インフィニット・ストラトス アルエット・グローリー 作:イェーレミー
今回は比較的早く(当社比)出せました~。気持ち的にはもうちょっと早く出したいんですが~、文字数+加筆修正のおかげで時間がかかって申し訳ないです~
それではどうぞ~
『えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』
爆弾投下からきっかり一分後。それまで唖然としていた皆は一斉に驚愕を声にした。もちろん、棒読みで言っていた人達も何人かは居たけれど、ほとんどの人は純粋に驚いていた。
「同姓同名の人違いってのはやめてくれよ?」
「あー、確かに。その可能性もあるよね。じゃあこうすればいいんじゃないかな?」
そう言いつつポケットの中から愛用のテレビ電話用の機械を取りだし軽く目の高さに放った。軽く投げられたことで電源がオンになった機械は小型UAVと同じくホバリングし、指の動きを機械に見せつけるようにして電話アプリを起動。慣れた手つきでお気に入りフォルダからパパを選択しホログラム電話に変更しつつかけた。ホログラムに変更したことで機械の中の部品が稼働し、よくみる待機中の画面が現れた。そして辛抱強く黒電話時代からある待機音を数回待つと、画面上に出るのは自宅でよく見る顔だった。
「パパ」
『おお、どうしたんだ?静寐』
そこには現在内閣総理大臣であり、私のパパの鷹月宗一郎がいた。画面自体は鏡写しのように裏にも映っている。実のところは非透過設定を面倒くさがって行っていないから映っているのだが、反転しているとはいえ裏からその顔を見ている皆の表情は驚愕に彩られていた。
「あー、パパとの繋がり、ばらしちゃった」
『静寐がいいと思ったのだろう?それならば構わんよ。強要されたのならありとあらゆる事を使って』
「大丈夫。自分から言ったし強要されてないから。怖いこと言わないでよ」
『ははは。可愛い我が子が離れたところにいるのだから、心配するのは当然だろう?話は少し変わるがばらした相手はそこに居るのか?』
「あー、挨拶する?」
手の動きを読み取らせてホログラムを反転。カメラは内蔵させてるから全員分の顔は見えている・・・はず。
『おや、これはこれは。何人かは見知った顔があるな。姿勢を正さなくても大丈夫だ。楽にしてくれ』
「い、いえ!大丈夫です!目上の人に対しての礼儀は必要なので!」
「じゃあ楽にする~」
ここで反応が二分した。というより例外が一人。ナギのようにカチコチに過剰になる人は他に居なかったが殆どは姿勢を正していた。本音だけはソフトクリームの先が融けるように寝転んだ。流石に苦笑せざるを得なかった。
『本音君は相変わらずのマイペースだな。簪君は・・・・・・もっと思考を柔軟にな。その様子だと仲直りまでまだかかりそうかな?』
「姉さんのことはやめてください」
『おっと。失礼失礼。この頃は親切心の方が先に出てしまうのが癖になってしまうのでな。それから、拓海君は会見の時以来だったかな?』
「鷹月首相が鷹月さんのお父上だったとは。娘さんが居たことも含めて知りませんでした」
『話していないからな。他の人は・・・・・・まぁ挨拶が先だな。初めまして、この日本の内閣総理大臣である鷹月宗一郎だ。娘の静寐共々よろしく頼む』
「いえ!滅相もないです!こちらの方がよろしくお願いいたします!」
『過剰に反応しなくても構わんよ。というよりも君達と話すときは首相という肩書きは無視してもらって構わない。静寐の父親としてここにいるのだから』
ナギを宥めつつ朗らかに笑い、内閣総理大臣と同一人物とは思えないような顔になった。
「あー、パパ?執務室に居るってことは合間縫ってるんじゃないの?」
『ああ。今少し時間が取れたからな。というよりも静寐が時間を取らせた、の間違いだろう?もうすぐ会見の時間なのですまないが切らせてもらうよ。全く・・・・・、昔に比べて今の方がマスコミの質は上がってはきているが、ゴシップ紙だから問題ないという精神は如何なものかと思う』
