響奏exchange 作:非人間
「お姉ちゃんすごい!!なにそれなにそれ、今ビーム出たよ、ビーム!!」
「ふっふっふ、聞いて驚けこいつはなぁ……なんだこれ」
「分からないの?」
「全然分からねぇしこれっぽっちも心当たらねぇ」
なんか突然出てきた槍と、オマケのように付いてきた手足の装飾に冷静さを奪われ、緊迫した状況の筈なのに少し和やかな雰囲気を醸し出してしまう奏と幼女。
「でもでも、お姉ちゃんすっごく格好良かったよ!!」
「そうかぁ、お姉ちゃん格好良かったかぁ。じゃあもうお姉ちゃんが最強に格好いいってことだけ分かってれば良いんじゃないか?」
「お姉ちゃん、私知ってるよ。そーゆーの、しこーてーしって言うんだよ」
記憶を遡っていった結果、何となく心当たるような出来事があったのは思い出したが、それがどうこの現象に繋がるのかが理解不能だった為、余分な思考を投げ捨てる。
「そろそろアイツらの相手もしてやらなきゃな、もう我慢の限界みてぇだ」
「大丈夫なの?」
「問題ねぇよ。ただちょっと危ねぇからあんま離れんなよ?」
幼女の返事に頭を撫でることで答える奏。槍を肩に担ぎ上げ、胸の内から響いて来る詩を歌い上げる。今まで体を襲っていた違和感が、そのまま形を変えたように生まれて来る旋律に、理不尽への叛意を乗せて。
それに呼応するかのように襲い来るノイズ達。幼女から離れすぎないように注意しつつ一体一体を丁寧に打ちはらう。いくらノイズに対抗し得る武器を手に入れたとはいえノイズのすべての能力を封じれたわけではない。触れるだけで人を炭化させる能力は健在、生身でノイズに対する奏は倒したノイズから発生する煤にも触れないよう、慎重に立ち回る。
「すごい!!お姉ちゃん格好いい!!」
「緊張感削がれるなぁ……」
肝が座りすぎているのか、それとも現実感を失った目の前の光景がヒーローショーにでも見えているのか、無邪気に声援を送る幼女。興奮に染まるその様を流し見て苦笑が浮かぶ。
「そんな目ぇされると、格好良いとこ見せたくなっちまうじゃねぇか」
決してノイズを侮っている訳でも、降って湧いた力に奢っている訳でも無く、純粋に気分が盛り上がってきたから。槍から何かが伝わって来るのだ、自分の性能はこの程度ではないと。
ノイズ達の動きにも変化が現れる。このまま単調に攻めていても埒が明かないと判断したのか、それともこれ以上奏にいい格好をさせないためなのか、一旦攻めの手を緩め一箇所に集合する。まぁ、ノイズがそんな思考を持つわけがないのだが。
「何のつもりだ?」
「お姉ちゃん、これアレの流れだよ」
「これだのアレだのでわかる訳ないだろ。何だよアレって」
ノイズ達の行動に覚えがあるらしい幼女が、ふわふわした代名詞だけで先の展開を知らせて来るも、当然奏が察し切れる訳もなく、先を促すことになる。幼女が口を開こうとしたところでノイズ達がはっきりと動き出す。
一斉に体を
困惑を顕にした奏は、再び幼女に続きを促す。
「おい、アイツらマジで何し始めてんだよ」
「決まってるでしょ、合体だよ」
「が、合体ッ!?」
幼女の言葉と同時だった。溶けて液体となった、元ノイズ達が混ざり合い、形を成し始めたのは。様々な色のノイズ達が混ざり合い極彩色を呈していたそれは、緑一色に染まりきり、10メートルほどの巨体となす。
「マジかよこれ……」
「でも大丈夫だよ、お姉ちゃん。巨大化は負けフラグだから」
「ここはニチアサのスーパーヒーロータイムじゃねぇんだぞ!?」
当然合体して、巨大化迄して、弱体化するわけがない。そこそこ狭かった路地に現れた巨体は、両隣の建物を踏み潰し、膨大な量の瓦礫と濃密な土煙を発生させる。
