暗殺者のごとく   作:aros

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それでは、本編スタート!!


第47話 溺れる時間

▷ハヤテside

 

プールのあった日の放課後…招集をかけられた。

 

 

 

「まず問題は…殺せんせーが本当に泳げないのかだけど…水に弱いのは知っての通りだよね。」

面倒くさいからと来なかった寺坂君を除く全員が揃ったところで、片岡さんが口を開いた。

 

 

 

なんとなく予想はしていたが…議題は新たに露見した殺せんせーの弱点のことだった。

 

 

 

思い返してみれば…殺せんせーは、湿気でふやけていたことがあった。

だが…イトナ君がこのE組に来た時に壁を突き破って入ってきたことにより、触手で雨粒を弾いていたと考えられ…それを弱点と関連付けることが出来なかったのだ。

 

 

 

「全身に水を浴びたら…さっきかかったところがふやけてたみたいに全身がふやけるかもしれない。

そうなったら、死ぬまではいかないまでも…動きが悪くなると思う。

そこでね…一つ、暗殺の計画を立てたんだ。」

片岡さんの話は続く。

全員が片岡さんの方を向いて真剣に話を聞いている。

「まず…この夏の間に、タイミングを見計らって殺せんせーを水中に引き込む。

それ自体は殺すための行為じゃないから…殺せんせーも対応が遅れるはずだしね…。

そして、水中でふやけて動きが悪くなったところを…待ちかまえていた生徒が仕留めるって作戦なんだけど…。」

なるほど…殺せんせーは殺意のない行為には反応が遅れる。

殺せんせーの隙をついたいい作戦だと思う…。

 

 

 

「水中にいるのが私だったら…いつでも任せて。

バレッタに仕込んだ対先生ナイフで…殺れる準備はいつでもしてるから。」

片岡さんは、元水泳部で昨年度のクロール学年代表だったらしい。

なるほど、片岡さんの本領発揮ということか…!!

 

 

 

「その作戦で大事なのは…殺せんせーに、水場の近くで警戒心を起こさせないこと…。

夏は長いわ!!

じっくりチャンスを狙ってこう!!」

『おうっ!!』

そのやり取りで締めくくられた。

 

 

 

「うーむ…さすがは“イケメグ”。」

「こういう時の頼れる度合いはハンパじゃないな。」

「あの…“イケメグ”って何ですか…?」

今の三村君と菅谷君のやりとりの中に、理解出来ない単語が一つあったので聞いてみた。

「そっか…ハヤテは知らなかったな。

“イケメグ”ってのは片岡のあだ名のことだ…。

文武両道で面倒見が良くて…しかも、颯爽として凛々しい姿から女子なのにイケメンってことでそう名付けられたんだ。」

菅谷君の説明に納得した。

 

 

 

この場で聞くのは野暮かもしれないと思ったので聞かなかったが…気になることが一つ。

 

 

 

三村君が言っていた通り片岡さんはそこまで成績が悪いわけではない。

真面目なため、問題行動を起こしたということも考えにくい。

 

 

 

ならば、片岡さんはなんで…E組に落ちたのか…。

 

 

 

~~~~

 

「律、タイムは?」

{26秒08ですね…。

片岡さんの50m自己記録には0.7秒届いていません。}

「ブランクあるなぁ…。

任せてと言ったからには万全に仕上げておかないとね…。」

そう言って、片岡さんは再び泳ぎ始める。

 

 

 

「…うーむカッコいい。」

「責任感の塊だね…。」

片岡さんの様子が気になって見に来たのだが…余計な心配だったかな…?

 

 

 

「確かにカッコいいですねぇ…。」

「こ…殺せんせー!?」

どうやら…そうでもなかったようだ…。

マズい…計画がバレないようにしないと…。

 

 

「殺せんせーさぁ…巨乳女優の田出はるこにファンレター送ったでしょ。」

そう思っていると、渚君が殺せんせーに話題をふった。

「にゅやッ!!

な…なぜそれを!?」

「この間、ハヤテ君と一緒に机の中を見ちゃったんだ…。

そうだよね…ハヤテ君。」

「ああ、そういうこともありましたね…。

書き直したような物がいくつもありましたね…。」

「“あなたを見ると私の触手が大変元気になるのです”とか…普通に見たらセクハラだよね…。」

「教師が送ったってバレたらどうなるか…。

いや…そんな内容のファンレターを書いたなんてあの理事長先生が知ったらどうなるか…。

減給ではすみませんよね…?」

「2人とも、もうやめたげて…殺せんせーすでに瀕死だから…。」

 

 

 

そこに…片岡さんの友達という方からメールが届き、それに伴い片岡さんの顔が暗いものになった。

 

 

 

「…ちょっと用事できちゃったから…じゃあね。」

そう言って片岡さんはプールから去っていった。

 

 

 

「…少し様子を見に行きましょうか…。

しっかり者の彼女なだけに心配ですね…。

皆から頼られている人は…自分の苦しみは一人で抱えてしまいがちです…。」

僕たちの言葉責めのダメージから復活した殺せんせーの提案に賛成した。

 

 

 

