本編は終了していますので、個別の日常編がメインになります。
『フラッグ車走行不能!篠原重工業の勝利!』
アナウンスが流れる中、車長の席から立ち上がりハッチを開いて外へと身を乗り出す。
眼下に広がる草原に、敵味方入り混じった戦車が、黒煙を上げて止まっている。
「やりましたね隊長!」
「お疲れ様です!」
「えぇ、お疲れ様です」
砲手と装填手の女性の言葉に笑顔を浮かべて答える。
社会人チームの指揮官として呼ばれ、エキシビジョンだが何とか勝利出来た。
上手い具合に橋落としと挟撃が成功したが、流石社会人チーム、練度も装備も高校生とは比べ物にならない。
しかし急な話だったな、連盟から報奨金出すから社会人チーム同士のエキシビジョンで戦車指揮してくれなんて。
高校生戦車道全国大会で俺が大洗に居ることが判明したら、直ぐに連盟がコンタクトを取ってきた。
そして提示されたのはもう一度戦車指揮をやってくれというお願い。
報奨金に惹かれて受けたが、勝てて良かった。
これで大洗の戦車道の備品や装備を充実させられる。
「しかし…」
なんだろうな、何か物足りない。
相手は強敵だったし、試合は白熱した。
ただ、何かが足りない、そんな気がしている。
あぁ…なんだか大洗が恋しいな。
「早く帰ろう…」
皆が居る、あの場所へ。
武部さんの場合
「長野さーん、一緒に帰ろう」
「あぁ…あれ、他の皆は?」
武部さんに呼ばれて鞄を手にしながら返事をするが、みほちゃん達の姿が見えない。
「あー、みぽりん達は皆用事があるんだって」
「そうなのか…まぁそんな日もあるか」
武部さんと並んで廊下を歩く、考えてみると、彼女と二人だけと言うのは初めてかもしれない。
いつもみほちゃんや五十鈴さん、秋山さんや冷泉さんが居るからな。
特に冷泉さんは武部さんと幼馴染だからよく一緒に居るし。
「いやー、長野さんと二人っきりとかなんだか照れるねー」
「改めて言わんでくれ、こっちまで照れる」
あまり意識しないようにしていたのに、同い年の女の子と二人っきりと言うシチュエーションに、少し気恥ずかしさを覚える。
前は女性と二人っきりなんて、恐怖しか感じなかったのになぁ、ストーカーに襲われたせいで。
だが大洗に来てから、と言うかみほちゃん達と触れ合ったからか、軽い女性恐怖症が治った気がする。
今もこうして武部さんと並んで歩いても、恐怖を感じないし。
……これがカルパッチョやノンナさんなら恐怖を感じていたかもしれない。
いや、彼女達も良い子なのは十分理解してるんだけどね、何て言うか、その、あれだ、重い。
「あー、今他の女の子の事考えてたでしょー」
「…なんで分かったの」
鋭い。
「ふっふーん、女の子はそう言うのに敏感なんだよ?油断しちゃダメなんだから」
「気をつけます…」
特に最近、あんこうチームの子には何かと悟られているからな…冷泉さんなんてナチュラルに俺の心読んでくるし。
「ほら、また誰かの事考えてる」
「うぐ…」
本当に鋭い。
「ダメだよー、こんな可愛い女の子が隣に居るのに、他の子の事考えるなんて。そんなんじゃアイドルとして失格だよ長野さん」
「いや別にアイドルじゃないから…」
可愛い子は否定しない、実際武部さんは可愛い女の子だから。
ちょっと恋愛方面で暴走しがちだが。
冷泉さんがゼクシィ沙織なんて言ってたが、本当に読んでるのだろうかゼクシィ…。
「あ、帰りに何か食べてく?」
「そうだな、何か甘い物でも食べに行くか」
「……あれ、もしかしてこれってデート!?」
「ち、違うんじゃないかな…」
これである、直ぐに食いついてくる。
このガツガツした所が無ければ、直ぐにモテモテになると思うんだが…。
「長野せんぱーい!」
「長野くーん!」
「あはは…」
下校中に見知らぬ女子生徒に名前を呼ばれて、愛想笑いを返す。
最近多くなったなぁこれ。
「もうすっかり有名人だよね長野さん、全国大会で報じられてから大洗以外からも問い合わせが来てるんでしょう?」
「あぁ、戦車道をやっている学校から何度もね…まぁ有名税だと思って受け入れるしかないさ」
今まで所在不明だった俺の情報が全国大会という大舞台で公になり、戦車道連盟や戦車道をやっている学校、企業などから問い合わせが多数来た。
