ウルトラマンメビウス BRAVE NEW WORLD 作:ローグ5
モニターの中でティガとネクサス、二体のウルトラマンが光となって消えていく。しかし人々がその事について不安を感じる事はない。その立ち姿は雄々しく、メタフィールドに取り込まれた2体の怪獣もいない。それは彼らの勝利を意味していた。
その光景を見てシェルターの中の千歳はホッと一息をつく。作戦は順調に進んでいるようだ。安堵の気持ちが祟ったのか視界ぐらりと揺れ、千歳は慌てて椅子にもたれかかる。
(う・・・・気持ち悪い・・・・)
千歳は青ざめた顔をしているが無理もない。先日まで一介の中学生だっった千歳が宇宙人犯罪者に対面し、あまつさえストルム器官を駆使してメビウスのエネルギーを生み出した事は多大な負担を与えていた。
だがそれでも家族に支えられた千歳は月面近くに切り替わったモニターを見やる。そこでは今もウルトラマンメビウス/細波リオと、ハイパーデス/モネラ星人ヴェンジェラが凄まじい戦いを繰り広げている。その戦いは激しさを増し、もはや防衛隊の戦闘機では近寄ることすら出来なかった。
(お願いします…私はまだ友達や家族と生きていい・・・・だから)
千歳は一瞬だけ見えたメビウスの姿に祈る。どうか勝ってと。
『「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああ!!」』
「があああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
月面をウルトラマンメビウスとハイパーデスがつばぜり合いの状態のまま移動していく。二人のエネルギーの強さを証明するか様に月の地表を砕き、回転するかのように位置を入れ替えつつ、高速で二つの影が地表を滑っていく。
既に両者は互いの力を尽くした死闘により、全身に大小の傷を負っている。だが両者の動きにはその影響は微塵も見えない。メビウスとリオは人々を守るという思いで、ヴェンジェラはウルトラマンと地球人への憎悪の力で、いまだに全力の戦闘行動を続ける。
「ああああああああ!しつこいんですよぉっ!!」
「ぐぅっ!」
ハイパーデスが折れた左の鎌でメビウスを殴りつけ、その体を吹き飛ばす。しかしメビウスも負けじと吹き飛ぶ間際に光のエネルギーを込めた手刀でハイパーデスの体を引ききるようにして切り裂く。
「ぐあっ!おのれえっ!」
『「メビュームシュート!」』
吹き飛ばされたメビウスはそれでもバランスを立て直し、抜き打ちに必殺光線を放つ。だがハイパーデスはゼットン由来の瞬間移動により光線を回避し、逆にメビウスの背後に出現した。
「殺ったぁ!がぐっ!」
しかしメビウスはあらかじめ予測していたかのように背後に向き直り、渾身の拳をハイパーデスに叩き込む。
そう、メビウスはハイパーデスの瞬間移動を予測した上で、自身が渾身の一撃を打ち込む為の布石としてメビュームシュートを放っていた。さらにメビウスは光線の反動を利用し、自身の拳に勢いをつけるという芸当までやっていたのだ。
メビウスとリオの豊富な戦闘経験を活かした巧みな立ち回りにヴェンジェラは対応しきれず、ハイパーデスが今度は月の重力を振り切り、弾き飛ばされ、さらにそれを追うようにメビウスが下からのスピンキックを見舞う。
ハイパーデスはとっさに腕で防御するが、ウルトラマンが回転を利用して放つ蹴りはそんな物では防ぐことは出来ない。右腕がその鋭利な刃毎粉々に粉砕されていった。
「がああああああああああああああああああああっ!!・・・・・だがこれでっこれで貴様を葬ることができる!」
両腕が砕け満身創痍のハイパーデスの中でそれでもヴェンジェラは勝利を確信する。その理由は二つ。まず一つ目はハイパーデスの胸部に搭載された殺戮兵器ネオトリオンフレイム砲のエネルギーの充填が完了した事。そしてもう一つはその射程内に地球を収められた事である。当然ながらメビウスはその射線上に立ちふさがりこちらも最大のエネルギーを込めた必殺技を放つ。
「ネオトリオンフレイム砲、発射ぁ!!」
『「バーニングメビュームシュート!!」』
