ガルパン日和   作:アセルヤバイジャン

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リハビリ作品、病院のリハビリ中に友人が差し入れしてくれたガルパン、ガルパンはいいぞ(゚∀゚)


そのいち

 

 

 

 

 

自分が死んだという認識を持つ事が出来る事に驚きを感じる。

 

二十数年の短い月日、その半分を病室で過ごした思い出だけが色濃く残る。

 

将棋、囲碁、チェス、麻雀、それこそ卓上競技と言われる物は何でも手を出した。

 

入院患者に経験者が多く、1から教えて貰える環境が整っていたのが救いだったと今でも思う。

 

教えてくれた先駆者達は、多くが俺より先に旅立ってしまったが。

 

病院のベッドの上で出来る事など高が知れている。

 

だがネットという便利な文明が、俺に世界の広さを教えてくれた。

 

宿直の看護師に怒られるくらい没頭した勝負、楽しかった。

 

ゲームと音楽に浸り、いつか病室の外へと出ていける、そんな淡い夢を懐きながら。

 

俺は、その生涯を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その筈だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

自分、と言うモノを取り戻すのに、約5年かかった。

 

物心が付く、そのタイミングで俺は前世の記憶を思い出していた。

 

鏡に映るのは、どこの少女向け漫画から抜け出してきたんだと言わんばかりのイケメンショタ。

 

何と言うか、某棄てられて反逆しちゃう皇子に似ていて草生える。

 

これはあれですわ、転生って奴ですわと一人落ち込む。

 

と同時に、健康な身体を得た事に歓喜する。

 

これで勉強も運動もやりたい放題ですわイヤッフゥゥゥゥ最高だぜぇ!と元気に走り回る。

 

突然アクティブになった息子、つまり俺に驚く両親だが、子供なんて何かしらのきっかけで突然変わるモノだ。

 

自由という言葉を武器に、勉強もスポーツも、そして歌も踊りも卓上競技も全部全部、全身で楽しんだ。

 

本当に、楽しかったんだ、嬉しかったんだ。

 

マスクも機械も要らない、裸足で野原を駆け抜ける事が出来る、そんな毎日が。

 

だから、だから神様。

 

ありがとう、そして――――

 

 

 

 

 

 

「優勝は、奇跡の男子!特別参加枠の長野叢真君13歳だーー!!」

 

『ワアアアアアアアアアア!!!』

 

 

 

 

 

出来れば、助けて下さい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道、と言う武道がある。

 

いや、この世界には、という方が正しいか。

 

健全な乙女を育成する為の武道と言われる、女性が行う戦車競技。

 

基本的に男性は戦車道をしない、が、絶対にやってはいけないと言う訳ではない。

 

薙刀や華道の様に、男性が関わる事が少なからずあるのだ。

 

とは言え、基本は女性の武道、スポーツ。

 

余程のことが無い限り男性が関わる事はない。

 

「驚きです、これで公式大会驚異の18連覇です!まさに天才、まさに風雲児!戦車道界に革命を起こしております!」

 

実況が興奮して鼻息荒く唾を飛ばしまくりながらマイクに叫んでいる。

 

戦車道と言っても、何も実物の戦車を乗り回す競技だけではない。

 

卓上演習と言われる、将棋やチェスのような部門もあるのだ。

 

主に指揮官の技量を向上させる目的がある競技だが、俺はそれに男性なのに参加し。

 

「大人を破っての優勝ですが、感想は!?やはり将来は戦車道を行うのですか!?」

 

「大変嬉しく思います。戦車道は乙女の嗜み、無骨な自分には似合いませんから」

 

もはやテンプレ化している返しを実況に返す、ただでさえ男子という事で目立ち、更に特別参加枠と言う立場で目立ち、その上将来戦車道をやるのかと期待されて目立つ。

 

目立ちの役満である、勘弁して欲しい。

 

そもそも卓上演習で勝てても実戦じゃこうは行かないのは俺もよく分かっている。

 

