暗殺者のごとく   作:aros

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それでは、本編スタート!!


第48話 水泳の時間

▷ハヤテside

 

片岡さんがE組に落ちた理由を聞いた日の深夜───

 

 

 

「…どこ…ここ…?」

現状をいまいち理解出来ていないであろう多川さんというらしい女子の困惑する声が聞こえる。

 

 

 

それもそうだろう。

自分の部屋で寝たはずなのに…目覚めたら、水辺にいて…そこに半魚人のような姿をした生物がいるのだから…。

 

 

 

「目覚めたみたいだね。

こ…ここは魚の国!!

さぁ、私達と一緒に泳ごうよ!」

戸惑う多川さんに話しかけたのは、片岡さんだ。

「…あんた…めぐめぐに似てない…?」

「…違うし…めぐめぐとか知らないし…魚魚だし…。」

「何その居酒屋みたいな名前!?」

片岡さんの魚魚という名前に多川さんの鋭いツッコミが入る。

「堂々と魚を演じなさい、片岡さん。

夢の中だと思わせなければ…我々の行為はただの拉致監禁です。」

未だ恥ずかしがっている片岡さんに、殺せんせーが小声で話しかける。

 

 

 

そう…僕たちは、眠りについた多川さんを深夜のプールに連れ込んでいる。

通常なら立派な犯罪行為だが…今の時間なら“夢”の一言で済ませられる…と言ったのは殺せんせーだ。

まあ、いろいろ無茶も出来るし…文句は言わないことにした。

 

 

 

「僕の名前は魚太。」

自己紹介は渚君から始まった。

「私の名前は魚子だよ。」

「魚子は魚なのに浮き輪なの!?」

次に茅野さんが名乗るが…浮き輪を持っていることに多川さんがツッコミを入れる。

「私は魚キング…川を海を自在に跳ねる水世界最強のタコです。」

「タコかよ!!」

その姿でタコなんだ…。

さて、次は僕だ。

 

 

 

「僕の名前は魚崎…。

あなたの…腐った根性を叩き直すために現れた魚人界最恐のコーチです。」

「魚崎の持ってるその竹刀は何…「かーつ!!」うわっ!?」

僕の名前を呼んだ瞬間…多川さんの顔に水が直撃した。

「誰があなたに“魚崎”と呼んでいい、と言いましたか…。

僕のことは“コーチ”と呼びなさい“コーチ”と…。

でないと…僕の水鉄砲が容赦なく火を噴きますよ…。」

「は…はい、コーチ!!」

「分かったならさっさと着替えとストレッチを済ませてきなさい!!」

「はい、コーチ!!」

そう言うと、多川さんは岩陰の向こうに行った。

 

 

 

「鬼教官だね…。」

「私の時と雰囲気が違うよね…?」

「あれは“優しく教えるコース”です。

今回は時間も少ないので、“厳しく教えるコース”にさせていただきました。」

「あ…そ、そうなんだ…。」

 

 

