暗殺者のごとく   作:aros

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名簿の時間に片岡の岡野と倉橋の呼び名がなかったため、勝手にそれぞれひなた、陽菜乃と呼んでいることにしています。


そのため、今回から本格登場のキャラをヒナと呼んでます。

それでは、本編スタート!!


第39話 近い時間

▷ハヤテside

 

僕の投げたボールをバッターが上手くバットに当てる。

木村君が取りに行くが…彼は野球未経験者だ。

バントの処理なんて到底出来る訳がない。

そのため、出塁を許してしまった。

 

 

「すまん…綾崎…。」

木村君が申し訳なさそうに謝ってきた。

「気にすることはありません。

ここから巻き返していけばいいだけです。」

「綾崎…ああ、そうだな!!」

 

 

 

次のバッターも例のごとくバントの構えを見せた。

 

 

 

…先にやったのはこっちなので、素人相手にバントをしたところで野球部には、“手本を見せる”という大義名分がつくだけだ…。

理事長先生はこちらにとって恐ろしいことを考えるのが本当に上手い。

 

 

…でも───

 

 

 

あくまでそれは、出塁する事が出来てこそのものだ。

 

 

 

これ以上、塁には出さない。

その想いを胸に───

{『ピッチャー綾崎君、野球部のバントに臆することなく…投げた!!』}

当然、バントされはしたが───

 

 

投球後、ホームベースまで間合いを詰めていた僕がノーバウンドにボールを拾ったことで出塁されることはなかった。

 

 

 

続く三人目…。

今度はバントではなく、打撃の構えを見せていた。

構えで警戒されたと思ったのか…なら、やり方を変えさせてもらう。

{『綾崎君…投げた!!

ああっと!

このタイミングを待っていたのかバッター、バントの持ち方に変える!!』}

 

 

 

そうくるのは分かっていた…。

だから…

 

 

{『ああっと!!

ボールがバット手前で落ちる!!

こ、これは…フォークボールか!?』}

変化球を使わせてもらった。

このまま、打たせることなくツーアウト

 

 

 

 

次のバッターは…

 

 

 

{『ここで迎えるバッターは…我が校が誇るスーパースター…進藤君だーーー!!』}

 

 

さて、どうやって打ち取るか…。

 

「ハヤテくーん。

進藤の集中力を削ぐのは俺たちがやるからさぁ…ハヤテ君は自分の好きなように投げてよ。」

そこに、カルマ君と磯貝君がやってきた。

「…出来るんですか?」

「監督から指令が来たんだよ…。

俺らにしか出来ないことだって…。」

───ッ!!殺監督が…!?

いったいどんな…。

 

 

そう思っていると、2人がバッターボックスの前に立つ。

…明らかにバッターの集中力を乱す位置にいるが、野球部の前進守備を黙認した以上、今回もスルーしなければならない。

それ以前に…やられたことを先にやり返したのは野球部の方だ。

認めざるを得ないだろう…。

理事長先生もそれを理解したのか…それとも、前進守備でも集中力が切れることがないという絶対の自信からか、それを容認した。

 

 

それを確認してか…2人はさらに歩み寄った。

 

 

だが…

{『ち…近いーーー!!

前進どころかゼロ距離守備!!

振れば確実にバットが当たる位置で守ってます!!』}

やり過ぎだというくらい近い場所まで進むとは思わなかった。

 

 

 

「ハヤテくーん、気にせず投げてよ。

邪魔しないし、怪我なんてしないからさぁ。」

 

 

 

そう言うのなら…信じよう。

それに…あの2人は…

そう思いながら、一球目を投げる。

 

 

2人をビビらせようとしたかのような豪快スイングを放つ進藤君だったが…その考えと裏腹に2人はほとんど動くことなくバットをかわす。

あの2人はE組の中でトップクラスの動体視力を持つ。

…?

“お前もだろ”ってツッコミが入ったような…。

 

 

カルマ君が進藤君に向かって一言声をかけている。

えーと、

“次はさ…殺すつもりで振ってみな。”

…進藤君の心は折れたな。

 

 

進藤君への2球目を投げるが…何かに怯えたような腰の引けたスイングだった。

 

 

 

そのボールをキャッチしたカルマ君が一塁の菅谷君に投げる。

 

 

 

これで進藤君はアウト。

 

 

{『ゲ…ゲームセット…!!

