ガルパン日和   作:アセルヤバイジャン

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こんな言葉を知っていて?(´・ω・`)


豚に真珠(´・ω・`)


v(´・ω・`)v










あ、今回はシリアスです(´・ω・`)


せんとグロリアーナのいち

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう何時間が経過したのか…酸素が薄くなり、もう声を出す気力もありません…。

 

後輩達の啜り泣きが響くチャーチルの中、ただひたすらに救助を待つ永遠とも思えるこの暗い時間。

 

戦車道をやっていて、一度も感じたことのなかった、死という恐怖。

 

泣いている後輩達を叱咤する気力ももう湧いてこない。

 

聖グロリアーナの選手らしく、正々堂々と、誇り高く、優雅に。

 

そんな言葉を口にしていた、最初の頃の自分を殴り殺したい。

 

どうしてこんな事に…そんな自問自答の答えは1つしかない。

 

寝ている虎の尾を踏んで、無理矢理巣穴から連れ出した。

 

その愚かな行為の代償こそが、今の自分。

 

最初は勝利を確信していた、卓上演習でしか戦車道を行った事のない素人の、しかも殿方。

 

自分達の領域を荒らされたと義憤に駆られ、相手を無理矢理実戦へと連れ出した。

 

相手が指揮するのが、戦車道が衰退し、ぎりぎり4両しか動員出来ないという弱小校のアンツィオ高校。

 

それに対して、自分が指揮するのは母校であり強豪校の一角である聖グロリアーナ。

 

戦車の質、乗員の数、そして私の指揮。

 

それら全てが相手よりも上だと確信し、迎えた勝負。

 

最初は逃げ回るCV33を追いかけ回す、狐狩りの様な試合。

 

無様に逃げ回るしかない相手フラッグ車、連携もろくに取れず、逃げ回るしかない他の車両。

 

やはり卓上演習で勝てても、所詮は男、その程度なのだと身の程を教える為にフラッグ車を追い詰め…。

 

CV33の上で仁王立ちをするあの男を見た時、一瞬だけ寒気が走った。

 

乗員が身を乗り出している時は極力狙わない、それが戦車道のルール。

 

それを逆手に取った小賢しい悪足掻きだと思い、ならば多少の怪我は我慢して貰いましょうと悠然とチャーチルとマチルダⅡを前進させた時、それは起きた。

 

『奇跡とは、起きるのを待つものではない…己が起こす物だ。やれッ!』

 

あの男の言葉と共に、隠れていたセモヴェンテ2両による砲撃、それは私が乗るチャーチルや、周りを守るマチルダⅡを狙った物ではなかった。

 

隊列を組んで進める程度に広い道、その横に建てられた趣味の悪いホテルが、無防備に進撃した私達の車両に轟音を上げながら倒れてきた。

 

気付いた時には最早逃げられず、大量の瓦礫に押し潰され、戦車ごと生き埋めにされてしまった。

 

瓦礫に押し潰される瞬間、微かに聞こえた相手からの言葉。

 

『貴様には、瓦礫の中がお似合いだ…』

 

今思い出しても背筋が凍る、冷たい冷たい言葉。

 

戦車の中から一瞬だけ合った視線、いっそ芸術とも言える美貌と、それに比例する冷たい視線。

 

まるで、明日には出荷される豚を見るような、冷たい冷たいあの視線。

 

聖グロリアーナの生徒として、そして卒業生として、称賛と羨望の視線でしか見られたことのなかった私には、その視線があまりにも強烈で、あれから何時間も経つと言うのに脳裏に何度も蘇ってくる。

 

「なんという化物を呼び込んでしまったの…私達は…」

 

乾いた口から溢れる後悔の言葉。

 

それが聞こえた乗員の後輩達からの視線は、私を責める物だった。

 

OGである私や、先に対戦して敗北したマジノ女学院のOG、そして私の後に戦う事になっているサンダースのOG…。

 

あの化物…戦車道卓上演習の大会を荒らし、絶対王者として君臨しているあの美麗の魔王から、私達の戦車道を取り戻すと息巻き、代表として勝負を挑んだ3人。

 

集めた署名を持って連盟を動かし、高校戦車道会を巻き込んだこの聖戦…。

 

