飛びかかってくるぬいぐるみが振るう包丁をナイフで受け止める!同業者に貰った業物だ、そんじょそこらの包丁で壊れると思うな!……と思ってたら。
「……あり?」
確かにぬいぐるみの振るう包丁は確かに力こそあるが、その体が軽すぎた。衝撃を片腕で受け止めても作用反作用の法則でぬいぐるみが吹っ飛ぶ。やばいこいつ雑魚い。いや、殺傷力に関しては普通に人殺せるけど……反撃に対しての防御力がめっちゃくちゃ雑魚だ!考えてみればぬいぐるみが動き出して襲いかかってくるとか普通の人なら恐怖で反撃どころじゃねえわな。俺は『
「ガアアアア!!!!!」
「チッ、怪異も本気ってことか!」
後ろから神代由佳の父親が襲いかかってくる。つーか両手足の腱切ったから動けないはずなんだが。なんで動いてんのさ。しかもその後ろには腕だけで這い寄ってくる神代由佳の兄。なんか昔の大晦日ガキ使で似たようなの見たことある。なんだっけ、エクソシスト。とりあえず今度こそ動かないように両手足を切り落として残骸をぬいぐるみにシュゥゥゥゥ!超!エキサイティン!バトルドーム!ツクダオリジナルから!とはならん。あっさり包丁で叩き落とされてるし。ぶん投げにくい身体の部分はとりあえず台所から拝借した包丁を突き刺し地面に縫い付けておく。骨に当たると力いるからとりあえず骨のない部分を突き刺しとこうか。
「じゃ、誘い込むか」
神代由佳の父親が開け放った扉から部屋の外に。そしてそのまますぐそこの大広間に入り込んで嫌がらせに
「……!?」
俺の後を追ってきたぬいぐるみが粘着テープの罠に引っかかりその場に転倒する。正直馬鹿笑いしたいけど呪われたら困るので押しとどめておく。
「……物凄い音がしたんですけど。何かやらかしたんですか?」
「……俺が何かやらかした前提で話進めるのやめて?」
「実際なにしたんですか?」
「長机ぶん投げて壁にでかい穴空いた」
「……」
そんなことはどうでもいい。さっさと終わらせなければ。笑い声をあげるぬいぐるみに塩水を吹きかけて
「僕の勝ちだ!」
「比企谷さんって一人称僕でしたっけ」
デスノネタわかんないか。なら仕方ない。とっととこいつを燃やす。ぬいぐるみを引っ掴むと二階暖炉へと走り出す……体が重い!消滅を恐れての最後の抵抗って訳か!だがな……
「これで……終わりだ!」
暖炉にぬいぐるみを叩き込む!ふと後ろを見ると追いかけて来た姫野がこちらを見て……
「……終わったん、ですか?」
「…………(明確には終わりじゃない。この事件がどんなもので、どうやって引き起こされどんな事象が起きたのかが正確にわからない以上完全に終わった訳じゃない。だが……)ああ、終わったよ」
ぬいぐるみが徐々に燃え尽きて行くのを眺めながら、俺はスマホから救急車を呼んでから特務課に連絡を行う。
「……もしもし」
『はい、こちら特務課です』
「比企谷です。なんとか怪異にケリつきました」
『了解しました。伝えておきます』
一通りの連絡が終わり、ふと姫野の方を見ると
「……………………」
「……眠ってんのか。ま、仕方ないか」
こんなとんでも事件初体験だったんだ。精神への疲労も大きいだろうな。
俺は眠っている姫野に俺の着ているコートを掛けてから神代家を出てそろそろ来るであろう救急車の誘導を行うことにした。ついでに神代由佳の傷の状態も見ておくか。
「おっ、気が付いたな」
私は目覚めるとどこかの部屋のベッドで眠っていた。上半身を起こして部屋にいた男の人の方を見る。
「……ここは?」
確か比企谷さんがあのぬいぐるみを燃やしたのを見ると急に視界が暗くなって……多分、安心して寝ちゃったんだ。
「ここか?ここは菊川警察署だ。君の友人から通報があってね。駆けつけたら、そこに置いてあるコートが掛けられた君と応急処置のされた女の子が倒れていたからここまで連れて来たんだ」
よかった。男の人が来た時にはまだ由佳は生きていたんだ。男の人が指差した方を見ると、椅子の背もたれに被せてある灰色のコートがあった。一晩というわずかな時間だけど、そのコートは見覚えがあった。そのコートを着ていた人は私を見つけ出して、私を守って、私を助けてくれたから。
「ったく、八幡も最後までついてやればよかったのに」