海外留学していると思われていただけに、大洗と言う平凡な学校に居たことが驚きだったのだろう。
戦車道全国大会優勝に合わせて、新聞部からも取材を受けたりしたしな、お蔭で学園でも注目されてちょっと困る。
「私もねー、クラスメイトとかから長野さんとはどんな関係なんだーとか、彼女は居るのか―とか聞かれて大変なんだよー」
「戦車道の子には色々と迷惑を掛けてるのは自覚してる…」
今まで眼鏡で隠していたが、俺の顔が知られてから俺の事を戦車道履修者に聞いてくる生徒が増えに増えた。
バレー部は自慢のコーチですとか答えてるらしいが、俺目当てで入部した子はバレー部の過酷な練習について行けずに一週間持たずに辞めてしまったらしい、磯辺達が泣いていた。
だから最初は控えめな練習で行けと言ったのに…嬉しかったのか全力で練習してしまったそうな。
ウチのバレー部の練習、間違いなく過酷だ、その上で戦車道の練習も人並み以上にやるのだから本当に根性がある。
歴女チームはあまり聞かれないらしい、まぁ俺の事より自分達が好きな歴史を語るからな、彼女達は大丈夫だろう。
逆に1年生チームは楽しそうに俺の事を自慢している、隠し撮り写真とか見せびらかしているらしく、澤君に何度も謝られた。
あまり変な写真じゃなければ良いが、俺なんかの写真を撮って何が楽しいのか…。
生徒会が本格的にグッズの販売を検討しているらしいが、俺よりも戦車道履修者のグッズを売れと言いたい。
五十鈴さんとか小山先輩とかのグッズなら完売間違いなしだぞ。
その生徒会チームや風紀委員チームに俺の事を聞きに行く子はほぼ居ない、前者は恐れ多い、後者は風紀違反だと言われてしまうからな。
ネトゲチームは友達が少ない、自動車部はのらりくらりと避けていると聞いた。
そしてみほちゃん達だが、大体が武部さんが対応するので特別大きな事態は起きていない。
逆にみほちゃんは全国大会優勝した戦車道の隊長と言う事で、彼女の事をよく知らない生徒からは恐れられているらしい。
実際は全然怖くないのに、可哀想な話である。
「長野さんは、結局誰が本命なの?やっぱりみぽりんのお姉さん?」
「……どう、なんだろうな…」
武部さんの何気ない質問に、思わず立ち止まって考え込む。
別にまほさんの事は嫌いではない、ポンコツだが彼女なりに俺の事を想ってくれているのは理解出来る。
だが、それが西住流の為、と言う理由なのではと疑ってしまい、素直に受け止める事が出来ない。
異性を好きになる、という経験は俺には無い。
前世では闘病生活で、憧れの看護師は居たが恋愛感情なんて抱けなかった。
今世では目まぐるしい卓上競技生活とアイドルじみた生活、そしてストーカー襲撃で異性を好きになる前に軽い女性恐怖症になってしまっていた。
いや、男性に肉体的に狙われた経験も合わさって、軽い対人恐怖症だったのかもしれない。
だから瓶底眼鏡で顔を隠して、誰も知り合いの居ない大洗という僻地へと逃げてきた。
それがみほちゃんとの再会や、戦車道の監督なんて立場で人と関わる様になっていって…。
今じゃすっかり、女性恐怖症も治った。
だが、今だに俺は異性を好きになるという気持ちになれていない。
「や、やだなー、そんなに真面目に考え込まないでよ」
「………武部さんで良かったと改めて思うよ」
「え?」
「俺やみほちゃんを立ち直らせてくれたのは、間違いなく武部さん達だ。だから、感謝してる」
もしかしたら、この気持が、好きという感情なのかもしれない。
今はまだ、よく分からないが。
「……やだもー、なんかよく分からないけど、照れちゃうよー!」
顔を赤くしてバシバシと俺の肩を叩いてくる武部さん。
こんなやり取りも楽しいと思えるのは、やはり彼女の人柄だろう。
本当に、なんで同年代からはモテないんだろうな、武部さん。
おっと。
「武部さん」
「え…ひゃっ!?」
ドンッと彼女の背後にある壁を叩く。
彼女を壁に押し付ける形になってしまったが、仕方ない。
「あ、あわわわわ…!?(こ、こここっ、これって噂の壁ドン…!?そんな、待って、いきなりなんて…あああ、長野さんの顔が、顔が超近くにあるよぅっ、背丈高いよぅっ、格好いいよぅ…!!)」
「武部さん…」
「だ、だだだ…だめぇっ!こういうのはまだ早いのっ!」