しかし結果は今の私…瓦礫に埋もれ、無様に救助を待つだけの情けない姿。

 

後輩達からは、こんな事に巻き込んだ張本人として槍玉に挙げられ、最早OGとしての権威など何処にも無かった。

 

一瞬で、たった1手で全てを奪われた。

 

フラッグ車の姿を晒し、無様に逃げ回っていたのも、散発的な攻撃しかしてこなかったのも、途中からセモヴェンテの姿が見えなかったのも、全てはこの為…。

 

一瞬にして、全ての車両を行動不能に追い込む奇策。

 

それを成功させる手腕。

 

そして短い間にそれを成功させる程に高校生達を纏め上げたカリスマ…。

 

全てが規格外。

 

ただの、卓上演習で勝利して良い気になっているだけの男ではなかった。

 

アレは正に魔王だった、誇張でも何でも無い、紛れもない事実…。

 

『車体が見えました、もう少し我慢して下さい!』

 

無線機から大会運営の声が響く、その声に車内に歓喜の声が上がる。

 

やっと助かる…やっと出られる…!

 

その言葉が嬉しくて、私は流れる涙を拭う事すらしなかった。

 

そしてチャーチルが瓦礫の中から掘り出され、やっと外に出る事が出来た。

 

眩しい夕日に照らされた、崩壊した瓦礫の山。

 

その山を救助の人に支えられて降りてきた時、あの男の姿が見えた。

 

救助作業の邪魔にならない場所で、椅子に座り、アンツィオの生徒達に歓待されている魔王の姿。

 

私の姿に気付いた魔王は、口にしていた飲み物を副官らしき生徒に渡し、ゆっくりとこちらに歩いてきた。

 

肩に掛けられた、連盟が用意した特製のパンツァージャケットを風に揺らしながら。

 

それがまるで、魔王のマントの様に私には思えた。

 

そして私の前にまでやってくると、その顔に見惚れるような微笑を浮かべ…私の顔に顔を近づけて口を開いた。

 

「次は、どんな奇跡が見たいかな…?」

 

「ひっ…!?」

 

脳髄を甘く蕩けさせるような声に、明確な敵意を乗せ、囁かれた言葉。

 

その言葉に、私の中の何かが、音を立てて――――折れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、この試合は聖グロリアーナの悪夢と言われ、魔王長野叢真の名前を知らしめる一端となった。

 

この事件によって署名に協力し、眠っていた魔王を無理矢理目覚めさせたOG会の権威は失墜し、それによって聖グロリアーナの現役生徒からは逆に感謝されるという皮肉な事件。

 

救助活動の難航と、被害にあった選手の精神的ダメージの大きさから、戦車道大会で明確に、意図的な高層建造物破壊による戦車埋没作戦の禁止が決定した事件。

 

中学生時代の長野叢真の、魔王全盛期の事件の1つである……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖グロリアーナの場合

 

 

 

 

 

 

 

「間もなく聖グロリアーナ学園艦上空です」

 

「ありがとう」

 

飛行機の操縦手の言葉に頷きながら、窓から外を眺める。

 

勢い余って大洗を飛び出してしまったが、丁度お世話になった他校に顔を出す予定があったので、それを消化してしまおうと思い、進路を1番近い聖グロへと向けて貰った。

 

聖グロとの縁は、例の戦車道実戦指揮で戦った時からである。

 

あの頃の俺は、卓上演習だけで満足していたのに、そこから無理矢理連れ出され、その理由が男が戦車道をやっている事に対する反発と、実戦で恥をかかせてやるという自己満足の為の行為と知って、猛烈に怒っていた時期だ。

 

年下の、しかも男に負けていると言う屈辱を実戦で晴らしてやるという大人気ない行為、それに母校である高校を巻き込むという暴挙。

 

大量の署名を無理矢理集め、戦車道連盟を動かし、俺を無理矢理場外乱闘へ連れ出した。

 

当時の俺は、丁度ストーカーに生活を侵略されていたストレスも相まって、完全プッツン。

 

そっちがその気なら、こっちも手段も方法も選ばないと大人気なく対応。

 

