ガルパン日和   作:アセルヤバイジャン

22 / 35
Ph'nglui mglw'nafh Cthulhu R'lyeh wgah'nagl fhtagn(´・ω・`)


ぷらうだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、当初の予定を繰り上げて進めるように」

 

「はぁ…しかし大洗学園は戦車道全国大会で優勝し、約束を果たしましたが」

 

「口約束などを一々守る必要などない、偶々優勝出来ただけで歴史も伝統も無い学校に価値など無いだろう?」

 

「……しかし、折角全国でも勝ち抜ける程の地力のある学校を廃校にするのは…」

 

「考え方を変えたまえ。勝てる地力があるなら他の学校で活躍させればいい、全国に散らせれば戦車道全体の引き上げになるじゃないか」

 

「それは素晴らしい考えですな」

 

「プロリーグの発足、世界大会の誘致、それらの下準備として妥当な考えですな」

 

広い会議室の中、身勝手な考えをさも名案だとばかりに口にする官僚。

 

それに胡麻を擂る別の官僚。

 

そんな連中を見渡し、眼鏡の男性は小さく息を吐くと眼鏡を直して前を向いた。

 

「…分かりました、ではそのように」

 

「あぁ、例の彼は予定通りの学校へ入学させるように。他の生徒は適当で良いが奴だけは確実にな…全く、子供の分際で生意気な。折角こちらがいい条件を提示してやったのに話もろくに聞かずに帰りよった。天才だの神童だの言われても所詮子供だな、先のことを考えてない、愚かしい限りだ」

 

「………どちらが愚かなのか(ボソリ」

 

「何か言ったかね?」

 

「いいえ、何も。では私はこれで失礼します、計画を進めないといけないので」

 

「期待しているよ、責任は私が取るから多少強引でも良いから確実に進めるように」

 

「はい…では失礼します」

 

資料を脇に抱え、会議室を後にする眼鏡の男性。

 

残された官僚達は、もう計画が成功すると確信しており、今度のゴルフの話に花を咲かせていた。

 

「………愚劣な」

 

扉を閉めて吐き捨てる。

 

持ち出した資料、その一番上にある1人の青年の資料を見て、眼鏡の男性は皮肉げに笑う。

 

「目立ちすぎるのも問題だな…恨むなら、目を引きすぎた自分を恨んでくれたまえ」

 

そう言ってその場を後にする男性。

 

 

 

 

 

再び動き出した計画、今度は止める手段など無い。

 

 

 

 

青年と乙女たちに、再び魔の手が迫っていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プラ/ウダの場合

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………?ここは…」

 

気が付いたら、見覚えのある場所に立っていた。

 

青い海と、吹き抜ける潮風。

 

整備された地面に、設置されているベンチ。

 

見覚えがある、確か大洗海岸公園だ。

 

「なんでこんな所に……俺は確かアンツォイを出て…」

 

アンチョビ達に見送られてアンツィオを出発して、それから…。

 

「ん…?」

 

思い出そうとしていたら、背後の人の気配がした。

 

「え……み、みほちゃん…?」

 

振り返ったら、そこに居たのはみほちゃんだった。

 

ただし、ピンクの全身タイツ姿、申し訳程度にあんこうのモチーフが取り入れられたそれは、色々な意味で有名なあんこう踊りの衣装。

 

それを着たみほちゃんが立っていた。

 

「み、みほちゃんどうしてそんな格好で…え、武部さん?五十鈴さん、秋山さん…冷泉さんまで…?」

 

ぞろぞろと、どこからともなく現れる武部さん達、やはりあんこう踊りの衣装。

 

全員真顔なのが凄く怖い。

 

「え、なんか音楽流れ始めた…!?」

 

アアアンアンって、これあんこう音頭か…!?

 

どこから流れてるのか不明な音楽に合わせて、踊り始めるみほちゃん達。

 

真顔で。

 

「何が一体どうなって…」

 

ただただ困惑するしかない俺。

 

「み、みほちゃん、皆、あの、何がどうして……ヒィッ、なんで真顔で踊りながら迫ってくるの!?」

 

ジリジリと踊りながら迫ってくるみほちゃん達、真顔なのが余計に怖い。

 

「ちょ、怖い怖い怖い…!」

 

思わずその場から逃げ出してしまう、だって凄い真顔で怖いんだもの!

