太陽「どうも、上原太陽です。コーヒーももちろん良いけど、僕も紅茶の方が好きかな」
政実「コーヒーを飲むと頭がスッキリするけど、紅茶を飲む時は何だか落ち着くからね。もっとも、これはあくまでも個人的な感想だから、本当に人によるんだろうけどね」
太陽「だね。さてと……それじゃあそろそろ始めていこうか」
政実「うん」
政実・太陽「それでは、第4話をどうぞ」
「ふあ……んー……やっぱり朝は眠たいなぁ……」
少し大きな欠伸をしながらいつもの皆と一緒に登校をしていた時、隣を歩いていた青兄がクスリと笑いながら話し掛けてきた。
「まあ、確かに朝はスッゲぇ寝みぃよな。もっとも、俺は一日中寝みぃけどな!」
「……だからと言って、授業中に居眠りをしてて良い理由にはならないからな。それに、 昨日の自習時間中の件だって特例で許したような物なんだから、いつでもああやって授業を抜けられると思うなよ?」
「ははっ、分かってるって! けど、アレは本当に助かったぜ。なっ、兎亜」
「うん、おかげで蘭ちゃんが抱えている気持ちを少しは知る事が出来たから、その分の成果はあったんだけど……」
「……アイツ、昨日話した以外にもまだ何か隠してる感じはするし、昨日の親父からの説教もあったからなのか、ちっとピリピリしてる気がすんだよなぁ……」
そう言うと、青兄は前の方を歩いている蘭姉達5人組の方へ視線を向けた。ウチのひまり姉やつぐみ姉が、どうにか場を盛り上げようと色々な話を振る中、蘭姉は少し難しい表情で軽く相槌を打つだけで、僕達から見ても話が盛り上がっていないのが分かるほどだった。
「実はアイツさ、授業に出てねぇのが遂に親父にバレたみてぇで、今日からしっかりと授業に出るように言われてたんだけど、その時にどうにも何か心の奥底に抱えてる物があるような顔をしてたんだよ」
「心の奥底……」
「ああ、昨日の寂しいって気持ちとは別に、クラスにいたくねぇ――いや、居場所がねぇ理由があんのかもしれねぇな」
「クラスに居場所がない理由……」
青兄の言葉を小さな声で繰り返した後、僕達はもう一度蘭姉達の方へ視線を向けた。ひまり姉とつぐみ姉が色々な話題を振る中、蘭姉はそれに相槌を打ちながら何かを考えている様子で、3人の姿を巴姉が心配そうに見つめ、モカ姉は真剣な表情で蘭姉の様子を観察していた。
クラスに居場所がない、かぁ……。今のところ、僕にはそういう経験は無いけど、もしそうなったら桃ちゃん達と一緒のクラスだからじゃない『寂しさ』とはまた別の『寂しさ』はあるかもしれない。どんな理由があっても、独りぼっちだったり距離を取られたりするのはとても寂しいものだから。そしてそれは、僕にだっていつかは訪れる可能性がある物なんだよね。
そんな事を考えながら隣を歩く桃ちゃん達の事をチラリと見ると、桃ちゃんは僕の視線に気付いた様子で少し不思議そうに小首を傾げた。
「ん……太陽君、どうかした?」
「あ、いや……どんな理由があっても独りぼっちになるのはやっぱり寂しいし、僕にだっていつかはそういう事があるかもって思ってね」
「ふふっ、なるほどね。でも、太陽君ならどんな人ともすぐに仲良くなれるし、それに今は私やあこちゃんだっているから大丈夫だよ。ねっ、あこちゃん?」
「うん! あこ達で良ければ太陽君の傍にいられる時にはいてあげられるから、安心してくれても大丈夫だよ!」
「桃ちゃん……あこちゃん……」
「今の問題の事もあるから、色々不安になるのは分かるよ。でも、私達まで暗くなってたらお姉ちゃん達だって心配するし、私達だけでもいつもみたいに明るくいかないとね。だから、太陽君も名前の通りに太陽みたいに明るく行こう?」
「そうそう。そのぽかぽかとした優しさと明るさにはあこ達も助けられてるし、これからも皆の事を一緒に照らし続けていこうよ!」
「……ふふ、そうだね。ありがとうね、2人とも。でも、2人も何かあったら遠慮無く僕を頼ってね?」
「「うん!」」
桃ちゃんとあこちゃんの嬉しそうな笑顔に安心感を覚えながら口元を綻ばせていると、それを聞いていた青兄が僕の頭を少し強めに撫で始めた。
「へへっ、結構かっけぇ事言うようになったじゃねぇか。この前まで俺達の膝くれぇまでしか無かったってのにさ」
「いやいや……流石にそんなに小さいわけは無いからな。けど、太陽が成長してるっていうのは間違いないかな」
「うん、そうだね。ただ……太陽がこのままもっと成長したら、最終的には私達を照らすどころか燃やしちゃいそうな感じがするのが不安かな……」
「いや、それは太陽違いだろ!」