その結果、対戦相手の指揮官に強烈なトラウマを刻み、マジノ女学院は一年間程の活動自粛に、聖グロはOG会の権威失墜、サンダースは指揮したOGが二度と母校に足を踏み入れる事が出来なくなった。

 

巻き込まれた形の各学校はいい迷惑だったと思うが、現役生徒からは逆に感謝された。

 

特にOG会があれこれ口出しするから毎年苦労している聖グロは、一時的とは言えOG会が黙る事になった俺にそれはもう感謝しており、どんだけOG会が邪魔な存在だったかが伺える。

 

まぁ、時が経ってまた口出ししてくるようになったらしく、ダージリンが愚痴っていたが。

 

あまりに度が過ぎると俺の名前を出して黙らせるらしいが。

 

ダージリンが俺と友好を結んだ理由も、俺と仲良くしておけばOG会を黙らせ、聖グロを動かすのに有用だと考えての事。

 

お茶会の席で最初にそれを伝えられた俺は、変に利用されるよりは全然マシだと素直に受け入れた。

 

これには気分を害され、怒ると思っていたダージリンも、呆気に取られたようだが。

 

今思うと、少々やり過ぎたかなとは思う。

 

相手を街中に誘い込み、フラッグ車のCV33を囮に逃げ回り、その間にセモヴェンテに丁度いい建造物を探させ、下準備をさせた。

 

戦車が2列で並んで進める程度の道に、隣接するラブホテル。

 

1階が駐車場になっているお誂え向きな設計、その1階の柱をセモヴェンテに破壊させ、倒壊するギリギリの状態まで追い込み、そこに相手を誘き寄せて建物の倒壊に巻き込んだ。

 

これが他の学校なら上手く行かなかった、騎士道精神に則った対戦を尊ぶのが伝統である聖グロだからこそ出来た方法だ。

 

アンツィオの奇跡・聖グロの悪夢、対戦した高校同士で全く逆の評価がされるこの試合。

 

救助活動の困難さと生き埋めにされる選手のメンタルを考慮して、5階建て以上の建造物による意図的な埋没が大会ルールで禁止されたのは俺のせいである。

 

あの頃は情け容赦なんて一切無かった上に、戦車道のセオリーも暗黙の了解も完全無視だからなぁ俺…全部ストーカーとOGが悪い、俺は悪くねぇ!

 

そんな事を考えていると、飛行機が聖グロの学園艦に着陸。

 

もう俺の所在は公になっているので、パラシュート降下の必要はない。

 

「お待ちしておりました、長野様」

 

「あぁ、久しぶりだなルクリリ」

 

「はい、長野様もお元気そうで何よりです」

 

タラップを降りると、そこには焦げ茶色のロングヘアーを三つ編みにしたお嬢様…ルクリリが待っていた。

 

ダージリンから出迎えを言いつけられたのだろう、彼女は紅茶の名前が付けられている通り、ダージリンからの信用も厚い優秀な生徒だ。

 

俺が聖グロを訪れた時は、大抵彼女かアッサムさんが俺の世話を引き受けてくれる。

 

ただアッサムさんは隙きあらば俺の手を握り恋人繋ぎをしたり寄り添ったりし、それをワザと他の生徒に見せつけてあらぬ誤解を植え付けようとしてくるので油断出来ない。

 

だがルクリリは違う、常に半歩後ろに控え、差し出がましい事は一切行わず、忠実に自分の職務をこなしてくれる。

 

聖グロの知り合いの中で1番気が許せる子だ、同年代なのもあって気が休まる。

 

「お荷物はそれだけですか?」

 

「あぁ、長期滞在する訳じゃないからな、自分で持つから構わない」

 

手荷物を持とうとするのをやんわりと断る、着替えしか入っていない鞄だ、わざわざ女性に持たせる物でもない。

 

「ルクリリさま~~~~!!」

 

「ん?」

 

「あちゃぁ…」

 

突然滑走路の入口の方から大きな声がした。

 

ルクリリを呼ぶ声だが、呼ばれた本人は額に手をやってげんなりしている。

 

声の方を見れば、見覚えのない女子生徒が、聖グロとは思えぬ全力疾走でこちらにやってくる。

 