幼女のすぐ側まで駆け寄り、槍を高速で回転させる事で瓦礫と土煙を弾く奏は、幼女の顔に不安の色がさし始めるのを認め、励ましの言葉をかける。
「お姉ちゃん……?」
「心配すんな、アタシがちゃんと守ってやるから」
時々大きめの瓦礫が勢い良く飛んで来るのは、ノイズが弾いているからなのだろうか、明らかに他と違う飛来物が混ざる為、迂闊に防御の姿勢を崩せない奏。大きい方の瓦礫は、回している槍だけでは防ぎきれない為、回転を止め、素早く処理しなければならなかった。その結果、幼女を抱えて後退する隙も見出せず、硬直状態に。
(またミスったな……最初の一手で逃げ出すべきだった)
急激に上昇した自分の身体能力を把握し切れていなかったのか、処理し切れると想定してとった行動に足を縛られる。土煙が薄くなってきた事に、状況を動かすことを決めるも、そんな奏の視界に写り込んできたのは、凄まじい勢いで打ち込まれる、ノイズの巨大な腕だった。
「グゥッ!?」
「キャアアアァァァッッッ!?」
即座に防御姿勢を解き、槍を間に挟み込む。勢いの落ちてきた瓦礫が幾つか身体にぶつかるが、兎にも角にもノイズに触れられる訳には行かない。幸い腕甲に包まれた手の心配はしなくてもいいようだ。幼女の身体に瓦礫が当たらないように位置を調整しながら抱き抱え、衝撃に合わせて一気に後ろに跳躍する。10メートルサイズのノイズ相応の重さの込められた一撃に体の芯まで揺さ振られるも、どうにか幼女だけには影響が行かないように、衝撃を相殺するが、そのまま地面に叩きつけられる奏。墜落の瞬間に、槍及び手足から、謎のエネルギーが地面に向けて一気に放出された為、着地の際の衝撃はほとんど感じなかった。
「大丈夫だったか?怪我はないか?」
「私なんかよりもお姉ちゃんの方が……」
身体中を擦り切り血を滲ませ、制服は至る所がボロボロで、誰がどう見ても満身創痍、ノイズの攻撃の影響で身体の内側にも必ず影響は出ている。それでも、
「アタシは大丈夫だよ。なんか今、すっげぇ体の調子が良いんだ」
それでもニヤリと、不敵に笑う奏。そこにはもう幼女を気遣う余裕は見えず、獰猛な闘気をノイズにぶつける姿しか無かった。幼女を置いて、槍を肩に担ぎ上げながら立ち上がる。
そのまま回れ右。綺麗にその場で半回転しノイズに向き直る。既に攻撃態勢に入っていたノイズ、先程二人を弾き飛ばした一撃を、今度は大胆な踏み込みで打ち込んで来る。担ぎ上げたばかりの槍を肩から下ろし、右足を半歩下げ半身の姿勢をとると同時に、肩と背中を適度に引きしぼり片手で槍を構える。ノイズの一撃が迫る中ゆったりと構えをとり、タイミングを計る。攻撃が射程に入る瞬間を読み取りタイミングを合わせ短くステップイン。槍と拳がぶつかり合った瞬間に地面が沈み、アスファルトがめくれ上がる。が、そんな中でも奏は膝を屈さず、泰然と立ち続ける。
「随分と上等かましてくれたじゃねぇか、なぁ」
槍を片手で掲げたままの姿から、チンピラじみた台詞で煽りが入れられる。体格差を考えればまずありえない拮抗、体長約10メートルの怪物の一撃が、身長170センチ弱の女子高生に受け止められていた。当然、万全の体制で攻撃した怪物が手を抜く理由はないし、そもそも脊髄(それがあるかも怪しい)反射で動いているようなやつに手を抜くなんて知能があるとはとても思えない、つまり怪物の全力が受け止められていた。よくよく見てみれば、槍の穂先は奏の腕に合わせてプルプル震えているし、手足の防具からは蒸気が吐き出されていた。奏の顔が苦悶歪んでいる事からも奏が限界以上の力を叩きつけていることもわかる。
