おしゃべりーす   作:tihiro

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8. 秋月涼の二週間だけ日記

一日目(雨)

今日は始まり。

 

書き始めようと思ったのに特に理由はないけれど、強いて言うなら初めてオーディションで不合格となったから。

私と僕の歌である『Dazzling World』の誕生日でもあるから。

 

特に理由はないと書きつつ、しっかりとした理由があるけど、とにかく書き始める。

 

 

 

二日目(曇)

今日はぼんやりとしていた。

 

愛ちゃんと一緒のお仕事で、元気いっぱいな様子を見ていると、その元気はどこからくるのだろう。とふと気になった。

 

「壁にぶつかったりして、これ以上前に進めないって感じたときにはどうする?」って聞いてみたら

「それでも進みます」と返ってきた。

「それでも進めないときには?」と食い下がってみたら

「進もうと思えば進めます!! 進めるまで進むんですっ!!」って右手を高らかに上げて宣言してくれた。

 

 

 

三日目(曇)

今日はずっと考えていた。

 

昨日の愛ちゃんの言葉が頭から離れなかった。

今の僕がどれほど成長すれば、千早さんに追いつけるのだろうか。

僕が成長する間に、千早さんはどれほど成長するのだろうか。

進んでも進んでもゴールに到達できない。そう分かっていても愛ちゃんは進み続けるのだろうか。

そんなとき他の人だったら、例えば絵理ちゃんだったらどうするんだろう。

今度、聞いてみようと思う。

 

 

 

四日目(晴)

今日はのんびりした。

 

事務所で社長とおしゃべりしていると、愛ちゃんが少し元気がなさそうに出社してきた。

理由を聞いてみたら

「さすがに水の上は走れませんでした」

と俯いてしょげかえった。

 

何も言わず頭をワシャワシャしておいた。

 

 

 

五日目(晴)

今日はおしゃべりした。

 

お仕事とお仕事の隙間時間が出来たので事務所でのんびりしていた。

絵理ちゃんも似たような感じらしかったので一緒におしゃべりをして時間を潰した。

 

その中で、「壁にぶつかったときは、絵理ちゃんならどうする?」って絵理ちゃんに聞いてみたら

「引きこもってもいいじゃない?」って返された。

「にんげんだもの?」って聞いてみたら

「アイドルだもの」って答えてくれた。

 

アイドルが引きこもっちゃダメでしょ。って二人で笑いあった。

 

楽しかった。

 

 

 

六日目(豪雨)

今日は疲れた。

 

疲れて眠れないくらいに疲れた。

 

テレビ局での収録の後、珍しく尾崎さんの送迎で事務所へ戻った。道中、車内での沈黙に耐えかねて、尾崎さんにも「進むべき道が閉ざされたら」どうするかを聞いてみた。

 

そうしたら……過程が複雑なので結論から書くと、ハンドルにゴツゴツと頭をぶつける尾崎さん背中をさする僕、という図式が出来上がった。

路肩に止めた車内で静かに泣きながら「呪い」という言葉をうわ言のように繰り返す尾崎さんをなだめる僕。

 

なんとか泣き止んで事務所に到着したのは結局予定よりも三十分遅れてのことだった。おかげで社長の機嫌も悪かったし、本当に疲れた日だった。

 

聞く人は選ばないと、と思った。

絵理ちゃんも大変だなぁ、とも思う。

 

 

 

七日目(曇)

今日は何もなかった。

 

 

 

八日目(晴)

今日は出会いがあった。

 

お昼ご飯にとふらりと入った回るお寿司屋さんで、なんと876プロのマネージャーだった岡本まなみさんが働いていた。

元気そうで安心した。

 

心配かけたくないから他の人(特に愛ちゃん)には話さないでって口止めされたけど、心配かけたくないなら話すべきだと思うのは僕の人生経験が足りないからだろうか。

 

まなみさんはお仕事中だったのでゆっくりお喋り出来なかったけど、連絡先の交換はしておいた。

(なぜか)律子姉ちゃんを誘って三人でご飯でも行きましょう、ということになったから。

876プロ以外なら連絡するのはOKなのか……そういえば、律子姉ちゃんとまなみさんってどういう関係なんだろう?