な…なんと…E組が野球部に勝ってしまった!!』}

 

 

 

良かった…勝てた。

 

 

「やったぜハヤテ!!

この勝利はすべてお前のおかげだぜ!!

イテテ…。」

そこに杉野君がやってきた。

「杉野君…肩の怪我は大丈夫ですか?」

「後で殺せんせーに手当てしてもらう予定だけどよ…それより先に…あいつに話したい事があるからな。

先に行っててくれ。」

そう言って、負けたショックから立ち直れてないのか未だ座り込んでいる進藤君のもとに行った。

 

 

 

▷友人side

 

「進藤…。

ゴメンな。

ハチャメチャな野球やっちまって…。

…これでお前に勝ったなんて言ってもたいして自慢出来ねーよ。

野球選手としては、俺なんてお前の足元にもおよばねえからな…。」

「…だったらなんで…ここまでして勝ちに来た…?

結果を出して俺より強いと言いたかったんじゃないのか…?」

「…んー…。

渚はさ、俺の変化球練習にいつも付き合ってくれてるし、ハヤテだってさ…あれでスポーツ未経験者なんだぜ?

カルマや磯貝の反射神経とか皆のバントの上達ぶりとかすごかっただろ?

でも、結果を出さなきゃ上手くそれが伝わらないからさ…。

まあ、要するに…ちょっと自慢したかったんだ。

昔の仲間に…今の俺の仲間を…。」

「そういうことか…。

なら覚えとけ杉野。

次やるときは高校だ。

…あと、肩のこと…悪かった。」

「肩のことは気にすんなって!!

それより…この決着は高校でだ!!」

(…高校まで地球があればな…。)

 

 

 

▷ハヤテside

 

「…と、すまん。

待たせたみたいだな…。」

進藤君と話しがしたいからと野球場に残っていた杉野君が戻ってきた。

「いえ、待ってませんよ。

それより杉野君、殺せんせーから伝言をあずかってます。

“肩の怪我を手当てしたいので進藤君との会話が終わったらすぐに旧校舎に来るように。”

とのことです。」

「分かってるよ。

んじゃ…さっさと行きますか。」

「あ、一緒に行きますよ…?」

伝言を受け取ると同時に旧校舎に向かう杉野君にそう言う。

 

 

 

すると…

「いや…ハヤテは試合で大暴れして疲れてるだろ?

みんなと一緒にゆっくり登ってきてくれ。」

磯貝君がそう言って杉野君を支えながら行ってしまった。

 

 

 

「それにしても…男女共に勝って終わったね~。」

2人の姿が見えなくなってしばらくして、西沢さんがそう言ってきた。

 

 

そこに…拍手の音が聞こえて来た。

 

 

「あの戦力差で勝つなんて…やるじゃない、あなたたち。」

そんな声と共に、木々の間から桃色の髪を携えた女子が出てきた。

 

 

「ヒナ!!

久しぶりじゃない!!」

「ヤッホー、メグ。」

「えっと…お知り合いなんですか…?」

その女子と片岡さんの関係性が気になり、問いかける。

「あー…うん。

お互いに似たような悩みがあるから…。」

「なんでバレンタインに女子からチョコを貰うんだろ…?」

「「ハア…。」」

なるほど…同じ悩みがあるなら仲良くなるだろう。

 

 

「それはそうと…あなた、確か名前は…綾崎君だっけ?」

「あ、はい…綾崎ハヤテです。」

「そう…。

球技大会ではいい成績を残したようね。

でも、期末試験では成績上位になんてさせないからね!!

私があなたを超えてみせる!!」

そう言うと、その女子は僕の横を通り過ぎて行く。

「桂ヒナギク…それが、私の名前よ。

覚えておきなさい。」

 

 

 

───桂ヒナギク

 

 

去り際に言われたその名前をしばらく脳内で繰り返し流していた。




次回もお楽しみに!!

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