ハイパーデスの胸部の砲塔からどす黒い熱線が放たれると同時に胸のファイアーシンボルからの焔のエネルギーと光のエネルギ―が融合した超高温の熱線が十字に組んだ腕から放たれる。二つの光線が宇宙空間でスパークを迸らせてぶつかり合う。当初はネオトリオンフレイム砲の莫大なエネルギーが勝っているかに見えた。だが徐々に、メビウスの光と焔の光線が闇の炎を押していく。
「もっとだ・・・・もっと熱く輝けえええええええええええええええええええ!!」
「馬鹿な・・・・ネオトリオンフレイム砲が・・・・・押し負けているだと・・・・・?」
ヴェンジェラは知らない。かつてリオがウルトラマンネクサスの変身者であった頃、この地球以外のネクサスの変身者の多くがそうであったように、リオのネクサスは赤い強化形態へと変身していた。だが彼のネクサスはそれだけでなく、焔を生み出し操る力を持ち、その莫大な熱量を以て幾多の強敵を倒してきた。そのネクサスとして戦った頃の力の残り火はまだ彼の体にかすかにある。その灯は今再び守るべき物の為に再び燃え上がりメビウスの持つ焔の力をより強力な物としていた。
「馬鹿な・・・・・まだ私は・・・・私の復讐は・・・・・」
『モネラ星人ヴェンジェラ!そんな歪んだ憎しみで、地球の人々を傷つけさせなどするものか!そのためなら僕は・・僕たちはどこまでも頑張れる!』
さらにメビウスの光線がハイパーデスの光線を押していく。メビウスが地球を、そこに生きる人々を守ろうとするのは、彼らの勇気を、平和を望む心をそれこそ数千年も前から心から愛しているからだ。ファイトの意味は憎しみじゃない。大切な物を守るためにどこまでも力を振り絞れるメビウスの勇気に、ヴェンジェラの歪んだ憎しみがかなうはずがなかった。
「おのれウルトラマン!おのれ地球人!この恨みいつか晴らしてくれる――――ぐぎゃああああああああ!!!」
そしてメビウスの光線がハイパーデスに到達し、その胸部を含む砲塔部分をヴェンジェラ毎消し飛ばすと同時に、大爆発を起こした。
超新星爆発のようなまぶしい光の中メビウスは地球へと飛翔する。美しく青い星に住む世界中の人々が彼らの帰りを待っていた。
人々を脅かすものが何にもない平和な朝の街を学生たちが歩いていく。月曜の朝にもかかわらず憂鬱そうな顔を見せる者は少なく、その大半は楽し気にしていた。その中には友達に囲まれた七原千歳もいる。彼女はかつての絶望が嘘のように幸せそうにしている。リオやウーリはその近くの車道に止めた車からそれを見守る。
「あの子はもう大丈夫そうだな。実に幸せそうな顔をしている。」
「さすがに登校を再開した直後はひと悶着あったらしいが、今はもうすっかり元通りの平穏な生活が送れているようだ。」
モネラ星人ヴェンジェラが倒れてからはや数か月、千歳はこれまで通りの平穏な生活を送っている。それには先日の戦闘で防衛隊とウルトラマンが彼女を守る意思を明確に示したのも大きいだろう。
確かに多くの悪の宇宙人にとってストルム星人の能力は魅力的である。しかしヴェンジェラのような特別な事情を持った者を除けば複数のウルトラマンや、強化され続ける防衛隊を相手にするリスクを負ってまで狙う程ではない。おそらくこれからも彼女は平穏な生活を続ける事ができるだろう。
「しかし・・・・・あの研究結果は本当なのか?もしそうなら喜ばしい事だが。」
「ああ。もう彼女や両親には伝えてあるが、恐らくはそうだろう。」
後部座席に座っていたテオドールが書類を取り出す。書類には大量の専門用語を含む非常に難解な内容が記述されており、門外漢のリオやウーリには解読不能だった。
「専門的な内容を抜きにして・・・・・この書類の内容を要約するとだな、地球人の血は俺たちが思っている以上に濃いということだ。人型の宇宙人でもストルム星人のような人間に近い種族とのハーフならば、ストルム星人の能力を持った地球人に近いといえるだろう。つまり・・・・・」
そこでテオドールは一度言葉を切る。本来生物としては望ましくない結果であるはずにも関わらず、彼はどこか嬉し気に口を開いた。
「彼女の寿命は地球人のそれに準ずる可能性がほぼ確実であるという事だ。彼女は友達や家族と同じ時間を歩んでいく事が出来る。それはよい事なんだろうな。」
何処か安堵したような三人はそのまま友達と仲睦まじい様子の千歳を見やる。風に吹かれたのかトレードマークの赤いリボンがほどけかけ、それを友達の麗奈という少女が結びなおしていた。電柱の陰に隠れた翼がその光景を見て何処か満足気にうなずいていた。
