鷹明「どうも、羽沢鷹明です。まあ、どっちにもお互いの良い所があるからな」
政実「うん。夕焼け空の下を歩くのも好きだけど、夕暮れにのんびりとするのも好きだから、どっちが良いって訊かれても決められないかもしれないね」
鷹明「そっか。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・鷹明「それでは、第6話をどうぞ」
つぐみ達がバンドを組んだ数日後、いつも通り皆で登校をしていた時、隣を歩いていた青司が満足顔で体を上へグーッと伸ばしながら俺達に話し掛けてきた。
「んー……にしても、今日も良い天気だな。こんな良い天気だと、気分も良くなるよな」
「そうだな。それに、つぐみ達の件も何とかなった分、尚更そう感じるな」
「ふふ、そうだね。本当に最初はどうしようと思ったけど、結果として万事解決したわけだし、これで一安心……かな?」
「僕はそれで良いと思うよ。最近のひまり姉は、前よりもスゴく楽しそうだからね」
「ふふっ、ウチのモカお姉ちゃんもかな」
「もちろん、巴お姉ちゃんもそうだよ!」
「そっか……ふふ、本当につぐみ達の事を解決できて良かった……」
チラリとつぐみ達の方へ視線を移すと、つぐみ達はバンドの事で話し合いをしており、その誰もが心からの笑顔を浮かべていた。
ここまで来るのに良くも悪くも色々あったけど、終わりよければ全てよし、つまりはそういう事……かな。
そんな事を思っていた時、演劇部の
「青司、どうかしたか?」
「……いや、ちょっとな」
ニヤリと笑いながら答える青司の様子に、俺の中で危険を知らせるサイレンが鳴り響いたような気がしていると、それを見ていた兎亜が同じくニヤリと笑いながら青司に声を掛けた。
「……どうやら、また面白そうな事を思いついたみたいだね」
「んー……まあ、そんなところ……かな? ただ、これはまだまだ先の話だから、俺がちゃんと話をするまではお預けだな」
「お預け、かぁ……。でも、青兄の表情からスゴく面白そうな事なのは分かるし、それまで楽しみにしてようかな?」
「そうだね。でも……これだけは訊きたいんだけど、それは
桃が小首を傾げながら訊くと、青司はそれに対してニヤリと笑った。
「……それ、訊いちゃう?」
「うん、訊いちゃう♪」
「そうだな……関係はあるけど、今のアイツらに対して何かをするみたいな事では無いな。まあ、アイツらに関係があるのは間違いないけどさ」
「そっか……それなら太陽君が言ったようにそれまでのお楽しみにしてるよ」
「ああ、そうしとけ。ただ……この前、ここにいる全員が蘭達の楽器代に手を貸してるのは知ってるけど、
「……青司、お前本当に何を企んでるんだ……?」
「へへっ、内緒だよ内緒♪ というか、せっかちな男は嫌われるぜ?」
「……それは別に良いけどな。まあ、そういう顔をしてる時のお前は、悪事とか悪戯とかに走る事は無いのは分かってるから、これ以上は訊かないけどさ」
諦め気味に言うと、青司はニカッと笑いながら俺の肩を強めに抱いてきた。
「ヘへ、サンキューな。タカならそう言ってくれると思ってたぜ?」
「まあ……いつもの事だからな。けど、その時になったら全部話してくれよ?」
「おう、もちろんだぜ! この美竹青司、嘘をつく気だけは無いからな!」
「……今まで、結構な数の嘘をついてきた気がするけど、まあ良いか……」
青司の考えに多少の不安はあったものの、楽しそうに笑う青司の姿を見ている内にそれは段々どうでも良くなり、最後には不思議な事に不安よりも楽しさの方が勝っていた。青司は昔から自分の楽しさに他人を巻き込む事が得意であり、その巻き込まれた奴が感じている楽しさも次々と伝染していき、最後には誰もが楽しそうに笑っているなんて事が結構あった。もちろん、兎亜も同じような事が出来るが、こればかりは青司の方が凄いと俺は思っている。
……俺が内気の鳥籠から出て来られたのは、青司と兎亜が無理やり引っ張り出してくれたからではあるけど、こういう楽しさの
楽しそうに笑う青司達の事を見ながらクスリと笑った後、俺は再び青司達の話に混ざり、その楽しさを感じながら学校へ向かって歩いていった。
「……ふふ、その感じだと妹さん達はもう大丈夫そうみたいだね」
「へへっ、まあな!」
登校後の教室での事、俺達の今朝の話を聞いてニコリと笑う咲也に対して、青司は少しだけ胸を張りながらニカッと笑って答えた。今回のつぐみ達の件で、俺達は咲也達や友希那達、そして薫達に相談に乗ってもらったり助けてもらったりしたため、つぐみ達がバンドを組む事にした翌日に問題が解決した事はしっかりと話をした。ただ、それ以降も咲也達はつぐみ達の様子を気に掛けてくれている事もあって、今日のようにつぐみ達の話をする事が前よりは確実に増えている。
まあ、心配をしてもらってるのはありがたい事だし、良い事ではあるよな。
そんな事を考えながら一人で頷いていた時、恵明が少し驚いた様子で静かに口を開いた。
「……それにしても、お前達の問題解決力には本当に驚かされるな。クラス内や学年内で起きた問題の解決は前々からしていたが、いつも一週間弱で解決をしてしまうからな」
「あはは……まあ、今回に関してはあくまでも俺達は相談に乗ったり話を聞いたりしたくらいで、最終的にはつぐみ達が