だからカメラさん、そんなに俺を写さないでくれ。

 

マスコミ各社、盤上のプリンス、実戦には興味なしか!?とか煽らないでくれ。

 

と言うか俺の顔写真が貼られたうちわを持った皆さん、目が血走ってて怖いです、ヤベーイとか聞こえます。

 

 

 

 

 

始まりは、父相手に将棋をやっていた事だった。

 

どこで覚えてきたんだと不思議がる父相手に、長い病院生活の前世で鍛えた腕前と、今世の肉体と頭脳が合わさり最強に見える実力で蹂躙劇を繰り広げていたら、母が戦車道の卓上演習を持ち出してきた。

 

昔は車長も務めたんだから~と、息子相手に本気で来る母親。

 

そしてそれをアッサリと撃破する俺。

 

5歳の頃から思うが、本当に桁外れな頭脳と勘をしている今世の身体。

 

勉強やスポーツが楽しくて仕方がないので、全力で取り組むのだが、その道のプロをあっさりと追い抜いてしまうのは流石に行き過ぎだと思うようになった。

 

母がムキになって何度も挑み、何度も返り討ちにしていたら、それを撮影していた父がテレビに投稿。

 

天才指揮官現る!?驚愕の男子!!と言うタイトルで投稿系番組に出演。

 

そして、前世の闘病でボロボロだった見た目とは似ても似つかない某絶対遵守な能力持ちばりの見た目が、視聴者の目に止まり。

 

ご近所でも有名な美少年、各方面でも天才的才能とか色々とりだたされ。

 

気付けば、母が戦車道卓上演習の部の小学生の部に俺をダイナミックエントリー。

 

大人の知識と図抜けた頭脳を持つ見た目は子供、中身は大人を地で行く俺に勝てる少女なんて居るわけ無く。

 

あっさり優勝、特別枠でその後もエントリーが続き、連戦連勝。

 

同年代で敵が居なくなり、段々と相手が年上になり。

 

最終的には大人相手に勝負である。

 

それでも勝つもんだから、負けた相手が実戦で戦わせろと喚く喚く。

 

俺自身が、実戦なら一溜りもありませんと公言しているから、実戦で負かしてやりたいんだろう。

 

だが俺は男子、そう男子なのだ。

 

だから戦車道はやれないのだ。

 

残念でした、またどうぞーと最初は余裕をくれていた。

 

が、神様は意地悪な様で。

 

「お好きな学校を選んで下さい、費用は戦車道連盟が出しますので」

 

なーぜーかー、実戦を行う事になり。

 

戦車道を行っている高校の戦車道部を指揮して、戦う事になった。

 

相手は聖グロリアーナ、サンダース付属、マジノ女学院。

 

そのOGだった俺に負けた人達が指揮官になり、現役高校生を指揮して戦うのだそうな。

 

連盟の役員は俺の元に、戦車道を行っている学校の資料と保有戦車、部員のプロフィールを持ってきて好きな学校を選べと言う。

 

参加した学校には連盟から補助金が出るらしく、どこも乗り気だと言う。

 

「……では、継続、アンツィオ、プラウダで」

 

資料を流し読みし、その中で拾ったデータから使えそうな…失礼、行けそうな学校をピックアップ。

 

相手は3校、ならばこちらも3校でお相手すれば、選んだ学校が強かったからだとか文句を言われる事も無い。

 

なお一番使いたかった黒森峰は現在大会連覇中で、余計な事をしている暇が無いと断られたそうだ。

 

「P1、P2北上しろ。P3、何をしている!?」

 

狭い戦車の中、絶え間なく入ってくる情報を頭の中で組み立てながら指示を飛ばす、これだから実戦は怖い、イレギュラーがあるし、卓上演習と違って考えさせてくれる時間を与えてくれない。

 

だからそう、仕方なく、本当に仕方なーく。

 

『崖が崩れ…きゃあああああ!?』

 