では何故そんなことをしたのか。
さっき学んだばかりだ、必要以上に攻撃を受け止めれば足が止まる。足が止まれば次の攻撃が躱せない。
では、何故。
(感じるぜ、お前の叫び)
奏には聴こえていた、槍が響かせる怒りの声が。俺の力はこんな物じゃない、もっと上手く使え、俺を掴みながら無様を晒すんじゃない、この上なく奏を貶すその声が。
(止められねぇと思ってたが……んだよ、出来るじゃねぇかこの槍)
そう、つまりは測ったのだ、この槍の力を。出来るというのならばやってみろとでも言うように。
結果槍は応えた。胸に詩が浮かぶ速度が加速度的に増していく、奏が歌いきれない程に。歌い零した詩は違和感へと変換され、奏の全身を締め付けていく。
(今はそんなもん無視だ無視、それより先にやることがある)
変身前は膝をついて絶叫していたような痛みを、意思の力でねじ伏せる。この槍は応えてくれたのだ、自分の呼びかけに。自分の命と、幼女の命と、あとついでに背負った建物への被害を奏が勝手にベットした賭けに、この槍は打ち勝ってみせたのだ。ならば今度は奏の番だ。気合を見せる必要はない。ただ、勝手に賭けを始めたのが奏であるのならば、勝利者にその配当を配るのは奏の仕事であるべきで、ただそれだけのこと。
「歯ぁ食い縛りやがれ……ッ!!」
槍が望む報酬は、己のスペックが十全に果たされること。ならば奏はその意思に報いなければならない。
奏の気合に呼応するように肥大化していく槍の穂先は、押し合いのままだったノイズの拳を、肥大化の衝撃だけで吹き飛ばす。転倒したノイズは、自分の体の半分ほどのサイズにまで穂先を肥大化させた槍と対面することになる。そして穂先が回転を始める。周りの瓦礫を全て巻き込む程の竜巻を発生させながら、振りかぶられる。
絞り出すように張り上げられた悲鳴を、奏でる旋律に添えて放つ。
「叩きつけろ、
《LAST∞METEOR》
叩きつけられた竜巻に触れた瞬間にノイズはチリとなり、後方の建物と共に吹き飛ばされる。奏の一撃は、ノイズと共に、路地裏の一角を完全に崩壊させていた。
「ハァッ、ハァッ、ハァ、フゥー……、ガハッ、ゴホッ」
「お姉ちゃん、怖かった」
「あ、あァ。悪、かった。ごめん、な。余裕、なくて」
「ううん、怖かったけどね、やっぱり格好良かったよお姉ちゃん」
息が切れ、謝罪に余力を割いた奏はには、歌うだけの余力が残っていなかった。体に堆積する違和感は既に臨界点を超え始め、奏の全身を蝕む。
が次の瞬間、槍が弾ける。それに続くように腕甲と脚甲が光の粒子となって消えていく。違和感の堆積は止まり体が少し楽になるのと同時に、さっきまで感じていた全能感が消えていく。
(でもいいんだこれで。守り抜いたんだこの子を)
幼女の頭をくしゃくしゃと撫でながら、微笑む奏。
激闘を制した奏に送られたのは、追加発注された
「なっ……ぉ、あ?」
大方先程の衝撃に引き寄せられた、という所だろうか。誰もノイズがあれで最後だとは言っていない。奏が勝手に糠喜びして、勝手に絶望しているだけ。気を抜かずに気張り続けていれば、まだ槍を振るうことは出来たのかもしれないが、それはもしもの話。戦場で気を抜いて矛を収めた奏に、もう槍は応えない。変身が解けた瞬間から、思い出したように再浮上してきた痛みの所為で、幼女の手を取り逃げる事も出来ない。もう奏の力でできることは何も無い。あとは無様に死を待つだけ。そんな奏に畳み掛けるように掛けられたのは、 咤の声だった。
「
《絶刀・天羽々斬》