「ううん、そんな事は無いとあたしは思うよ。鷹明達が親身になって話を聞いたり支えてあげたりした分、妹さん達は助かってたと思うし、これは妹さん達と鷹明達で解決した事だって言っても良いと思う」
「日菜……うん、ありがとうね」
日菜の言葉に兎亜が微笑みながら答えていたその時、不意に咲也が「バンド、か……」と呟き、それを聞いた青司が楽しそうな物を見つけたと言わんばかりの様子で話し掛け始めた。
「おや? 咲也さん、もしやバンドに興味が出てきちゃった系? もしかして、誰か誘って自分もバンドを組んじゃう系?」
「ううん、そういうわけじゃないんだけど。趣味の1つが音楽を聞く事だから、ライブハウスのバイト先を探してみるのもありかなと思ってね」
「ライブハウスのバイト……かあ。咲也がバイトするライブハウスで蘭達が演奏をする……へへっ、なんかスッゲえ楽しそうな予感がするな!」
「ふふ、そうだね。僕もそれが実現するのを楽しみにしてるよ」
「まあ、そのためには咲也がバイトするライブハウスを見つけて、つぐみ達がライブを出来るまでに演奏の腕を上げないといけないけどな」
「そうだな。ところで……」
「ん、どうしたの?」
「バンド名はもう決まってるのか?」
恵明のその疑問を聞き、青司は不意に顎に手を当てた。
「バンド名……そういや、蘭はまだ決めてねぇって言ってたな」
「けど、バンド名ってそんなすぐに決める物でも無いし、つぐみ達が決めたい時に決めれば良いんじゃないのか?」
「そうだね。ただ……」
「ただ……?」
「その記念すべき時に立ち会えるなら立ち会いたいとは思うかな」
「……ふむ、確かにな。よし、それなら今日の放課後にアイツらの練習風景をこっそり見てみようぜ。もしかしたら、練習中にそういう話になるかもしれねぇからな。あ……もちろん、しっかりと部活は終わらせた上でな」
青司がまた楽しそうな様子で言う中、俺はその青司の言葉に疑問を抱き、その疑問を青司へとぶつけた。
「……青司、こっそりとやる意味はあるのか?」
「ああ、もちろんだ。俺達が参加しても、アイツらは別に嫌な顔をしないのは分かってる。けど、今みたいな始めたばかりの時に俺達が見てたら、たぶんいらないプレッシャーを感じると思う」
「…………」
「タカも分かってるとおり、俺達はあくまでもアイツらを見守る側であり、サポートをする側だ。だから、アイツらが困ってたり助けを求めてたりしたら手を貸すけど、アイツらが自分達の力でどうにか出来そうなら、静観に徹する。つまり、今回はひとまず、アイツらの様子をこっそりと見てた方が良いんだよ」
「……なるほどな。とりあえず
ジトッとした視線を向けながら訊くと、青司はさっきまでの真剣な表情を崩し、ニカッと笑いながら答えた。
「こっそりと何かをするって……なんかカッコいいだろ?」
「……はいはい、そうですね」
……はあ、やっぱりそんな事だろうと思った。まあ、本音の半分は本当に真剣だったわけだし、そこだけは良しとするか。
そんな事を思いながら小さく溜息をついた後、俺はつぐみ達のバンドの見守り計画について青司に問い掛けた。
「それで、部活が終わったらどこに集まれば良い? つぐみ達の場合、しっかりと部活が終わった後に屋上にでも集まってそうだから、バレないようにしながら集まる場所が必要だろ?」
「そうだな……よし、それなら演劇部の部室が良いな。全員がバラバラとどこかに集まるよりは、誰かがいるところに集まった方が、集合をしやすいからな」
「……分かった。それじゃあ太陽には俺が伝えるから、桃への連絡は任せたぞ?」
「おうよ! それに関しては、この美竹青司様にバッチリ任せとけ!」
「ああ、任せた。それじゃあ兎亜は、あこちゃんへの連絡を頼む。そして部活が終わったら、つぐみ達に見つからないように演劇部の部室まで来てくれ」
「うん、了解」
俺の言葉に兎亜が頷きながら答えると、それを見ていた咲也達がクスクスと笑いながら話を始めた。
「いつも青司達が先導して何かやっているから忘れがちだけど、何かをやる前は絶対に鷹明がまとめて指示を出してるんだよね」
「そうだな。言ってみれば、鷹明が青司達のリーダーみたいな感じだからな」
「そうそう。青司達が変な方に行かないようにしながら、しっかりと目的を達成できるように鷹明がコントロールしてる感じだもんね。よっ、名リーダー!」
「お前達……そういう事を言うと、コイツらが悪ノリするからあまりそういう事は――」
「へへっ、さっすがは俺達のリーダー、羽沢鷹明ってところだな! 俺達以外からもそう思われてるなんて、まったく羨ましい限りだぜ!」
「頼りにしてるよ、私達のリーダー様♪」
「はあ……遅かったか。と言うか、そんなにリーダーリーダー言うなら、少しはそのリーダーが苦労しないようにしてほしいところなんだけどな……」
「えー……俺達はしてるつもりだぜ? な、兎亜?」
「そうそう、タカに計画のまとめと指示出しに集中してもらうために、私達が計画の立案と実行をしてるわけだし、結構苦労しないように気を配ってるつもりだよ?」
「いや……そもそもそういう計画自体を立てないでくれた方が助かるんだけど……?」
「それは無理だな。困っている奴がいたり何か面白そうな事があったりしたら、それを見過ごせないのが俺達だからな。それを無しにしようなんて言ったら、俺達の存在意義すら無くなるぜ?」
「いや……人助けとか面白い事の手助けとかが存在意義って、物語のヒーローじゃないんだから……」