「パパ?政治関連の愚痴をこっちに言わないでよ。それは愚痴るよりも本人に言った方が分かってくれるよ?」
『そうだろうな。では、短い時間ではあったがこれで失礼する。今度はお互いプライベートで会うことを期待しているよ』
そう言って、短時間だったが通話が終了した。ホログラムを展開していた機械を手のひらに戻し、忘れないようにポケットに入れた。終わってからも少し魂が抜けているのかと心配する程度には皆がぼーっとしていた。
「おーい。皆、大丈夫ー?」
「あ、あぁ。大丈夫だ。多分問題ない」
「いや~、びっくりしたね~。まさか本当にそうだとは思ってもみなかったよ~」
既に事実を知っていたであろう本音は何時も通りののんびりしていた。ただ拓海も含めて衝撃の事実から完全復活とはいかないようだ。
「これでQEDにはなったかな?」
「確かに~。たっちゃんのお得意先だね~」
「・・・・うん。ここまでされると認めざるを得ないね。さっきの静寐の話で出てきた更識は私の家。これは秘密にしておいてほしいんだけど。一応政府直属だから・・・・」
「秘密が多いけど~、何としてでも守ってね~」
「流石に約束を破ったら、その後の方が怖いよ・・・・・」
さゆかがおどけてみせた。ただ、この二つの秘密を公開された場合は足がつかないように処理するつもりだけれどもそれはさておき。
「それで、楯無さんとは仲が悪いの?もしかして襲名式の日に何か言われたり?」
「っ!」
「あ、おい!簪!」
興味本意で爆弾を投げてみると、回避するかの如く簪はダッシュして逃げた。拓海の制止に対して聞く耳持たずと言った風に。完全に地雷原に爆弾を投げ込んだようだ。
「流石に今のは遠慮がないというか~、容赦がないというか~」
「完全にやっちゃったみたいね。推理とあってるなら、ちょっと私が行ってくるわ。あと静寐は正座ね。五体倒置でも良いんじゃないかしら?」
「はーい・・・・・・・」
本音からは白い目で見られ、ティナは冷ややかな目で見られながら部屋を出ていった。走る音が聞こえないところから察するに、何処に行ったのか分かっているようだったが、そんなことを考えていてもこの気まずい空気が流れるはずもなく。
「・・・・・・・ごめん」
一言謝ることしかできなかった。せめて、アメリカからの援軍である彼女が二人のことを取り持ってくれることを信じて。
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ティナは迷わずIS学園校舎の中にある格納庫に向かった。一応表向きの上司からは、
「日本代表候補生の更識簪は倉持から専用機開発を凍結され織斑兄弟の専用機開発が優先されることになっている。そのため更識簪は彼女の専用機として与えられるはずだった打鉄弐式のISコアを受領し、IS学園格納庫第二整備室にて開発に勤しんでいる」
という情報をもらっているからこそではあるのだが、流石にさっきからこちらを見てくる目線がいい加減鬱陶しくなってきた。・・・・・・・・・・それは後で利用させてもらうことにして。
プシュッ
と圧縮空気の音で扉がスライドし、中には必死になって打鉄弐式と向かい合って吐き出すエラーを修復しようとしている簪の姿があった。
「やっほ」
「・・・・・何?どうしてここが?」
思いっきり警戒していた。確かにそれはそうだろう。ほぼ誰にも知られていないはずの場所に突然さっき会ったばかりの人が居れば、誰だって警戒する。
「私の所属してるところが特殊でね。ある程度は情報もらってるから想像するのも簡単だったのよ。隣に座ってもいいかしら?」
「・・・・・別に」
一応許可は取れたので簪の隣に座り、基本動作のシステムプログラムを組み上げているモニターを睨んで修正している彼女を見ていると、口をついて出てしまった。
「すごいわね、簪は」
「・・・・・お世辞のつもり?でも姉さんは」
「そのお姉さんを既に越えてるよ?」
「??」
こちらの話が分からなかったのか、一旦手を止めこちらを向いてきた。とりあえずは第一段階はクリアかな?
