勇者ちゃんのお隣さん。   作:黒幕系神父

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英雄譚の始まり

もはや、彼は覚えていない。

人ならざるモノに課すべき試練。尋常ならざる修練によって、かつての、生前の転生前の記憶のほぼ大部分を失った彼は何も覚えていない。

 

日本という国に、とある一人の学生。男がいた。

男は平凡だった。平凡すぎる男だった。

だからこそ、そんな男が星に選ばれ最強の力を持ったのは不幸だった。

 

男は平和を愛した。

だからこそ、男は自らを省みず神と戦い続けた。

 

男は、何度も世界を救ってきた。

選べといわれて。70億人か、愛した女一人か。その天秤を持たされた。

女を選びたかった。それが普通。でも、それでも70億人には替えれない。

 

そこで、後悔をしなければ勇者になりえたのに。

男は後悔をした。そうして、70億人を救うために女を犠牲にした。

 

心の闇に飲まれて、星の力もなくなって、ズタボロになってでも歩き続けた男。

 

その選択は決して間違いではなかった。けれど、後悔に溢れていた。

 

ただ、英雄に憧れたのだ。それだけが、男が歩んできた道の全て。

 

そもそも、原点はいつだったか。平和を愛したのはいつだったか。それは、あの本を読んだ時。

子供の頃にみた小説。絵空事のような綺麗ごとのお話。その主人公に憧れた。

その小説の主人公は生まれながらに不幸だった。自身が持つ能力によって、幸運の赤い糸が全て断ち切られていた。

幼少の頃に通り魔にナイフで身体を貫かれ、あらゆる人間から貧乏神と呼ばれ、不幸を司る化け物と言われた少年。

 

この世全てに諦めて、全てに絶望した少年はそれ以上に最低で最悪で劣悪でどうしようもなく不幸な、そんな少女と運命的な出会いをした。

少年はその少女を助けるためにボロボロになって、ついには記憶を失った。

けれど、その少年は記憶を失っても、その少女に泣いてほしくないと願った。

―――結局、少年は記憶が失っていないと少女に偽った。

ただ、少女に泣いてほしくないから。そう言い訳して、その主人公はその嘘を貫きとおした。

少女が思い描く自分。記憶喪失前の自分を演じるために、自分が思い描く英雄的な行動をとり続けた。

それが、記憶を失ってまで少女を救おうとしたかつての自分だと信じて。

 

ここまでなら、悲しい話。それだけで終わり。

だが物語には続きがあった。

結局、記憶がないなどということがバレないのはあり得ない話で―――時間がたって、遂にはその少女に記憶喪失だということがバレた。

 

けれど、少女はソレを受け入れた。受け入れた上で、主人公を愛した。

たとえ記憶がなくなったとしても、彼は彼であり、自分を守り続けてきたと。

 

そうして、どうしようもなく不幸な少年は、記憶を失ったけれど――救われたのだ。

 

彼の本心は、少女に泣いてほしくないから、ではなかったから、

彼は、少女に嫌われたくなかった。だからこそ、自分を偽り続けてきたのだ。

 

彼は嫉妬していたのだ、記憶を失う前の自分に。

好意をもたれていたかつての自分に。

 

だからこそ、少女に肯定された主人公は確かに――――救われた。

そんな、綺麗なお話。ハッピーエンドで終わる物語。

 

 

その物語を見た時、男はどうしようもなくその少年のような…誰かを愛することが出来る英雄に憧れた。

ただの装置じゃない。誰かを愛するために、英雄になれたその主人公がどうしようもなく綺麗に見えたんだ。

 

 

 

 

…――――地獄のような修練で、かつての理想は消えた。

 

けれど、そんな修練を行うキッカケは確かにあった。男は確かに思ったのだ。

 

男は転生した。憑依した。バイバーと呼ばれる少年の存在を核ごと消した。

だが、そのことを魔物に襲われて死んだ、生きていた頃の親に伝えていたら受け入れられたんじゃないのかな…と。ソレを言わずに死んだことで、彼らは幸せだったのかなと。

 

それは、誰にも分からない。言わない選択をしたのは男なのだから。

もはや、ソレを言うことは出来ない。

 

だからこそ男は、両親の死後。決して後悔はしないと決めたのだ。

 

だって、そうでもしなければ―――両親は、報われないだろうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いくのかの?」

 

「はい。あの時、あの日から決めたんです。正義の味方になるって。」

 

「本当に、お主は…。お前の両親は、そんな事望んでおらんぞ。ソレでもいくのか?」

 