青司達の口から次々と出て来る言葉に対してツッコミ混じりの言葉を返していたが、段々疲れを感じてきたため、俺はこれ以上のツッコミを入れる事を諦めた。
「……はあ、分かった。けど、加減や程度は考えてくれよ? 出来る限りはこれまで通りに付き合うけど、あまりにも多かったら流石に無理があるからな」
「へへっ、分かってるって!」
「うんうん、そこに関してはしっかりとやるから、大船――ううん、宝船に乗ったつもりでいてよ」
「それが泥で出来た宝船じゃない事を祈ってるるよ……」
溜息交じりに青司達の言葉に答えながらも、俺の心は青司達の言葉に対してワクワク感を覚えていた。
まあ……青司達と一緒の日々は、色々大変ではあるけど、その分楽しい事も多いわけだし、さっきの言葉の通り出来る限りは付き合ってやるか。もっとも――。
「……俺にどこまで出来るのかは分からないけどな」
誰にも聞こえない程、小さな声でポツリと呟いた後、俺は楽しそうに微笑む青司と兎亜に対して小さく微笑んだ。
「はは、なるほど。確かにキミがリーダーならば、安心感はスゴいだろうね」
「そうですね。鷹明君は、いつも落ち着いていますし、どんな時でも的確な指示を出してくれますから、青司君と兎亜さんの言う事も分かる気がするッス」
放課後の部活の片付け中の事、太陽と一緒に今のつぐみ達の様子について話した後、ついでに今朝の青司達との会話についても話すと、薫達は納得顔でそんな事を言い出したため、俺は軽く溜息をつきながら薫達に話し掛けた。
「……そう言われるのは嬉しいけど、それはあくまでもアイツらが自由すぎた結果なんだけどな……」
「鷹明、それは青司達が君を心から信頼しているからだよ。君の事を心から信頼しているからこそ、青司達はいつだって安心して行動をする事が出来るんだ。もっとも、君的にはもう少し落ち着いて欲しいと思っているようだけどね」
「……その通りだよ。別に今のアイツらが悪いとは言わないけど、突拍子もない事を突然言い出す事があるから、その辺は少し考えて欲しいとは思ってるかな」
「あはは……鷹明君も結構大変なんですね。自分もそっちのクラスの日菜さんと話をしていると、その発言の自由さに困る時はありますけど、その分自分じゃ思いつかない事なども言ってもらえるので、勉強になる事も多いですよ」
「そうだね。いつも好奇心も旺盛で行動力もあり、様々な事をすんなりとやってのけてみせる。流石は青司が名付けた通りの
「……そっか、最初はどうなるかと思ったけど、青司の言うとおりに引き合わせてみたのは、どうやら正解だったみたいだな」
麻弥と薫の反応に俺は胸を撫で下ろしながらその時の事を想起した。事の発端は、去年のある日の昼休み中に、青司が麻弥と薫の事を話題にした事だった。話題にしたと言っても、青司が薫にピッタリな渾名を思いついたから、今度は麻弥にもつけてみたいと言っただけなのだが、それがきっかけで日菜が麻弥と薫に興味を持ち、どんな人達かちゃんと知りたいから一度会ってみたいと言った事で、青司と兎亜がそれを面白がり、自分達で麻弥と薫にも話を通して三人が顔合わせをする機会を作った。尚、その話を麻弥と薫の両名に切り出した際、麻弥は少し困った様子を見せていたのだが、薫は結構乗り気だった上に麻弥を自分で説得し始めた事で、麻弥も日菜と会ってみる決心を固め、その顔合わせは実現する事となった。そしてその結果、麻弥と薫は日菜と仲良くなり、それに味を占めた青司と日菜の紹介で咲也と恵明とも仲良くなり、更には兎亜の紹介で友希那とリサとも仲良くなるという当初の目的からは離れた事になったが、本人達はその出会いに満足している様子だったため、俺は特に何も言わなかった。
まあ、別に悪い事では無いし、こういった関係性っていうのは後々になって大切になってくるから、青司達の行動は結果として良かった事になるんだろうな。
そんな事を考えていた時、廊下の方から楽しそうな話し声が聞こえ、俺達は揃ってドアの方へ顔を向けた。すると、話し声の主――青司がドアの陰からヒョコッと顔を出し、俺達の事を見つけると、ニッと笑いながら声を掛けてきた。
「よっ、お前達。演劇部はまだ片付け中か?」
「まあな。けど、すぐに終わらせるからそこで待っててくれ」
「ラジャー、キャプテンタカ。俺達お助けし隊のメンバー達は、話をしながら待ってるから、あまり急がなくても良いぞ。じゃあな」
青司の顔が引っ込んだ後、俺が「お助けし隊って何なんだよ……」と言いながら溜息をついていると、太陽はそれとは対称的に楽しそうな様子で話し掛けてきた。
「たぶん、僕達にあこちゃんを加えた六人のチーム名じゃないかな? ほら、ひまり姉達のバンドも名前は無いけど、僕達六人にも名前は無かったし」
「いや……だとしても、わざわざつける必要はあるのか?」
「うーん……そこは僕にも分からないけど、きっと青兄には何か考えがあるんじゃないかな? 今回のひまり姉達の件は何とかなったけど、この先のことは分からないし、今朝も何か考えてる事がある感じだったから、もしかしたらそれに関係してるのかもしれないよ?」
「なるほど……」
太陽の予想が合っているとすれば、青司の行動にも納得はいく。納得はいくけど、それが合っているという事は、俺が予想している事以上の事を青司が考えているという事にもなる。
アイツ……本当に何をするつもりなんだ……?
