▷ハヤテside
「渚君…やる気はあるか?」
烏間先生が指名したのは…渚君だった。
その選択に、信じられないとでもいうかのような表情を浮かべる皆さんの視線が烏間先生と渚君のいる場所に集まった。
だけど、僕はそこまで驚かなかった。
と、いうのも…鷹岡が勝負の条件を出したその時点でこの展開を予想していたからだ。
「この勝負…選ばなくてはならないというのなら、誰がなんと言おうと君を選ぶだろう。
だが…返事の前に聞いて欲しい。」
烏間先生は渚君の目を真っ直ぐ見て…そして、口を開いた。
「俺は君達とはプロ同士だと思っている…。
だからこそ…プロとして、君達に払うべき最低限の報酬…それは、当たり前の中学生活を保障する事だと思っている。」
烏間先生に生活面の大半を援助してもらってる身としては、申し訳ないという気持ちでいっぱいですけどね。
「だから…このナイフを受け取ることを強制しない。
その時は、俺が鷹岡に頼んででも君達への“報酬”を維持してもらうように努力する。」
その言葉を正面から受けた渚君は、少し考えるような態度を見せたあと…ナイフを受け取った。
そして───
「やります。」
───言った。
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「なあハヤテ…。
渚のナイフ…当たると思うか?」
菅谷君が聞いてきた。
「ええ、当てられると信じてます。」
「お前、この展開分かってただろ…。」
呆れの混じった声音で菅谷君が言う。
それに反応したかのように驚きの視線が向けられた。
「まあ、鷹岡がこの勝負の条件を出した時から…こうなるかなと思っていました。
僕の場合…たとえ勝負には勝てたとしても、条件に合わないので…。」
「そういや、鷹岡先生がその条件出す前になんか言ってたな…。
お前の限界がどうだとか…。
その限界って何なんだ?」
菅谷君が重ねて聞いてくる。
「おそらく…技術的な話ではないでしょうか?
僕の戦闘技術ってどちらかというと正面戦闘寄りな気がするんですよね。
正面戦闘は暗殺では“ほぼ”必要無い。
だから僕では、“戦闘”にはなっても“暗殺”に持ち込めないのでああいったんだと思います。」
実際のところ…分かってはいない…。
でも、これがしっくり来た。
「でも渚君なら…それが出来る。
なぜなら…。」
昨日の訓練中に一度だけ感じた殺気───
あれがもし渚君のものなのだとしたら───
「渚君は、僕が持つことの出来なかった技術をこのクラスの中で一番持っているような気がするので…。」
そして───
「烏間先生も…それが分かっているからこそ渚君を選んだんです。」
▷渚side
───いいか、鷹岡にとってのこの勝負は“戦闘”だ。
───それに対し、君は“暗殺”だ。
ただ一回当てればいい。
本物のナイフを手にしてから、少し迷っていた。
当然だろう。
今までは、対先生物質のナイフだったから全力で振れたが…今回は本物だ。
本物なんて持ったこと無いし、当てたところが悪ければ死んでしまう。
どう動けばいいかが分からなかった。
そんな時…僕は、烏間先生のアドバイスを思い出していた。
そうだ…。
難しく考えなくていいんだ…。
殺せば勝ちなんだ。
だから僕は…笑顔で、歩いて近づいた。
通学路でも歩いているかのごとく、普通に…。
そして…鷹岡先生の腕に触れた瞬間、首筋目掛けて思い切りナイフを振った。
ここでやっと、殺されかけている事に気がついた鷹岡先生は、思い切りのけぞってナイフをかわす。
今、鷹岡先生の重心は体の後ろに集中している。
だから、弱い力でもその方向に加えればたいていの場合、転倒させることが出来る。
なので、服を引っ張った。
そしたら、案の定倒れた。
チャンス!!
そう思った僕は、背後から組み付き───
「捕まえた。」
「あッ…が…!」
ナイフの峰を…鷹岡先生の首に当てた。
次回もお楽しみに!!