「ダージリンさまに言われた事をすっかり忘れてたでございますわーーー!ルクリリさまーーー!」

 

「あの子ったらまた…しかも長野様の前で…!」

 

元気よく手を振りながら全力疾走してくる女の子、スカートが捲れる事なんて一切考えていない、それ位の全力疾走だ。

 

聖グロであんなアンツィオみたいなノリの子を見るとは思わなかった。

 

「ローズヒップ!止まれはしたないぞ!」

 

ルクリリの言葉、彼女は見た目の割に気持ちが上がると男言葉を使う、彼女も聖グロでは珍しいタイプだ。

 

「おととととと…ののののののっ!?」

 

ルクリリの言葉に急停止しようとするが、あまりの勢いに止まれず足を縺れさせて転びそうになる。

 

「おっと」

 

「ですわっ!?……助かったのですわ~」

 

素早く彼女の前に出て腕を差し入れて倒れるのを防ぐ。

 

小柄だな…1年生か?

 

「ローズヒップ、お客様の前でなんてはしたない真似を…!」

 

「す、すみませんですわルクリリさま!遅刻しちゃいけないと思って全速力でリミッター解除して走ってきたんですわ!」

 

「それで転んで長野様の手を煩わせていたら意味がないだろう!大丈夫ですか長野様?」

 

「俺は何とも無いさ、女の子1人軽い位だ」

 

そのまま右手だけでローズヒップと呼ばれた少女を持ち上げてみる。

 

「すげーですわ!高いですわー!」

 

「ローズヒップ!調子に乗るな!」

 

俺に腹を下から持たれて持ち上げられたローズヒップだが、高い高いと大はしゃぎだ。

 

本当に聖グロの生徒とは思えない…アンツィオのスパイじゃないだろうなこの子。

 

「長野様も、あまりローズヒップで遊ばないで下さい」

 

「すまんすまんルクリリ、彼女があまりにも聖グロらしくないんでな…」

 

「照れちゃいますわー!」

 

「褒められてないっ」

 

元気いっぱいなローズヒップとそれを叱るルクリリ。

 

何と言うか、随分風変わりな子が入ってきたもんだ。

 

だが彼女も紅茶の名前で呼ばれていると言うことは、戦車道の選手であり、かつダージリンからの評価が高いという事になる。

 

しかし何と言うか…下町系お嬢様とはまた強烈なキャラクターだな…。

 

「ほら、遅刻した事は許すから長野様のお荷物を持たないか」

 

「了解ですわ!」

 

「いや、荷物位自分で…」

 

「ご安心をですわ!このローズヒップがお客様のお荷物を迅速丁寧にお運びしちゃいますわ!」

 

そう言って俺の鞄を両手で抱きしめるローズヒップ。

 

うん、先ずこの時点で丁寧じゃないね…別に良いけど。

 

「ではでは、ダージリンさまのところまで全速力でご案内しますわー!」

 

「待てローズヒップ!走るんじゃない!こらー!」

 

バタバタと走り出すローズヒップと、慌てて追いかけるルクリリ。

 

ダージリン、何故この凸凹コンビを迎えに寄越したんだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大変失礼しました長野様…」

 

「ごめんなさいですわー…」

 

「いや、大洗じゃ珍しくもないから気にしなくていい」

 

ペコペコと頭を下げながら歩く2人に、苦笑して返す。

 

大洗じゃ1年生チームを中心に色々な騒ぎが起きるからな、見ていて飽きない。

 

まぁ、巻き込まれると高確率で俺が恥ずかしい思いをするか、俺が怒られるんだが……理不尽だ。

 

「こちらでダージリン様がお待ちです、では我々はこれで」

 

「お荷物は本日宿泊するお部屋にキッチリお届けしますわ!」

 

「ありがとう、頼むよ」

 

ダージリン達がいつもお茶会で使う部屋の前に通され、案内を終えた2人が立ち去るのを見送って部屋の扉をノックする。

 

『どうぞ』

 

「失礼します、ダージリ……」

 

「おかえりなさいませご主人様、こんな言葉をご存知?お食事にする?お風呂にする?そ・れ・と・も……ダージリン?」

 

 

 

――――――――――――――――。

 

 

 