青司が考えている事について軽く考えてみたものの、すぐには答えが出る様子は無かったため、俺はその事をひとまず置いておく事にし、深呼吸をして気持ちを切り替えた。
「……さて、青司達を待たせるわけにもいかないし、さっさと片付けてしまうか。早くしないと計画自体が終わってしまうしな」
「うん!」
満面の笑みを浮かべる太陽に対して微笑みながら頷いた後、俺は薫達の方へと顔を向けた。
「本当にゴメンな、二人とも。相変わらず何がなんだか分からない状況ばかりにしちゃって……」
「ふふ、別に構わないさ。おおよそ、今回も青司の思いつきで何やら楽しそうな事をしているんだろう? だったら、私達はそのサポートをするだけだ。そうだろう、麻弥?」
「はい、薫さんの言う通りッス。いつも鷹明君達には、何かと助けられていますから、こんな時くらいは自分達の事を頼って下さい」
「まあ、それでも申し訳ないと言うのならば、いつでも良いから今日の話を聞かせてくれ。君達が話してくれる話は、戯曲のように儚くどこか心に訴え掛けてくる物があるからね」
「二人とも……本当にありがとう。よし、それじゃあさっさと片付けてしまおう!」
「うん!」
「はい!」
「ああ」
そして、俺達は他の部員達と協力しながら片付けを始め、約5分後には部室の片付けを終える事が出来た。その後、簡単なミーティングを行い、部長の号令で帰りの挨拶を終え、部員達がそれぞれの荷物を持って次々と帰っていくのに続いて俺達も部室を出た。そして、ドアの方へ視線を向けると、そこには俺と太陽を除いた全員が揃っており、ドアにもたれ掛かっていた青司が「よっ、お疲れさん」と声を掛けてきたため、俺は右手を挙げながらそれに答えた。
「ああ、お疲れ様。兎亜達もお疲れ様」
「うん、お疲れ。薫に麻弥もお疲れ様」
「ああ、お疲れ様、皆」
「お疲れ様です、皆さん」
「「お疲れ様です」」
それぞれ言葉を交わし終えた後、薫と麻弥が昇降口の方へ体を向ける中、俺と太陽は青司達の方へと移動した。そして、薫は俺達の方へ顔を向けると、ウインクをしながら声を掛けてきた。
「それでは、私達はこれで失礼するよ」
「皆さん、さようならです」
「ああ、またな」
「おう、またな!」
「二人とも、またね」
「「「さようならー」」」
薫達の挨拶に答え、薫達が昇降口の方へ歩いて行くのを見送った後、青司は俺達の事を見回しながら楽しそうな笑みを浮かべた。
「うっし……それじゃあ早速、蘭達がいる屋上に行こうぜ」
「それは別に良いんだけど、つぐみ達にバレないように見守るための算段はついてるのか?」
「いや、まったく? けど、息を潜めて静かに見てれば何とかなるんじゃね?」
「何とかなるんじゃねって、お前なぁ……」
青司のあまりのノープランっぷりに呆れていると、兎亜が俺達の間に入りながら俺に話し掛けてきた。
「まあまあ、本当に何とかなるかもしれないし、とりあえず試してみようよ。確かに見つからないように見守るのが目的だったけど、見つかったらその時には、巴達の相談に乗ってあげたり話を聞いてあげたりすれば良いんだからさ」
「兎亜……分かった。まあ、ここに溜まったままよりは、とりあえず試してみた方が確かに良いか」
「そうそう、その方が良いよ。それに、早く行かないと巴達が帰っちゃうかもしれないしね」
「……っと、それもそうだな。兎亜の言う通り、蘭達が帰っちまう前にどうにか作戦を遂行しちまわねぇといけねぇし、さっさと行くか」
「そうだな。よし……皆、それじゃあ行こうか」
「おう!」
『うん!』
皆の返事を聞いた後、俺達はつぐみ達がいるであろう屋上に向かって歩き始めた。そしてその途中、青司がこそっと「……兎亜、さっきはサンキューな」と言い、兎亜がそれに対してニコリと笑いながら「どういたしまして」と返しているのを聞き、俺はこっそりと笑っていたのは青司達には内緒だ。
数分後、屋上へ続く扉に到着した時、皆に息を潜めるように合図を出し、皆が見やすいように調整しながら扉を静かに開けた。すると、屋上には俺達が予想していた通り、つぐみ達の姿があり、蘭ちゃんとモカちゃん、そしてひまりちゃんの傍にはケースに入ったそれぞれの楽器が置かれていた。しかし、当の本人達は楽器の練習をしているわけではなく、夕焼け空の下で何やらつぐみの周りに集まって何かの話し合いをしていた。
「……皆で話し合いをしてるみたいだな」
「だな。けど、何を話してるかまでは流石に聞こえねぇな……」
「……あれ? つぐみちゃん、何か手に持ってない?」
「……あ、本当だ。何だか四角い物を持ってるみたいだね」
「うーん……何だろうね、あれ……」
「ねえ、タカ兄。タカ兄はアレが何か分かる?」
「アレは……たぶん、電子辞書じゃないかな?」
「電子辞書って事は……何かを調べてるって事になるけど、もしかして本当にバンド名を決めてるとこなんじゃね……?」
「可能性は高そうだね……けど、あの様子はどうやら難航してるみたいだね」
ひそひそ話をしながらつぐみ達の様子を窺っていたその時、不意にモカちゃんがこちらに顔を向けたかと思うと、不思議そうに小首を傾げながらジーッと俺達の事を見始めた。
……あ、もしかしなくてもこれ――。
「バレてるな……」
諦め気味に独り言ちた時、まるでその声が聞こえているかのように納得顔で頷いた後、モカちゃんはニヤッと笑いながら俺達の事を指さし大きな声を上げた。
「みんなー、あたし達だけじゃ中々決まらないし、ここはあそこにいる助っ人達にも手伝ってもらおうよ~?」
『……え?』
つぐみ達の声がシンクロし、視線がこちらに集中した瞬間、青司は「……バレちまったら仕方ねぇな」と楽しそうな笑みを浮かべながら言い、制服のポケットをごそごそと探り始めた。そして、小さなメモ帳を取り出してペラペラとページを捲り、あるページで手を止めると、俺達の前に出ながら楽しそうに大きな声を上げた。