 

何処をどう走ったのか、気が付いたらアクアワールド・大洗に居た。

 

音楽はいまだ鳴り続けている、なんだか気分が不安定になってくるぞ…。

 

「ん…?げ…!?磯辺、近藤、河西、佐々木…お前達まで…!?」

 

ジャリっと言う地面を踏みしめる音に顔を向ければ、みほちゃん達と同じくあんこうスーツに身を包んだ磯辺達アヒルさんチームの姿が。

 

やっぱり真顔で踊りながら近づいてくる。

 

「だから怖いって!なんで真顔なんだ、なんで誰も何も言わないんだ!?」

 

ジリジリ近づいてくる磯辺達。

 

慌ててその場から逃げ出す。

 

「ここは…アウトレットか…?」

 

大洗リゾートアウトレット、武部さんに連れられて買い物に来た場所だ。

 

やはりここでも音楽が鳴り響いている。

 

「なんで誰も居ないんだ…誰か、誰か他に居ないのか…?」

 

アウトレットの中を走り回るが、誰も居ない。

 

「ん…?あれは…会長?」

 

アウトレットの遊具エリアに、制服姿の会長が見えた。

 

良かった、まともな格好をした人が居た…あ、もしかしてまた会長が何か企んで、みほちゃん達にあんこう踊りを強制させたのか?

 

全く、驚かせるなんて人が悪い、ちょっと一言言ってやらないと…。

 

「会長!みほちゃん達に何をやらせて……えぇ!?」

 

俺が声を上げながら近づいたら、突然会長が振り向いて、真顔で制服に手をかけた。

 

そして勢いよく制服を引っ張ると、まるでマントように制服が脱げて、あんこうスーツ姿の会長が。

 

なんでぇぇぇぇぇ!?

 

「ちょ、一瞬でどうやって…げ、河嶋先輩に小山先輩まで!?」

 

いつの間にか2人が会長の隣に現れ、やはり踊り始める。

 

真顔で。

 

いやぁぁぁぁ近づいて来ないでぇぇぇぇ…!

 

「ヒィ!?園さん達まで…!?」

 

神社の階段前で道を塞ぐようにして踊る風紀委員チーム。

 

「お前達まで…!?」

 

お店の前で輪になって踊る1年生チーム。

 

「カエサル…お前達もか…!」

 

ビーチ前で踊るカエサル達歴女チーム。

 

「お前達あんこう踊り踊れる体力あったのか…!?」

 

大洗駅前で踊るネトゲチームには別の意味で驚愕し。

 

「ナカジマ先輩達まで…!?」

 

橋を封鎖するようにして踊る自動車部チーム。

 

それらから逃げて辿り着いた先は、最初の公園。

 

音楽はまだ鳴り響いている。

 

「あ……囲まれた…!?」

 

気付けば、周囲をみほちゃん達に囲まれていた。

 

踊りながら囲いの円を縮めて行くみほちゃん達。

 

360度真顔のあんこう踊り。

 

「ちょ、待ってくれ、冷静に、冷静になって話し合おう!?」

 

誰も答えない、皆真顔で踊りながら迫るだけ。

 

「よ、よせ、やめろ、来るな、来ないで……おああああああああああ!?」

 

迫る真顔のみほちゃん達に、押し潰される。

 

意識があんこう音頭に侵食され、もう何も考えられなくなる。

 

 

 

 

 

 

 

――――■■■■■■――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわああああああ!?……あ、あれ…?」

 

何か、見てはいけない何かを見てしまった。

 

その強烈な感覚に弾き飛ばされるかのように意識が覚醒し、叫び声を上げながら目覚めれば、そこは暗い部屋の中。

 

「………フェリーの客室…?」

 

見渡せば、狭いベッドが並んでいる。

 

「……夢…?」

 

あの光景は全部夢…?