「んー……つー事は、太陽の顔に
「いやいや、間違いだらけだからな!? そもそもそれは黒子じゃなくて黒点だし、黒子だけ温度が低いなんてのも聞いた事ないから!」
タカ兄が息を切らしながらツッコミを終えると、青兄と兎亜姉は顔を見合わせながらニッと笑った。
「いやー、さっすがは俺達のツッコミ隊長。ここまでしっかりとツッコミを入れてもらえると、ボケ甲斐があるってもんだぜ」
「そうそう。たまーにリサとか
「はあ……お前達、アイツらにまでそんな事をしてるのか……。けど、流石に友希那にはこんな事はしてないよな?」
「ははっ、流石に
「確かにそうかも。後は……日菜と薫にも出来ないんだよね。日菜なんかはノリノリで乗ってくるし、薫はいつも通りの
「けどさ、俺達2人に日菜と薫が加わったら、最強な気がしねぇか?」
「……それは本当に止めてくれ。お前達のボケの波状攻撃なんて流石に耐えられる気がしないから」
タカ兄が心から嫌そうな顔をしながら言うと、青兄は「へいへい、了解しましたよ」と少し残念そうな様子で答え、兎亜姉は「まあ、タカを壊すわけにもいかないしね」と小さく笑いながら言った。そして僕達は、そんないつも通りな3人の様子に安心感を覚えながらクスクスと笑い合った。
ふふ……やっぱり皆と一緒だと落ち着くし楽しいなぁ。まだ色々と不安はあるけど、それはひまり姉達の方が強いわけだし、桃ちゃんとあこちゃんが言っていたように僕は僕なりにひまり姉や蘭姉達を照らしていけるようにしようかな。
未だに少しギクシャクとした感じのひまり姉や達を見ながら僕は強くそう決心した後、桃ちゃん達と一緒にタカ兄達の話へと混ざっていった。
「あー、あー……うん、今日も声の調子は良いみたいだね」
放課後、演劇部の部室内で今日の声の調子を確認し終えた後、僕はふと部室内を見回した。周囲では先輩達が今度やる予定の演劇の台詞の練習や動作などの確認を行っており、他にもタカ兄達裏方を担当する生徒達との打ち合わせなどでとても忙しそうにしていた。
当然ではあるけど、やっぱり皆最高の舞台を作るために真剣なんだなぁ……もっとも、その中でも
そんな事を考える僕の視線の先には、鏡を見ながら真剣な表情で物思いに耽っている2年上の先輩――瀬田薫先輩の姿があった。この羽丘学園に入学した後、僕はタカ兄から聞いた話で興味を持っていた演劇部に入部した。そして、その後に自分の特技や趣味を活かすにはタカ兄と同じ裏方の方が良いかなと思い、タカ兄と同じ裏方を志願しようとしていた。しかし、タカ兄からこの薫先輩を紹介された時、僕の顔を見た瞬間に薫先輩は少し驚いた様子を見せると、少し演技掛かった調子で『あぁ……今日はなんて良い日なんだ。ここまで演者をするのに相応しい後輩に出会えるとは、夢にも思わなかったよ……』と言い始め、それを聞いていた薫先輩のファンの先輩達の声にも押される形で、僕はそのまま演者側に所属する事になった。
最初は向いてないなんて思ってたけど、やってみると結構楽しいし、薫先輩にあんな風に言ってもらえて本当に良かったかもしれないなぁ。
そんな事を思いながら薫先輩の事を見ていた時、薫先輩は僕の視線に気付いた様子で不意にこっちへ顔を向けると、様々な女子生徒を魅了してきた微笑みを浮かべながらゆっくりと近付いてきた。
「太陽君、どうやら私の事を見ていたようだけど、何か用だったかな?」
「あ、いえ……こうして演じる側になった時の事を何となく思い出してただけです」
「ああ……なるほど。私と君が初めて会ったあの日は、本当に良い日だったと言えるよ。ただ……後で鷹明から君が本当は裏方を志望していたと聞いて、かなり強引な形でこちら側に引き込んでしまった事に罪悪感を覚えていたんだが、やはり今でも裏方に移りたいという気持ちはあるのかな?」
「……いえ、まったく。最初の頃は、僕に演技なんて向いてないと思っていましたけど、こうやって練習を続けていく内に、自分の思いを載せながら演じるという事の楽しさに気付く事も出来ましたし、あの時に薫先輩にああ言ってもらえたのは本当に良かったと思っています」
「……ふふ、そうか。そう言ってもらえて私はとても嬉しいよ。鷹明もそうだが、君もとても良い目をしている。これからの君の活躍に私は期待しているよ」
「はい、ありがとうございます」
薫先輩にお礼を言っていた時、僕はさっき自分が言った言葉の中の
思いを載せる、かぁ……。蘭姉は演劇には興味は無いだろうけど、何か別の形で何かに自分の思いを載せる事が出来れば、今の状況を打開できる気はするけど、演劇以外だと何があるかな……?