「モスクワの深い霧って知ってるかしら?」
「姉さんの
「そう。簪のお姉さんが機体を受領した時の名前よ。あの機体が受領されたとき、完成度は6~7割だったわ。そこから楯無さんは虚さんや開発陣のスタッフなどと一緒に今の専用機を作っていったのよ?」
「え・・・・・」
簪は呆然とした。自分の事に必死になっていた反面、他の人の事が疎かになっていたのだろう。そしてそれは重大な勘違いを引き起こすことにもなってしまう。
「だから、簪のやっている一からISを作ることは楯無さんよりも凄いことなのよ?」
「で、でも・・・・・・」
しかし長い間勘違いし続けた結果、簪は自分を卑下するようになっていたらしい。ティナは一つため息をついた。
「はぁ・・・・・、仕方ないですね」
「えっ?」
ティナは簪を抱き寄せると、空いている右手に懐からグロック17を取り出した。簪はものすごく驚いた。
「簪が自分で自分のことを誉めてあげないのなら、別のアプローチをするまでです」
「ティ、ティナ!?それって実銃じゃ!?」
「そこにいる人、撃たれたくないのならば出てきてくれませんか?」
簪の叫びを一先ず無視して、ティナは格納庫の物置から感じた視線に対して声をかけた。しかし呼び掛けには応じない。そういうときは。
「こういうときは実力行使と決まっています」
そして三発射撃。全弾当たった感覚があった。しかし、いきなり撃ったためか簪から怒号が飛んだ。
「ティナ!?実銃を発砲するなんて、それ以前に実銃を携行しているなんて、どうかしてるよ!?」
「勘違いが二つほどあります。まず一つ目ですが、確かにこれは実銃です。しかし、私は特例で銃の携行が認められているのですよ。なんでしたら学校側に問い合わせても構いませんよ?」
「で、でもだからって、誰か分からない人をいきなり殺してしまうなんて・・・・・・・」
「勘違い二つ目ですね。確かに私は発砲しました。しかし、この銃を携行するときに入れる弾は暴徒鎮圧用のゴム弾ですよ?」
そう言ってマガジンを抜き、簪に確認させた。この銃に入れているのはゴム弾であり、特徴的なピンク色の銃弾を見て簪はまだ諦めなかった。
「そ、それでも、誰か分からない人を攻撃するなんて・・・・」
「まず私は発砲前に通知しました。そして相手方が何も反応を起こさなかったので撃ちました。それに、私がここに入った時点で彼女も入っていましたよ?」
「え?」
「そうでしょう?簪の実姉でIS学園生徒会長の更識楯無さん?」
「跳弾で当ててくるなんて思っても見なかったわよ・・・・・・」
物陰から現れたのは、簪と容姿が似ていて、しかし微妙に違う簪の姉、更識楯無その人だった。一発は予想通り額に当たっていたようで、手でさすっていた。ティナは問いかける。
「どうして簪を抱いたときに殺気をぶつけてきたのですか?私に突っかかって間に入れば全て解決したのではないでしょうか?」
「そ、それは、その・・・・・・・・」
しかし楯無は口ごもった。つまり、そういうことなのだろう。
「もしかしてですが、楯無さんは妹の事となると途端にポンコツになるのでしょうか?楯無さんになる前、刀奈さんの時に言った、襲名式で簪に言った言葉を取り消したくて、でも楯無となってしまったために取り消そうにも取り消せなくなってしまって、うやむやになったのだと推理しますがどうなのでしょう?」
「あ、あなたねぇ・・・・・・!!私もあんなことを理由もなしに言ってしまって、その後にどう言い訳をしようか悩んだわよ!でも簪ちゃんは思いっきり心に深い傷を負ってしまったし、私も私で言い訳というか真実を話そうかどうかで悩み続けたわよ!」
「で、その結果、ずるずると時間だけが過ぎていった。というわけですね?」
「うぐっ・・・・・・」
ぐうの音も出ないようだった。ジト目で実の姉を見ていた簪だったが、突如あることに気付いてティナを問い質した。
「・・・・・・ねぇ、ティナ?話し方がですます口調になっているのはどうして?さっきまで、語尾がわよ、みたいな話し方だったよね?」
「私も聞きたいことがあるわ。どうして私の真名を知っているのかしら?襲名式に簪ちゃんに話した事も筒抜けになっているようだけど、誰からそれを聞いたのかしら?もしふざけた返答をするようなら・・・・・」