「それでも、いつも両親の期待を裏切ってばかりの俺だけど…決めたんです。だって、人を救うことだけが、俺が生きる唯一の道だから。」

 

「そうか…。ではいってこい」

 

「はい、行って来ます。」

 

荷物を持ち、ゆっくりと立ち上がる。

俺ことバイバーは、外に出ることになった。

とはいえ、勇者と一緒についていくというわけではない。結局勇者の誘いは断ったし、なぜか顔を真っ赤にして大変おこっていらっしゃったレイさんはすぐに村に出て行った。

しかしあんな短気で恋愛とかできるのかな。付き合っても一瞬で破局しそうなんだが。

まあ可憐な見た目とは裏腹に中身ゴリラだから仕方ないね。

 

「「「先生…」」」

泣きそうに…いや、皆泣いている。嘗ての教え子。だが、彼らは大丈夫だ。レイほどではないが、俺の知識、人道を叩き込んでいる。彼らなら、心配ない。村を任せれる。

「―――ああ、クル。セン。ルー。ケイオス。オルリア。カウテス。コルドス。行ってくるよ。」

 

この村は歪だ。

いつからか、俺を信仰するかのようになっていた。ソレは可笑しいと声を荒げることはなかったが、よくなかったのだろう。だから、俺は教え子と村長にしか出て行くことを言ってない。

とめられてしまうから。そしたら俺はここから離れられない。

と、ああ、言い忘れていた。

「ただ、最後に一つだけ。」

「絶対に自分は見失うなよ。そうすると、先生みたいになっちゃうからな」

散々、このことを言い続けた。

俺は失敗した。だからこそ、模範としてみるのではなく、反面教師としてみるようにと。

 

突如、最も活発な子。オルリアが泣きながら。

「そんな事ない!先生はとってもいいひとで…グスっ。間違いなんて、わけない!」

 

なんてことをいってくれるのだ。その言葉はとても嬉しい

 

「ありがとう」

 

そうして、彼らと抱擁し。

 

俺は、村を出る。

こんな俺が上から目線で何をほざいているんだ。と思うかもしれないけど

彼らなら、大丈夫だと信じて。

 

振り返らない。

決して、自分は間違えたりしない。この先を歩み続ける。そう信じて。

 

 

いくつもの視線を無視して、走り続けた。

 

 

 

 

 

デコボコの山道。次の街につくまであと2日と言ったところか。それまで、歩き続けなければならない。

 

「あっつ…」

暑い。ただただ暑い。太陽などという忌まわしいものはどんな世界でも存在するらしい。

村を出るのはもう少し気候が穏やかになってからだったな、と軽く後悔。

…いや、ズルズルしても仕方がない。それに、今は明確な目標がある。

勇者、レイがいるであろう王都。そこならば、もしかしたら俺のような転生者がいるのかもしれない。

王都にある魔術学園ならば、俺の持つ異常な炎の魔力。それを解析し、理解できる人がいるかもしれない。

 

バイバーを、この身体のかつての持ち主を救うことが出来るかもしれない。

 

もしかしたらそんな方法ないのかもしれない。バイバーはもう、いないのかもしれない。

そんなあてのない旅。だからこそ、俺は生涯を持って叶えると決めたのだ。

 

かつての身体の持ち主。バイバーを救ってみせると。そう思わなくてはやっていけないのだから。

 

 

「…ん?」

 

グルル、と呻く獣の声。コレは…

目の前にいる、異形の狼。牙が大きく発達したソレは、以前の世界ならば獣の王者になれたであろう存在。

タイガーウルフ…が三匹。この付近特有のモンスターだな。

 

…うん。俺は所詮剣だけの男。勇者みたいに威圧なんて使えないし、コイツら以外のほとんどのモンスターからも襲われるだろう。

はて、どうしようか。

 

どうしようか。数には勝てないんだが。いやまあ3匹ならば問題ないんだが。何度も狩ってきた相手だ。夜、寝れない。どうしよう、ヤバい。…まあそれはともかく。

 

「とはいえ、お前らとも当分お別れか」

 

剣を手に持って一閃。それだけで全てが終わる。

刃は輝き、世界はその一閃に収束される。それが俺の本質。俺が俺足らしめる剣の概念。

そこに掛け声はいらない。歩く速度は変わらない。一撃一撃が全て必殺のソレは、確実に息の根を止める。

 

「うん、ごめんな」

この世は弱肉強食。彼らを倒すのは…俺のようなクズが、他者の命を奪っていいかは疑問だが。

「んじゃ、さよならだ。わが故郷。」

 

 

音はなかった。

ただ、光の線が空気を漂った。

 