そんな事を考えていた時、他の演劇部員との話を終えたタカ兄と
「お疲れ様、タカ兄。話の方はもう良いの?」
「ああ、軽い業務連絡みたいな物だったからな。ところで、さっき薫と話してたみたいだけど、何を話してたんだ?」
「えっとね……タカ兄が僕に薫さんを紹介してくれた時の事とか今演じる側として活動するのも楽しいって事とかかな」
「なるほど。まあ、演劇部の活動中には、いつも楽しそうにしてたもんな。それに、その楽しそうな様子や頑張っているところを見て、俺達裏方はいつも元気をもらってるよ。な、麻弥」
「はい、その通りです。後、太陽君は薫さんから直々に演者としてスカウトされた期待の新人として、裏方の皆の中で結構話題に上がっていますし、
「え……あ、あはは……そう言われると、何だか照れるような……」
「ふふ……照れる必要なんて無いさ。君自身が正当に評価されているだけなんだから、もっと誇っても良いと思うよ」
「そ、そうですか……?」
麻弥先輩と薫先輩の言葉に、気恥ずかしさを覚えていたその時、蘭姉が廊下を歩いているのが見え、僕は思わず首を傾げてしまった。
あれ……蘭姉、どこに行くんだろう?
蘭姉は今朝と同じように難しい顔をしながら歩いていて、カバンを持っているのとは別の手にはペンとノートのような物が見えた。
うーん……向こうにあるのは、確か屋上だったよね。そういえば、青兄と兎亜姉が昨日蘭姉とモカ姉に屋上で会ったって言ってたし、今日も屋上に何か用があるのかな……?
そんな事を考えている内に蘭姉はそのまま歩き去り、それに対して「あっ……」と思わず声を上げた瞬間、タカ兄が不思議そうに声を掛けてきた。
「太陽、どうかしたのか?」
「あ、うん……今蘭姉が屋上の方に歩いていくのが見えたんだけど、何だか今朝と同じような難しい顔をしてたから……」
「蘭ちゃんが……?」
「うん、それと手にペンとノートみたいなのを持ってたみたいだよ」
「そっか……今朝と同じ顔をしていたっていうのは、少し心配ではあるけど、部活動中に抜け出すわけにもいかないしな……」
タカ兄が腕を組みながら心配そうな表情を浮かべていたその時、「行ってきたらどうだい? 2人とも」と言う薫先輩の声が聞こえ、僕達は弾かれたように薫先輩の方へと顔を向けた。すると、薫先輩はニコリと笑いながら話し始めた。
「そろそろ休憩時間にしないとと思っていたところだったからね。その蘭という子の事が気になるのならば、休憩時間の間に様子くらい見てきても問題は無いさ。それに、心配事を抱えたまま何かを為そうとしても、その成果は中途半端な物になってしまう。それであれば、少しでも心配事を無くした方が良いとは思わないかい?」
「薫……」
「事情はまだよく分かりませんが、ジブンも薫さんの意見には賛成です。気になる事があるなら、ササッと解決してしまった方がスッキリすると思います」
「麻弥先輩も……」
薫先輩と麻弥先輩の言葉を聞いて顔を見合わせた後、僕達は同時に頷いてから薫先輩達の方へと向き直った。
「ありがとうな、薫、麻弥」
「それじゃあ早速行ってきますね」
「ああ、吉報を待っているよ」
「行ってらっしゃいッス、2人とも!」
「ああ!」
「はい!」
そして、蘭姉を追うために急いで部室を出たその時、「あっ、太陽君とタカ兄だ!」という声が聞こえ、揃ってそちらへ顔を向けた。するとそこには、小さなバスケットを両手で持った桃ちゃんの姿があり、桃ちゃんはとても嬉しそうな様子で僕達へと走り寄ってきた。
「桃ちゃん、その手に持ってるのは今日の部活動で作った物?」
「そう、ココアクッキー! 結構うまく出来たから、皆にお裾分けしようと思ってね。それに、ラッピングなんかも凝ってみたんだ♪」
「なるほどね」
「ところで……何だか急いでる様子だったけど、どうかしたの?」
「実は……さっき太陽が難しい顔をしながら屋上の方に歩いていく蘭ちゃんの姿を見たって言っててな。青司の話の件もあるし、少し様子を見に行こうとしてたんだよ」
