第1話:殺戮怪異
「……ここか」
書かれていた住所に到着する。建物に入ろうと足を進めるが、2,3歩歩くとすぐに足を止める。なぜなら……
「うわぁ……」
目の前にこの家の方だと思われる女性の死体がある。死体の損傷の仕方や死体の位置、血の飛び散り具合から考えて2階ベランダからの飛び降りのようだな。怪異によって錯乱しての転落死か逃走での飛び降りか。どちらかはわからんが……ご冥福をお祈りします。
「……気を取り直して、行くか」
扉を開けて中に入る。するとすぐさま扉が閉まり、俺と外を隔絶した。2,3回扉を開けようと力を入れるがビクともしない。……今のところ物音は聞こえないが、怪異がいる時に感じる感覚なら強く感じる。
「……いや、強すぎるな」
確かにそれなりに大きな屋敷だが、中と外からして築年数はそこまで古くないように見える。ここまで強いオーラだと、相当年数が経った呪具を使わないとならん。偶然入手したか、ここに移住して来たか。そのどちらかだろうな。まあ、俺はあくまで”いる”かどうかがわかるだけでどこにいるかはわからないんだが。と、そこに
「きゃああああああ!!!」
悲鳴が響く。聞こえた方向からして……2階か!階段を1段飛ばしに駆け上がる。いくつか部屋があるが……一番近いドアを開けてみる。……開かないか。隣の部屋のドアノブに手を掛け、一気に開け放つ!
「……そこで何をしている?」
「……助、けて、ください」
これが、俺と姫野美琴のファーストコンタクトだった。
私の親友である”神代由佳”が血塗れで倒れている。しかも私の悲鳴を聞いたのか、目の……なんというか、特徴的な人が部屋に入ってくる。恐怖と理解不能な状況で私が口に出した言葉は……
「……助、けて、ください」
明らかに怪しい人に助けを求めるという、後から考えたらとても間の抜けたものだった。
「これはお前がやったのか?」
怪異があるだけで、怪異の力を利用した行動か怪異自体が一人歩きしたものかは判別出来んからな。とりあえず部屋にいた少女に問いかける。
「違います!私と由佳は親友で、殺すわけ……殺すわけ……!」
若干錯乱してるな。仕方あるまい、怪異に巻き込まれることなんてまずないからな。俺たちみたいにこちらから飛び込まない限りは。
「……落ち着け。まずは深呼吸だ」
「はーっ……はーっ……」
少女を落ち着かせながら血塗れの方の少女の様子を見る。血こそ大量に出てるが……傷自体は致命傷じゃないな。まだ息もある。急いでこの怪異にケリつけて病院に運ぶか。
「……落ち着いたか?」
「……すみません、ありがとうございます」
よし、落ち着いたみたいだ。
「……まず、お前さんのオトモダチはまだ生きてる。さっさとこの家抜け出して病院運べば間に合うぞ」
「本当ですか!じゃあ今すぐ……!」
急いで運ぼうとするのを手で制する。ま、怪異を何も知らないし仕方ないんだが。
「落ち着け。ここから出るにはある条件がある」
「……条件、ですか?それはなんですか?」
これを言ったら頭がいかれてると思われるだろうが……
「……お前が犯人ではないなら、お前さんのオトモダチをヤった奴は他にいる。そいつをぶち殺さないと出られないだろうな」
「殺す……って、犯罪じゃないんですか!?」
「安心しろ。法律に抵触はしない。なぜなら犯人は法に縛られず、誰も知らないという噂話みたいな存在だからな」
「そんなのが……いるんですか?」
「ああ。俺は……いや、俺たちはそういう存在をまとめてこう呼称している」
”怪異”。道理では説明のつかない異様な存在だ、と。
「……ふざけないでください!怪異?そんなのあるわけないじゃないですか!きっと由佳だってあなたがやったんじゃ……」
少女が俺に対して大声を出す。だが、その時俺と少女ははっきりと聞いた。聞いてしまった。
……まあだだよ。
「っ!?」
少女は今の声に反応するが、俺は扉を開きあたりを確認する。……誰もいないな。扉を閉め、少女と向かい合う。
「……自己紹介がまだだったな。俺は比企谷八幡……こういうヘンテコ状況の専門家みたいなもんだ」
「……姫野。姫野美琴です」
「……よし、姫野。まずはこの状況を整理するぞ」
「は、はい!」
現在わかっていること
・この家には”ナニカ”がいる
・ナニカは姫野美琴の友人一家を惨殺し姫野美琴の友人にも重傷を負わせた
・ナニカは怪異である
・ナニカを退治しなければ脱出は不可能である
「こんなとこだな」
「……そのナニカって一体なんなんですか?」
「知らん。予想はついてるが、確証がない情報で混乱はさせたくないのでな」
「……わかりました」
納得したのを確認すると、箪笥や机の引き出しを躊躇いなく開け放つ。
「ちょ、何してるんですか!?窃盗ですよ!?」
姫野が慌てて止めにかかる。いや、何って……
「使えるもんはなんでも使え、だ。生き残るためにな。それに、家主は十中八九くたばってるからな」
現在生存が確認されてるのは姫野とかろうじてだが神代由佳。後生死不明が神代由佳の家族だな。
「お前も手伝え。死にたいなら手伝わなくてもいいが」
「……手伝います」
そうして2人がかりで部屋を探索し始める。しばらくすると
「……何か、あります」
その姫野の声に反応して振り向くと、姫野はどうやらベッドの下に何かあるのを見つけたらしい。
「届くか?」
「届か……ないです」
なんか長い棒みたいなの探さないとな……神代由佳の外傷からして怪異のエネルギーでの破壊ではなく刃物での損傷だろうから気をつけるべきはいつどのタイミングでソレが出てくるかだ。下手に歩き回るのは勘弁しておきたい。
「……今の所はこれで全部か」
一通り探し終わる。何かがベッドの下にあるぐらいで、他にめぼしいものは何もない。隣の部屋に移るか。
「……ハルちゃんはどこへ行ったのかしら」
「……ハルちゃん?」
誰だそいつ。ハルという名前からおそらく女性、年上なら”ちゃん”とは呼ばないだろうし神代由佳の妹あたりだろう。そして棚をどかしたり棚の中を漁ったりしていると、あるものを見つける。
「……鍵か。とりあえず回収しておこう」
その後はしばらく探しても何も見つからなかった。部屋を出て、大広間に向かうと……
「……おじさん!」
大広間中央で禿げたおっさんがくたばっていた。……出血の量や傷の深さから見ても手遅れだな。
「ど……どうなってるの……」
「……理解したか?これが怪異だ。人間のルールなんて御構い無し、ただ気の赴くままに動き、暴れ、殺し回る。そういう存在だ」
「そ、そんな……」
そしてまた、ソレは存在を示した。
ふふふ……。
「……っ!」
笑い声か……薄気味悪い。さっさと終わらせるか。
「きゃ……!」
そんなことを考えていると、姫野の悲鳴が聞こえたので姫野がいる方を見る。すると、血のついた襖にドン、ドンと何かがぶつかる音が辺りに響か、少しずつペースが速くなっていく。誰が太鼓の達人やれと言った。
「姫野、襖から目をそらさずにゆっくりとこちらに歩いてこい」
ソレは、間違いなく襖の向こうにいる。そして……
ガラッ
……わたし、鬼ごっこがしたい
”鬼”が、現れた。
え、八幡が噛んでない?仕事モードだからね。日常では普通に噛む。言って仕舞えば自己暗示をかけて自身が視点のゲームの台詞を読み上げているような感じです。