知っている声だった。いつも聞いている声だった。バイクの走行音と共に現れたのは、間違いなく風鳴翼だった。バイクを蹴り上げ片方のノイズの顔にぶつけ、一手稼いだ翼は、もう片方のノイズを攻撃する。
《蒼ノ一閃》
巨大な刀から放たれた青い斬撃が、一撃かつ最小の被害で巨大ノイズを消滅させる。思いのほか素早く態勢を立て直したノイズが、コンパクトに纏めた拳を振るうが、素早く着地及び再跳躍を決めた翼に軽々と躱される。最高点に到達した翼は、巨大な刀を前方に放る。すると刀が更に肥大化して行き、先程までとは比べ物にならないほどのサイズに。サイズの割に小さな柄部分に蹴りを入れ、そのままの態勢でノイズに突撃する翼。
《天ノ逆鱗》
一瞬だった。風鳴翼は、奏が全身をボロボロにしながらなんとか一体倒したノイズを二体纏めて、時間にして10秒ほどで瞬殺してしまった。
「なんだ、今の……。すげぇ……」
「お姉ちゃんより青いお姉ちゃんの方が格好良かったね」
うるせぇと突っ込む余裕がなくなるほどに惚けていた。
そんな奏達を、巨大化させた剣の上から睥睨する翼。
「はい、敵対行動は確認できません。私の到着に驚愕以外の反応をほぼ示さなかったこと、後ろに一般市民を庇いながら傷を負っていること、及びあの程度のノイズに遅れをとったことなどから、他国のエージェントという線は薄いと思われます。おそらく、何かしらの事情で偶発的に資格を得た、急拵えの奏者かと。はい、拘束します」
相当の高さで呟いていたため、ほぼ聴き取れなかったが、それだけは耳に入ってきた。もしや自分が、もしくは隣の幼女がなにかやらかしてしまったのだろうか。剣から飛び降りてくる風鳴翼から、全力で逃げ出したかったが、体が動きそうにない。
「今拘束するって言ってなかったか?」
「ああそう言った。無意味だろうが、抵抗してみるか?」
ちょっと話しかけてみたら、めちゃくちゃ睨まれた。いつもは歌声として、画面越し、端末越しに聞いていた声を生で聴くと、心臓が止まりそうになるくらいドスが効いていた。
「いや、やめとくよ。もう動けそうもないし、別に何もやってないし……、た、建物壊したぐらいだしっ?」
「そうしてもらえると助かる。こちらにも貴方達と争う理由は無い。心配しているようなら言っておくが、別に建物を破壊した事を咎めようという訳では無いぞ」
両手を挙げて、無抵抗の意を示せば、幾分優しい声が返ってくる。ふと思い当たった心配ごとが否定され、じゃあもう拘束される理由なんてあの槍のことしか残ってないよなぁ、と勝手に察しをつける。
とそこへ、相変わらず肝の座った幼女が割り込んでくる。
「あの、……わ、私はどうなるんですか?」
「君をどうこうしようという気はこちらには無い。既に君の両親は発見されている、少し待てば直ぐに会えるだろう」
「本当ですかっ!?」
「ああ」
更に優しくなる声。幼女と話すには堅苦しい言葉遣いだが、声色は奏との会話の時より格段に柔らかくなっている。
「すまん、最後に一つだけいいか?」
「今度はなんだ?」
「ルームメイトに遅くなりそうってのと、シェルターには行けなかったけど無事だって連絡したいんだけど」
「その程度であれば構わない。だが恐らくお前の私物はこちらで預かることになる。疑いはしないが、そこで己が不利になるようなことは慎んだほうがいいぞ」
「うぃーっす」
奏の気の無い返事に翼が眉をひそめた直後に、翼が所属している組織、その名も特異災害対策機動部二課の車が到着した。
奏の逃走劇は、なんとか勝利と言えなくも無い結果に終了した。
どうやってズバババンにバイクを破壊させるかだけを考えて書いた一話。
もっと無意味に、もっとド派手に壊したかった……