「あっ、そうだったんだね……うん、それなら私も一緒に行こうかな。蘭姉の事も気になるし、このクッキーもお裾分けに行きたいからね」
「分かった。よし……それじゃあ行こう、2人とも」
「「うん!」」
タカ兄の言葉に返事をした後、僕達は改めて蘭姉の事を追うために屋上へ向かって急ぎ始めた。
数分後、屋上へ出ようとした瞬間に突然「返してっ!!」という大声が聞こえ、僕達は思わず顔を見合わせた。
「今のって……蘭姉の声だったよね?」
「そうだな……」
「返してって言ってたけど、何かあったのかな……?」
「かもな。とりあえず屋上に出てみよう」
「「うん」」
同時に返事をした後、僕達が屋上へ出てみると、そこには顔を真っ赤にした蘭姉の他にモカ姉の姿もあり、モカ姉の手には蘭姉がさっき持っていたノートがあった。どうやらさっきの蘭姉の声の原因は、モカ姉が持っているノートにあるらしく、蘭姉の視線はそのノートに注がれていた。
だいぶスゴい声だったけど、そんなに大事なノートだったのかな……?
そんな疑問を抱きながら僕はとりあえず2人に声を掛けてみる事にした。
「えーと……蘭姉、モカ姉、どうかしたの……?」
「んー……? おお、タカ兄に太陽君、それにウチの桃ちゃんまでいるじゃないの~」
「3人とも、どうしてここに……」
「いや、太陽が屋上に向かう蘭ちゃんの姿を見たって言うから、心配で様子を見に来たんだよ」
「そうそう。私達にとってもモカお姉ちゃん達の件はとても大事な事だからね」
「ほうほう~、そういう事でしたかー」
モカ姉が納得顔で間延びした声を出す中、僕はモカ姉の手の中にあるノートを指差しながら蘭姉に声を掛けた。
「ところで、そのノートは何……? さっき、蘭姉が大声を出してたのは、そのノートに原因があるんだよね?」
「う……そ、そうだけど……」
「声の感じからすると、だいぶ大事なノートみたいだけど、そのノートには一体何が書いてあるの?」
「そ、それは……」
蘭姉はとても話し辛そうな様子を見せた後、「……仕方ないか」と諦めたように言ってから、ノートの内容について話を始めた。
「実は……そのノートには、詩を書いてるんだ……」
「詩って……蘭姉が?」
「うん……」
「あたしも少ししか読んでないけど、蘭の気持ちが伝わるとても良い詩だと思うよー?」
「う……そんな風に正面から感想を言われると、スゴく恥ずかしいんだけど……」
「まあまあ。けど、今の話を聞いて何だか安心したよ。今朝、青司から昨日の蘭ちゃんの様子を聞いて、かなり心配はしてたけど、こういう形でも自分の気持ちを吐き出せているなら、まだ良い方かな」
「……そう、なのかな……」
「まあ、モカちゃんやウチのつぐみに正直に気持ちなんかを伝えるのが一番だけど、自分の気持ちを心の中に押し込めたままよりは、そうやって何か形にしている方が良いと俺は思うよ」
「……そっか」
「うん」
少しだけ笑顔が戻った蘭姉に対してタカ兄がニコリと微笑みかける中、僕はふと部室の中で思った事を思い出した。
あの時、僕は蘭姉にも何か思いを載せる手段があればと思ったけど、どうやらもうそれを見つけていたみたいだね。後は、その詩をひまり姉やつぐみ姉達に見せられれば良いんだろうけど、さっきの反応からすると中々見せたがらないだろうしなぁ……。
そんな事を思いながら蘭姉達の様子を見ていたその時、モカ姉がこっそりと僕に声を掛けてきた。
「太陽君、何か考え事ですかな?」
「あ、うん……蘭姉がその詩を、自分の今の気持ちをひまり姉やつぐみ姉達にも見せられれば良いと思うんだけど、今の反応からすると中々見せたがらないだろうなぁと思ってね……」
「ふむふむ……そういう事なら、この天才美少女のモカちゃんにドーンと任せておきなさーい。このモカちゃんが、どうにかしてあの詩をひーちゃん達にも見せるようにしてみるからさ~」
「……うん、分かった。よろしくね、モカ姉」
「ほいほ~い」
