「平和なのはいいことだけど、誰も来ないというのも考え物だな…」
ここ、香霖堂は"何時ものように"閑古鳥が鳴いていた。店主の僕としては認めたくないことだが、実際誰も冷やかしにすら来てないので認めざるを得ないのだ。
「今日はそろそろ店じまいかな…」
そう呟いた瞬間背後から、
「店主さんは客が店にいるのに店じまいをなさるのですか?」
と、聞こえてきた。
「背後から急に声をかけられると寿命が縮まりそうだからやめて欲しいと前にも言ったつもりなんだけどね…」
彼女、十六夜咲夜の突然の登場に内心驚いていたのだが、それがばれてしまうと何処か負けたような気がするので、平然を装うことにした。
「あら、そうだったかしら?ところで今日は買い物に来たのだけれど。」
おっと、買い物に来てくれたのなら話は違ってくる。彼女はうちの店では珍しい"ちゃんとお金を払ってくれる"お客様だ。ここで大切なお客様を一人失うわけにはいかない。多少のことには目を瞑ろう。
「今お茶とお菓子を出すからちょっと待っていてくれ。」
「ありがとうございますわ♪」
しかし彼女は何を買いに来たのだろうか?先週は何やら紅魔館に人が一人増えるということで、食器一式を買っていった。誰が増えるのか聞いてみたが、その時は話をはぐらかされてしまった。まあ話したくないこともあるだろうから、これ以上その件について詮索するのはやめておこう。
えっと、紅茶はあったかな…よかった、ちゃんとお茶菓子もあった。いつも霊夢や魔理沙に出す時は緑茶にしているのだが、彼女はいつも紅茶を飲んでいるので、今回は紅茶にしておこう。
「さあどうぞ、召し上がれ。」
「いただきますわ♪」
しばらくはやることもないのでお茶を飲んでいる彼女の顔でも見ることにしよう。
「うん、美味しいですわ…ところで店主さん、先程から私の顔に何か付いておりますのでしょうか?」
「へっ?あ、いや、特にやることがないから見ていただけだよ。悪かったね。」
やってしまった。あまりに美味しそうに飲んでいるものだから、ついじっと見つめてしまっていた。今自分の顔は恥ずかしさから真っ赤になっているだろう。そういう時は話題を変えるに限る。
「ところで今日は何を買いにきたんだい?」
「忘れるところでしたわ。今日は男性用のパジャマを買いにきましたの。」
「男性用のパジャマ?」
「ええ、男性用のパジャマですわ。」
「それならこないだ結構いいデザインのものが手に入ったところだよ。えっと確かあそこに…あったあった。これなんてどうかな?」
「ええ、彼もきっと気に入るわ。これにしますわ♪」
「そうかい。ところでその『彼』が誰なのか教えてくれないかな?」
「うふふ、それはまだ秘密ですわ♪」
「まあ気が向いたら教えて…ってもう帰ったか…」
去り際の彼女の無邪気な笑みは何を意味していたのだろうか?まあとりあえずちゃんとお金は払ってあったからよしとしようか。
「今日はそろそろ店じまいかな…」
危ない危ない、なんとか閉店前に間に合ってよかったわ…そうだ、少しおどかしてみようかしら♪
「店主さんは客が店にいるのに店じまいをなさるのですか?」
「背後から急に声をかけられると寿命が縮まりそうだからやめて欲しいと前にも言ったつもりなんだけどね…」
全然驚いてない、様に見せかけて実は驚いていることがバレバレですよ?まあそういうとこが可愛らしくて好きなんですけどね。
「あら、そうだったかしら?ところで今日は買い物に来たのだけれど。」
そう言った瞬間彼の目の色が変わった。彼は商売の話になると別人の様になる。普段からこのくらいやる気を出していればもっとお客さんも増えると思うのですが…
「今お茶とお菓子を出すからちょっと待っていてくれ。」
「ありがとうございますわ♪」
彼は普段は緑茶を飲んでいる。しかし、私やお嬢様が来る時は紅茶にしてくれる。そういった細かな気遣いができるところを見込んで、彼には紅魔館で働いてもらおうと思っています。私がお嬢様に頼み込んだとか、本当は彼と一緒に暮らしたいからだとかそんなことはありませんよ?
今日この店に来たのも、その準備のためです。そんなことを考えているうちに戻ってきたようですわ。
「さあどうぞ、召し上がれ。」
「いただきますわ♪」
うん、いつも通り美味しいわ…毎日淹れてほしいくらいですわ♪ところで先程から何故見つめられているのでしょうか?
「うん、美味しいですわ…ところで店主さん、先程から私の顔に何か付いておりますのでしょうか?」
「へっ?あ、いや、特にやることがないから見ていただけだよ。悪かったね。」
彼の顔がみるみるうちに真っ赤になっていった。ということはやっぱり見つめられていたということになりますね…なんだかこちらまで恥ずかしくなってまいりますわ…
「ところで今日は何を買いにきたんだい?」
「忘れるところでしたわ。今日は男性用のパジャマを買いにきましたの。」
「男性用のパジャマ?」
「ええ、男性用のパジャマですわ。」
「それならこないだ結構いいデザインのものが手に入ったところだよ。えっと確かあそこに…あったあった。これなんてどうかな?」
「ええ、彼もきっと気に入るわ。これにしますわ♪」
「そうかい。ところでその『彼』が誰なのか教えてくれないかな?」
「うふふ、それはまだ秘密ですわ♪」
彼は本人の目の前で、「あなた様のお店とあなた様自身を買いにきましたわ♪」とでも言わせたいのでしょうか?
全く…我ながらなんであんな朴念仁のことが好きになってしまったのでしょう?まあでもそちらの方が振り向かせがいがありますわ!
また色々聞かれないうちに今日は帰るとしましょうか。
「まあ気が向いたら教えて…ってもう帰ったか…」