響奏exchange   作:非人間

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 地の文と会話のバランスが保てない……
(役:地の文が多く読みにくいので注意してください)


第2話

 ノイズとは一体何なのか。その答えにたどり着けた現代人は、残念ながら未だ存在しない。

 有史以前から存在を確認されていて、国連総会で認定特異災害とされる程の未知の存在であること。

 歴史上に存在する異形の類の殆どがノイズ由来のものであるとも言われていて、学校の教科書にも載る程に知名度が高いこと。

 空間から突如滲み出るように発生し、人間だけを大群で襲うこと。

 触れた人間を自分諸共炭素の塊に転換させる能力と、自分の存在度を自由に操作する事で人間側からの干渉を無効化能力という、対人間用の最強の盾と矛持っているという事。

 基本的に意思の疎通や制御は不可能なこと。

 人類が持っているノイズについての知識はこの程度のものだ。十分な量にも思えるかもしれないが有史以前から存在していたことが確認されていたということは、数千年、下手をすれば万に届くほどの年限の中でこの程度の量の情報しか得られていないということだ。人類はノイズが何でできているのかも知らないし、誰かに作られたものなのか、それとも自然に発生したものなのか、そもそも何を目的にして人類だけを襲うのか。ノイズについての根幹的な情報を人類はまだ持っていなかった。

 だが、今はそんな事はどうでもいい。重要なのは人間がノイズに触れれば基本的に死ぬという事と、現代の人類にノイズを屠る手段はないという事と、こいつらが瞬間的にとはいえ自動車と同等またはそれ以上のスピードで移動するという事で、そんな連中に狙われた天羽奏の身の安全だった。

 

 * * *

 

「何がレジから離れたところを見たことがないだ!!客置いて一人で逃げ出すようなヘタレじゃねーか!!」

 

 ヘッドホンを外した瞬間、奏の耳に大音量の警報が飛び込んできた。ノイズの発生を知らせる時にだけ鳴るものだった。

 最初に突撃してきたノイズを何とか躱した直後、天井の一部が落ちてきた。確かにノイズは人間に接触することを最優先にする。だが、そもそも二次災害的に発生した瓦礫に頭でもぶつけようものなら、その時点で奏は命を落としてもおかしくはない。すぐさま駆け出した奏は、何とかレジカウンターの下に身を滑り込ませる。が、

 

(あ、ヤベェしくじった)

 

 すぐに失策を悟る。奏が行動を起こした直後からすぐに、第二第三のノイズが断続的に降り注いできた。十を超えるか超えないかという数のノイズが天井をぶち抜いて地面に突き刺さる。

 だがいかにノイズが人間の気配を感じとことができるとはいえ流石に透視能力の類は持ち合わせていなかったらしい。奇跡的な幸運で奏はその命を繋いだ。

 更に奏での幸運は続く。今回襲撃してきたノイズは全てフライトノイズ型だったのだ。フライトノイズとは読んで字のごとく空飛ぶノイズさんだ。移動速度は全ノイズ中最高クラス、空を飛べることについての利点など語るまでもない。では何故奏は幸運だったのか。それはこの種のノイズの攻撃手段の乏しさにある。

 炭素転換という対人間最強の矛を等しく有するノイズ達だが、その武器を使用するための条件は、総じて人間に接触する事である。一部ノイズは遠距離攻撃が可能だが、フライトノイズはその中に入っておらず、それどころか有している攻撃手段は高高度からの直線的な落下だけだった。

 勿論それは充分人類にとって脅威的な攻撃だが、事今のような状況、つまり閉所の地面に突き刺さっているような状況では、再び飛び上がり助走をつけての再落下しか手がないのだ。すぐ隣に獲物がいるにも関わらず。確かにその場で飛び上がり、ほんのちょっとでも奏に触れることができたのなら、それだけでノイズ側の勝利だろう。だが店の中は狭すぎた。店長の趣味だったのか何なのかは判然としないが、この店は余計なものに見える雑貨やアンティークに満ち溢れていた。ただでさえ裏路地にひっそりと立地している店なのだ、そんな店の中にかなりのサイズを誇るノイズ達が自由に羽を広げる空間などなかった。よっても自分たちの存在率を極限にまで下げたノイズ達はそのまま奏でを放置し、一斉に空に飛び立った。