いつものように飄々とした様子でモカ姉が答えた後、僕はニコリと笑いながら再び口を開いた。
「それとね、モカ姉」
「うんー……? モカちゃんにまだ何か頼み事でもありましたかな~?」
「ううん、違うよ。モカ姉は充分蘭姉の助けになってるって言おうと思っただけだよ」
その瞬間、モカ姉はとても驚いた表情を浮かべたけれど、すぐにいつものような表情に戻りながら不思議そうに話し掛けてきた。
「太陽君、何でそんな事を思ったのかなー?」
「ふふ……これでも一応演劇部の役者だからね。モカ姉がいつものみたいな表情を浮かべる裏で、蘭姉が素直に気持ちを伝えてくれない寂しさや蘭姉の事を助けてあげたいって思ってる事は何となく伝わってきたよ」
「……太陽君は、いつもニコニコポカポカしているようで、結構侮れませんなぁー」
「そうかな? まあ、さっきも言ったようにモカ姉は充分蘭姉の助けにはなってると思うよ。どんな形であっても、気心の知れた人が近くにいて話を聞いてくれるのは、本人にとってはとてもありがたい事だからね」
「そっかそっかー……まあ、あたし個人としてはもう少し力になってあげたいけど、今の太陽君の言葉で少しは気が楽になったような気はするよ~」
「それなら、良かった。一応僕達は、今回の件は蘭姉達5人が解決するべき問題だと思ってるから、今みたいな軽い助言くらいしか出来ないけど、相談なんかには乗っても良いとは思うから、何かあったら遠慮無く頼ってね?」
「……うん、その時になったらお言葉に甘えてそうさせてもらうよ~。太陽君、ありがとうねー」
「ふふっ、どういたしまして」
モカ姉の言葉に対してニコリと笑いながら答えた後、僕はそろそろ部活動に戻らないとと思い、タカ兄と桃ちゃんに声を掛けた。
「タカ兄、桃ちゃん、そろそろ僕達は戻ろうか」
「そうだな。一応、休憩時間ではあるけど、そろそろ戻らないといけないからな」
「だね。だけど、その前に……」
桃ちゃんはそう言いながらバスケットの蓋を開けると、中からラッピングされた小袋に入ったココアクッキーを2つ取り出し、それを蘭姉とモカ姉に1つずつ手渡した。
「はいっ! さっき焼いたばかりのココアクッキーだよ! 結構うまく出来たから、お姉ちゃん達にもお裾分け!」
「あ、ありがとう……」
「ありがとうね、桃~」
「えへへ、どういたしまして。せっかくだから、太陽君とタカ兄にも今の内に渡しちゃうね。はい、どうぞ」
「うん、ありがとう、桃ちゃん」
「ありがとうな、桃ちゃん」
「どういたしまして。それじゃあお姉ちゃん、蘭ちゃん、私達はそろそろ戻るね」
「うん、分かったー」
「3人とも……えっと、心配してくれてありがとう……」
「どういたしまして。それじゃあな、2人とも」
「またねー」
「蘭ちゃん、またねー。モカお姉ちゃん、また後でー」
それぞれ蘭姉とモカ姉に言葉を掛けた後、僕達は屋上を後にしてそれぞれの部室へ向けて廊下を並んで歩いていた。その途中、タカ兄は突然何かを思い出した様子で「……そうだ」と声を上げると、不思議そうに小首を傾げながら話し掛けてきた。
「さっき、モカちゃんと話をしていたようだったけど、何を話してたんだ?」
「えっとね、簡単に言うなら蘭姉があのノートに書いていた詩の話とモカ姉は充分に蘭姉の助けになってるっていう話だよ」
「なるほどな。まあ、詩がどんな内容かは分からないけど、きっとあの5人の助けになる気はするよ」
「そうだね。それで、私達はこれからもモカお姉ちゃん達の事は関わりすぎずほっときすぎずの姿勢で良いんだよね?」
「ああ、そうだな。青司が言うように、この件についてはあの5人が解決するべき問題だから、その程々なくらいがベストだと思う」
「うん、りょーかい」
そんな事を話している内に、僕達が演劇部の部室の前に着くと、それと同時に桃ちゃんがニコリと笑いながら僕達から離れた。
「それじゃあ2人とも、部活動頑張ってね♪」
「ああ、ありがとうな」