その時に聞いてみよう。

 

楽しみだよね、こういうのって。

 

 

 

九日目(快晴)

今日は楽しかった。

 

愛ちゃんに誘われて、愛ちゃん家にお邪魔して鍋パーティーをした。

愛ちゃんのお母さんが出迎えてくれた。

愛ちゃんのお母さんは、真さんが喜びそうなドレスを着ていて、綺麗なお母さんだなぁって思ってよく見たら、あの伝説のアイドル日高舞さんだった。

 

びっくりしすぎて僕の口から「ぎゃぉん」って変な声が出た。

それを聞いて愛ちゃんが不思議そうな顔をしてこっちを見た。

 

「愛ちゃんのお母さんって日高舞さんだったんだ」って愛ちゃんに聞いてみたら

「あっ!!」って顔をした後、「黙っててくださいね!!」 って全力で念を押された。

 

何も言わず頭をワシャワシャしておいた。

 

せっかくなので、お鍋の準備中に舞さんに「壁にぶつかったときはどう乗り越えました?」って聞いてみた。

そうしたら「なったことがないから分からない」と即答された。

やっぱりアイドル神はすごい。

 

なお、晩御飯はご飯が山盛りすぎて、お鍋をほとんど食べれなかった。

 

残念。

 

 

 

十日目(曇)

今日は眠い。

 

理由は鈴木さんと夜遅くまで絵理ちゃんの話題で盛り上がっていたから。

これを書いている今も、もう眠い。

 

鈴木さんは「絵理ちゃんの最大の武器はViだ」って言っていたけど、僕はDaだと主張した。

お互い平行線のまま、いつのまにか「自分が知っている絵理ちゃんの可愛いところ」を延々と披露しあうだけの語り合いになっていた。

最後の方はもう眠くて何喋ってたか思い出せないけど、最終的に「絵理ちゃんは全てにおいてパーフェクト」ってことに落ち着いた。

 

ずっと隣で聞いていた絵理ちゃんのおぞましいものを見るような目が忘れられない。

ねむい。

 

 

 

十一日目(快晴)

今日は牛の気持ちだった。

 

少しだけ気だるそうな雰囲気を出して「疲れちゃって動けない時にはどうします?」って社長に聞いてみた。

そしたら平然とした様子で「這ってでも進みなさい」って返された。

その様子がとっても社長らしくて声を出してしばらくの間、笑ってしまった。

 

それを見た社長は怪訝そうに眉をひそめた後、どこかに電話をした。

それから今日の僕のお仕事は全部キャンセルになって、社長とお昼を外食して、お昼寝して、社長と晩御飯を外食して、また寝た。

なんか、食べて寝ての一日だった。

 

ご飯なら僕が作るって言っても、社長は既にレストランを(さっきの電話で)予約していたらしく強引に連れて行かれた。

でも本当に美味しかったから、まぁいいや。

美味しいものお腹いっぱい食べて、いっぱい寝たし明日から頑張ろう!

 

 

 

十二日目(曇)

今日はレッスン漬けだった。

 

やよいさんメインの十六時間耐久ライブの出演に備えて、朝はVoレッスン、昼はDaレッスン、夜はViレッスンと一日中レッスンしていた。

僕と同じくライブ出演が決まっている夢子ちゃんも同じレッスンを受けていた。

夢子ちゃんと、ちょっと張り合ってしまったのもあり少しオーバーワーク気味。

だから、レッスン後にお風呂で入念にマッサージをしたんだけど、夢子ちゃんは恥ずかしがって暴れていたから少しやりにくかった。

それでも明日筋肉痛になるよりはマシだと思うんだけどなぁ。

 

あ、夢子ちゃんに「前にすすめないときはどうするか」を聞くのを忘れたので、今度あったときに聞くことを忘れないようにしよう。

 

 

 

十三日目(晴)

今日はご馳走になった。

 

マッサージのおかげか、昨日のレッスンの疲労も残っていなくて絶好調。

朝にテレビ局での収録の後、お昼前にまなみさんと待ち合わせ。

残念なことに律子姉ちゃんとは予定が合わなかったから、かわりに武田さんと武田さんのお勧めのレストランで三人でお昼ご飯を食べた。

 

武田さんを紹介した時の、まなみさんの「なんで?」って顔が申し訳ないけど可笑しかった。

それでも少ししたら普通に武田さんとまなみさんは会話していて、大人ってすごいなぁって思った。

 

 

 

十四日目(雨)

今日は終わり。

 

朝から雑誌のインタビューを受けて、午後からテレビ局で収録をして、それから事務所に寄って帰ってきた。

そのテレビ局での収録の後に、昨日のお礼のために武田さんを訪ねた。

 

正直なところ、女の子のための歌と形容するのがぴったりな『Dazzling World』を僕に託した理由は分からない。

けど、武田さんと一緒に歌って踊っているうちにそんなモヤモヤとした疑問はどっかにいっちゃった。

本当になんとなくだけど、焦らなくても自然と理由が分かる日が来るような気がした。

 

歌うのって気持ちいい。

踊るのって楽しい。

難しいことは考えないで、頭を空っぽにして、僕ができることを精一杯やる。

今はそれで良いような気がした。

 

だから日記はこれでおしまい。

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