「ははっ! バレちまったからには仕方ねえ、こうなりゃやる事は一つだけだ!」
「やる事って……青司、お前何をする気だ?」
「へへっ、そんなの決まってるだろ? という事で……皆、今からメモを1枚ずつ渡すから、自分の番になったら前に出てきて書いてある事を読んでくれ。それで、読む時は大きな声じゃなくても良いから、しっかりと感情は籠めてくれよ?」
「読んでくれって……まったく意味がわからな――」
「良いから良いから。ほら、まずはタカからだ」
俺の疑問を遮りながら渡されたメモを手にし、俺は仕方なくメモの内容を読み上げた。
「えーと……『困り顔は鷹の目でバッチリ見つけるクリムゾンホーク、羽沢鷹明』」
「次は俺だ! 『不安も悩みも全て受け止めるブルースカイ、美竹青司』!」
「そして、次は私だね。『助けの声は長い耳で聞き逃さないカナリィラビット、宇田川兎亜』!」
「次は僕だね。『暗い気持ちを暖かく照らし出すグリーンサンシャイン、上原太陽』!」
「次が私だね。『心と体に安らぎをもたらすピンクパフューム、青葉桃』!」
「ラストはあこだね! 『安楽の刻を告げるヴァイオレットネクロマンサー、宇田川あこ』!」
「『困っている者を助けるは、我らが使命! お助けし隊、ここに参上』!」
そんなどこかの戦隊ヒーローのような小っ恥ずかしい登場時の台詞のような物を青司が言い終えた後、モカちゃん以外の四人はポカーンとした表情を浮かべた。それはそうだろう。何故なら、自分達の兄弟がいきなり現れたかと思えば、突然戦隊ヒーローの口上のような物を言い始めたのだから。
……というか、言わされた俺も結構恥ずかしいんだけど、これ……。
つぐみ達の視線を浴びながら言い知れぬ恥ずかしさを感じていると、モカちゃんがこっちに近付いてきながらとても楽しそうな様子で青司に話し掛けた。
「青兄ー、さっきの奴は思ったより本格的な名乗りでしたなぁ~」
「へへ、だろ? まあ、本当は絶対に見つからねぇ方法を考えてたんだが、それが中々思いつかなくてな。んで、気分を変えようと思って、途中から見つかった後の事を考え始めた結果、どうせならこういう登場にすれば面白いんじゃねぇかと思って、この名乗りの口上を考えたんだよ。まあ、名乗った時のゴロの良さとか色々な事情とかを考慮した結果、俺と桃と太陽以外はベースになる色の類似色になったり色の後ろの言葉も種類がばらけたりしたけど、俺的には結構うまく出来たと思うぜ?」
「うん。モカちゃん的にもさっきのは楽しかったし、こういうのもたまには良いもんだねー」
「ははっ、だよな!」
モカちゃんと青司が楽しそうに話す中、俺は恥ずかしさを堪えながらつぐみ達へと近付き、未だにポカーンとしているつぐみ達に話し掛けた。
「えーと……四人とも、大丈夫……かな?」
「う、うん……大丈夫だよ、お兄ちゃん。ただ、ちょっとビックリはしたけど……」
「……うん。ビックリはしたけど、それ以外は大丈夫だよ……」
「あたしも大丈夫だけど……鷹明さんの方が大丈夫じゃなさそうだよな……」
「……うん。タカ兄……本当にお疲れ様」
「……うん、ありがとう」
太陽達はまだしも、兎亜までノリノリだったからな……。あの状況で、そのノリについて行けてないのが俺一人だけだったのは、本当に辛かった……。
さっきの事を思い出し、一人で溜息をついていたその時、いつの間にか太陽達を連れて近付いてきていた兎亜が巴ちゃんに声を掛けた。
「ところで、さっきは電子辞書を見ながら何をやってたの? もしかして、バンド名決め?」
「あ……ああ、そうだ。一応、何個か候補は挙げてたんだけど、どれもイマイチでさ」
「ふーん……例えば?」
「えーと……ウルトラヴァイオレットとかストラトスフィアとか……後は、オムニスだったかな?」
「『紫外線』に『成層圏』、それに『万物』か……」
「何と言うか……カッコいいけど、意味を聞くと不思議な気分になる物ばかりだね」
「うん、そうだね。やっぱり、こういうのは名前の響きや意味も大切だけど、何か自分達に関係する物の方が良い気はするよね」
「自分達に関係する物……」
そう呟いた後、蘭ちゃんは不意に空を見上げ、「……そうだ」と何かを思いついた様子で独り言ち、俺達の方へ向き直ってから静かに口を開いた。
「みんな……『夕焼け』はどうかな?」
「夕焼けか……うん、確かにあたし達が練習をしてる時間は、いつも夕方だからあたし達に関係する物って言えるかもしれないな」
「うん、それに……ほら」
そう言いながら蘭ちゃんの視線の先に向けると、そこにはとても綺麗な夕焼けが広がっており、その光景に屋上にいた全員の視線が釘付けになった。
「わあ……! スゴい綺麗な夕焼けだね……!」
「おー、これは中々ですなぁ~」
「バンド名に夕焼けとか夕日を意味する単語を入れたら、今日こうやってバンド名を決めていた事を夕日を見た時に思い出せる気がするんだ」
「へえ、良いんじゃねぇの? 俺はそういうの結構好きだぜ?」
「うん、私も好きだよ。えーと、それで夕焼けは……」
つぐみはすぐに電子辞書で夕焼けの意味を持つ英単語を調べ、「あ、あったよ!」という声を上げた瞬間、全員がつぐみの手の中にある電子辞書の画面に映る英単語に視線を向けた。
「えーと……サンセットに……」
「イブニング……」
「……ん? アフターグロウ……か。なあ、『Afterglow』はどうかな?」
「『Afterglow』……うん、あこはカッコいいと思うよ!」
「私も賛成! なんかバンド名っぽくてスゴく良いと思う!」
「よし……決まりだな。それじゃああたし達はこれから『Afterglow』だ!」
『うん!』
巴ちゃんの声につぐみ達が笑顔で答えた後、つぐみ達――『Afterglow』の五人は揃って夕焼け空に視線を向けて楽しそうに話を始めた。
……無事にバンド名が決まって良かった。これで、本当に一安心ってところかな?