「桃ちゃんはこれから皆にこのクッキーを配り歩くの?」
「うん、部長には許可は貰ってるからそのつもりだよ」
「そっか。配り歩き頑張ってね、桃ちゃん」
「うん、ありがとう! それじゃあ2人とも、また後でねー!」
「うん、また後でねー」
「また後でー」
そして、桃ちゃんが廊下を歩いていくのを見送った後、僕達は再び部活動に励むために部室のドアを静かに開けて中へと入った。
「……うん、やっぱり疲れている時の甘い物と紅茶の組み合わせは、スゴく心が落ち着くなぁ……」
帰宅後、僕は桃ちゃんから貰ったココアクッキーと淹れ立ての紅茶という組み合わせを楽しみながら、リビングのソファーでのんびりとしていた。夕御飯前ではあったけれど、甘い物の誘惑にはどうにも逆らえなかったため、こうしてのんびりとしたミニティータイムを楽しむ事にした。
……結局、青兄が今朝言っていたような蘭姉がクラスに居場所が無い理由を探る事は出来てないけど、ひまり姉達の事を見守るという目的から考えるならたぶんこれで良かったんだよね……?
頭の中に広がる小さな疑問を感じながらココアクッキーを一口齧っていたその時、リビングのドアがガチャッと開く音が聞こえたかと思うと、それと同時に「あ、ここにいたんだー」というひまり姉の声も聞こえ、僕はゆっくりとひまり姉の方へ顔を向けた。
「ひまり姉、何か用事?」
「ううん、特には。ただ、部屋にいないようだったから、どこにいるかなと思っただけ」
「そっか」
「ところで……それは桃ちゃんが配り歩いていたココアクッキーだよね?」
「うん。せっかくだから紅茶と一緒にと思って、帰ってくるまで取っておいたんだ」
「なるほどね。それで、その中にハート型のクッキーなんて入ってたりはした?」
「いや、無かったと思うけど……それがどうかしたの?」
「いやー、太陽と桃ちゃんの仲の良さを考えたら、そういう事もあるかなぁと思ってね」
「……ああ、そういう意味。残念でした、僕達はそういう関係じゃないから、そんな事はありません」
「そっかぁ……けど、もしそうなったら遠慮なく私に相談してくれて構わないからね。モカから聞いたけど、太陽達は私達の事をかなり気に掛けてくれているみたいだし、少しは恩返しの意味も込めてお姉ちゃんらしい事をしたいからね」
「……分かった。もしそうなったら、その時は相談する事にするよ」
「うん!」
満面の笑みを浮かべるひまり姉に対して、ニコッと笑い返しながら僕は心の中で少しだけ申し訳なさを感じていた。
……たぶん、ひまり姉は僕が不安そうにしていたのに気付いて、こういう話題を振ってくれたんだよね。自分だって蘭姉達との事でだいぶ不安を感じてる中で、しっかりと他の人にも気を向けていけている。やっぱりそういう所は、僕も見習っていかないといけないかな。
さっきの会話からそう思った後、僕は笑いながらひまり姉に話し掛けた。
「ひまり姉、これからも
「うん、もっちろん!」
そう笑顔を浮かべながら大きな声で答えるひまり姉の顔を見て、僕は静かに安心感を覚えた。
……うん、このまま不安になっててもしょうが無いし、今は僕達が出来る事を精いっぱいやろう。今までお世話になってきた分、今度は僕達がひまり姉達をささえていかないといけないからね。
そんな小さな使命感を胸に抱きながら、僕はひまり姉達の事に対しての決意を新たにし、それによって湧き上がってくるやる気と勇気のような物を静かに感じていた。
政実「第4話、いかがでしたでしょうか」
太陽「この章もそろそろ後半戦だけど、後何話くらい続く予定なの?」
政実「予定では、後3話くらいかな。ただ、話の進み具合によっては、2話になるかもしれないけど」
太陽「うん、了解。そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けるととてもうれしいです」
政実「さて……それじゃあそろそろ締めていこうか」
太陽「うん」
政実・太陽「それでは、また次回」