感謝致しますっ!ボスッ!」
「久しぶりだな。まぁ、お前等なら、多少のダメージを食らう程度でどうにでもできただろうから気にするな」
「別れてから大分腕を上げていたのが一目でわかったぞ……成長したな」
口元に笑み浮かべたハジメとソウジのその言葉に、パル以外のハウリア族もハジメとソウジの手前に立って敬礼を決めつつ、感無量といった感じで瞳を滲ませ始めた。そして、一斉に踵を鳴らして足を揃え直し、見事にハモりながら声を張り上げた。
「「「「「恐縮でありますっ、Sir!!」」」」」
涙を堪えようと、若干目が血走り始めているハウリア族の姿に、ハジメ、ソウジ、ユエ、アタランテ、シア、アリア、フィアの七人は平然としているが、他のメンバーはドン引きである。坂上は「本当にハー○マン先生はスゲェぜ……」と呟いていたが。
とりあえず、シアが事情を聞き出そうした際―――
「パル君でなく“必滅のバルトフェルド”です。シアの姉御」
「まだその名前を使っているんですか?ラナさんも注意して下さいよぉ」
「……シア、私は“疾影のラナインフェリナ”よ」
「!?ラナさん!?何を―――」
「私は“空裂のミナステリア”!」
「!?」
「俺は“幻武のヤオゼリアス”!」
「!?」
「僕は“這斬のヨルガンダル”!」
「!?」
「ふっ、“霧雨のリキッドブレイク”だ」
「!?」
全員が中二病全開の二つ名を名乗り、香ばしいポーズを取ったことで、絶望に染まったシアの口からエクトプラズムが出てくる事となった。ちなみに、彼等の正式な名前は、頭の二文字だけだ。
数年後には恥ずかしさの余り地面をのたうち回ることをハジメが忠告しようとした瞬間、パルから流れ弾がハジメとソウジに飛んで来た。
「ちなみに、ボスは“紅き閃光の
「「……なに?」」
「ボスと教官の二つ名です。一族会議で丸十日の激論の末、この二つまで絞り込みましたが見事に膠着してしまいまして……それで最終判断をボスと教官に委ねようということで。ちなみに俺は“紅き閃光の輪舞曲”と“蒼き剣乱の円舞曲”派です」
「おい、なぜ二つ名を持つことが前提なんだ?」
「私は“白き爪牙の狂飆”と“灰燼もたらす瞬閃の颶風”です。ボス、教官」
「いや、人の話を……」
「何を言っているのよ疾影のラナインフェリナ。どう考えても“紅き閃光の輪舞曲”と“蒼き剣乱の円舞曲”が似合っているじゃない!!」
「いい加減に……」
「そうだ!紅い魔力とスパークを迸らせて、宙を自在に飛び回りながら様々な武器を使いこなす様は、まさに“紅き閃光の輪舞曲”!蒼い魔力と同じく蒼い焔を噴かせ、舞を奏でるように二つの剣を振るう様は、“蒼き剣乱の円舞曲”が似合っているだろ!JK」
「よ、よせっ」
「マジで止めてくれ。それ以上は―――」
「這斬のヨルガンダルよ。それを言ったら、あの白髪をなびかせて、獣王の爪牙とも言うべき強力な武器を両手に暴風の如き怒涛の攻撃を繰り出す様は“白き爪牙の狂飆”、あの灰色の髪と塵にするほどの火力、残像すら残さない嵐のような至上の一閃を繰り出す様は、“灰燼もたらす瞬閃の颶風”以外に表現しようがないと、どうしてわからない?いつから、そんなに耄碌しちまったんだ?」
「「…………」」
あまりにもイタ恥ずかしい解説付き二つ名のサプライズプレゼントに、ハジメとソウジの精神がついに限界を迎え、シアと同じく口からエクトプラズムが流れ出始めた。仲良く正体不明のエネルギーを口から出す三人の背後で、ブフッ!と吹き出す声が響いた。
「だ、ダメだよ、シズシズ、ぶふっ!」
「す、鈴だって……くふっ」
ハジメとソウジが我を取り戻して背後に振り返ると、八重樫と谷口が全く堪えていない笑いを必死に堪えているところであった。
とりあえず、激論を交わし続けるパル達を、竜殺剣を地面に叩きつけて黙らせてからゴム弾で吹っ飛ばし、未だに小刻みに震えている八重樫と谷口に向かって恨めしげな眼差しを向けた。
「八重樫、後で強制ツインテールピンクリボン付きに加え、以前香織がお前に似合いそうだと購入したゴスロリ衣装を服の上から被せてやる。もちろん記録映像も残してな」
「!?」
「谷口、お前の身長を五センチ縮めてやる」
「!?」
ハジメとソウジのその言葉に、八重樫と谷口の笑いがピタリと止まり、表情が戦慄に染まっていく。幾ら理不尽極まりない八つ当たりだとしても、完全に本気の目となっているハジメとソウジが動けば、二人抗う暇もなくやられるからだ。
そんなハジメとソウジに、両手と足首に金属の枷をはめられている金髪碧眼の森人族の美少女が話しかける。
「あの……宜しいでしょうか?」
「ん?なんだ?」
「あなた達は、南雲ハジメ殿と空山ソウジ殿で間違いありませんか?」
「?確かに、そうだが……」
「……では、わたくし達を捕らえて奴隷にするということはないと思って宜しいですか?祖父から、あなた達の種族の価値観は良くも悪くも平等だと聞いておりますので……」
「祖父?もしかして、アルフレリックか?」