~~~~

 

「そこの文法が違うんだってば…正しくは───」

「あ~そっか、つながったぁ!!」

片岡さんと、呼び出した本人であろう椚ヶ丘中学校の制服を着た女子の声が聞こえてくる。

 

僕たちは今、椚ヶ丘駅から歩いてすぐの場所にあるファミレスの片岡さん達がいる席の隣を陣取っている。

場所的に僕の読唇が使えないとはいえ…確かにこの場所なら状況を把握しやすいが…バレやすくもあると思うのだが…。

 

 

 

勉強会…というより、片岡さんが家庭教師にされているように見えるそれが一息ついたところで、片岡さんがその女子に、やりたいことがあるから呼び出す回数を控えてほしい、と言った。

 

 

 

すると、その女子は───

 

 

 

「…ひどい。

私のこと…殺しかけたくせに…!」

そんなことを言い出した。

殺しかけた…?

どういうことだ…?

 

 

 

「あなたのせいで死にかけてから…私、怖くて水にも入れないんだよ…?

一生…支えてくれるよね?」

言いたい放題言ってすぐ、その女子は友達との約束に遅れるから、と去っていった。

なんか…あの女子から、僕の両親と似たような感じがするなぁ…。

 

 

 

と、そこに───

 

 

 

「まったく…あなたはいつまでそうやってるつもりなのよ…。」

呆れた、とでも言いたそうな表情の桂さんが入ってきた。

 

 

 

「ヒナ…。」

「あんな娘の面倒なんて見なくていいのに…死にかけたっていう事件だって自業自得なんだし…。

あの娘、メグの成績を奪ってE組に落とした張本人よ…?」

「そうなんだけど…あそこまで言われたら断れなくて…。」

話のほとんどは分からないが…さっきの女子が片岡さんのE組落ちに関わっていることは分かった。

 

 

 

「まあいいわ…。

話は変わるけど…あそこにいる不審者達はあなたの知り合い…?」

溜め息をついた桂さんは、こちらに視線を向け…そんなことを言った。

やはり気づいていたのか…片岡さんはこちらを見ることなく溜め息をつくだけだった。

 

 

 

「すみません…覗き見るようなことをして…。」

バレていたのなら仕方がないと思った僕は、かけていたサングラスをはずし、片岡さん達に近づいた。

「一人は綾崎君だったのね…。

球技大会以来ね…。」

「ええ…元気そうでなによりです、桂…「“ヒナギク”…よ。」…え?」

さん、と言おうとしたが…桂さんに阻まれた。

「学校外では…私のことは“ヒナギク”と呼びなさい。

いいわね…?」

「はぁ…分かりました、ヒナギクさん。」

「それでいいわ。

それと…私も“ハヤテ君”って呼ぶからね。」

僕が名前で呼んだことに満足したのか満面の笑みを浮かべたヒナギクさんにそう言われた。

特に問題は無いので、了承の意味を込めて頷いた。

「じゃあ、私はもう行くから…。

メグのこと、よろしくね…。

あ、それと…もう一回言うけど学校では桂さんで通してね…。

騒ぎになっても困るし…。」

そういうと、ヒナギクさんは去っていった。

 

 

 

───ゾクッ!!

