勇者ちゃんのお隣さん。   作:黒幕系神父

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勇者とは

異世界。それの存在は、自分が死ぬ前になんとなくあると知っていた。

だって、あの時。俺はある世界を否定したのだから。

平行世界。ifと呼ばれる物。ソレを知っている。

だからこそ、異世界と呼ばれるものに順応するのにソレほど時間は掛からなかった。

 

 

 

ただ、救いたかった。

愛した女がいた。その女は悲劇的な運命が決まっていた。だから、助けたかった。

 

その為に全てを捨てた。

 

 

 

今では、地獄のような修行の影響からかそのことはほとんど記憶にない。

 

本来の身体とは違う精神。前世という強烈なファクターが、無理をしたことで俺に全てを失わせた。

初めは、かつてどのような考え方をしていたか、信念を忘れた。

その次に、全ての名前を忘れた。

最後には、思い出を綺麗さっぱり無くした。

磨耗して、擦り切れた自身の記憶は、生前のことをほとんど覚えていない。

かつての彼女の顔なんて、もはや欠けている。

 

 

 

――――それでも、覚えている。

あの時、幸せな未来を見せ付けられて絶望したことを。

あの時、俺が選択したことで彼女を切り捨ててしまったことを。

あの時、俺が選んだことで平行世界をなかったことにしたことを。

 

それでも、俺は歩み続けて結局最後には、飛行機の墜落事故で全てを失ったことを。

 

内容はほとんど掠れて覚えていない。けれど、それがあったということだけ。

あの時の慟哭も、哀しみも、苦しみも。何もかも失ったけれど。

 

それでも―――どれだけ磨耗しても、あの時、俺が選んだ決断。それだけは覚えている。

 

誰もが幸せで幸福な世界を切り捨てた。70億人の人生を犠牲にして、たった一人の少女の為に全てを捨てた男を、覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が10歳の時、王都より勇者選定の儀があった。結果、幼馴染は勇者だった。

 

元より兆候はあった。俺よりも修行をしていないのに剣技は俺と同レベルだとか。

あらゆる魔術属性を兼ね備えていたとか。

彼女が生まれた時、赤ん坊の彼女が光り輝いていたとか。

 

なんてテンプレなのだろうか。俺が特別な力を持っているとは思っていなかった。

けれど、それでも彼女の才能を知ったとき、俺は思ったんだ。

 

 

これは、ないだろうと。

その隔絶した絶対的な才能の差を知って、俺が進んだ道は間違いだったのかもしれないかと、心が折れかけた。

 

 

 

魔術属性。10種類あるソレは、人によってまちまちだ。

9割以上の人には魔術属性。つまり魔術を使う才能がない。そしてその1割のうちの9割は1種類だけ。3種類ともなろうものなら10年に1人の逸材。

10種類全てを操る勇者を除けば。

 

俺にも魔術属性はあった。

1種類だけだが、最高の火力を持つといわれる火属性。だが、俺はその火を絶対に使わないと決めた。

初めてソレを知ったのは9歳の時、たまたまなんとなしに魔術の真似事をしたら出た。

そして、ソレを見て思ったんだ。ああ、これはダメだと。

ただの火ではない。ドロリとした、陰々とした火はあの地獄の火だ。

俺が全てを奪われたあの火。飛行機の墜落の時、周りを囲んで、俺の全てを燃やし尽くした火。灯油が燃える、あの独特のにおいを放つ火。

 

お前は、転生した後も俺の元から離れないのか。

その余りにも罪深い火を、俺はなかったことにした。

 

だから、属性なし。魔術の素養0ということにしている。

 

 

あの火だけは、どんな事があっても使えない。不幸を招く火なのだから。

 

俺は魔術を使えない。

ならばこそ、ただ純粋に。人の身を超えるしかない。

幼馴染は勇者なのだ。ならば俺は将来の彼女に匹敵する正義の味方にならなければならない。絶対的な人々の支柱にならなければならない。

それが出来ないのならば、俺に生きる価値なんてないのだから自害しろ、と自身に言い聞かせて走り続けた。

 

 

それは、地獄だった。

雨の日も、風の日も、なんていったら簡単に見えるがそんな単純じゃない。

身体は雁字搦めになって、肺は燃え尽きそうで、心は何度折れそうになったか分からない。

いたるところから痛みがあふれ出て、何度疲労骨折を起こしたか分からない。

所詮田舎。剣技を知っている人なんていない。だからこそ、必死に。必死に足掻き続けた。

それに慣れたころには、最早かつての記憶は擦り切れていた。覚えているのは、家族の顔と、あの地獄だけ。

俺は、何なのだろう。

記憶は、思い出が剣の一振りで欠けていく。人格がなくなっていく。もう、かつてどんなことがあったのかしか思い出せない。■ ■だった頃の全てが、失っていく。

 

