真夏の夜の怪奇録   作:ビッグフロント博士

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第2章 迫る暗雲

三人はバスを降りて学校へ向かった。正門近くには登校時間が迫る中で遅刻しまいと走る生徒も何人か見ることができる。その様子を見て自分たちも急ぎ始めた。途中、思い出したように三浦は、

 

「あ、そうだ、田所、先週お泊まりデート中に睡眠薬ドッキリでマジギレした遠野にぶん殴られたみたいだけど、アレから上手くいってんのか?」

 

「え?田所さん、彼女いるんですか!?」

 

「お前らそうやって揶揄うのやめちくり~」

 

田所は照れ隠しするが、顔のニヤニヤが隠せていない。とりあえず上手くいっているようだ。

 

「で、彼女はどんな感じですか?」

 

木村は田所の彼女が気になって仕方がない。

 

「どんなって、お前…別に大したことねぇよォ〜」

 

「日焼け肌に少しトカゲ顔のナイスバディだゾ」

 

「そうそうトカゲ顔の…おい三浦…」

 

「『さん』をつけろよ、ステハゲ野郎。」

 

「へぇー、一度会ってみたいですね。」

 

そんなくだらない会話をしながら中庭を歩いていると、

 

「田所せんぱぁーい!」

 

校舎の玄関口から高いトーンの美声が聞こえた。

 

「ファッ!」

 

田所も反射的に反応した。

 

「おっ、噂をすればお出ましだゾ」

 

「ちょっと行ってくんよォ〜」

 

そう言って田所の走る直線上に一人の女の子が立っている。三浦の言う通り、日焼けしていて目は細く、ブラウン混じりの髪のショートヘア。顔の印象は、トカゲ顔というか、ヘビ(?)やイグアナ(?)とかだろうか…いずれにせよ爬虫類っぽい顔つきである。それよりも気になるのが

 

「女の子にしては、筋肉ついてますね。陸上部ですか?」

 

「いや、水泳部らしいゾ。田所と遠野は中学時代に同じ水泳部だったらしい。」

 

まさか中学時代からの付き合いとは、驚いた。よほど遠野と田所の中はいいのだろう。それにしても遠野と喋る田所の顔は自分たちと喋る時とは違い、デレデレしている。まるで付き合いたてのカップルのようだ。

 

田所のことを先輩と呼んでいたという事は、遠野という彼女は木村と同期なのだろう。そして田所は遠野と会話しながら校舎の中へ入り、人混みの中へ消えていった。

 

「あ、僕たちも行かないと。授業始まっちゃいますね。」

 

「おっ、そうだな。よし、じゃあまた、放課後で。」

 

「はい、放課後で。」

 

そう言って木村と三浦も各自の教室へ向かった。

 

 

一日の授業が終わり、クラスのST(ショートタイム)に、担任の小野先生が明日の連絡と一緒にこんな事を言った。

 

「えー、皆さんはもうご存知かも知れませんが、先週の殺人事件以来、学校近辺で不審な男の情報が数件報告されてます。ですので下校の際には周りに気をつけて帰ること。あと、私の仕事用メールアドレスを教室の掲示板に掲示しておくので、殺人事件の事について何か知ってる事がある人は、ちょっとした情報でも構いません。先生の方まで連絡をください。以上です。」

 

「起立!気をつけ!礼!」

 

「「ありがとうございました!」」

 

チャイムが鳴ってSTが終わり、ある者は部活へ、ある者はそのまま帰宅する。そんな中、木村は教室の中に残り、小野先生と自分を除いて誰もいなくなるのを確認してから殺人事件の被害者の目撃について相談することにした。教師相手なら安心して相談できると思ったのだ。

 

「あの、先生、相談があるんですが。」

 

「どうしましたぁ?そんな思いつめた顔をして…暗い顔してたら、自慢の整った顔が台無しだ。」

 

「すいません…」

 

「いや、謝らなくてもいいんですよ(笑)」

 

(めんどくさいな…)

 

「で、相談って?」

 

「実は…殺人事件の事なんですが。」

 

そう言った途端、小野先生の顔つきが変わった。

 

「君が、殺人事件について…ぜひ聞かしてほしいな。」

 

木村は事件当日の帰宅途中に被害者と思われる男が向かいの沿道を走って路地の中へ入る様子を事細かく詳細に話した。一瞬、夢の事についても話そうかと考えたが、どうせ嘘と思われるに違いないと思い、止めておくことにした。