「……比企谷さんを知ってるんですか?」
比企谷さんを下の名で呼んでいる。ある程度親しいとはわかるけど……
「ああ。おそらく今生きている人間の中で、八幡に関して一番詳しいのは間違いなく俺だろうな」
え?それってどういう……
「……自己紹介をしておく。俺は菊川警察署の警部補、
「……あれ?でも比企谷さんは、家族を亡くしてるって……」
「ああ、俺は戸籍上の……義理の父だからな。怪異で家族を失った後俺が引き取った」
義理の……父。というか怪異について知ってるんですか……。
「ああ、この事件について完全な被害者である君にとっては思い出したくないかもしれないが、差し支えがなければ今回の事件について話してもらいたいんだが……」
それに関しては別に構わない。構わないけど……
「……比企谷さんからはまだ聞いてないんですか?」
「……ああ、八幡なら『学校あるから報告書とかは放課後書く』とか言ってすぐに帰ったよ。まったく……」
……意外と一般人っぽい。奇妙な状況を何事もなく、まるで日常のように動いていたから比企谷さん自身も超人なのかと思っていたからなおさら驚いた。
「君に聞きたいのは君が怪異に巻き込まれてから、何があったのかだ。由佳君から聞いたよ。『ひとりかくれんぼ』を遊び半分でやったらとんでもないことになった、とな」
「……ゆ、由佳が……『ひとりかくれんぼ』を……」
由佳が、『ひとりかくれんぼ』を……あの惨劇を引き起こした?
「君が巻き込まれたのは彼女の責任だ。……だが、許してやってくれ。彼女は今回の事件を一生後悔することになる。その時、君まで彼女を見離してしまったら……わかるね?」
「はい……」
由佳はこんなことになると分かった上でやったわけじゃない。それを後悔するなら……私は友人として、由佳を責めることも見離すこともしない。
その後もいくつかの質問に答えた。氷室さんは私を疑うような素ぶりを一切行わず、記憶を整理する余裕もくれた。
「さて、これで聞きたいことは一通り終わった。俺の仕事は証人者と事件の確認だけだ。……もうお家に帰っていいよ。あとはこっちで全て処理する」
「……えっ?」
処理って……?
「こんなこと、世間に公表できるわけがないだろ?報道規制も然り。警察署内は大慌てだ。こう言っちゃ悪いが……君が襲われた人形も、現実離れ過ぎて誰も納得しない。上辺だけ見れば、君が大量殺人犯の容疑者なんだ」
もちろん八幡や俺たちは信じるがね、と氷室さんは付け加える。
「そ……そんな……」
だけど氷室さんの言葉で、あの時比企谷さんが言った言葉を思い出す。
『怪異が人を殺さないように抑え込む。それが……誰も知らない怪異を知ってる俺が、唯一出来ることだから』
……考えてみれば、比企谷さんに怪異のことを説明された時も私は信じなかった。社会に伝えても、ホラ話と一笑に付されるのがオチだろう。
「無茶を言ってるのはわかる。だが、君は今まで通りの学生生活に戻るんだ。こうして俺が一人で来たのも、コトを穏便に済ませる為。大人数で君を囲んで尋問したり監視したりもしない……というか、そんなことをしても意味がないししたら八幡に殺されかねない」
……?今最後に何か言ったような。そして氷室さんの顔色が少し悪い。
「こういった怪異事件はね。静かにゆっくり時間をかけて世間に忘れさせるのが一番なんだ。……なに、心配はいらない。こういう事例は稀だが、君が初めてじゃないよ」
「私以外にも……あるんですか?」
「……まぁね。でもここまでの死者を出したのは俺の知る限り初めてかな?」
こういうことを何でもないように言うのが怖い……あ、でも比企谷さんもこんな感じに言いそう。
「とは言っても、暫くは監視の目がつくかもしれない。警察内部には頭の固い連中がいるからな……八幡を外部協力者として引き入れた時も反対が多かったし。……ああ、俺は信用してくれて構わないよ」
また何か小声で呟いている。そうしていると、氷室さんが数字の書かれた紙を渡してくる。
「……念のため八幡の連絡先を渡しておく。何かあったらここに掛けてくれ。俺みたいな公務員は行動に制限がかかりやすいからな、ある程度自由に行動出来る八幡の方がいいだろう。それに、今初めて会った俺よりも信用しやすいだろうからな」