 特別ノイズの挙動に詳しかったということもなかった奏だが、ノイズ達が一斉に飛んで行ったのを見やり、本能的にこのままここにいれば死ぬことになると察し店の外へ逃げ出した。

 と、ちょうどそのタイミングでノイズ達が再び降り注いで来たため、充分に逃走する時間を確保することができた。

 

「シェルターに向かう……ダメだ、あそこももう今頃閉まってるはず、今更行っても入れてもらえねぇ」

 

 どれ程の時間警報を聞き逃していたのかは分からないが、CDショップで経過した時間と現在地からシェルターまでの距離を己の足で走っていては、きっと間に合わないだろう、と奏は判断を下す。いかにノイズが人類にとって脅威的な存在であるといえども、人一人がノイズに遭遇する確率は東京都民が一生涯に通り魔事件に会う確率を下回るとされている。つまりそういくつもいくつもシェルターを作るわけにもいかないという事だ。

 基本的に有事の際には特異災害対策機動部一課などという仰々しい名前の組織が駆り出されることになる。ノイズが発生したのを確認してから出されるノイズ警報だけでは、市民の避難が間に合う事の方が稀だ。彼等の仕事は避難誘導、ノイズの進路変更、及び被害処理など多岐に渡り、避難中の市民をシェルターへ移送するのも彼等の仕事となる。とはいえ彼等も公務員、その命をお国に守られることを約束された方々でもある。周囲を見回してみても人っ子一人いない事から、彼等も既に撤退していることが窺える。

 

「となれば後はノイズの自壊時間まで耐えるしかねぇか」

 

 こんな状況でも、奏が諦める様子はない。そうだ、ノイズだけには(・・・・・・・)殺されるわけにはいかない。ノイズだけには……

 

 遠くに歩行型ノイズの大群を見つけた。

 フライトノイズの群れが追いついてきたのが見えた。

 目の前に目をと耳を塞ぎ座り込んでいる幼女を見つけた。

 

 一瞬、頭が真っ白になる、自分が何から逃げているのかも、今見つけたノイズへの危機感も、目の前の少女の安否すら忘れて。

 その幼女の姿が、余りにもいつかの自分(・・・・・・)にそっくりだったから。

 

「ッ!?ついて来い、逃げるぞ!!」

「えっ?」

 

 幼女に駆け寄り手を取る奏。手を引き走り出した瞬間、幼女の元いた場所にノイズが複数体突撃していた。そのまま止まることなく幼女を固く抱え込み、前回り受け身を三連続、その度にその影にノイズが突き刺さる。

 

「くそッ、おい大丈夫か!?」

「うん、ありがとうお姉ちゃん」

「礼はいいから口閉じてろ、舌噛むぞ」

 

 ノイズ達の硬直の隙をつき態勢を立て直す奏。幼女を抱えたまま一気に加速する。

 

「このまま路地を走り続ける。後ろからノイズがきてないか見ておいてくれないか?」

「うん、分かった!!」

 

 与えられた役割に集中して、恐怖を忘れる事を期待して指令を出すと、思っていたより大きく返事をする幼女。後ろに身を乗り出し、ノイズを観察し始める。少し抱えづらくなったものの、恐怖で泣き出すよりはましだと考え、少しはしゃぎ過ぎな少女を宥めつつ走る。

 突撃してきた数体のフライトノイズを、狭い路地に入ることで何体か振り切り、壁を使った三段跳びで回避する。路地を抜けると左方からノイズが迫ってきているのを確認し、右折、宣言通り速度を上げるべく、ストライドを広げる奏。