「アッサム様、長野さんの、長野さんの眼が死んでます!」

 

「やはり長野さんであってもダージリンのあの姿には勝てないようね…貴重なデータだわ…」

 

なぁにこれぇ。

 

バタンと扉を閉めて深呼吸する。

 

おかしいな、扉を開けたらメイド服を着たダージリンの姿が見えたぞ。

 

何の超常現象だろう。

 

明らかにおかしい、異常事態だ。

 

俺の知ってるダージリンは、かなり格言淑女だが、あんなトンチキな格好で意味不明な事を言う人じゃなかった。

 

なんだろう俺、疲れてるのかな…。

 

「いやだわ長野さん、照れなくてもよろしいのに!さぁお入り下さいな!」

 

夢じゃなかったかぁ…。

 

メイド姿のダージリンという反応に困るのに背中を押されて部屋に入ると、目が死んでるアッサムさんとオレンジペコの姿が。

 

あぁ、俺の他にも犠牲者が居た。

 

「さぁお座りになって、今特製の紅茶を入れて差し上げますわ」

 

「…………宴会芸か何かかなアレ…」

 

「私達にもよく分からないんですが、何かに感化されたらしくて…」

 

「お恥ずかしい姿をお見せして申し訳ありません…」

 

ルンタッタと鼻歌を歌いながら紅茶を淹れに行くダージリンを見送り、オレンジペコとアッサムさんに問い掛けるが、どちらも戸惑っているらしく答えはない。

 

何がどうして何に感化されたらメイド服に辿り着くのだろう…いや、似合ってたけどさ…。

 

いつも優雅なダージリンからは想像出来ないハジケっぷりだ。

 

ダージリンと出会ったのは俺が戦車道卓上演習から身を引いた時だ。

 

OGのしでかした不始末の為に、謝罪を申し込まれ、渋々俺が受けたのが初めての対面だった。

 

当時既にダージリンの名前を世襲していた彼女は、優雅に、しかし卑屈になる事無くOGのやった事を謝罪し、その顛末を俺に告げた。

 

そして同時に聖グロ代表として感謝している事を伝え、是非今後も友好的な対話をと申し込まれた。

 

その際に、俺と友好を結べれば、OG会からの束縛から逃れられるかもしれない、それを狙っての友好の申し出だと正直に話された。

 

そんな彼女の姿に、俺は正しい戦車道乙女としての、気品と美学を持った淑女としての理想の姿を見た。

 

俺が戦車道から離れる一因になったOG達とは違う、正しい戦車道乙女としての姿。

 

彼女となら、理想的な信頼関係を築き、対話出来ると思った。

 

「お待たせしましたわ、ダージリン特製紅茶と、フィッシュ&チップスですわ!」

 

思ったんだけどなぁ……思ったんだけどなぁぁ…。

 

テーブルの上に置かれた、美味しそうな紅茶と、ギットギトのフィッシュ&チップス。

 

ここは日本なのに、なんで本場のフィッシュ&チップスを再現して持ってきちゃうかなぁ。

 

アッサムさんとかルクリリが歓待してくれた時は、ちゃんと日本風フィッシュ&チップスだったのになぁ…。

 

おかしいなぁ、不思議だなぁ…。

 

「あぁ、長野さんの眼が光りを失って…」

 

「見たくなかったわ、あの方のあんなお労しい姿…」

 

「さぁどうぞ、召し上がれ♪」

 

「い、頂きます……ぶぇふっ、おっふ…」

 

口に含んだ瞬間、洪水の様に溢れる油と魚の生臭さ。

 

おかしい、俺の知ってるフィッシュ&チップスじゃない…。

 

ルクリリの作ってくれたフィッシュ&チップスは、もっとシットリサクサクで、魚の旨味が味わえる料理だったのに…。

 

と言うか、紅茶にはスコーンじゃないのか、なんでトップバッターでフィッシュ&チップスが出てくるんだ、おかしいですよダージリンさん!

 

「………ゴフッ」

 

口直しに口にした紅茶、その高級な味とフィッシュ&チップスのアレな味が合わさって、口の中が絶妙にアレでアレなアレのアレになる。

 

率直に言えば、死ぬほどエグい。

 

水を、水をくれ、それが駄目なら顔を突っ込めるバケツをくれ…!