『そんな、建物が…!?』

 

『牛が、牛がぁぁぁぁ!?』

 

利用出来る物は全て使って勝ったよね。

 

使える物は全て使って勝ったよね。

 

継続指揮ではゲリラ戦と局地戦でまともには戦ってやらなかった、相手のプライドズッタズタだろう。

 

アンツィオ指揮ではノリと勢いで終始こちらのペースでやらせて貰った、相手のプライドガッタガタだろう。

 

プラウダ指揮では全力ですり潰してやった、相手のプライドボッロボロだろう。

 

楽しく卓上競技で満足してたのに、場外乱闘に持っていこうとする相手につい本気で対抗してしまった。

 

だがこれで煩い人も黙るだろうと安心した所で、予想外のレバーブローが俺を襲った。

 

「西住流のお嬢様と、お見合いする事になったわよ!」

 

嬉しそうな黒森峰卒業生の母の言葉に、呆然とするしかない俺、現在14歳。

 

西住流のお嬢様と言えば、戦車道の名家であるあの西住流のお嬢様である。

 

確か二人居て、どちらとも卓上演習の大会で戦った事がある。

 

姉は西住流の教えを体現した実に堅牢な布陣で攻撃を行ってくる強敵。

 

逆に妹の方は、西住流とは思えない奇抜な作戦を展開するある種の天才だった。

 

俺が頭脳をフル回転させて対応しないと行けない相手と言えば、その凄さがわかるだろう、まだ小学生だった相手にである。

 

俺も小学生だったが。

 

そんな凄い名家のお嬢様と、何がどうなってお見合いなんて話にハッテンしたのか、これが分からない。

 

あれよあれよと話は進み、俺は熊本まで遥々やってくる事になった。

 

熊本の少し田舎と言うか、日本の原風景的な景色の中、どどんと居を構える西住家。

 

出迎えたのは、大会で何度か挨拶をした西住流のしほさん。

 

その後ろに隠れている、確か妹の方のみほちゃん。

 

案内された部屋には、中学の制服を着たまほちゃんが、静かに待っていた。

 

付き添いの母は、憧れの西住流のしほさんに逢えた反動でテンションが高い。

 

お互いの自己紹介が終わると、それじゃ後は若い子同士で…と、速攻で二人にされてしまった。

 

「………あの、ご趣味は…」

 

「戦車道を少々…」

 

そんな会話をぽつぽつと続けてみるが、致命的に会話が弾まない。

 

元々俺は語る方ではないし、相手のまほちゃんも口数の多い方ではない。

 

無言の時間が過ぎていく、そしてまほちゃんの顔色が悪くなっていく、これはあれだ、お見合いの方が失敗してしまうと心配してるのだろう、恐らく、たぶん。

 

何せお見合いの話は西住家から来た話なのだから。

 

正直、ちょっと卓上競技が強い位で俺のような平凡な男子を家に入れたいと思うとは考えられないが(自分の美貌と能力をまだ見誤っている奴の思考である)

 

「あの…長野さんは…その…」

 

「……あの、少し外に行きませんか?」

 

「…え?」

 

「俺達はまだ子供です、なら子供は子供らしく、お互いの事を知るのが一番ですから」

 

そう言って俺はまほちゃんを部屋から連れ出した。

 

何か乗り物はあるかと聞くと、流石戦車道の名家、II号戦車があると言われて一瞬固まったのは内緒だ。

 

車庫の戦車のもとへ行くと、その戦車に座って寂しそうにしている妹のみほちゃんの姿。

 

あれか、大好きな姉が俺の様な男に取られてしまうからと寂しがっているのだろうか。

 

「西住さん、妹さんも一緒に連れて行きましょう」

 

「あ、はい…でも、どこへ?」

 

「お二人の思い出の場所、遊んでいる場所、何処でも良いんです」

 

「お姉ちゃん…?えと、長野さん…?」

 