「え…おわっ!?」
「や、やだもーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
「た、武部さん?武部さーん!?」
突然真っ赤になった武部さんが俺を押し退けて、そのまま走り出してしまった。
「……何か、失礼な事をしてしまったのだろうか…」
俺は右手…その手の中の虫を逃しながら、走り去る武部さんの姿を見送る。
虫が武部さんの頭に止まりそうになったので取っただけなんだが…。
「もしかして、迫った様に思われたのだろうか…」
壁に押し付けちゃったしなぁ…咄嗟のことでそこまで頭が回らなかった。
男に迫られたらそりゃ逃げるよな、俺だって逃げたもの。
明日謝らないとなぁ…。
「やだもーーーっ、明日からどんな顔して長野さんと会えばいいのーー!」
冷泉さんの場合
ピンポーンとチャイムの音が鳴る。
もう日課となった行動だ。
早朝の登校時間、あくびを噛み殺してもう一度チャイムを鳴らす。
何度か鳴らしていると、ガチャリと鍵が開く。
「…………おはよう」
「おはよう、ほら顔洗って来い」
顔を出したのはまだ半分眠っている冷泉さん。
俺の言葉に従ってフラフラと洗面所へ歩いていく。
その間に俺は台所へとお邪魔し、簡単な朝食を準備する。
最初は登校中の彼女を回収して運ぶだけだったのだが、気がついたら彼女の家まで迎えに行く様になり、今では朝食の準備までするようになってしまっていた。
武部さんから通い妻じゃない!と言われてしまったが、否定できない。
何せ気が付いたら冷泉さんが俺の分の食器や箸を購入していて、朝ごはんは冷泉さんの家で食べるのが習慣になってしまっていた。
うーん、恐るべし、冷泉さんの低血圧…。
「………洗ってきたぞ…」
洗面所から戻ってきた冷泉さん、まだ寝間着のままだ。
この子は本当に危機感が足りないが、それだけ俺の事を信用してくれているという事だろうか。
「ん、目玉焼きは?」
「……今日は半熟…ぐぅ…」
目玉焼きの焼き加減を尋ねると、そのままテーブルに突っ伏して寝てしまう。
…まぁ、出来るまで寝かせておこう。
今でこそこうして起きてきてくれるが、迎えに来始めた時は何度チャイムを鳴らしても起きてこなかった。
武部さんを呼んで鍵を開けてもらい、ついでに起こしてもらっていたのが今では懐かしい。
ご飯は冷泉さんが昨日の内にタイマーをセットしているので炊きあがっている、冷蔵庫に入れてある漬物などを取り出し、出来立ての味噌汁を注ぐ。
テーブルの上に二人分用意し、俺も冷泉さんの対面に座る。
「冷泉さん、準備出来たぞ、ほら食べよう」
「………んが……」
浅い眠りから覚めた冷泉さんがのろのろと箸を掴んで、茶碗を手にする。
「………いただきます」
「頂きます」
眠そうな冷泉さんの言葉に続いて俺も手を合わせ、朝食を口に運ぶ。
半熟の目玉焼きと厚切りベーコン、ほうれん草のお浸しに漬物、ご飯のお供各種に玉ねぎと油揚げの味噌汁。
簡単な物で悪いが、まぁ時間が無いので我慢してもらう。
「……美味い」
「ん、良かった」
味噌汁を啜る、本当は出汁から取りたいのだが、時間がないので出汁入りの味噌を使っている。
大洗に来た時は、こうして誰かと朝食を食べるなんて考えてもみなかったな…。
黙々と朝食を口にする、俺はこの静かな空気が嫌いではない。
「………長野さんは、本当に美味そうに食事をするな…」
「そうか?まぁ美味いものが食えるのは嬉しい事だからな」
前世の苦い記憶、お世辞にも美味しいとは言えなかった病院食、末期の時は固形物すら口にする事が出来なかった。
だからだろうか、自分で作った料理を自分で食べれるという事に、喜びを感じるのは。
「……むぅ、今度は私が作る…」
「無理しなくていいぞ、料理をするのは嫌いじゃないからな」
自分が作った料理を誰かに食べて貰えるなんて、前世じゃ考える事すら出来なかったからな。
人に食べてもらって、美味しいと言ってもらえるのはとても嬉しい。
それに冷泉さん、自炊するタイプじゃないし…。
食器も料理器具も、全部武部さんが揃えたと言っていたしな…。
よく一人暮らし出来たものである、今まで掃除とか洗濯とかどうしてたんだろう、やはり武部さん頼りか?