 

「マズいですよアッサム様、長野さんが死にそうな表情を浮かべてます…!」

 

「長野さんは食には強いこだわりがある御方、そんな御方に本場のフィッシュ&チップスをお出しするなんて…」

 

揚げたてなのにモッソモソしてて食べ難いこのポテト…なのに油だけはジュワジュワと噛む度に溢れてくる…。

 

洗い流そうと紅茶を口にすれば、紅茶の高級な味と油が合わさって口の中が大騒ぎである。

 

だ、だが、折角ダージリンが出してくれた料理を、食べ物を粗末にするのは俺の矜持が許さない…。

 

「えっふ……うぇっふ………」

 

「あぁ、完食するお積もりですよ長野さん…」

 

「出された食事を残すのは、彼の矜持が許さないのよ……素敵」

 

「アッサム様?」

 

「お、おほん…けれどこのままではマズいわオレンジペコ、こうなったらダージリンの暴挙を止めるわよ」

 

「ダージリン様のあの行動はもう暴挙なんですね…お供します」

 

何かアッサムさん達が言ってるが、料理を平らげるのに集中しているので頭に入ってこない。

 

今のうちに…ダージリンが次の料理を出そうと下がっている今のうちに処理しなければ…。

 

「お待たせしましたわ長野さん、ダージリン特製濃い口マーマイトたっぷりのトーストを…あら、ペコ、アッサム、どうして私の両手を持ち上げるの、長野さんにお料理がお出し出来ないわ、どうして引きずっていくの、ちょ、待って下さる、あの…」

 

なんか不穏な台詞が聞こえたが、顔を上げたらダージリンが両脇を抱えるオレンジペコとアッサムさんに連れられて隣の部屋に連行されていく姿だけが見えた。

 

今、マーマイトとか聞こえたんだが、まさかアレを出してくるなんて事はないよな…?

 

流石の俺でも、アレは無理だぞ…?

 

「うっぷす…」

 

何とか食べ終え、少し冷めた紅茶を啜っていたら、後ろに人の気配が。

 

「長野さん、おかわりの紅茶は如何ですか?」

 

「オレンジペコ…その格好は…」

 

「一応私達の分も用意していたそうで…ダージリン様に…」

 

メイド服姿のオレンジペコが居た。

 

似合ってるけど…似合ってるけど。

 

知り合いの子のこういう姿を見るのは、妙な気分になる…。

 

「どうぞ、おかわりの紅茶です」

 

「ありがとう…ふぅ、やっと口の中が落ち着いてきた…」

 

「油ものが続いて申し訳ないですが、スコーンでお口直しをどうぞ」

 

そう言って、こちらもメイド服に着替えたアッサムさんが、美味しそうなスコーンを出してくれた。

 

良かった、スコーンなら例え本場のでも食べられる…。

 

今日のお茶会の為に用意していたらしく、アッサムさん手作りのスコーンは大変美味だった。

 

先陣をきってきたフィッシュ&チップスが嘘のようだ、本来の正しいお茶会の姿にちょっと感動する。

 

「しかし、ダージリンは何でまたあんな格好を…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私と長野さんが出会ったのは、私がダージリンの名前を襲名が決定した時。

 

OG会のメンバーの1人が発起人となり、大多数のOG会の人間が関わった聖グロリアーナの悪夢。

 

その罪の清算の為。

 

私がダージリンの名前を継ぐ為に申し付けられた、重要な任務。

 

それに成功した時、私は正式にダージリンを名乗れる様になる。

 

相手はあの魔王、長野叢真。

 

盤上のプリンス・卓上の帝王・戦場の魔術師、数々の異名を持つ彼の最新の渾名は非道の魔王。

 

戦車道のセオリーや暗黙の了解、それらを一切合切無視して効率と確実さを最大限に求めた、敵対するものに圧倒的な恐怖を与えるその恐ろしいまでに冷酷な手腕。

 

戦車道は戦争ではない、礼と伝統を重んじる武道だと非難した人に、彼は笑ってこう答えた。

 

「嫌がる相手を無理矢理に引きずり出す様な人間を、俺は戦車道乙女とは認めない」

 