「俺達はまだ子供です、子供は子供らしく、遊んで仲良くなりましょう」

 

そう言って、俺はII号戦車に登り、二人を誘う。

 

最初は戸惑い、姉妹で見つめ合った二人だが、やがてクスクスと笑いだし、そして戦車に乗り込み始める。

 

操縦はまほちゃん、装填手席にみほちゃん、そして俺が車長の場所に座らせて貰った。

 

生憎、戦車の操縦は経験無いんだ…。

 

そして熊本ののどかな田園風景をII号戦車で走り回るという若干俺の感覚からするとシュールな映像。

 

だが、車長の席から見る熊本の風景は最高だった。

 

戦車道が女性の競技である事を恨めしく思う位に。

 

途中、二人がよく寄ると言う駄菓子屋に寄り、お菓子とジュースを買い、二人がいつも遊ぶと言う小さな公園へ。

 

姉妹との会話はもっぱら戦術指揮の話だが、まぁ妙なお見合いを続けるよりは有意義な時間だった。

 

公園で他愛ない遊びに興じ、やっと二人の笑顔が見れた。

 

日が傾いてきたので西住家に戻ると、しほさんと母が苦笑して待っていた。

 

「すみません、自分はまだ子供なので、お見合いより遊ぶ方が楽しくて」

 

悪びれもせずそう言う俺に、母は頭を抱えたが、何がツボだったのかしほさんはクスクスと笑い、今はそれでいいでしょうと俺たちの行動を許してくれた。

 

また大会で会いましょうと姉妹に別れを惜しまれ、俺は母と自宅へ。

 

「西住家とのお見合いは終了…後は…」

 

と、手帳を片手に数え始める母に、戦慄する俺。

 

まさか、西住家だけじゃ…ない…?

 

そんな俺の問い掛けに、母はそれはそれは素敵な笑顔で頷いてくれた。

 

俺の人生、ヤベーイ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから数年、色々と…本当に色々とあった。

 

実戦指揮した関係で、プラウダやアンツィオから特待生として入学しないかという話が来るわ(女子校を理由に断ったが)

 

自称許嫁が出てくるわ、男から襲われそうになるわ、戦車道をやらないかと勧誘されるわ…。

 

いい加減うっとおしくなった俺は、進学先を戦車道をやっていない、かつ外の情報が入り難い、つまり俺を知らない人が多い学校…学園艦に決めた。

 

とは言え学園艦の殆どが戦車道をやっており、かつ男子校は背後が怖いので却下。

 

その中で残ったのが、現在俺が通う大洗学園だった。

 

元は女子校だったのだが、俺が進学する際に男女共学になったので、男子の数は少ない。

 

そして大洗と言う地理上、内陸地出身の俺の事を知る人は少ない、筈。

 

高校デビューとして地味なメガネとマスクを装備。

 

今までが目立ちに目立った人生だったので、そろそろ地味に生きたいのだ。

 

卓上競技も、街の片隅にあるお店で、暇な老人達と勝負する程度で良いのだ。

 

いざとなればネットもあるし。

 

そんな訳で、特にこれと言って目立つ事のない日々を…日々を…。

 

「送っていた筈なのに…何故こうなった…」

 

「なにブツブツ言ってるのよソーシャ!カチューシャの華麗な指揮をちゃんと見てなさいよね!」

 

俺は今、カチューシャと名乗る小さな女の子…信じられない事に一つ上の先輩でもある。

 

彼女が指揮するKV-2に同乗して、戦局を見守っている状態だった。

 

現在行われているプラウダ高校VS聖グロリアーナ女学院との親善試合、それに名誉監督という立場で参加していた。

 

ことの発端は、例の場外乱闘こと高校生指揮による学校対抗戦。

 

あれで俺は6個の学園と縁が出来てしまった。

 

そしてその内二つであるプラウダとグロリアーナから、是非観覧に来てくれと催促。

 