「大丈夫ですよ。一つずつお話ししますね。まず簪の言う私の話し方の変化ですが、これが私の本来の話し方だからですよ。録画もされてないようですしこちらの方が話しやすいので戻しているだけです。皆さんと一緒に居るときは先程までの話し方にしますが、お二人のみの場合はこの話し方にさせていただきますね。
次に刀奈さんの事ですが、私が加入している組織と手を組みたいと思っていまして。それにさしあたって更識のありとあらゆることを調べたまでですよ。そのお陰で会話に困らない程度にはネタを発掘することができましたしね」
ティナは自分のことを一つずつ紹介していった。もちろん、隠すべきところは隠して、与えても良い情報は嘘も隠し事も無しで話した。しかしこれだけで追及が終わるとは思っておらず、実際終わらなかった。
「貴女の組織ってもしかして、亡国企業みたくテロリストなのかしら?そしてその組織と更識で手を結びたい・・・・?」
「ああ、その事ですか。私が所属している組織とはここの事ですよ」
そう言ってティナは制服の裏の胸ポケットから金色に光るバッジを取りだし、刀奈に渡した。それを凝視し、そこに書かれていることを見て二人は驚く事となった。何せそこには「Federal Bureau of Investigation」と書かれており、その下には「DEPARTMENT OF JUSTICE」とあった。それが書かれたバッジとは、パチモノを含めてもあの組織しかないからだ。
「え、FBI・・・・・!?」
「ええ。そこの特殊感染症対策課に所属しています」
「なるほどね。FBIとしては更識の情報収集能力を取っておきたい。その代わりにFBIと私達が共同捜査という形でアメリカでの捜索に乗り出せるように手配してくれるのね。しかも、相互監視によって安全性は守られる、と。ちなみにFBIの方は何処まで使えるのかしら?」
「特別協力者として扱うと思うので、FBIで使っているものは全て使えると考えても大丈夫ですよ。なんでしたら今から向こうに連絡してこちらの仕様の現場指揮車を更識に運び込みましょうか?」
「それは・・・・・・・悪くない提案ね。でもお金とか大丈夫かしら?要らぬ心配だとは思うけど、それで運び込んだ場合はもしかしなくてもそっちの負担になるわよね?」
「大丈夫ですよ。その程度であれば無駄遣いにはなりませんし、何より協力者としての関係が結べるのなら出し惜しみはしませんよ」
「こういうことも考えられるわよ?FBIと手を組んだあと、一方的に手を切って、FBIから貰ったものを使ってFBIに攻めいる。そういうリスクの事は考えてないのかしら?」
「お気遣いなく。一方的に手を切ったということはこちらの信用をなくした、もしくはそれによって起こり得る敵対行為に対しても考えていますし、攻撃された場合の対策に関してもありますので安心してもらっても構いませんよ」
この辺りの交渉術というのは長年生きてきた経験が活きてくるのと、自分が出ていた小説の立ち回りを参考にすることができるので、ながーく生きてきて良かったと思える瞬間であった。とりあえずバッジは大切なものなので返してもらい、ポケットに仕舞った。銃ももう要らないので左肩に吊ってある隠しホルスターに仕舞う振りをして空気に変えた。もちろんホルスターの中にはダミーとしてガスガンのグロックを入れてある。
「そのぐらいで大丈夫でしょうか?」
「えぇ。一応仮契約としてここで結んでしまうわね。一度本家に相談して決めないといけないけれど、私と虚ちゃんに関しては全面協力させてもらうわ」
「ありがとうございます。上司にも良い報告ができそうですよ」
お礼を言い、刀奈さんとがっちり握手をした。すべすべだった。
「とりあえず簪は、刀奈さんと話をすれば良いと思います。日本人は誰しもココロに秘めた想いというものを無言で察しようとする文化があります。しかし、それで推し量る事は出来るけれど真に伝えたいことは大体の場合伝わらないものです。なので、刀奈さんに思いの丈を全てぶつけましょう?大丈夫です。私は簪の側に居ますから」