 

~~~~

 

「準備も整ったことですし…それじゃ、レッツゴー。」

多川さんが戻ってきてすぐ、僕が多川さんを水の中に投げ込んだ。

 

 

 

「ぎゃあ!!

みっ…水ゥ!?」

投げ込まれたその時は、軽い錯乱状態になっていたが───

「そこ浅いから落ちついて心菜!

泳げるようになりたいでしょ…?

少しだけ頑張ろう!!」

「い…いいわよ泳げなくて!!

それを逆手に愛されキャラで行くことに「そんな甘い考えだけで社会の荒波を乗り越えられると思うなー!!」ぎゃあ!!」

片岡さんが話しかけた瞬間、自分には必要ないとばかりに騒ぎ始めた。

だが僕は…そんな甘えを許さない。

僕の水鉄砲の第二射が多川さんを襲った。

そして、僕自身も水の中に入る。

「では…もっと体を温める必要があるので、まずは歩くことから始めましょうか。

もたもたしてると甲羅背負わせますよ…。」

「…はい。」

渋々という感じではあるが泳ぐ気にはなってくれたようだ。

 

 

 

▷渚side

 

「ところで殺…魚キングは水に入らないの?」

ふと、疑問に思ったので殺せんせーに聞いた。

「い…いや、今日のプールは焼きに来ただけだし…。」

焼きに来たって言っても…この時間じゃ無理がある。

「…今は真夜中だよ。

それに…入らなきゃ彼女に泳ぎ教えらんないよ。」

言い出したのは殺せんせーなのに水の中に入らないのはおかしいし…それに、今後の暗殺にも関わることなので入ってもらわないと困る…。

 

 

 

その指摘を受けた殺せんせーは───

「それもそうですね…。

では、入りますか。」

そう言って、躊躇いもせず水に入った。

 

 

 

その姿に、E組の事情を知らない多川さん以外のその場に居た皆が驚きの表情を浮かべた。

片岡さん考案の暗殺は、殺せんせーが水に弱いこと前提で進めているものだ。

それなのに…水を前に、いっさいの躊躇をしなかったということは、水の中でも問題ないということだからだ。

 

 

 

だが、その驚きの表情も───

「まずは…基本のけのびから。」

そう言って出てきた殺せんせーが魚のような姿になっていたことで…呆然としたものに変化した。

「この時のために開発した水着です。

完全防水でマッハ水泳にも耐えられます。」

そう言うと殺せんせーは、マッハで泳ぎ始め…その影響で、プールの水がかき混ぜられ渦を巻き始めた。

「ちょうどいいので海での泳ぎ方を覚えましょうか…基本的にプールの時と同じです。

クロールで手のひらに負荷を感じながらテンポよく!!」

「それと、海では自分の位置が分からなくなりやすいから…時々泳ぎ方を平泳ぎに切り替えて確認して…終わったらすぐクロールに戻って!!」

それに伴い海での泳ぎ方講座が開始されたようで、ハヤテ君と片岡さんの指導する声が聞こえてくる。

 

 

 

「水着とかずるいよ魚キング!!」

「そーだよ!!

生身で水に入れるかどうか見たかったのに…!!」

陸の上に残っていた僕と茅野は…殺せんせーが水の中ではどうなるのかが気になっていたのに、水着を着用していることについて文句を言った。

 

 

 

すると───

 

 

 

「入れますよ…生身でも。」

その言葉とともに殺せんせーが着ていた水着が飛んできた。

ということは、殺せんせーは今生身で水の中に入ってるということになる。

その状態で水に入るとどうなるのか。

それを確かめるために、殺せんせーの方を見ると───

 

 

 

「え…?水に…生身で入ってる…?」

水面から…いつもの大きさの殺せんせーの頭が出てきていた。

普通なら茅野が呟いた通りなのだろうが…。

「…いや、違う。

マッハで周りの水を掻きだしてる!!」

プールの水も流れ方が変わってるし…もはやなんでもありだね…。

「な…なにこれ!!

波はこっちに来てるのに引きずりこまれる!!」

多川さんの慌てる声が聞こえる。

「岸に向かおうとせず横方向に泳げば大丈夫なので落ちついてくださーい。」

「横…?

え…うそ、流れるの止まった…?」

ハヤテ君の助言に半信半疑で従った多川さんだったが…それにより流されなくなったことに驚きの声を上げた。

 

 

 

「さっきの引きずりこまれた原因は“離岸流”ですね…。

岸に反射した波が沖に出て行くことで起こる流れのことです。」

無事にハヤテ君と片岡さんの下に辿り着いた多川さんにさっきの現象の説明が行われた。

 

 

 

「じゃ…もう一回いきましょうか。」

その後、朝までこの特訓は続いた。

 

 

 

▷ハヤテside

 

「そうですか…泳げるようになってましたか。」

放課後、多川さんの様子を見に行った片岡さんからその話を聞かされた僕は、片岡さんの助けになれたことに嬉しくなった。

 

 

 

「これで彼女に責任は感じませんね…片岡さん。

これからは手を取って泳がせるだけじゃなく…あえて厳しく手を離すべき時もあると覚えておいてください。」

「はい。

殺せんせーも突き放す時あるもんね…。」

片岡さんのことを想っての殺せんせーの言葉に片岡さんは笑顔で返答した。

 

 

 

片岡さんの助けになれたことは良かったと思うが…結局、殺せんせーが泳げるかどうか分からなかったなぁ…。

と、思っていると───

 

 

 

「ああそれと…察しの通り先生は泳げません。

水を含むと…ほとんど身動きとれなくなります。」

殺せんせー本人がそれを暴露した。

 

 

 

「弱点としては最大級と言えるでしょう…。

とはいえ…先生は水の中に落ちない自信がありますし…水中でもそう簡単に殺させはしません。

まあ、綾崎君と片岡さんが2人同時に来たとしても触手を犠牲にしてでも逃げ出してみせます。」

そんな重要なことを言っても大丈夫なのか…と思っていると、殺せんせーが重ねて言ってきた。

このプールを作ったのも計算の内だったか…。

 

 

 

~~~~

 

「待って…。」

ここにいる理由もなくなったので、帰ろうとしたその時…片岡さんに止められた。

 

 

 

「…?

どうかしました…?」

「綾崎君にちゃんとお礼言ってなかったな…と思って…ありがとう。」

「普段からお世話になりっぱなしなので…お礼を言わなければいけないのは僕の方です。

もし、片岡さんが困るようなことがあったら遠慮なく頼ってください…どんな些細な事でも力になりますよ。」

「そ、そう…じゃあそうさせてもらうわね。」

そう言う片岡さんの頬は、薄い桜色になっていた。




次回もお楽しみに!!
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