もう俺は戦車道とは縁がないのでと断ったのだが…カチューシャとその腹心であるノンナから何度も何度も電話とメールが。

 

更にグロリアーナのダージリンから格言が届くが、こちらはスルー。

 

アッサムさんから「あまり苛めないであげて下さい」とメールが来た、相変わらず苦労してるようだ。

 

「各員、ソーシャが見てるのよ、みっともない所を見せたりしたらシベリア送りよ!逆に活躍した子にはレーニン勲章よ!」

 

『暗い部屋で補習、活躍した場合は長野さんのプロマイド進呈だそうです』

 

『『『『『『Ураааааааа!!』』』』』』

 

戦車道の選手にとって、俺という存在はアイドル並に人気があるらしく、特に俺が指揮したプラウダ・アンツィオ・継続ではポスターやらプロマイドやらDVD(!?)やらが売られているらしい。

 

恐ろしい話だ。

 

盤上のプリンス・卓上の帝王・戦場の魔術師、そんな渾名が俺には付けられている。

 

どれも俺には不似合いな名前ばかりだ、と言うか卓上の帝王って馬鹿にされてる気もする。

 

カチューシャの激に気合を入れるプラウダのメンバー達だが、前者が嫌なのか後者が目的なのかで俺の中の評価が変わる所だ。

 

対するのはグロリアーナ、今のダージリンになってから強固な装甲と連携力を活かした浸透強襲戦術を得意とする学校だ。

 

戦況は五分…いや、少しプラウダが押されているか。

 

「カチューシャ、この地点に2両向かわせると良い」

 

「…なるほど、流石ソーシャね!ノンナ!」

 

『はい』

 

地図を見せながら告げた言葉に、即座に理解を示したカチューシャは副官であるノンナさんに指示を飛ばす。

 

西住姉妹と言いカチューシャと言い、子供とは思えない理解力なので助かる。

 

あぁ、カチューシャは年上だったか…。

 

親善試合の結果はプラウダの逆転勝利、これにはダージリンもハンカチ咥えて悔しそうにしている…優雅さは何処へ行ったんだお嬢様。

 

「ズルいですわ、長野さんを取られたら勝ち目なんてありませんわ!」

 

「ふっふーん、ソーシャはカチューシャの物なんだから、ズルくなんてないわ!」

 

「終わったなら帰っても良いかな、ノンナさんアッサムさん…」

 

言い合いをする二人を横目にそう告げるが、俺の両手をそれぞれ確保しているノンナさんとアッサムさんは涼しい顔で左右に頭を振る。

 

「この後プラウダでの歓迎会が待っていますよ」

 

「勿論、グロリアーナのお茶会もあります」

 

そう言って腕を更に絡ませてくる…やめてくれ、それは俺に効く。

 

あぁ、大洗に帰りたい、なんの柵も無い大洗で平和に学生生活を送りたい。

 

あんこう食べたい…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2年生になった。

 

高校生デビューに成功した俺は毎日地味に生きている、時々街の将棋会館に行って老人相手に勝負したり、囲碁教室行ってなんかやたら強い少年相手に勝負したり、母からのお見合い話を断ったり。

 

地味な眼鏡君として生活しているので女子に騒がれる事も無い、これが大変ありがたい。

 

何せ前世は病院生活で同年代の女性と触れ合った経験が皆無なのだ。

 

特にアイドルよろしくキャーキャー言われるのは非常に胃にクる。

 

中学時代はファンクラブまで作られて、まぁ大変だった。

 

一度女性に襲われそうになり、誘拐されかけた事から俺は戦車道の卓上演習から離れた。

 

流石に身の危険を感じてまでやりたくない、そもそも母の勧めでやっていた競技だしな…。

 

大洗では一人暮らしだが、これもまた楽しい。

 

前世の病院生活では出来なかった炊事洗濯、面倒な時もあるが基本的に楽しくて仕方がない。

 

今夜のおかずは何を作るか…そんな事を考えていたら何やらふらふらしている女子を発見。

 