その迫力と言葉に含まれる怒りに、誰もが反論を飲み込んだ。

 

卓上演習で収まっていた彼を、無理矢理に引き摺り出したのは彼に負けたOG達。

 

彼の怒りの結末は、試合を行った学校における戦車道の一時的な停滞と、OG達からの開放。

 

我が聖グロリアーナでも、一時的に全ての対外試合を断る程にダメージを受けた。

 

けれど、そのおかげで聖グロリアーナ現役生徒の悩みであったOG会からの口出しが弱まった。

 

我が聖グロリアーナは、卒業生で構成されるOG会が多大な影響力を持つ。

 

その影響は学園艦の運営にまで及び、戦車道でも使用する戦車に大幅な制限が掛けられている。

 

時には試合にまで口出しし、特に全国大会の試合では必ずと言っていい程、余計な口出しが来る。

 

現場に居るわけでもない人間からの口出しに足を取られ、聖グロリアーナは優勝の経験が無い。

 

そんなOG会からの呪縛を、少しとは言え解いてくれたのが長野叢真という魔王。

 

魔王に呪いを解いてもらうなんて、何という皮肉。

 

けれど、現役生徒達が感謝しているのは事実。

 

そして私にこの任務を与えた当時の隊長は言った、彼と友好を結べれば、OG会の支配からの脱却が出来るかもしれないと。

 

OG会にとって、魔王は恥と罪の象徴。

 

まだ中学生だった彼を、無理矢理実戦試合に連れ出す為、その為にOG会といういい歳した大人が寄って集って署名を集めて連盟を無理矢理動かし、彼を引きずり出した。

 

その結果は、OG達の全敗、継続、プラウダに負けたのなら兎も角、衰退の一途を辿っていたアンツィオに負けてしまった聖グロリアーナとOG会は、その名前に泥を塗った形になる。

 

おまけに事の次第と顛末をマスコミに報じられた為、OG会は大きく衰退する事になった。

 

それはそうでしょう、いい歳した大人が、子供を無理矢理戦わせ、挙げ句負けたのだから。

 

発起人であり、実際に試合を行ったOGは、心が折れたらしく、OG会からも姿を消したと言う。

 

頻繁に口出しをするOGだったので、現役生徒達からは感謝されたけれど。

 

兎も角、そんな魔王と友好を結ぶと言う大役を任された私。

 

まぁ、当時の隊長は失敗したら私ごと切り捨てる算段だったのでしょうけど。

 

申し出は意外にもすんなり受け入れられ、彼は聖グロリアーナへと降り立った。

 

「長野叢真です…初めまして」

 

そう言って頭を下げるのは、美麗な容姿に、寂しげな瞳をした、純粋そうな男の子だった。

 

信じられなかった、聖グロリアーナOG会の恐怖の代名詞であり、魔王と呼ばれる人物にしては、あまりにも純朴。

 

歓迎のお茶会でも、彼はどこか居心地が悪そうにして、終始俯いていた。

 

それを見ていて理解した、彼は、魔王は、何処にでもいるような普通の少年なのだと。

 

けれど、その才覚が普通でいる事を許さず、そして周りの嫉妬が、彼を魔王へと変貌させたのだと。

 

「……美味しい、初めてこんな美味しい紅茶を飲みました」

 

私の淹れた紅茶を、初めて笑みを浮かべて飲む少年の姿。

 

これが魔王の本当の姿。

 

OG会が余計な事をしなければ、魔王に成らずに済んだ、少年の姿。

 

それを見て、私は下手な小細工や、口先の話術で彼を弄するのは止めることにした。

 

正直に、OG会のやった事の謝罪とOGの顛末、友好を結びたいその目的を話した。

 

付き人として同席していたアッサム、当時はまだアッサムではなかったけれど、彼女が止めようとするのも構わず、全部正直に話した。

 

怒られると思っていた、紅茶を頭から掛けられる事も覚悟していた。

 

けれど、彼の反応は1番予想外だった。

 

「その正直な所、俺は好ましいです。変に利用されるよりは、正直に言われた方がずっといい。それに、利用されるだけの価値がこの紅茶にはありますからね」

 

そう言って、彼は紅茶を飲んで微笑んだ。

 