「……簡単な料理と掃除洗濯くらいできる…あむ…」
また心を読まれた。
「…ごちそうさま」
「お粗末様。食器片付けるから学校行く準備しな」
食器を下げて、今洗う物は洗ってしまう。
その間にふらふらしながら鞄などを用意する冷泉さん。
こうして俺が食事を作らなければ、朝は食べずに登校していたと言うのだから、そりゃ低血圧も合わさって動けなくなる筈だ。
「………できたぞ」
「ん、分かった」
洗い物を終えると制服に着替えた冷泉さんがノロノロと靴を履いていた。
揃って玄関から出て、冷泉さんが鍵を掛けるのを確認し、彼女の前で背を向けてしゃがむ。
「……今日も頼むぞ…」
「はいはい…こら速攻寝るな」
背中に乗り掛かった彼女を背負い上げると、速攻で寝の態勢に入る冷泉さん。
「…ん~、美味しい朝ごはん食べて広くて温かい背中なんだぞ、寝てしまうだろう……ぐぅ…」
「なんだそれは…全く、また園さんに怒られるぞ」
ため息混じり言うが、もう寝てしまって聞いていない。
毎日こんな状態で登校するもんだから、園さんも今では呆れてため息しか出てこない。
「やれやれ…今日も戦車日和だな…」
青空の下を行く学園艦の片隅で、冷泉さんを背負いながら空を見上げる。
今日も良い一日になりそうだ。
五十鈴さんの場合
「あの、長野さん…折り入ってお願いがあるのですが…」
「お願い?俺に?」
放課後、戦車道の練習を終えて、帰宅しようとしていたら五十鈴さんが改まって声を掛けてきた。
「華ー、私達先に帰るねー」
「叢真さん、また明日ー」
帰宅するみほちゃん達を見送る、珍しいな、五十鈴さんが一緒に帰らないなんて。
「ここではなんですから、帰りながらで宜しいでしょうか?」
「構わないけど…」
改まってなんだろうか、何か言い難そうな感じだが。
人気も疎らな校舎を出て、住宅地を歩く俺と五十鈴さん。
「実は、どうしても長野さんじゃないと出来ないお願いがありまして…」
「俺で力に成れるなら…何か困り事か?」
あの五十鈴さんが俺を頼るなんて珍しい、普通はみほちゃん達を頼るのに。
はて、男の俺を頼らないといけない事態……まさかあれか?男子から告白されてとかそういう話か?
五十鈴さん男子の人気あるからなぁ、親しいからって嫉妬されて校舎裏に呼び出されたもんなぁ俺。
告白されて困っているから、断る為に俺に何かして欲しいのだろうか。
それとも、告白を受け入れるという相談だろうか。
うぅむ、恋愛経験なんて無い俺には難題過ぎるぞ…!