そう言いつつ簪の肩を抱き力を少しだけ強める。簪は一度首を振ると、刀奈さんと面と向き合った。そしてポツリポツリと話始めた。
「お姉ちゃん、私が心に傷を負ったのはどうしてなのか、分かる?」
「それはもちろんよ。あの日、あのとき。私が簪ちゃんに向かって暴言を吐いたからよ」
「うん。それはそうなんだけど、私がお姉ちゃんを遠ざけたのは、あの言葉の裏の意味を受け取ったからなの。あの言葉には、私を暗部から遠ざける意味があったんだよね?」
「・・・・・・えぇ、そうよ。簪ちゃんだけは、この身に代えても、あんな地獄を見せたくは無かったから。簪ちゃんには、ありのままで生きてほしかったから」
「うん。それも分かってる。ただ、あの時私はこう受け取ったの。貴女は暗部に相応しくない、って」
「そ、それは」
「もちろん、お姉ちゃんがそういう意味で言ったわけじゃないのは分かってるし、私のことを影から見守ってくれてたのも何となくは知ってたよ。でも、最初にそう感じてしまったせいで、私は生きることに目標を見いだせなくなっちゃったの。今までやって来た訓練に意味を感じられなくなったり、今まで自分がやって来たことに何の意味があったのか分からなくなっちゃったの
それでも何とか生きたいから目標を立てることにしたの。ヒーロー好きが高じてグッズを買うようになったのも、日本代表候補生になったのも、打鉄弐式を引き取って自分で組み立てるのも」
「姉には出来なかったことを成し遂げて、それに対して褒めて欲しいという気持ちもあったのではないですか?」
「・・・・・・・うん。それは、あるよ。今まで頑張ってやって来た事を否定、されたく、無かったから・・・・・・。私が、一人で、頑張ってきたことを、褒めて、欲しいよ・・・・・・っ」
その時の事を思いだし、感情が昂ったのか簪は涙を流し始めた。私は抱いている肩をリズムよく叩いて落ち着かせようとした。寂しいというのは、一種の愛情表現である。寂しいから、それを紛らわすために誰かにくっつき、触れて欲しいと人肌を求める。そして会話することで自分の感情を相手に伝え、伝えられ、正しく理解し感情を受け止める。更識姉妹は姉妹間の意思疏通が疎遠になっていた。だからこういった思い違いや自分の想いを他人にぶつけられなかった。
「簪ちゃん、貴女は私が誇る立派な妹よ。だから、もう、無理しないでよ・・・・・・」
「お姉ちゃぁんっ」
簪と刀奈が互いに泣きながら抱きついたのを見て、ティナは微笑みながら簪の肩から手を離した。部外者である自分ができるのはここまで。後は本人次第だからだ。そう思ったが返事を聞いていないので打鉄弐式のオペレーティングシステムなどを見て暇を潰すことにした。
「ごめんなさいね。みっともない姿を見せてしまったわ」
「大丈夫ですよ。過去のわだかまりが解けたのですから。それはみっともない事ではないですよ」
「わ、私からも、ご、ごめんなさい。急に飛び出していったりして・・・・・」
「あれは静寐のせいですよ。あんな風に話もせず聞き出そうとすれば逃げるのは当たり前です」
さんざん泣いて姉妹の絆は取り戻せたようだ。もちろんこれからも話し合いの場を設けるのは必要だろうが、それでも気軽に話せるようになったというのは大きな一歩だ。
「ティナちゃん。さっきの話に戻るけれど、私と虚ちゃんが個人的に協力するわ。でも、更識家全体となると会議を開かないとダメになるからちょっと待ってくれるかしら?」
「構いませんよ。それであれば、この番号にかければ私の部署に繋がりますので」
「分かったわ。ありがとう。私のプライベート番号と交換ね」
「ありがとうございます」
念願の更識家当主の番号を手に入れた。これで最初に設定していた目標は達成した。次のミッションは、彼女達との共同戦線に参加すること。多分後で自己紹介をするだろうから自動的に成功するだろう。
「では、私はこれで失礼します」
「もう、帰っちゃうの?」
「ええ。長く居すぎるとミイラ取りがミイラになったと思われますし、何より私は姉妹喧嘩の仲裁役ですから。事が終われば退散しますよ」
「わ、私も行く」