後日、彼にどうしてあんな申し出で友好を結んでくれたのかと訪ねた。

 

彼は言った、「ダージリンさんに、本当の騎士道精神と、戦車道乙女としての正しい姿を見たから」と…。

 

自分でも顔が赤くなるのが分かった。

 

あんな、脳髄が蕩けるような声で、真っ直ぐに言葉を告げられたら、誰だってそうなる。

 

それから、彼との友好の関係が始まった。

 

彼と友好を結んだ事で、聖グロリアーナ戦車道の中で私の地位は確固とした物になり、OG会からの束縛も狙い通り軽減された。

 

口出しをされても、彼の事を持ち出せば黙る。

 

どうしてそこまでOG会が彼のことを恐れるのかと思えば、聖グロリアーナの悪夢の際に、彼が言い放ったからだ。

 

「さぁ次の相手は誰だ?皆俺が邪魔なんだろう?なら誰でも良いから立て、立って俺に向かって来い。丁寧に、効率的に、確実に、プライドも、矜持も、尊厳も、全て粉々にして……埋めてやる」

 

対戦したOGがどうなったかを知っているOG会は、誰も彼の顔を見ることが出来ずに、黙りこんだそうな。

 

それはそうでしょう、OG会の1番の実力者が、あんな無残な姿を晒したのだから。

 

あの時は頭に血が上ってて言い過ぎちゃいましたよと照れ臭そうに笑う今の彼からは想像も出来ないけれど。

 

友好を結んだ証に、彼は頻繁に聖グロリアーナへと訪れてくれた。

 

戦車道の事を語り合ったり、格言や名言を教えあったり…。

 

夢のような時間だった。

 

けれどその時間は長くは続かなかった。

 

彼がストーカーに襲われ、傷心し、戦車道からも完全に離れてしまった。

 

それからは、聖グロリアーナへと訪れる事も減り、戦車道の試合観戦にも来てくれなくなった。

 

カチューシャやノンナ達の協力があれば、なんとか来てくれるけれど。

 

彼との楽しい時間は、確実に減っていた。

 

けれど、大洗が…みほさんが、彼を戦車道へと戻してくれた。

 

久しぶりに会った彼は、何故か瓶底眼鏡で顔を隠していたけれど、元気そうにしていた。

 

そして初心者だらけの大洗を精神的支柱として支え、みほさんの頑張りも合わさって、全国大会優勝を勝ち取った。

 

きっと、みほさんのあの対戦相手とも仲良くなれる不思議な空気が、彼を癒やしたのだろう。

 

……それを思うと、ちょっと…いえ、かなり悔しい。

 

彼を癒やすのは、友好を結んだ自分だと思っていたから。

 

みほさんに先手を取られて悔しいけれど、それで諦めるような私ではない。

 

大洗学園が優勝し、その祝勝も兼ねてのお茶会に誘ったら、予定を前倒しして来艦してくれた。

 

これは気合を入れておもてなししなくては…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、こんなトンチキな事を始めたんですね…ダージリン様…」

 

「あら、何か間違ったかしら?」

 

「普通、知り合いが突然メイド服で出迎えたりしたら、唖然としますよ…」

 

ペコが苦笑いし、アッサムが頭を抱えている。

 

おかしいわね、書物では殿方はメイド服が大好きとあったのに…。

 

私には似合わなかったのかしら?

 

「そういう問題じゃないです…あと何でいきなりフィッシュ&チップスをお出しするんですか、長野さん面食らってましたよ…」

 

「ルクリリが以前お出ししたフィッシュ&チップスを美味しそうに食べていたから、てっきり好物かと思って…」

 

「あれはルクリリのだからですよ、本場のを出したら誰だってあぁなります…」

 

ルクリリったら、いつの間に彼の好みを掴んでいたのかしら…。

 

仕方がないわ、こうなったら私特製の…

 

「この、うなぎゼリーで!」

 

「「やめてください」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




シリアスな空気を全て吹き飛ばす、ダージリン様のメイド服姿が見れるのはガールズ&パンツァーもっとらぶらぶ作戦です!だけ!(´・ω・`)


今すぐ書店にGo!!(´・ω・`)9m


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