こういう時は武部さんの方が……駄目か。
「この後私と…大食いに挑戦して欲しいんですっ」
「は?」
どっちでもなかった。
大食いと申したか。
「ど、どういう…?」
「実は、この先の商店街に大盛り料理を出すお店があるらしいのですが…それが男性限定なんです」
五十鈴さんの話を詳しく聞くと、美味いと評判のお店が、去年から共学になった学園の男子生徒をターゲットにしたデカ盛り料理を考案、チャレンジメニューとしてお店に出したらしい。
ただ、量が量なので男性限定、女性は同伴の人のみという謎のルールがあるとの事。
カップルを狙ってのルールだろうか、それとも残されるのを回避する為の同伴ルールなのだろうか。
どちらにせよ、女性だけでは注文が出来ないらしく、一度は食べてみたい五十鈴さんは悩んだ末に、俺にお願いする事にしたらしい。
「私には、他に頼れる殿方はおりませんし…恥を忍んでお願いします、どうか協力をして頂けませんでしょうか?」
「そんな事で良いなら…」
そんな程度の事なら、改まってお願いされなくても引き受けるんだが。
五十鈴さんらしいと言えばらしいか。
しかしデカ盛り料理ねぇ…五十鈴さんが健啖家なのは知っているが、食べ切れるのだろうか。
「あ、勿論、料理は長野さんも頂いて下さって結構ですよ、失敗した時のお金も私が払いますし」
「いや、まぁ、料金は割り勘にしよう…」
「ですが…」
「良いから良いから」
五十鈴さんに払わせるとか心苦し過ぎる。
辿り着いたのは一軒のレストラン。
夕方という事もあり、そこそこお客さんが入っている。
洋食屋さんか。
「いらっしゃいませ、2名様ですか?」
「はい、テーブル席をお願い出来ますか」
「かしこまりましたー、こちらへどうぞー」
デミグラスソースのいい香りがするお店を、店員の案内でテーブル席へ。
席に座ると、早速五十鈴さんがメニューを取り出す。
「あ、ありました、こちらですね」
そう言って彼女が差し出したのは、カップル限定デカ盛りメニューと書かれたメニュー表。
カップル限定?男性限定じゃないのか?
何々、男の意地を彼女に見せろ?カップル限定洋食デカ盛りプレート?失敗したら7800円!?
1ページを埋め尽くす大きさの写真には、巨大なオムライスの上にハンバーグやエビフライ、サラダやデミグラスソースなどが彩られた料理、その横には通常サイズのオムライスが。
デカイ、何倍だこの料理。
CV33とマウスってレベルじゃないぞ。
「ここのオムライスとハンバーグ、絶品だそうですよ。美味しそうですね~」
「そ、そうですね…」
え、五十鈴さんこのモンスター料理食べる気なの…?
いくら健啖家な五十鈴さんでも、これは…明らかにラグビー部が数人がかりで食べる様な量だぞ…。
あぁ、だから俺を頼ったのか?
食べ切れそうにないから、そこそこ健啖家な俺を頼ったということか。
「すみません、この洋食デカ盛りプレートを一つ」
「はい、カップル限定洋食デカ盛りプレートですね!」
店員さん、カップル限定の言葉を強調しないで良いですから!
あぁほら、周りのお客さんがアレを頼むのかと注目してる!
「楽しみですねぇ、ハンバーグが3個、エビフライは4本も乗ってますよ~」
本当に楽しみにしている五十鈴さん、それだけ美味しいのだろう。
「しかし、男性限定って話じゃなかったんですか?」
最初に確かにそう言っていた。
「だ、だって…カップル限定だなんて、恥ずかしくて言えませんもの…」
左様ですか。
五十鈴さん、お嬢様だもんな…ちょっとズレてるだけだよな。
調理に時間が掛るのか、中々料理が出てこない。
待つ間、お互い他愛のない会話をして時間を潰す。
五十鈴さんの話は大抵が戦車道か華道の話だ、本当に大好きなのだろう、活き活きとしている。
こんなお嬢様な五十鈴さんだが、今では大洗1の砲撃手だ。
人間、何が長じるか分からない物である。
「大変おまたせしました、カップル限定洋食デカ盛りプレートです!」
「デカッ!」
店員が二人がかりで運んできた、テーブルを埋め尽くす巨大な洋食プレート。
オムライスだけで一升超えてるだろこれ…ハンバーグも一個がデカい、300…いや、500g位無いかこれ。
これ、普通のカップルじゃ無理だろ…体育会系カップルでも行けるのか…?