 何かを踏む。

 

「やっべ」

 

 それは黒い粉末の山で、つまりは誰かの残骸だった。恐らく今の奏達のように裏路地から出たところをノイズに狙われたのだろう。その山の傍には見慣れた、店長が掛けていたような眼鏡が転がっていた。

 

「またお前かよッ!?」

 

 かなりのスピードで走っていた奏は、その炭素の塊に文字通り足を引っ張られ、足を滑らせる。幼女だけは守ろうと再び固く抱きしめるも転倒は免れず、全身に擦り傷を作りながら盛大にすっ転ぶ。

 

「お姉ちゃん大丈夫?」

「問題ねぇよこのぐらい。お前ももう立てるか?すぐに走るぞ」

 

 奏は気丈に振る舞うも、疲労がピークに達している状態でこのアクシデント、足を捻り、打ち身もあった。とても立ち上がれるような状況ではなく、何度か立ち上がろうとするものの、痛みに顔を歪め膝をつく。奏が立ち上がれない事を理解したのか、幼女の瞳に涙が浮かぶ。既に助かる事を諦めてしまったように顔を絶望に染める幼女を見て、周囲をぐるりとノイズに囲まれて、上空にもノイズがひしめいていて、それでもなお奏の心に諦めという感情は浮かばない。

 

「諦めてたまるか……」

 

 絞り出すように、叩きつけるように呟く奏。それは幼女への鼓舞であり、ノイズ達への宣言であり、自分自身への戒めだった。

 

「生きるのを諦めてたまるかッ!!」

 

 瞬間、全身に走る奇妙な感覚。

 全身の組織が崩壊していくような感覚と、全身が完全な状態に作り変えられていくような感覚が同居する。全身の血液が煮え立ちそうな感覚と、全身の血液がまるで別の液体に置き換えられて行くような感覚が断続的に発生し続ける。遠のきそうになる意識とは裏腹に、徐々に研ぎ澄まされて行く感覚は、とある存在を捉えていた。

 それは槍であるように感じられた。

 引き抜かれたが最後、所有者に勝利だけを齎す無双の一振り。

 もしこの槍がこの場にあったのならば、自分の手中にあったもならば、あらゆる理不尽を振り払えるのだろうと、そう確信させるほどの存在感。

 そこまで思考が到達した瞬間、全身に広がっていた違和感が胸元の一点に集中したのを感じた。

 

「ガッ、アァッ、グゥォォォッ!!」

 

 凝縮して行く違和感に呼吸もままならない。獣のような叫びが口から漏れる。そしてその咆哮に合わせて、奏の体から衝撃波が迸る。徐々に力を増して行くそれは、何故か幼女には影響せず、ノイズ達だけを押しとどめていた。

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ」

「お姉ちゃん!?」

 

 違和感が頂点へ、広がる衝撃もより強力に、槍のイメージはもうまるでそこにあるかのように、

 

「い゛や゛、間違いなくそこにあるッ!!」

 

 手を伸ばす、何かを掴む為に。

 それを握る、襲い来る破滅を退ける為に。

 槍を引き抜く、目の前の外敵に、確定的な破滅を与える為に。

 

Croitzal ronzell Gungnir zizzl(人と死しても、戦士と生きる)

 

 突き出した手には、槍が握られていた。身の丈よりも大きい突撃槍が。腕には腕甲、脚には脚甲が装着されているのに、服装は元のリディアン制服のままで。

 

「アタシがお前を守るから、頼むッ!!

 生きるのを諦めないでくれッ!!」

 

 胸に響く歌のままに槍を振るう。伴って発されたエネルギーが、周囲のノイズを屠り尽くした。

 

《無()・ガングニール》




 《無双・ガングニール》は完全にオリジナルのタイトルです。何故そんなもんが出てきたのかってそんなの奏さんの持ち歌が少なすぎるからってだけです。
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