「………大丈夫か?」

 

「……つらい」

 

俺の問い掛けにぼそりと答えて、朝は何故来るんだと恨みがましい言葉を吐き出す少女。

 

どうやらかなりの低血圧らしい。

 

見ず知らずの少女を抱えて登校とか、地味な生徒イメージからは掛け離れている。

 

故に見捨てるのが正解なのだろうが…流石になぁ。

 

「肩を貸すのと背負うのとお姫様抱っこ、どれが良い?」

 

「………背負うので」

 

今更だが危機感足り無さ過ぎだろうこの子。

 

背中に背負うと、女の子特有の柔らかさと暖かさ、そして仄かにいい香り。

 

俺の知ってる女性って基本鉄と油と硝煙の香りだからな…初めての体験だ。

 

それにしても軽い、軽すぎる…ちゃんと食べてるのか不安になる軽さだ。

 

「…すまんな、恩に着る……ぐぅ」

 

「寝るな寝るな」

 

いきなり寝の態勢に入る、本当に危機感の足りない子だ。

 

それともそれだけ信用されているのだろうか、いや無いな、こんな地味眼鏡君を信用するとか。

 

「冷泉さん!貴女朝から何してるのよ!?」

 

校門前で風紀委員に止められた。

 

「…うるさいぞ、そど子」

 

「そど子言うな!男子に背負われて登校なんて風紀違反よ!貴方も、冷泉さんを甘やかしちゃ駄目じゃない!」

 

親切したら怒られたでござる。

 

聞けば背中の少女、冷泉さんはもう200日以上連続遅刻をしているらしい。

 

今日は俺のお蔭で間に合ったのだが風紀委員的には遅刻扱いらしい、可哀想に。

 

「助かった、また頼む…」

 

そう言って自分のクラスにふらふらと行く冷泉さんを見送り、後ろを振り返ると。

 

「あ…」

 

「ほぅわぁ!?」

 

西住妹ことみほちゃんと目が合った。

 

アイェェェェ、みほちゃんナンデ!?

 

思わず変な声が出てしまった。

 

「その声…やっぱり長野さん!?」

 

「み、みほちゃん…なんでここに!?」

 

母の話では黒森峰に入学したと聞いたのに。

 

「それは…その…あの、長野さんは、去年の戦車道大会、見てないんですか…?」

 

「大会…?プラウダが勝ったとしか知らないが…何かあったのか?」

 

「い、いえ!知らないなら良いんです!でも良かったぁ、私一人でこっちに引越して来たから、知り合いが居てくれて…」

 

俺は知り合いが突然やってきて焦ってるけどね!

 

「長野さん、そんな瓶底眼鏡するほど目が悪かったんですか…?」

 

「いや、これはその…視力矯正用と言う奴でね」

 

嘘です、本当は度の入ってないなんちゃって瓶底眼鏡です。

 

「そうなんですか…ふふ、素顔の長野さんしか知らないからなんだか不思議な感じです♪」

 

「ハハハハ…この事は内密に」

 

一年間のイメージと言う物が俺にはあるんだ。

 

そんな俺の心配を知ってか知らずか、みほちゃんはそのまま自分の教室に入っていった。

 

朝から疲れた…しかしみほちゃんがわざわざ転校する程とは…何かあったのか。

 

そう思って携帯を取り出して検索。

 

理由は一発で分かった。

 

プラウダ戦で味方戦車が激流に落ち、それを助けに行った為にフラッグ車が無防備になり、その結果黒森峰の連覇が途絶えたのだ。

 

大変だっただろう、転校する程の事態なのだから。

 

これは彼女の前で戦車道の話はご法度だなと思い、そもそも俺も戦車道からは離れたい生活なのを思い出し丁度いいと言う結論になった。

 

 

 

 

 

 




主人公はルルーシュの頭脳とスザクの肉体を足して割ったような化物です(´・ω・`)

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