 

そ、そうだよな、あんな非現実的な光景、夢じゃないとありえないよな…。

 

「は、ははは……良かった、そうだよな、みほちゃん達があんな事する訳ないよな…」

 

あぁビックリした…魘されてたのか寝汗が酷い。

 

幸い他にお客さんも居ないので迷惑を掛ける心配も無い。

 

「気持ち悪いし風呂入ってくるか…」

 

着替えと貴重品を持って部屋を出る。

 

遅い時間なので船内に人気はない。

 

「変な夢だったな…疲れてるのかな…」

 

連日移動と歓迎パーティーだのハプニングだので、精神的に疲れているのかもしれない。

 

特に西住流本家でのアレは精神的に疲弊したし。

 

 

 

 

 

――――Ia! Ia! Cthulhu fhtagn!――――

 

 

 

 

 

「ん……?気の所為…か…?」

 

フェリーの外縁部通路から海を見る、何か海の方から声がした気がしたんだが…。

 

視界の先は真っ暗な海、船なんて見当たらない。

 

「…………早く風呂入ってもう一度寝よう…」

 

ゾクリと、背筋を駆け上がる感覚が襲ってきたので、俺は足早に風呂場を目指した。

 

あの声……確か聖グロで一度聞いたような…気の所為かな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

カリカリとシャープペンが紙を引っ掻く音だけが響く室内。

 

今日の分のカチューシャ日記を書き終え、一息つく。

 

「同志長野がやっと来て下さる…」

 

ダメ元で送った招待状、それにすんなり応えて来艦してくれる彼。

 

以前は招待状に電話、メール、そしてカチューシャの半泣きのお願いまで行かないと承諾してくれなかった。

 

しかし今回は招待状だけで了解してくれた。

 

今までの彼ではあり得ない対応だった。

 

何か有ったに違いない。

 

同志長野叢真、プラウダの栄光の立役者であり、カチューシャの恩人。

 

彼が居たから、カチューシャはプラウダの偉大な指導者になれた。

 

カチューシャは素晴らしい人物だ、ウラル山脈より高い理想とバイカル湖より深い思慮を持つ指導者に相応しい方。

 

それなのに小さく愛らしく、そして可愛らしい。

 

初めてみた時から、私の心を掴んで離さないお方。

 

そんなカチューシャの魅力と秘められた才能を、上級生達は理解しなかった。

 

カチューシャが頑張って夜更かししてまで考えた作戦を、子供が考えた案だと一蹴。

 

隊長に上申する事も許されず、闇に葬られていた。

 

上級生とはいえ許せない、粛清してやろうかと思っていた時だった。

 

『ちゃんと見て下さい!この作戦で我が校に必ずや勝利を…!』

 

『はいはい分かったわよおチビちゃん』

 

次の練習試合の為にカチューシャがお昼寝も我慢して考えた作戦。

 

それをろくに見もせずに受け取るだけの上級生。

 

カチューシャが隊長に見せてくれとお願いするが、あの上級生は見せる事もせずに作戦書を処分するだろう。

 

やはり粛清して…そう思って懐に手を入れた時だった。

 

『へぇ…面白い作戦だね』

 

『な、長野君…!?』

 

『ひっ…!』

 

音もなく現れ、上級生の手からファイルをスリ取り、眺めている彼。

 

この時彼は中学3年生、特別相談役として戦車道の活動に顔を出していた。

 

校外の、しかも中学生の、男子。

 

しかしながら、プラウダでの彼の発言力は強い。

 

対サンダースとの正面戦闘で、見事に相手を打ち破った功績と、彼が打ち立てた数々の記録。

 

そして、魔王という名前のままに圧倒的なカリスマを振り撒く姿。

 

やり過ぎとも言える戦法に、彼を畏怖する選手も多い。

 

カチューシャもその1人、彼の恐ろしく整った美貌と脳髄を蕩けさせる甘い声に、本能的に恐怖を感じているように見える。

 

その彼が、カチューシャの考えた作戦を見て、ニヤリとその美貌を歪めて嗤った。

 

『相手の戦力とこちらの戦力を考慮し、地形も織り込まれてる…その上でこの行動…いいね、面白い』

 

『な、長野君、それは…』

 

『俺の方から隊長には提出しておくよ、何も問題無いだろう?』

 