「美味しそう…頂きましょう、長野さん」
「は、はい…」
本当に嬉しそうにスプーンを手にする五十鈴さん、ここまで来たのだ、俺も覚悟を決めて食べよう。
約4000円なんて払わせない為に。
「ん~、美味しい、濃厚なデミグラスソースと、チキンライスが良く合いますね~」
「ハンバーグもジューシーですよ…エビフライもデカいな…何エビだこれ」
そそり立つ4本のエビフライ、まるで旗である。
他の客がデカ盛り料理を見て唖然としている、そりゃそうなるよ、食べてるこっちも唖然としてるもの。
そんな中、どんどん食べ進んでいく五十鈴さん。
明らかに俺より早い、と言うか早すぎる。
「止まりませんねぇ~」
パクパクパクパクと、食べ進んでいく五十鈴さん。
俺は巨大ハンバーグに苦戦しているというのに…。
しかし何故だろう、ハンバーグを食べる度に、黒森峰の逸見さんの顔が脳裏を過る。
なんでだ。
「む、長野さん。他の女性のことを考える暇があったら食べて下さい、冷めてしまったら折角の料理が台無しですよ」
「はい…」
鋭い。
武部さんと言い五十鈴さんと言い、なんで分かるんだ…。
10分経過する頃には、五十鈴さん側のハンバーグは彼女の胃袋に消え、今2本目のエビフライが彼女の口の中に消えていった。
本気で早いんですけど…他のお客さんが五十鈴さんを見て驚いている。
そうだよな、普通は俺の方が食うと思うもんな。
でも実際は五十鈴さんが7割、俺が3割である。
「あら、まぁ…オムライスの中から大きな鶏肉が…」
「げ…タンドリーチキン入りか…」
大量のチキンライスの中から、巨大な鶏肉が出てきた。
この手のデカ盛り料理によくある、サプライズ演出だろう。
「ん~、味が染みてて美味しいです~」
そのチキンを殆ど一人で食べ尽くす五十鈴さん。
どんだけー…。
「あ…はい、長野さん、あ~ん」
「え、いや、それは…」
残ったチキンをスプーンで差し出す五十鈴さん、流石にそれは…恥ずかしい。
「カップルなんですから、これくらい当たり前ですよ、はいどうぞ」
「そ、それじゃ…」
笑顔の五十鈴さんの言葉に何も言えず、口にチキンを入れてもらう。
恥ずかしくて味なんて分からん!
畜生、他のお客のニヤニヤとした視線がむず痒い!
20分が経つ頃には、チキンライスは殆どが五十鈴さんのお腹の中に消えていった。
俺なんて彼女の半分も食ってないぞ…。
「残りは頂いてしまって宜しいでしょうか?」
「ど、どうぞどうぞ…」
正直限界です、ハンバーグ1個とエビフライ2個、オムライス2杯分は食ったぞ…。
だがその倍の量を食べている筈の五十鈴さんは、涼しい顔でお皿に残ったチキンライスを食べ尽くした。
7割近くを食べきった五十鈴さんに、見ていたお客から拍手が、俺には彼氏なのに情けないぞとヤジが飛んできた。
俺が情けないんじゃない、五十鈴さんが凄いんだよ!
「ご馳走様でした~」
だがまぁ、彼女の満足そうな笑顔に、まぁいいかと苦笑する俺。
初の完食者だったらしく、店員さんに写真を撮られ、お店に飾られる事になった。
……あれ、これ不味くないか?俺と五十鈴さんがカップルと思われてしまうんだが。
「……宜しいんじゃないでしょうか?」
「え」
「私は、嫌ではありませんし。宜しいのではないでしょうか」
「あ、はい…」
彼女の宜しいんではないしょうかという言葉に、何故か逆らえる気がしなかった。
「美味しかったですねぇ、またお願いしますね、長野さん」
「は、はは…俺で良ければ…」
また食べるつもりなのか…まぁ、恋人役をやればいいだけなので別に構わないが。
しかし食べたなぁ…明日はちょっと運動増やそう、バレー部の練習に付き合うのが丁度いいか。
「んー、甘いものが食べたくなりましたねぇ…アイス屋さんに行きましょうか?」
まだ食べる気ですか!?
甘いものは別腹と言うが…五十鈴さん、半端ないです…。
この後、滅茶苦茶アイスを食べた。
いっぱい食べる君が好き(意味深
こんな感じの日常編を各チーム毎、そして劇場版と続く予定です。