ごめんなさい。そうかつての人たちに謝ろうとしてもその人たちを思い出せない。

 

そこにいるのは剣を振るう修羅の男だけ。

忘れた名前を思い出すことはない。もはや世界が違う。

失った思い出はもう戻ってこない。

 

この壊れかけの自分は、もう■ ■と呼ばれていた者ではないのだろう。

 

そんな俺を見た両親は心配して、涙を流してもうやめろ、と何度言われたか。

それでも俺は止まれない。止まることを許されていない。

それに…聞こえてくるんだ。お前は何故生きているとか。お前は何故死んでいないのだ、とか。そんな声が。

俺が見捨てた少女。俺が救えなかった少女。俺が救えなかった数多の人たち。もはや顔すら分からない彼ら。

それらが怨念となって、ずっと耳に響く。彼らは俺を恨んでいないのだろうけど、それでも響くんだ。

それから逃げるように、剣を振り続けた。剣を振っていたら、記憶が欠けるようにその声が少し収まるから。

まるで、そうしなければならないと。そう強迫観念に突き動かされ続けた。

 

…ハハ。最初は、両親にとってのいい子を目指そうとしたのになんだこのザマは。だが、それでも俺は止まれない。許されていない。

止まれないんだよ…。

 

心は折れない。決して折れない。

つらくて苦しくて悲しくて。

 

それでも、俺は決して折れない。

 

心が折れてしまったら、もう俺は■ ■どころかバイバーですらないのだから。

 

何度彼女の、レイの勇者の才能に嫉妬したか分からない。

たまに来る王都の騎士団員は俺なんて欠片も興味がなく、勇者である幼馴染をおだてていく。それだけで彼女は俺の修行なんてあっさりと超えていく。

常に周りに笑顔を見せ、俺を師匠とのたまう。俺より強いくせに俺を尊敬している彼女がたまらなく…嫌いだった。

 

けれど、そんなものは俺の勝手でしかない。俺の嫉妬心を増大させて彼女が勇者になるのを遅らせたら、それこそ救えない人も出てくるかもしれない、と。自分を必死に納得させた。

だから表面上は笑顔で彼女と一緒に修行をした。

 

俺では出来ないかもしれない。正義の味方に、英雄になることは出来ないかもしれない。そんな事考えたくないけれど―――それでも、可能性がある。だったら。

 

 

そうして、俺は幼馴染の彼女、レイを最強の勇者に育て上げるため今世と前世の全ての技術を授けることにしたのだ。

 

 

そうして、何年かたって。

あっさりと、俺の技術の全てを吸収した彼女はこれまたあっさりと村を捨て、王都に旅立った

勇者になるために。正義の味方になるために。魔王を倒すために。

 

だが、俺はまだ強くない。それに、まだ耳に声が響く。だから、鍛えなければならない。俺の人生を消耗品と考えて、全てをこの世界の人々の為に使わなくてはならない。その為にはまだ鍛えなければならない。

 

歪な道だとは分かっている。間違いだと、何度思ったことか。

それでも、あの地獄を知った。グシャグシャになったかつての家族を―――肉片となった、妹を見た。そして、唯一100分の1の確立で転生した。

俺は彼らが唯一残した希望である。ならば―――その命を消耗しなければならない。

歪だが、それでも俺の道は間違っていないはずだ。

そうだろう?――――美紀

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇者と呼ばれる女の子がいた。名前はレイ。現在は15歳。

美しい、長い黒髪を携え。神が作り出したとしか思えない美貌を持つ少女。

13歳の時世界の中心の町、王都に勇者として呼ばれ2年、人類最強の勇者。希望の光と呼ばれた少女

そんな彼女は久し振りに実家に帰省している。

 

 

 

「でもねー?レーちゃんがゴネるなんて初めてじゃない?従順な勇者って感じだし?」

そんなことを呟くのは同年代の少女。なんといっても珍しい、蒼の髪を持つ同世代では最強と呼ばれた魔女。名をアクア。

 

「従順って・・・。まあでも、確かに珍しいかもな。やはり勇者といえどかつての家族が恋しいのか?」

ニヒルに笑う青年。その腰には4本ほど黒塗りのナイフを携帯している、盗賊王と嘗て呼ばれた金髪青目の軽そうな男。名をフーシ。

 