そう言ってファイルを脇に挟む彼。

 

上級生達が途端に慌てる、それはそうだろう、彼が評価した作戦なら隊長が採用する可能性が非常に高い。

 

それが面白くない上級生達は何とか止めようとする。

 

だが、目を見開いた彼に見つめられ、硬直する上級生達。

 

『有能な人材を取り立てるのに何の問題がある…?』

 

『ひっ…だ、だけど…』

 

『使える人間は使う、そこに人種性別体格、何が問題になる?ん?何が…問題になる?』

 

壁にドンと手を叩きつけられ、彼と壁に挟まれる上級生。

 

間近に迫る彼の美貌、だが目を見開いて迫るその表情と平坦な声からは感情が読み取れない。

 

これ以上の恐怖はないだろう。

 

『何も、問題は、ない…そうだろう?』

 

『は、はひ…!な、なにも問題ありません…!』

 

『分かってもらえて嬉しいよ……行け』

 

『は、はいっ、失礼します!』

 

最後にニッコリと笑い、上級生を解放する彼。

 

解放された上級生は、他の生徒と共に大急ぎで去って行く。

 

その顔は涙目で頬は真っ赤だ。

 

あれが魔王…サンダース戦の前、瞬く間に部隊を掌握した彼の暴力的なカリスマ。

 

カチューシャが本能的に恐れている力。

 

危険だ、危険過ぎる、カチューシャに危害が及ぶのでは…。

 

そう思っていた時だった、突然の出来事に驚き、涙目でオロオロする可愛いカチューシャに、彼はそっと手を出して、カチューシャの頭を優しく撫でた。

 

ギリィ…!

 

『へ…?あ、あの…』

 

『試合、頑張ってな』

 

そう言って微笑む彼、先程までの魔王然とした笑みではない、優しい微笑みだった。

 

そして彼はそのままファイル片手にその場を去った。

 

残されたのは、呆然と彼の背中を見送るカチューシャと、その様子を廊下の影から見ていた私。

 

その後、カチューシャの作戦はそのまま承認され、試合はプラウダの完全勝利。

 

カチューシャの才能が認められ、広まった瞬間だった。

 

『ノンナ!同志長野は良い奴よ!』

 

そう言って楽しそうに笑うカチューシャ。

 

純粋な彼女はすっかり彼に取り込まれていた。

 

あれだけ恐れていたのに…。

 

その後、カチューシャは作戦を考えては彼に提出して意見を求め、作戦を修正して隊長に提出して貰うという行動を取るようになった。

 

彼の携帯番号を聞き出し、彼が居ない時でも意見を求める程。

 

これに上級生を中心にズルい、贔屓だと不満が上がった。ついでにロリコン疑惑が上がった。カチューシャは彼より年上なのに。

 

それに対して彼は不思議そうな顔をして肩を竦めた。

 

『作戦案があるなら自分から出して欲しい、カチューシャは自分から積極的に意見を求めてきている。俺は相談役だから請われれば誰でも相談を受けるし、有用と思えば支持も推薦もする』

 

文句があるなら自分達もカチューシャの様に作戦を出せ、自分は誰でも受け入れると表明。

 

今まで遠慮していた生徒達が、我先にと殺到したが、彼はちゃんと1人1人の意見や作戦に目を通して対応した。

 

カチューシャがそれを見て叢真を取られた!と怒っていた、可愛い。

 

だがこの時も私は彼を危険視していた、魔王然とした彼が、カチューシャを害するのではないかと。

 

そんな漠然とした不安を抱いていた。

 

ある時、カチューシャの姿が見えなくて探し回った。

 

すると、校舎の外れで歌声が聞こえてきた。

 

耳に心地よい、優しい歌声、その声に引き込まれる様に足を向ければ、そこにはベンチに座って歌う彼の姿。

 

その膝の上には、幸せそうに眠るカチューシャの姿。

 

危機感が一気に上がった。

 

思わず物陰から飛び出し、彼の前に立つ。

 

『………シー』

 

歌を止めた彼は、静かに口元に指を持っていき、静かにとジェスチャーをした。

 