部屋に戻ろうと背を向けると、簪に服を掴まれ引き留められた。振り返って簪の目を見ると本人が行くまで引き留めるという鋼の意思を感じた。なので簪に向き直って抱きしめた。
「っ!」
「分かりました。刀奈さんも一緒に着いてきてくれるのであれば簪も一緒にいきましょう」
「原因の一つである私にも事情を説明させる気なのね?」
「ええ。そのぐらいの恥はかいた方がいいと思いますし」
「・・・・・・中々やることがえげつないわね」
「でも、私も、ちょっとは説明するから」
「そうですか。それはよかったです」
そこまで言って、簪はティナに嵌められた事を知ったようだ。心優しい簪の事だから、刀奈にキツいおしおきをしようとすれば簪は自分の落ち度もあるので彼女自身もおしおきの一部を肩代わりすると思ったのだが上手くいったようだ。簪はティナをポカポカ叩いた。
「ティナ。最初から私にも恥をかかせようとしてたの?」
「ええ。どちらも歩み寄ろうとしなかったものですから。喧嘩両成敗と言うのでしょう?」
「むぅ。ティナのバカ」
「・・・・・・中々に策士なのね、貴女は」
「策士でないとFBIの中で生きていけませんから」
そして簪は、打鉄弐式の途中まで行っていたプログラミングの情報をセーブして、待機状態に戻した。待機状態が指輪というのは何ともロマンチックである。
「それでは、行きましょうか」
「ええ、そうね」
「う、うん。分かった」
そう言って格納庫の施錠をし二人から三人に増えた少女達は、五体倒置しているはずの少女などがいる部屋に向かって歩き出した。
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まさか本当に仲直りさせて帰ってくるとは思わなかったから驚いた。確かに彼女の推理に関しては当てにしたこともあるし、むしろそれで助けられたこともあるのだが、私以外にその推理を披露したことは無かったので、昔に比べて成長しているんだなと感じた。というか、刀奈さんまで説明に連れてくるその行動力は絶対私を真似してるよね。
「それで~、かんちゃん~。暗部の事もここに居る皆は知っちゃった訳だけど~、その事はどうするの~?」
「それは、その・・・・・・」
「それじゃあ暗部の事を秘密にしてもらう代わりに、生徒会に入ってもらうのはどうかしら?」
色々と簪は説明した。姉の事、ISの事、それから自分の趣味とかも何もかもをぶちまけた。それが終わったあと、自分の従者の問いに対して口ごもった簪に対し助け船を出したのは刀奈さんだった。交換条件を出すのは良い手とは思うが、さすがに具体例がないとそれは通らない。
「生徒会に入るとどうなるのかしら?」
やはりというべきかティナが質問した。ただ彼女のこの質問は純粋に質問しているのではなく、この場に居る人達を納得させるための仕込みだろう。別に話し方まで変えなくても良いとは思うけど。
「ちょっと多いから分けて説明するわね。まず一つ目としてクラス代表にはなれなくなるわ。二つ目に秋に学園祭があるのだけれど、その時は生徒会の出し物を優先してもらうことになるわ。もちろん余裕があるのならクラスの出し物に行っても構わないわ。三つ目に授業中でも生徒会からの呼び出しによって生徒会室に来なければならなくなるわ。ただ公欠扱いになるから欠席の心配はしなくて大丈夫よ」
「それだけ聞いていると生徒会に入るとデメリットしか無いように聞こえるのですが・・・・・・」
「ナギちゃん、ちょっと待ってね。メリットの部分もあるから、それを聞いてから入るかどうかを決めてもらえるかしら?」
「あ、それは・・・・・・ごめんなさい。早とちりしました」
「大丈夫よ。そういう風に聞いてくれるとありがたいわ。家柄もあるのかは分からないけど、分からなかったりしたことを分からないままで放置したりして聞かない人にはうんざりしててね。今のナギちゃんみたいに聞いてくれる人は私にとっても安心できるから。だから不安がらなくても大丈夫よ」
そう言って刀奈はナギの頭をナデナデした。その瞬間、張り詰めていた緊張の糸が解れたのか、うっすら涙を浮かべていた。そのまま刀奈はナギを抱きしめた。
「ナギちゃんみたいに質問したい人は居るかしら?」