 

「なるほど…君が思うには『何かに追われるみたい』だった、という事だね?」

 

「はい。」

 

「男の後ろを誰か、つけていたりは?」

 

「いいえ、僕の見た限りでは、その男以外に怪しい人はいませんでした。」

 

「うーん、つまり、その被害者と思われる男性は『一人』にも関わらず、『逃げる様に』走ってた、という事だね?」

 

「はい。そういう事です。」

 

「コレは…とても貴重な情報だ。私の方から警察に説明しておくよ。もしかしたら警察の方から直接君に話を聞きたいと言ってくるかもしれないが、そうなったら私が代わりに伝えるようにするから。また連絡するかもしれないけど、宜しくね。」

 

「はい、わかりました。」

 

「それにしても木村君、君の勇気ある行動、コレって…『勲章』ですよ。」

 

「は…はぁ、ありがとうございます。」

 

木村は、自分の行動が社会に貢献できたと、なんとなく嬉しく思い、心の中でガッツポーズをした。

 

ふと時計を見た木村は思い出した。正門で二人が待っている、しかも、かなり待たせてしまっている。急がないと怒られると思った木村は、そそくさと教室を出ようとした時、

 

「あと一つだけ、質問、いいかな?」

 

「え?」

 

木村が振り返る。

 

「事件のあった日、君は帰宅途中だったんだろ?何の帰りだったんだい?」

 

「それ、言ったところで関係ありますか?」

 

「関係あるか否かはコッチが決めるさ。それに、警察にその事を尋ねられたら、先生もどう答えたらいいか困るんだよ。だから、知っておきたいんだ。」

 

「…迫真空手。」

 

「ハク…シン…?」

 

「はい。迫真流っていう空手の流派があるんです。その師範の亮師範が道場を開いていて…」

 

途端、間髪入れずに、

 

「今なんて?」

 

「え?」

 

「誰が道場を開いてるって?」

 

少し興奮したように小野先生は椅子から立ち上がり、木村に近づく。木村は小野先生の少し異常な様子に本能的な恐怖を感じた。

 

「…亮…師範です。」

 

「亮って、『アキヨシ・亮』?」

 

「アキヨシ…はい、秋吉 亮師範です。」

 

「…間違いない。」

 

ボソッと小野先生が呟く。

 

「え?」

 

「ん?あ、いや、何でもない。何でもないよ。ありがとう、もう十分だ。」

 

「亮師範と先生は知り合いなんですか?」

 

「し、知り合い!?ん、えぇ…そうだよ、知り合い、知り合い。ごめんね、時間とらせて。先生、用事あるの忘れてたから、職員室に戻るね。」

 

そう言って小野先生は落ち着きの無い様子で教室を去った。普通ではない担任の姿を見た木村は、しばらく呆然としていたが、すぐに我に返り、走って正門へ向かった。

 

「遅っそいなー、木村ァー。どうしたんだよ今日、登校も下校もお前が一番遅いなんてよォ。」

 

「そうだよ(便乗)。今日は少し変な気がするゾ。いつもなら田所が遅れて俺がシバいてるところなんだが。」

 

「あれっ!?…これってデジャヴじゃね?」

 

「まぁいい、ところでどうして遅れたんだゾ?」

 

木村は少し躊躇しながら、嘘でもいいから何か言うしかないと思い、

 

「悩み事があったんで、先生に相談してたんです。」

 

と、小さな声で言った。そこに田所がテンション高めで食いつく。

 

「え?相談?好きな子?ねぇ、好きな子できたとか?恋愛相談なら俺に言ってよぉ〜!」

 

三浦の裏拳が田所の顔面に飛ぶ。

 

「ぶへぇッ、な、なんでェ!?」

 

「ウザイから。」

 

三浦は即答し、続けて言った。

 

「先生に相談するのもいいが…なんで悩み事なんか俺たちに隠してたんだ。前にも言ったゾ、俺たちは『親友』だって。まずは俺たちに相談しても良かったんじゃないか?」

 

「はい…すいません。」

 

「…まぁ、ここで説教をしても仕方がない。とにかく道場へ急ぐゾ。遅刻だ。ホラ、急げ!」

 

三浦を先頭にして、二人が追うように走る。

 

その後に、三人のことを尾行する男がいた。

 

三人は、まだその事を知らない。

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