次元ごとの切断。ただ、斬るということだけに特化した俺の技術。

防御不可能。硬さの概念を無視したこの一撃はダイヤモンドですらたやすく切り裂く。

 

 

それこそが、俺の剣の魂の象徴。

 

それに、技はない。

全ての斬撃にその概念が施されるのだから、いわば俺こそが技自身といえる。

 

 

「――――」

獣の叫び声はなく。

響く音は、歩く音だけ。

 

戦闘は終わった。

ザっザっと。歩き続ける。

 

俺の背に残ったのは、綺麗に一閃された死体だけだった。

 

 

 

 

 

 

「頑張らなきゃな」

 

 

 

 

そうして、時間は一月流れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある森から町へ続く道。声が木霊した。

 

「ひいぇえええええええ~~~~~!!!」

こんな声乙女が出していいものではない。だが、それでも叫ばずにはいられない。

まさにマヌケ。聞く人が聞いたら間違いなくソレはマヌケと呼ばれる声だろうけど関係ない。

涙を流しながら、ぜえぜえと息を吐き。

はしる!走る走る走る!

 

ヤバイ、ヤバイヤバイヤバイヤバイこれは本当にやばい!

剣は戦ってる最中折れちゃったし、相手はあのタイガーウルフ。ここらではかなりの強モンスターとして名を上げている。それが2匹。番なのだろう。やばい、剣があっても勝てる相手じゃない!

 

間違えた。間違えた!間違えた!クソ!冒険者ギルドめ!キャットウルフって言ったのに!タイガーウルフなんて聞いてない!あんなモンスターこの付近にいないのに、ヤバイヤバイヤバイ!

 

「――――あ!」

 

目の前に、外装を着た旅人のようなものが。まずい。これでは巻き込んでしまう!

 

ソレは、ソレだけは許されない。私は確かに救うと決めた。憧れたのだ。誰も死なない最高のハッピーエンドを。

 

「速く、にげ―――」

 

 

「―――――」

声は、出なかった。だが、ナニかに確かに私は恐れた。それがナニかは分からない。だが―――

 

気づけば、音が響いていた。

キンと、柄に剣を納める音。ソレが響いた時には、何かが終わった。

 

終わったんだ。何かが。ふと、後ろを見ると、そこには細切れのかつての獣が存在していた。

 

 

「――――ぁっ」

分からない。

何があったのか、どうしてこんなことがあったのか、分からない。

ただ、分からないが…目の前の…外装を着た…ヒト?がしたのだろう。背丈からみて年上っぽそうだが。

 

だが…只管に怖い。あの化け物を、気づかないうちに切り伏せた存在が、怖い。

恐ろしい、全てを見据えたような、フードから見える目がどうしようもなく怖い。

その蒼い瞳が、自身を見通すようで、全てを曝け出してしまいそうになりそうで、恐ろしい。

 

 

ああ。私は死ぬのだろう。理由は分からないが、私は死ぬのだろう。ソレだけは確かだ。私は、この人型のナニカに殺される。

 

「―――そっか、うん。いいよ。」

だが、それでいいのかもしれないと思ってしまった。自身の口から、溢れ出た

何のことはない。私は人生の終末を受け入れてしまった。

身体の震えはとまらない。涙は溢れて止まらない。心は裂けそうで、四肢は痛みをあげている。

そんな状態でも、確かに受け入れてしまった。

 

 

だが―――

 

 

「大丈夫か?」

 

 

「―――、あっ」

 

その声を聞いたとき、不思議と震えは止まっていた。安心しきってしまった。

この男を明確な味方だと、英雄だと認識した。

 

 

 

その顔は決して忘れない。

フードを被っていて、全体的な骨格はわからないけれど恐らく男。

少し見え隠れする赤い髪を持った自身よりおそらく年上の男。

 

理由は分からない。ただ助けてもらっただけ。それでも。

 

 

その男は、フードを外し

「もう、大丈夫だ。」

 

 

その男の顔を見て――――ただ、余りにもその男を。

その男の在り方を…美しいと思ったんだ。

 

 

その出会いは運命。

コレは、全てを失った少年と少女の物語。

 




ボーイミーツガールって神だわ。
はい、ヒロイン…正確には裏主人公登場です。
勇者ちゃんはヒロインじゃなかった!?まあ見た目はともかく中身ゴリラだからね、仕方がないね。
この時点で
主人公15歳。身長165cm
勇者15歳。身長172cm
ヒロイン13歳。身長153cm
と、勇者以外は平均身長以下です。

少しずつコメディにしていく。村の子供たちはこれからでない予定。名前も覚えなくていいです。
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