「メリットも聞いてから質問しようと思います」
落ち着くまでナギを抱きしめている感じの刀奈に対して、さゆかはまだ決めきれないようだ。全部聞いてからというのも悪くない選択肢である。
「メリットとしてはそうね・・・・・一つ目として生徒会に所属するだけで色んな事が免除されるわ。例えばさっき言ったように生徒会から呼ばれれば公欠になるわ。授業内容に関しては私や虚ちゃん・・・・・本音の姉が対応するわ。二つ目に生徒会はバイト扱いになるから給料が出るわ。時間外ならその分お金も増えるけれど、今までより人が増える予定だから夜遅くまでということにはならなさそうね。大体が印鑑を捺すだけの簡単な作業だし、分からなければ私に聞けば解決するから大丈夫よ。あとはまぁ、生徒会室を部活の部屋として使っても良いわよ。もちろん、生徒会メンバーで部活を作るならという制約がつくけれど」
「お給料ってどのくらい出るんですか?」
「まず給料が生徒会に入ったタイミングから時給1200円、プラスタイムカードを押して仕事をしていれば1200円が時給に上乗せ、時間外ならそこに1500円付くわ」
「ずいぶんと高時給やな。護衛でもさせられるんか?」
給料について聞いたさゆかは目を丸くし、拓海は気付いた。まぁ、騙して悪いが的な感じに聞こえちゃうよね。
「一応生徒会は非常時には避難の先導役にならなきゃいけないけど、それ以外は何もやらないわよ?」
「でも襲撃が来たら真っ先に狙われるところよね?」
「それについては確かにその通りね」
ティナが確認を取るとちょっと難しい顔になりながら刀奈は苦笑いした。ティナの気持ちも刀奈の気持ちもよく分かる。
「もちろん、その時には絶対防御が働くだけのアイテムを持ってもらうことになるわ」
「あー、もしかして家の会社のあれか」
「ええ。拓海の会社のあの商品をこの学園にも取り入れさせてもらってるわ。確か名前は・・・・・・」
「オニキスか。鉱石シリーズの」
「えぇ、それよそれ」
拓海が家の商品を紹介していた。まぁヴァーミリオンの商品は結構幅広いラインナップだから覚えてる方がおかしかったりするんだけれど、拓海は電子カタログを広げながら説明していた。それが一番合理的。そして生徒会の話からオニキスの説明にすり変わった。
「あれは開発陣も作るの難しかったって言うてたしなぁ。絶対防御ってISコアのエネルギーを使ってるやろ?んで、そのエネルギーをどうやってIS無しで作り出させるのか、って言うのが開発陣のテーマやったらしいわ。とりあえず試作品として、コアバイパスによるエネルギー譲渡でバリアを人一人覆える物は作れたらしいけども、譲渡するIS側は展開してなきゃいけないわ、バリアは作れるけど威力が高すぎる攻撃とか実体攻撃で割れたり地面が耐えられなかったりして意味無かったんよ。それに一個のバリアで一人しか守れなかったんよ」
「ん~?それの~、何が問題~?」
本音が疑問を呈した。確かに一人につき一個持てば問題が無いように聞こえるよね。ただ、致命的な落とし穴があるんだよねあれは。
「問題大有りやで。ISのコアバイパスで一人しか守れなかったってことや。つまり、ISの数しか人を守れないってことになる。しかも自由に外に出られるISって専用機しか無いやん?要人警護にISが使われてないのはアラスカ条約はともかく周辺被害が出ないようにするためやし。その上コアバイパスするから専用機を緊急展開したときにエネルギーが最悪無い状態で戦わなあかんかもしれんくなるし」
「確かに、それは問題だね・・・・・・・・」
ナギが同調した。ISのエネルギーは有限である。だからモンドグロッソなどの大会でも準決勝と決勝を同日に行う場合は、エネルギーの補給のための時間が設けられている。
「やからどうしようか悩んでたら、バイトの子が言ったんよ」
「何て言ったのかしら?」
「機能に制限のついたISを作れば良いんじゃないか?ってな。開発陣にとっては目から鱗やったらしいわ。カップラーメン開発と同じく逆転の発想や」
「で、でも、ISは女の人しか乗れないんじゃ・・・・・・」
さゆかの疑問も最もだけど、今自分でその答えを言っちゃったよ?