「アッハッハ!でもまあ、レイにしては珍しい!どれ、ワシに話してみろ!」

大きな白い髭を生やしたドワーフ。かつて剣聖と呼ばれ、最強をほしいままにした小柄の男。名をドーン。

 

そして勇者の私を含めた4人こそが、無敵と呼ばれた少数精鋭。

 

 

「違うって…。そんな理由じゃないよ。王様には久し振りに帰りたいっていったけど、最たる理由は勧誘。ほら、私って師匠の幼馴染がいるって話したじゃない?」

 

「ああ、あのレーちゃんがいつも自慢してた、初恋の女の子?」

 

「レイ!その話はどういうことだ!?嘘!?お前恋はしないっていってたじゃねーか!?」

 

「だからちっがーう!ただ、憧れだったってだけ!恋愛とか、そういうのではありません!」

 

 

 

 

―――そうだ、彼は私にとっての憧れだった。

 

バイバーという名前を持つ幼馴染。性別は男。

今にして思えば、その少年は余りにも異常だった。

勇者になる前、ただの少女だったレイにとって、彼は自分自身に価値を見出していなかった。ある時から、彼は表面上はまるで仮面をつけたかのように周りに理想の子供として接していた。まるで自分を消費するように、他人を演じる酷く歪で気持ちが悪い少年。それは幼馴染だからこそ気づけたのだろう。ソレに気づいたとき、何故だか分からないが彼がどうしようもなく嫌いになったのだ。

まるで強迫観念に突き動かされように、どうしようもなく生き急いでいる彼が嫌いだった。何故アナタにはそこまでの才能があるのに、理想と呼ばれた子供なのにそこまで必死なのかと。

彼を見てどうしようもなく嫉妬した。それ以上に、理由こそ分からないがそのような生き方をする彼に同情した。

 

 

けれど、それが間違いだと気づいたのは彼と話さなくなってからちょうど1年後。台風の日、窓の外をふと見ると彼がいた。修練場で剣を持った彼は台風など関係ないとばかりに一心不乱に木剣を振り下ろしていた。

その目は、まるで何かを追い求めているかのように必死で、今まで気持ちが悪いと思っていたその顔をどうしようもなく綺麗だと感じた。

 

ああ―――彼は、ただ憧れただけなのだ。それが何なのか分からないが、それでも彼がそのような生き方をするのはただ、憧れたから。

 

その日のことは、彼女にとって絶対に忘れられない日となった。

 

それからだ、遠目で彼を観察し始めたのは。最強にいたるため、彼女は知らないが英雄に、正義の味方になるために彼は剣を振り続けた。

 

その姿は普段の彼とは違う素の彼で、余りにも、その後修羅と呼ばれた男の姿を尊いと―――美しいと、憧れた。

 

 

 

その後、彼に弟子入りを志願するのに時間は掛からなかった。

 

 

 

弟子入りしてから3年。王都の選定の儀で勇者と判明したのが10歳。その後3年間、合計6年間彼に師事した。

結局、彼には一度。村を出るときの戦いでしか勝てなかった。それも、10種類持つ魔術を全て総動員してだ。

彼は魔術を使えない。無術師だった。それでも、最後の一回しか勝てなかった。

彼は剣の技量だけで勇者と呼ばれた私を常に圧倒していた。それは、同じ仲間の剣聖と呼ばれた男をも超越していたと思う。

余りにも高い剣の技量。勿論、15歳になった私は恐らく人類最高峰の剣の技量だろう。だが、彼には敵わない。

勇者として絶対的才能を持つ私は、2年間戦い続けた。だから、魔術を使えばもう彼よりは間違いなく強いだろう。

彼の剣は完成していた。故に成長はない。あれより強くなることはない。

 

 

けれど―――それでも。

彼が仲間にいたら、間違いなく魔王討伐は楽になる。だから、彼を仲間に引き入れなければならない。

あの時、私が村に出るときは拒否されたけど、あの力を放置するのは余りに勿体無い。

だからこそ、私は憧れの男がいる村に帰ることにしたのだ。




主人公は勇者ちゃんに恋心を抱いていません。
嫉妬心のせいでマジで嫌ってます。とはいえ勇者ちゃんはいい子だしとくに性格も悪くないので仲良くしてます。

主人公の才能はテンプレのごとく一切なし。都合よく覚醒する展開は今後絶対ありません。
勇者ちゃんは15歳時点で主人公との特訓プラス実践によって最強になってます。

主人公:勇者TUEEEEE
勇者ちゃん:主人公TUEEEEEE


美紀;主人公の前世の時の妹。


次回:勇者邂逅
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