ソウジのその質問に森人族の美少女―――アルテナ・ハイピストは肯定しつつ自己紹介を行った。どうやら、フェアベルゲンでかなり面倒ごとが起きていたと察しつつ、改めてパル達に事情を聞く必要が出てくるのであった。
――――――――――――――――――――――――
ソウジ達は枷を外した亜人達を全員フェルニルに乗せ、ブリッジでパル達に話を聞いていた。
「……やっぱり魔人族は帝国と樹海にも手を出していたのか」
「肯定です。帝国の詳細は不明ですが、樹海の方は強力な魔物の群れにやられました。事前に情報を収集し、あらかじめ作っておいたトラップ地帯に誘導できなければ、俺達もかなりヤバかったです」
パル達曰く、樹海にも魔人族が魔物を引き連れてやって来たようだ。【ハルツィナ樹海】は大迷宮の一つとして名が通っているから、神代魔法目当てだったのだろう。
当然、フェアベルゲンの戦士達が最大戦力をもって駆逐しにかかったのだが、魔人族が連れてきた魔物達を前に、彼らは次々と返り討ちにあっていった。
「特に連中が談笑で話題を上げていた体長三メートル、人の上半身がくっついたような大蜘蛛―――《キライマスシリーズ》No.4・タイラントと呼ばれていたやつが一番ヤバかったです。下手をすればあれ一体で全滅もありえました」
その魔物の中でもタイラントと呼ばれていた大蜘蛛型の魔物が、十二の瞳を一斉に光らせた瞬間、その光を浴びたフェアベルゲンの戦士達は、急に魔人族の捨て駒のように他のフェアベルゲンの戦士達に襲いかかっていったのだ。当然、フェアベルゲンの戦士達は自分達に襲いかかる同胞に激しく動揺してしまい、なすすべなく彼らに殺されていった。
そのタイラント自身も糸を飛ばし、絡めとった相手をミイラのように萎ませていき、次々と刈り取っていったのだ。その光景にフェアベルゲンの戦士達の多くが絶望し、戦意喪失に陥りかけた。
そして、魔人族の目的が大迷宮だと知った長老達は彼らに大樹の情報を教えることにして、これ以上の犠牲を増やさないようにしようとしたが、魔人族は亜人達を駆逐してから大迷宮に挑むと言い放ち、フェアベルゲンに牙を向いていった。
その状況で以前、ハウリア族に返り討ちにされたレギンが恥も外聞もなく、新たな集落を築いていたハウリア族に助けを乞うたのだ。
―――助けて欲しい、力を貸して欲しい。と
レギンのその願いに、カム達は応えた。勿論、フェアベルゲンの為でなく、ボスと教官の望みを潰えるのを防ぐ為に参戦を決意し、 自分達が敬愛するボスと教官の為にその刃を掲げたのだ。これにより、レギンがトラウマを植え付けられることとなったが別にいだろう。
参戦したハウリア達は、最初はフェアベルゲンの外側から各個撃破で魔物達を仕留め、情報を集めていった。
だが、タイラントだけは一体だけの上に、光を浴びた対象を洗脳する能力から実地で確かめるのは危険と判断し、魔人族の監視と諜報に徹してタイラントの情報を集めたのだ。
「その諜報の結果、タイラントは認識した対象に眼から放つ光を浴びせることで対象を一瞬で洗脳できるということと、糸で吸血し、自身の魔力に変換する能力を持っているということが判明しました」
その情報を元に、ハウリア達は一番厄介と見定めたタイラントの討伐に動きだした。
まず、ハウリア達は姿を隠したまま、巧みな気配操作でタイラントに自分達の気配を察知させ、自分達を追わせたのだ。タイラントはその気配の主達を操ろうと追いかけていった結果―――
「そうして蜘蛛野郎を糸を避けつつトラップ地帯に誘き出し、事前に用意していた手動で落とす直径五メートル、深さ十五メートル、底に幾つもの木の杭を設置した落とし穴に落とした後、岩石と火種、よく乾燥させた草木を大量に放り投げ、最後にタイミングを見計らってから土をぶちこみ、地中に埋めて始末しました」
「……そうか」
「……本当に強くなったな、お前ら」
「「「「「恐縮でありますっ!!」」」」」
あのキライマスシリーズの一体を見事に仕留めたハウリア達に、八重樫達は思わず敬意を込めた視線を送ってしまう。
その後、配下の魔物が相当減り、タイラントも失った魔人族達は、ハウリア族の挑発にまんまと乗ってしまい、トラップの餌食と、カムの騙し討ちによって、見事に殲滅の一途を辿ったのだ。
そんな若干の被害を出したハウリア族のおかげで、甚大な被害を受けつつも窮地を脱したフェアベルゲンに、警備が薄くなった隙を突くように新たな襲撃者達が現れる。
その襲撃者達は……帝国兵達だった。
「ま、まさか龍太郎もあんな風になるのか……?」
「もしそうなら、全力で止めないと……私達の心のために……」
「う、うん……あんな龍太郎君は見たくないからね……後、あんな二つ名を襲名されたくないし……」
「大丈夫だろう。シアも調理用の菜箸とお玉に“サイヴァンシュルスタ”と“タマーティアウス”と命名しているからな」
(((あっ、遺伝なんだ)))
特訓ではなく血だと察した雫達の図。
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