「ああ。ISは女の人しか乗ることができひん。ただ乗ることは出来ないだけであって武器開発や試射、その辺りのテストは出来る。もちろん防御テストもな。それならその防御テストの時に起動するプログラムだけIS作ってしまえばいい。こうなったんよ」
「すごく・・・・・面妖だね」
「・・・でも、それだとISの数が合わなくならない?」
さゆかは自分で聞いておきながら引いていた。まぁあれ以外に関しても変態としか言いようがないグループだし、否定しようが無いかな。そしてちょっとした矛盾点に気がつき反論したのはやはりというべきか簪だった。まぁ、そこは・・・・・・ねぇ。
「ん?これは企業秘密なんだが・・・・・、ISのコア自体うちで全部解析できたからな。量産の目処ついてるんよ。表向きにはコアは無いって言ってあるけどな。もちろんプログラムの変更をしようもんなら防犯ブザーみたいなバカでかい音とGPSが作動するようになっとるし、そもそもあれをISにしようとすると圧倒的に出力が足りねぇし、直列に繋いだら即爆発するようにしてる」
「・・・・・・・・・・・」
あ、皆黙った。けど、それもそうでしょ。刀奈の事とか静寐の事とかがあったからハードル下がったんだとは思うけど、流石にこのタイミングで爆弾をぽいぽい投げられたら、驚きすぎて魂が抜けちゃうでしょ・・・・・。
「・・・・・・公表しない方がいい事が、これで三つ目・・・・・」「あ、悪い。いらんこと言うてもうたな」
ほらー。さゆかなんかすごくぐったりしてるよー。刀奈と簪にとってはこれで秘密4個目だよー?拓海もちょっとは勘弁してあげた方が良いと思うよ。例えば棚に置いておくとか。
「悪い。ちょっと今のは忘れるか、ゴールデンウィークに家に来てくれ。お詫びの物を渡すから。ついでに会社も見学していってくれ」
「え、いいの!?」
食いついたのは簪。続いて刀奈さんとティナ、それから本音だった。更識布仏両家に関しては久しぶりの幼馴染みの家に行けるから、ティナは・・・・・・多分技術的興味かな。ジャパニメーションにハマってるしちょっとロボットの造形に拘り持ってるし。あ、気付いてジト目でこっち睨んだ。
「それで話は終わりかな?お腹空いたし帰りたいんだけど」
「あ、悪い。食堂は・・・・・この時間開いて無いんやったっけ?」
「開いてないわね。もう閉店時間よ」
「そうなんか・・・・・。やったら、ちょい待ってろ。飯作るわ」
「え!?拓海の手料理!?」
時計を見ると20:30を指していた。結構遅くまで話が長くなっていたみたい。静寐がのびをしながら解散に持ち込もうとすると、お詫びになのか拓海が手料理を作ろうと動いた。一応最後に大きな秘密を投げ入れた張本人だし。ちなみに簪はすぐさま反応し、飛び上がった。
「腕はともかく振る舞える量は・・・・・そういえば持ってきてたわね」
「ってか鞄の中身色々見てたから分かっとるやろ。僕が気絶したあとのナマモノ救出作戦でよ」
「確かにそうね。簪があんな風に喜んでいるところを見るに、腕も確かなようね。結構舌が肥えている方だし、私にももらえるかしら?」
「おけ。分かった。他はどうや?」
「うーん、私ももらおうかな」
「ほいほい、鏡さんもやな。鷹月さんと夜竹さんはどないする?」
「簪があんな風に跳び跳ねるってことは相当美味しいって事だと思うし、私も参加で」
「あいよー。夜竹さんは?」
「お金ってどうすれば・・・・・」
「ん?あぁ、いいよいいよ。お近づきの印にってやつや。お金とか気にせんといてなー」
「お義兄ちゃんはお祭り気分になりやすいから、結構料理を家でも振る舞うタイプなの。だから、その辺りの真面目な話は放り投げていいよ~」
「じゃ、じゃあ、私もお言葉に甘えて・・・・」
「あいよ。刀奈も参加やろ?」
「それはもちろん!あ、虚ちゃんも呼んだ方が・・・・・・・・良いわよね。事情が事情だし」
「せやなー。とりあえず呼んどいてー」
「あ、その、私のクラスで仲良くなった人を呼んでもいい?さっきチャットで話してたら晩御飯食べ逃したらしくて・・・・・・・・」
「簪ちゃんがさっそく友達作ってる・・・・・・・!?」
「ええで~。多い方が楽しいやろうし」
結構な大所帯になった。まぁ、楽しければ全てよし。未来とかに思いを馳せるより、今生きているこの瞬間を楽しまなきゃね。
「ちょっとフェルを借りてもいいかしら?」
「ん?飯出来たら呼ぼか?」
「すぐ終わる話だから大丈夫よ」
「って言ってるけど大丈夫か~?」
「あ、大丈夫だよ。今行く~」
呼ばれたから行きますか。まぁ、あっち関係なのは確定なんだろうけどね。
そして私は、ティナと共に部屋の外に出た。
さーて、ティナとフェルの会話はどうなるのでしょうか。
次回へ続く!