夕焼けに照らされながらきらきらとした目で話を続けるつぐみ達を見ていたその時、不意にトントンと肩を叩かれ、それを不思議に思いながら振り向いた。すると、そこには満足顔で俺の事を見ている青司達の姿があり、それに対して微笑んでいると、青司はそれに対して静かに頷いた。
「……これでどうにかなった……かな?」
「ああ、そうだな。それにしても『Afterglow』か……ははっ、何かスゲぇカッコいい名前になっちまったもんだよな」
「うん、そうだね。そうだ……ねえ、私達もチーム名を決め直しとく?」
「え……いや、そもそもチーム名は必要なのか?」
「必要でしょ? これから先、巴達関連で集まる時にチーム名があった方がやりやすいからね」
「……うん、僕もそれが良いと思う。それに、お助けし隊も嫌いじゃないけど、せっかくだから何か僕達も関連した名前が良いもんね」
「お前達……はあ、分かった。それで、どんなチーム名にするんだ?」
「うーん……何が良いかな?」
「巴お姉ちゃん達が『夕焼け』だから、その兄弟みたいな名前が良いんじゃないかな? それな『夕焼け』に近い名前でも良いと思うよ?」
「なるほど……夕焼けみたいな名前ねぇ」
そう言いながらカバンから電子辞書を取り出すと、青司は軽く鼻歌を歌いながら電子辞書を操作し始めた。そして――。
「おっ、これなら良いんじゃね?」
と、とても楽しそうな声を上げた瞬間、俺達は電子辞書の画面に視線を向けた。すると、そこにあったのはある一つの単語だった。
「『Twilight』……意味は夕暮れとか黄昏とかだったな」
「ああ、あっちが『夕焼け』ならそれを陰から支える俺達は夕焼けの後に訪れる時間帯――『夕暮れ』が良いんじゃないかと思ってな」
「……ふふ、そうだね。それに、『夕焼け』と『夕暮れ』は言葉の見た目も似てるし、私はスゴく良いと思うよ」
「僕も『Twilight』が良いと思うよ、青兄」
「私も『Twilight』に賛成!」
「あこも良いと思うよ! まあ、あこは追加戦士枠だから、正規メンバーでは無いけど、何かあった時にはしっかりと駆けつけるよ!」
「ああ、頼んだぜ。さて……後は我らがリーダー様の意見を聞くだけなんだが、リーダー様はどう思う?」
その瞬間、青司達の視線が俺に集中し、絶対に意見を言わないといけないような空気になってしまっていた。
……まあ、反対する理由も無いし、何だかんだで『Twilight』っていう名前は嫌いじゃないしな。
そう思いながらクスリと笑った後、俺は頷きながら自分の意見を口にした。
「俺も『Twilight』が良いと思う。言葉の響きや見た目も嫌いじゃないしな」
「よし、決まりだな。それじゃあこれから俺達は、ガールズバンド『Afterglow』支援グループ兼周囲の困り事解決グループの『Twilight』だ!」
『うん!』
「ああ」
青司の言葉に返事をした後、俺達は揃って空を見上げた。時間の経過により、空は少しずつ暗くなっており、徐々に夕暮れへと近付いていた。
……いつか、何かで疲れてたり暗い気持ちになってたりした時、この夕暮れを見て今日の事を思い出そう。そうすれば、きっと元気になれるだろうから。
大切な幼なじみ達と見上げる空は、いつもよりも綺麗でどこか安心感を覚える物であり、俺はそんな空を見上げながら静かに微笑んだ。
「――なんて事もあったよな! いやー、あの時の俺は若々しかったなぁ……」
「いや、今も十分若いからな? 高校生がそんな事言ってたら、本当に年を気にしてる人から説教を喰らうぞ?」
春風が吹き抜ける四月頃、懐かしそうな様子の青司に対していつも通りツッコミを入れた後、目の前で湯気を上げている珈琲の香りを嗅ぎながらふうと息をついた。今日は休日なのだが、混み始める時間にはまだ早かった上、つぐみは『Afterglow』の練習へ行き、両親は揃って奥の方にいるため、店内には俺達しかいなかった。あの『Afterglow』と『Twilight』が結成された日から早二年、俺と青司と兎亜は高校2年生になり、『Afterglow』の五人は高校1年生に、太陽と桃とあこちゃんは中学3年生になった。そして、この二年間で俺達の生活や周囲の状況は色々と変化した。咲也がライブハウスでバイトを始めたり、巴ちゃんの影響であこちゃんもドラムを始めたりと、色々例を挙げる事は出来るが、一番変わったとすれば『Afterglow』の五人の演奏の腕が格段に上がり、文化祭でのライブなどをするまでになっていた事だろう。もちろん、俺達『Twilight』はそれぞれ自分達の姉妹の事をメインで支えていたが、特に青司は友希那に蘭ちゃんのボーカルレッスンをしてもらえるように頼んだり、咲也がバイトを始めたライブハウスを進めてみたりと何かと世話を焼いていた。
まあ、青司の気持ちは分からなくは無いよな。俺もつぐみの練習に付き合ったり家の手伝いを代わったりしてたわけだし。
そんな事を思いながら二年間の事をボーッと思い出していたその時、兎亜が不意に青司に話し掛けた。
「……で、集まった本当の理由を教えてもらっても良いかな? 別にあの日の思い出話をするためだけに集まったわけじゃないんでしょ?」