「・・・・・・・なんというか、彼は大丈夫なのか?」
「おそらくだが心配ないだろう。ああみえてティガに選ばれるだけの善性や勇気は持っている。おそらく、きっと、大丈夫なはずだ。それにあの子の周囲に護衛となれる人間がいた方がいいだろう。」
「・・・・そうだな。」
ウーリのややため息交じりの科白にリオはうなずいた。まあ恐らく大丈夫だろう。あの翼という少年は善良な人間
なのだし。
こちらに気づいた千歳がそっと会釈する。その様子からはあの時の影は見えなかった。穏やかな表情の千歳にこちらも会釈を返し、ウーリは車を発進させる。あの子はもう大丈夫だろう。
平日の朝の為か道路は空いている道路を車が走り抜ける。まずはテオドールが研究成果についての見解を述べる為防衛隊の研究所前で降りる。ただその前にリオとテオドールは同じ光を受け継ぐ戦友同士として拳を合わせる。
「地球は任せたぞ、後輩。」
「ああ。俺は生きてこの絆の・・・ネクサスの光を継いで見せる。だから安心してくれよ、先輩。」
いかつい顔に笑みを浮かべ言い放ったテオドールは踵を返し、研究所へ向かっていく。彼は彼でネクサスとしての他に、人の命を救う医者としての使命もある。二つの使命を背負った背中はその頑健な体躯以上に大きく見えた。
「さてと、じゃあウーリあの公園まで頼む。」
「了解。不審者に間違えられるなよ?」
「・・・・・前もオペレーターに言われたよ。それは。」
従兄同士の気の置けない会話をリオはウーリとする内に車は公園に着く。リオは一つ伸びをすると、のどかな公園の道を散歩する。あの激動の数日間が過ぎた後、傷の癒えたメビウスはすぐにリオと分離し、旅立っていった。宇宙警備隊員である彼が救うべき人々は世界中どころか数えきれない宇宙にいる。故に彼また戦いの旅に出ていった。別れ際にしたメビウスとの会話がリオの脳裏に思い起こされる。
「ありがとうウルトラマンメビウス。おかげあの子達の命や未来を守る事が出来た。」
『それは僕だけの力じゃありません。確かに僕はヴェンジェラを倒した。でもあの子を救ったのはリオさんやあの子の友達や家族の愛情です!』
メビウスはどこか熱を込めてそう言った。ウルトラマン特有の表情の分かりづらい顔もどこか嬉し気にリオは感じられた。
『僕も嬉しかったです。地球の人々の愛情や思いやりを久しぶりに感じることができて。仲間たちと戦ったあの頃を久しぶりに思い出しました。』
「そう言われると照れ臭いな。でもそういう思いは大切だと俺は考えているよ。」
穏やかな目をしたリオはそこで言葉をいったん切る。宇宙の彼方から来た戦友に伝えておくべき言葉があった。
「俺はもうウルトラマンじゃない。でも一人の人間として人々の笑顔を守るために自分なりに、戦い続けるつもりだ。そして少しでもこの地球を平和で良い場所にしていきたいと思う。だからメビウス。いつかまたこの地球に来てくれないか。例え俺がいなくなった後でも構わない、平和な地球を見てほしいんだ。」
『喜んでリオさん!僕は必ず行きます!絶対に・・・・この地球にまた来ます!』
「そうか。ありがとうメビウス。君のことは忘れない。」
『僕もです!短い間でしたが、ありがとうございました!』
そういってメビウスは飛び去ってい行った。リオの中に鮮烈な記憶を残して。
公園を歩きながらリオは考える。メビウスの名を持つウルトラマンはその名の通り、仲間との絆を人からすれば無限とも思える時間受け継ぎ、戦い続けている。だがそれは地球人も同じなはずだ。人が人を思う気持ちはこの世界に人がいる限り受け継がれていく。その絆の連鎖を永遠とするためにウルトラマンは、人々は戦っていくのだ。自分がかつてそうであったネクサスやメビウスの様に。
「絆は永遠、か。」
メビウスの去っていった空をリオは見上げる。一人の人間としての彼の戦いはまだ続く。だが今は自身の内にある絆を想おう。穏やかな日の下、リオはそう思った。
ウルトラマンメビウスBRAVE NEW WORLDはこれで完結です。
つたない作品にもかかわらず、読んでいただきありがとうございました。今後もすぐにではありませんが、この作品と同様の世界観のウルトラマン作品を書く事になると思うので、その時が来たらまたよろしくお願いします!