 

 

 

殺気を感じる…。

恐る恐るそちらを見ると───

 

 

 

「ハヤテく~ん…さっきのはどういうことかなぁ…。」

「綾崎君…いつの間にヒナとあそこまで仲良くなったの?」

「本校舎の生徒とお互いを名前で呼ぶようになり、それで茅野さんと片岡さんに嫉妬される…。

綾崎君の恋愛ネタは尽きませんねぇ…。」

「止めようよ殺せんせー…。」

 

 

 

───表面上は笑顔だが、目が笑っていない茅野さんと片岡さんの2人とよく分からないことをいいながらメモをとる殺せんせー、そしてその殺せんせーに呆れたような表情を見せる渚君がいた。

 

 

 

仲良くって…まだ2回しかあってませんよ…?

 

 

 

~~~~

 

なんとか機嫌を直してもらい、全員でファミレスを後にした。

 

 

 

「それで…あの勉強を教えていた女子が言っていた死にかけたって…どういうことですか?」

その道中、それまで気になっていたことを聞いた。

 

 

 

「…去年の夏にね…同じ組だったあの娘に、“泳ぎを教えてほしい”って頼まれたの。

好きな男子を含むグループで海に行くことになったらしいんだけど…そこでカッコ悪いところを見せたくないみたいでね…。」

片岡さんは、言うかどうかで一瞬迷ったような表情を見せたが…覚悟を決めたように口を開いた。

しかし…教えてもらうための動機が、夏にありがちなものだと思う。

「しつこく頼んでくるから根負けして…一回目のトレーニングでなんとかプールでは泳げるくらいにはなったんだけど…行き先は海だから…。」

「海というのは…潮の流れが常に変わるから、例えプールで泳げるようになっても、溺れる危険性が高いから…。」

「うん…綾崎君が言った通り、海で泳ぐのは危険だから…その後も何回か教えようと思ってたんだけど…でもあの娘、一回目以降なんだかんだ理由をつけて練習に来なくなって…まあ、もともと反復練習とかが嫌いだったし…もう十分泳げるようになったって思ったんでしょうね…。

そのまま海に行っちゃった…。」

 

 

 

完璧に海をナメている…。

そんな状態で行ったら…。

 

 

 

「あとは予想通り…。

海流に流されて溺れちゃって…。

それ以来、“役に立たない泳ぎを教えられて死にかけたからその償いをしろ”ってテストのたびに勉強を教えさせられて…私の方は、苦手科目をこじらせちゃってE組行きに…。」

「それって…逆恨みじゃないですか!!

溺れたのは、片岡さんの好意を無駄にしたあの女子が悪いんですから、片岡さんがそんな償いをする必要はありません!!」

「ありがとう、綾崎君。

でも…こういうのは慣れてるから。」

そういう片岡さんの目は…以前の僕に似たようなものになりかけていた。

 

 

 

ピッ!!

「…ダメですよ片岡さん。」

殺せんせーが笛を鳴らす。

そして…片岡さんに語り出す。

「しがみつかれることに慣れてしまうと…いつか自分も一緒に溺れてしまいますよ…。」

例えば…こんな風に、と殺せんせーはその場で作った紙芝居を見せる。

 

 

 

“主婦の憂鬱”と題したそれは…家賃までもギャンブルに使い込む夫との生活の中で、頼られることに嬉しさを感じる主婦の話だった。

 

 

 

「…いわゆる“共依存”というものです。

依存され続けることで、あなた自身も依存されることに依存してしまう…。

おや…?

綾崎君、そんなに震えてどうしました…?」

「殺せんせー…これ…借金を押し付けられる前の僕みたいな感じがするんですが…。」

その一言で、その場にいた全員が青ざめたような表情を見せた。

それもそうだろう…。

ここに、共依存の“最悪の結末”をたどった人物がいる、と言っているようなものなのだから…。

 

 

 

「片岡さん!!

僕は…片岡さんに、そんな悲しい思いはさせたくありません!!

何か…力になれることはありませんか…!?」

片岡さんの両肩に手を置き、問いかけた。

 

 

 

「ありますよ。」

その問いに答えたのは、殺せんせーだった。

「片岡さんに依存している彼女を…自力で泳げるようにすればいい。

そのために力を貸してください。」

「なるほど…相手を自立させようということですね…。

そういうことでしたら、おまかせください!!」

 

 

 

って、それはつまり…泳ぎを教えるということだ。

殺せんせー、泳げるの…。




次回もお楽しみに!!
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