「ん……まあな。それじゃあそろそろ本題に入るか。今回集まってもらったのは、『Twilight』の活動内容を増やそうと思ったからだ」
「活動内容を増やすって……具体的には?」
「そうだな……まずは、支援対象の増加だな。当然だが、俺達は蘭達『Afterglow』の支援がメインで結成されたグループだ。けど、最近俺達の知り合いや知り合いの姉妹が次々とバンドを結成してるだろ?」
「そういえばそうだったな。えーと……確か恵明の妹さんと太陽達の友達の従姉が一緒のバンドに入ってるんだよな」
「それと……友希那達もバンドを組んだって言ってたし、そのバンドにはあことあこの友達、それと日菜のお姉さんも入ってるよね」
「後は……麻弥さんと日菜さん、それと聖也君のお姉さんとここでバイトをしている若宮さんがメンバーのアイドルバンドもあるし、薫さんも最近バンド活動に誘われて参加する事にしたって話してたよね」
「そう考えると……結構バンド活動してる知り合いとかその兄弟って多いんだね」
「そうだな。という事で、これまで通り『Afterglow』をメインで支援していくけど、他のバンドも支援出来る時は支援していきたいと思う。もちろん、支援の方法は変えずにな」
「基本的には静観で、助けを求められた時や本人達だけじゃ無理そうな時には手を貸す、だな」
「その通りだ。まあ、俺達の勝手なお節介かもしれないけど、『Afterglow』や知り合い達はもちろん、知り合いの姉妹達の困り事も放ってはおけないからな。という事で、この四月から支援対象を増やしたいと思うけど、タカはどう思う?」
「そうだな……本当ならそういう事はあまりしない方が良いとは思うけど、青司の気持ちは分からなくは無いし、支援対象が迷惑に感じないように気をつけながらやるなら俺は反対しないよ」
「オッケー! それじゃあ本題の二つ目に行くか」
「二つ目……?」
「ああ、そうだ。皆、二年前に俺が内緒にしてた事があるのは覚えてるか?」
「内緒にしてた事……ああ、そういえばあったよね」
「うん、その時は内緒って言ってたけど、お金だけは貯めといて欲しいとも言ってたよね」
「おう、その通りだ。そして、そろそろその話をする時だと思ったから、今日はこうして集まってもらったんだよ」
「ふーん……それで、その話って何なんだ?」
「ふっふっふ……では、発表しよう! 俺達『Twilight』は、近い内にバンド活動を始めようと思う!」
その言葉を聞いた瞬間、俺は青司の言葉が信じられなかったが、兎亜達はとても楽しそうな様子を見せた。
「へえ……バンド活動かぁ。それなら私は……うん、ギターが良いかな」
「それじゃあ僕は……ドラムに挑戦してみようかな?」
「おー、チャレンジャーだね~。それなら私は、ベースにしてみようかな。えっと、タカ兄はピアノやってたからキーボードで、青兄はボーカルとギターでしょ?」
「おう! あ、俺と兎亜のWボーカルも面白そ――」
「ちょ、ちょっと待て!」
「ん、どうした?」
「どうしたもこうしたも無いって! バンド活動ってどういう事だよ!?」
「つまり、そういう事だよ」
「いや、薫の真似してる場合じゃなくて! 何でバンド活動をするなんて話になるんだよ!?」
「んー……そうだな。強いて言えば、『Afterglow』を支援するためとやってみたくなったからだよ」
「……やってみたくなったからはまだ分かるけど、『Afterglow』の支援のためってどういう事だよ……?」
「俺達『Twilight』は、あくまでも『Afterglow』の支援をメインとしたグループだ。それはこれまでもそうだし、これからも変わらない。けど、『Afterglow』の支援をするという事は、生活面だけじゃなくバンド活動面での問題にも関わる事になる。その時に楽器やバンドの知識が無かったら、支援をするどころか逆に迷惑を掛けかねない。だから、俺達自らがバンドを組んだり楽器の演奏や練習を始めたりする事で、その問題を無くそうと思う。それに、他のバンドの支援もする時にもその経験や知識は役に立つかもしれないしな」
「…………」
「そして、この五人が奏でた音楽がどんな物か周囲にどう受け入れられるかスゴく興味があるし、『Afterglow』のように俺達の居場所や心の拠り所の一つとしたい。二年前の件は、俺達だって決して他人事じゃ無かったからな」
「青司……」
「「青兄……」」
「まあ、こう長々と話したけど、決して無理強いはしないぜ。誰か一人でも乗り気じゃないのに推し進めるなんてのは絶対に間違ってるからな。だから、この計画に反対の奴は名乗り出てくれ。一人でもそういう奴がいるなら、この計画は今すぐ無かった事にするからさ」
微笑みながら言ってはいるが、青司の目は明らかに本気であり、俺達の内誰か一人でも欠けるようなら本当にバンド活動の計画を無くそうとしているのが分かったため、俺達はこの雰囲気の中で中々話し出す事が出来なかった。
……まったく、青司は本当に突拍子も無い事を言いだすよな……。けど、青司の気持ちはスゴい伝わってくるし、青司の話に反対するつもりもない。青司が感じている事は、俺だって感じていた事だからな。だったら、やるべき事は一つしか無いな。