「……ありがとうございます……」
貰った紙を服のポケットに入れておく。落とさないように気をつけておこう。
「……もしかしたら近い内、君を呼ぶことがあるかもしれない。怪異事件に敏感な男がいてね。詳しい話はそいつにしてやってくれ」
そう言って氷室さんは部屋を出て行った。
「……よう!」
俺は部屋を出て特務課に戻ろうとすると、扉のそばに立っていた男に呼び止められる。
「……おっと、そうだったな。怪異に敏感な男はもう一人いたっけか」
俺が若干呆れているが、そんなことは露ほども知らず男は話しかけてくる。
「……はぁ?いきなり何言ってんだよ。まぁ、そんなことより例のお嬢ちゃんの様子はどうだい?」
「相変わらず情報が早いな……剛。目立った外傷はない……というか、怪我などは一切と言ってもいいほどなかったよ。明日には普通の生活に戻るだろうさ」
こいつは
「……やっぱり怪異か。ちょうどいい!なら俺っちもその女の子にちょっくら話でも聞かせてもらおうとするかね!」
本当にこいつは懲りないな。
「……軽率だぞ。いくら取材とはいえ、怪異に巻き込まれた女の子だ。暫くそっとしといてやれ。それに、名目上は今回の怪異の担当は八幡だ。今度こそ病院送りにされかねんぞ」
「……今日はやめとくか」
それが賢明だ。そのまま立ち去ろうとすると、剛が再度呼び止める。
「……今日の『おはイチ』見たか?あの司会者、『加賀はオカルト路線に走りすぎて世間を困惑させている』……だとよう!」
いや見てないが。実際何も知らん側からすれば頭のイカれた発言だろうに。
「お前も知ってんだろ……俺っちが未解決事件の真相をいくつも事件にしていることくらいよぉ!」
あのな……
「その記事が書けるのは誰のおかげだ?ま、お前の働きは認めてるが……今回ばかりは事件が大きすぎる。それに彼女はこれから心のケアが必要になるかもしれない。暫くそっとしといてやれ」
「……しゃあねぇなぁ……」
そんな話をしていると、美琴くんが部屋から出てくる。タイミングが悪いな……
「……もう平気なのか?」
「……はい」
すると、剛がすぐ騒ぎ出した。
「……おおっ!君が今回の怪異に巻き込まれたお嬢ちゃんかい!?こりゃあ……中々のべっぴんさんd」
ゾワッ!!!!!
「……いや、なんでもない」
十中八九八幡の仕業だな……あいつは自分が受け持った相手がちゃんと立ち直り進み出すまでサポートする。それに絡んだり邪魔したりすると軽い呪いをかけたりすることがある。昔……八幡が特務課の外部協力者として参加し始めて最初の案件はあるジャーナリストがしつこく巻き込まれた人を追いかけ回した時は八幡が呪っていたからな。ちなみにそのジャーナリストは次の週に交通事故で左足複雑骨折の重体の上癌が発覚し、しかも今までにしつこく絡んだ相手に精神的苦痛を受けたと訴えられ癌こそ完治したものの今でも左足を引きずりながら借金返済に追われているらしい。さすがにそこまで酷い呪いはかけないように言い聞かせておいたが……今では男性には生え際が3cm後退する呪い、女性には高速道路に入ると車のエアコンがぶっ壊れる呪いをかけているらしい。
「あの……氷室さん。私に会わせたい人って、もしかして……」
断じて違う(即答)。
「いや、こいつじゃないよ。……すまないな、美琴くん。気を悪くしないでくれ」
「は……はぁ」
「新聞記者の加賀 剛だ。よろしくな!」
「……美琴くん。ご存知の通りこんな物騒な世の中だ。よかったら最寄の駅まで送ってあげるが……」
そう言うと、剛が若干声を荒げる。
「おいおい、物騒ってのは俺のことかぁ?冗談きついぜ」
他に誰がいるんだ。
「あ……いえ、大丈夫です。一人で帰れます……」
そう言って美琴くんは去っていった。
「……お前のせいだぞ、剛」
「……すまねぇ」
一方その頃、比企谷八幡は
「頼まれた以上力になるわ。あなたの問題を解決してあげる。感謝なさい」
「アホくさ(なんだこの上から目線。全身の内臓引きずり出してぶち殺してやろうか)」
よくわからない奴(八幡主観)に絡まれていた。
同業者…一体何儀さんなんだ。
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