それでは、本編スタート!!
⇒ハヤテside
「しかしまぁ…世の中にはひどい親もいたもんだ…。
自分達が博打で作った借金の返済に、自分の息子を売るなんてな…。
こんな親、もう人として最低だな。」
「全く…日本って国はどうなっちまうんですかね~?」
前の座席にいる2人がそんな会話をしていた。
「ホントホント。
売られる子供の身にもなれって話ですよね。」
この流れにのってなんとか逃げようと思ったが……
「ま、それでも買うんだけどな。」
呆気なく失敗した。
こうして、二時間にも及ばない逃走劇は終わりを告げ…
不幸まっしぐらな少年を乗せたヤクザの車と、それを追う車はひた走る。
~~~~
「オラ!着いたぞ!!
さっさと降りろ!!」
波止場で車は止まり、そこで僕は降ろされた。
「あの~~……。
ここはいったいどこでしょうか?」
「あぁん?
病院だよ。」
絶対ウソだ!!
マ、マズい…
コレは…いつ殺されても不思議じゃない。
ど…どうにかして早く逃げなくては…
「そう心配しなくても…別に殺そうってわけじゃねぇ…。」
僕の思ったことを察したのか、ヤクザの一人がそう言ってきた。
もしかしたら…条件次第では逃がしてくれるかも──
「取れる臓器取って…お前をここから外国に売るだけだから。」
違った!!殺されるよりもっとひどかった!!
かくなる上は……
「あ~~~。
僕、急に思い出しちゃった。
というわけで帰ります!!」
これで逃げるしかない!!
と、走り出したところで…
「そうはさせるか!!」
ヤクザの親玉らしき人の放ったチワワの猛攻を受け、立ち止まってしまった。
「だいたいよぉテメェの親が悪いんだろ!!
金が無いなら体で払うしかねーだろうが!!
大丈夫!!
肺も肝臓も心臓も2つあるから!!」
「僕の心臓は一つしかありません!!」
「うるさい!!
金がない奴はとっとと売られろ!!」
「嫌だーーーーっ!!
そんなアバウトな臓器の数え方してる人に売られたくなーーい!!
誰か…誰か助けてーーーーっ!!」
と、そのとき───
「なにをやっている?」
僕の魂の叫びに反応したのか、
「嫌がっているじゃないか。
解放してやれ。」
スーツを身にまとった男が現れた。
「な、なんだテメェ!!」
ヤクザの親玉らしき人の叫びに男は──
「名乗るほどの者ではないが…。
そうだな…政府の人間だ、とだけ言っておこう。」
そう言い放った。
「せ…政府の人間が、なんでここにいやがる!?」
「先ほどの公園でのやりとりを偶然見かけてな…
そこからずっと追いかけてきたんだ。」
あの場面を…見ていた人がいたのか…!!
「チッ…だが、政府の人間でも、今回ばかりはどうしようねえだろ!!
こいつにはこんだけ貸しがあるんだ!!
この借金がある限り、こいつは俺らの物なんだよ!!」
「一億五千六百八十万四千円…
どうみても違法じゃないか…
だが、それをどうにかしないといけないと言うのなら…
少し待っていろ。」
そう言ってその人はどこかに電話をかけた。
数分後…
「…烏間さん、持ってきましたよ。」
「ああ…すまない。」
今度はスーツ姿の女性がスーツケースを持ってやってきた。
そして、烏間さんというらしい男の人はスーツケースを受け取り───
「これで…満足か?」
スーツケースを開き、その中身が見えるようにしてヤクザに向けた。
「まさか…全部本物?」
「当然だ。
それで良いのだろう?
それとも…政府の人間だから認められないか?」
「…おい、そいつを放してやれ。」
「えっ!?いいんすか?兄キ!!」
助かった…のか?
「金を払わない奴には容赦しねーが…払えば客だ手は出さねーよ。
今度はあんたがそいつから…この金を返してもらうんだな。」
「では…俺は「ちょっ!!待ってください!!」」
その場から消えようとした烏間さんを僕は必死で呼び止めた。
「…どうした?」
「いえ…助けていただきありがとうございました。
あのお金は、何年経ってでも必ず返します。」
今言っておかないと二度と会えない気がしたから───
「…別に返さなくていい。
俺の自己満足だし、そもそもの話君には俺に借金を返す義務はないぞ?」
「い…いえ、そうしないと僕の気が済まないというか…」
「そうか…
なら…君、名前と年は?」
「えっ?…ハヤテです。
…綾崎ハヤテ。
年は、14です。」
「そうか…
なら、綾崎君。
借金は返さなくていい。
その代わり、今俺が請け負っている任務に…君も参加してもらう。」
⇒渚side
「こうして…僕は今ここにいます。」
言葉が出なかった。
安易に聞いてはいけなかった。
───社会の最底辺の人間に全てを奪われた人間───
そのとき、脳裏をよぎったのは理事長先生のあの言葉だった。
なるほど、確かにそうだ。
僕たちはこの学校内での最底辺というだけで諦めていた。
だけど、綾崎君はそれよりもっと深いところでもがき苦しみながらも前を向いていたんだ!!
殺せんせーのいう通り僕たちの劣等感なんて、ちっぽけなどうでもいいものだった。
ヤバい…そんなことで落ち込んでいた自分が恥ずかしくなってきた。
周りの皆も同じなのか顔を綾崎君から逸らしていた。
───と、そのとき
「…何も…無いんですよ…。」
綾崎君が口を開いた。
なので、そちらを向くと──
「…今の僕には!!
残っている物なんて!!
何一つとして無いんですよ!!」
それは違う!!
そう言いたかった。
だけど、その涙混じりの叫びに何も言えなかった
だが───
「そんな事無いよ。
ハヤテ君は、素晴らしいものを沢山持っているよ。」
「…西、沢…さん…」
「そうだよ!!
ハヤテ君は皆困っていることにすぐフォローしてくれる位優しいし、勉強も出来るし、いいとこなんて気づいてないだけで、もっと沢山あるよ!!」
「…渚、君…」
「お二人のいう通りです。
綾崎君、君は気づいてないだけでいいところなど山ほどある。
その一つがこちらです。」
そう言って綾崎君のテストを出した。
そこには───
綾崎颯 英語 68点
国語 87点
社会 85点
理科 82点
数学 73点
とあった。
「特に英語は、苦手科目にも関わらずこれだけの点数が採れたのです。
この努力の才能は誇っていい。
しかし…カルマ君と同じく範囲外も教えていたはずですが…」
「いや~…なにせこの学校に来て初のテストだったので…最初の方でまごついていたら時間が足りなくなりまして…」
「…まぁいいでしょう。
とにかく、君なら過去の呪縛から…親の鎖から抜け出せるはずです。
ここにいる皆さんと共に…」
「…ええ、そうですね。
ありがとうございます。
そして、これからもよろしくお願いします、殺せんせー。」
「いい笑顔です。
こちらこそよろしくお願いしますね?」
そのときのハヤテ君の笑顔は───
今まで見てきたものよりもずっと自然で、魅力的で───
何より明るかった。
だが、それに反してクラスの雰囲気は───
とても、暗かった。
「というより、2人とも“ハヤテ君”にしたんですね。」
「うん。
あんな話聞いた後だと、なんか他人行儀な気がして…」
「僕はそれに倣おうかと思って…」