自分の気持ちを再確認し、決意を固めた後、静まり返った空気の中で俺は口を開いた。
「……青司、お前のその提案に乗らせてもらうよ」
「タカ……ははっ、珍しいじゃん。お前が最初に俺の提案に乗るなんてさ」
「……本当にな。俺の本当の役目は、お前と兎亜が行き過ぎないようにブレーキを掛けて、太陽と桃がお前達に引っ張られすぎないようにする事なのにな。けど、お前のさっきの言葉や気持ちは、心にスゴい伝わってきたよ」
「……そっか」
「ああ。だから、俺はお前のその提案に乗らせてもらうよ。このグループ――『Twilight』のリーダーとして、皆の居場所や心の拠り所を作り、守り続けるため。そして、お前のブレーキであり続けるために精一杯羽ばたいてみせるさ」
「ははっ……カッコいい事言ってくれんじゃんよ、タカ。……まったく、あの時の内気で俺達についてくる側だったタカはどこに行ったんだろうな」
「さてな……たぶん、
「……そっか。それなら、その青空としては
「ああ、任された」
そんな会話を交わしながら俺達が笑い合っていたその時、元気な兎――兎亜が悪戯っ子のような笑みを浮かべながら話し掛けてきた。
「ふふ……それじゃあ私は、そんなカッコいい鷹に負けないように力一杯走り出さないとね」
「それなら僕は、いつものように空の上からポカポカとした
「ふふっ、それなら私は
「……どうやら、皆の気持ちは一つみたいだな」
「ああ。それじゃあタカ、リーダーとして号令を頼む」
「分かった」
青司の言葉に頷きながら答えた後、俺はゆっくりと皆の事を見回し、皆の目の中に決意の炎がメラメラと燃えているのを確認してから、ゆっくりと口を開いた。
「皆、これからは新生『Twilight』として、家族並びに友達や周囲の人達のために、精一杯力を尽くしていこう!」
『おー!』
俺の号令に対して青司達が声を揃えながら拳を勢い良く上げて応えたその時、店の奥の方からクスクスと笑う声が聞こえ、俺はそちらに顔を向けた。すると、そこには父さんと母さんの姿があり、二人とも俺の事を見ながら静かに微笑んでいた。
「……まさか、さっきの俺達のやり取りを見てた……とか?」
「うん、バッチリ♪」
「鷹明、お前の熱い思いは最初から聞かせてもらっていたよ」
「え……さ、最初から……?」
うわ……そう考えると、さっきまでの発言がスゴく恥ずかしい物みたいに思えてきた……。何か羽ばたくとか守り続けるためとか言ってたし……。
あの日のような言い知れぬ恥ずかしさを感じていた時、父さんと母さんはニコニコと笑いながら俺に話し掛けてきた。
「鷹明、お前のバンド活動や青司君達との活動を父さん達は応援してるからな」
「小さい頃、鷹明はスゴく内気で自分から友達を作ろうとしなかったけど、今の鷹明はそれとは逆で自分からやりたい事に向かって歩き始めてるし、こんなにも良い友達が傍にいる。だから、今は自分のやりたいように精一杯やってみなさい。お店の手伝いをしてくれるのは助かるけど、親としては子供が自分のやりたい事に向かって歩いていくのを見たいからね」
「父さん……母さん……」
二人のその微笑みと言葉は、俺の心に深く染み渡り、俺の中で燃えていた決意の炎を更に強くしたような気がした。
父さん達にも応援してもらってる以上、そう簡単に諦めたり止めたりは出来ないよな。もっとも、諦めたり止めたりするつもりは、今のところ絶対にないけど。
そんな事を考えながらクスリと笑った後、俺は両親の顔を見ながら静かに口を開いた。
「……二人とも、本当にありがとう」
「「どういたしまして」」
両親の返事を聞いた後、俺はもう一度青司達の事を見回し、皆のやる気に満ちた表情に対してコクンと頷いてから右の拳を固く握った。
「……よし、それじゃあ改めて……皆、新生『Twilight』としてこれからも頑張っていこう!」
『おー!』
青司達は再び拳を上げて応えた後、お互いの顔を見ながら笑い合い、俺はその様子を見ながらクスリと笑った。
これから色々と大変にはなるだろうけど、この五人ならきっと大丈夫なはずだ。
暖かな日差しが射し込む穏やかな春の午後、俺達は新しい絆の形を手にし、また新たな一歩を踏み出したのだった。
政実「第6話、いかがでしたでしょうか」
鷹明「色々言いたい事はあるけど、まず1つ。なんで屋上でバレた時の戦隊ヒーローの名乗りみたいなので、俺と兎亜だけ赤と黄じゃなかったのは何でなんだ?」
政実「それなんだけどね、鷹明の場合は某鳥モチーフの戦隊のレッドと被るからで、兎亜の場合は某スクールアイドルの中の人が出てた戦隊のゲストキャラと被るからだね」
鷹明「あ、なるほど……。それで、この章は今回でラストなんだよな?」
政実「そうだね。そして、次回のちょっとした一話を挟んで、次の章って感じかな」
鷹明「分かった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしてますので、書いて頂けたらとても嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
鷹明「ああ」
政実・鷹明「それでは、また次回」