彼の膝の上のカチューシャは、熟睡しているのか起きる気配はない。

 

『……貴方は、なんなのですか』

 

『…何、とは?』

 

思わず口が開いた、自分でもよく分からない問い掛けを口にしていた。

 

それに対して、彼はキョトンとした顔で問い返した。

 

……魔王とは思えない、あどけない少年の表情だった。

 

『分からないんです…魔王の様に振る舞っている貴方と、カチューシャに対して見せる姿…どちらが貴方なのですか』

 

カチューシャを見守っていて気付いた事、他の生徒の前での振る舞いと、カチューシャに対しての態度が明らかに違う事に。

 

やはりロリコンかと危機感が増す、カチューシャを汚すなら私が許さない。

 

『あぁ、あれは演技ですよ。正確には、ブチギレしてた時の態度を演じてるだけです』

 

あっさり答えられた。

 

演技?あれが?

 

何のために?

 

『プラウダを指揮した時の俺を知っている人が多いんで、無理して振る舞ってるんですよね。その方が話が早いので』

 

そう言ってカチューシャの頭を撫でる。

 

嫌に手慣れているのが気に障った。

 

『カチューシャには、あの態度を続けるのがどうにも無理で…知り合いに10歳位の子が居るんですけど、こんな俺を兄として慕ってくれるんですよ。カチューシャを見てるとどうしてもその子が思い出されちゃって…』

 

気付いたら素が出ちゃってたんですよねと苦笑する彼。

 

それで嫌にカチューシャの機嫌を取るのが手慣れているのか。

 

……やはりロリコンだろうか、静かに懐に手をやる。

 

『では何故それを私に…?』

 

『ノンナさんなら別に良いかなって。カチューシャの腹心ですし』

 

懐から取り出そうとしながら問い掛けた問の答えに、動きが止まる。

 

私が、カチューシャの腹心…?

 

『いつもカチューシャが言ってますよ、ノンナは凄い、ノンナは優秀だ、ノンナこそカチューシャの右手に相応しいって。だからノンナさんなら平気かなって』

 

カチューシャがそんな事を…。

 

私は呆然として懐から手を離す。

 

カチューシャの世話を焼くのを、迷惑に思われてないか、邪魔だと思われてないか、そう不安に思っていた。

 

私より彼の方が良いのでは、そう思って何度彼の写真を貫いた事か。

 

『作戦の相談を受けてたのに、気が付いたらノンナさん自慢になってるんだから参りますよ。それだけノンナさんが大好きなんでしょうね』

 

思わず顔が赤くなる。

 

カチューシャにそんなに思われていたなんて…。

 

『羨ましいですよ、そんな風に思ってくれる人が居る事が。思わず嫉妬しちゃいますね』

 

そう言って悪戯っぽく笑う彼。

 

嫉妬…そう、嫉妬。

 

私が彼を危険視していたのは、カチューシャが取られてしまうという嫉妬。

 

カチューシャを笑顔にさせる彼に、嫉妬していた。

 

カチューシャは、ちゃんと私の事を見てくれていたのに。

 

嬉しいと思う反面、勝手に危険視し、敵視していた彼に申し訳ないという気持ちが湧き出てくる。

 

魔王としての演技をしていない彼は、ただの純朴な少年だった。

 

カチューシャが懐くのも分かる、それ位優しくて純粋な少年。

 

私は、そんな少年を一方的に危険視して、カチューシャを害する存在と思っていたのか…。

 

途端に恥ずかしくなる、カチューシャの事になるとどうにも自分を制御出来ない。

 

偉大なカチューシャが心を開いて、懐いているのだ、悪い人の筈がない。

 

それを嫉妬して危険視して、排除まで考えていた…。

 

気付かれていないとは思う、けれど黙って胸に仕舞い込むのは私のプライドが許さない。

 

何かお詫びをしないと…。

 

そう考えていたらカチューシャが目を覚ました。

 

『ん~…?どうしたのソーシャ…』

 

『おはようカチューシャ。ノンナさんが迎えに来てるぞ』

 

ソーシャ…カチューシャから愛称で呼ばれるなんて、もうそこまで仲が深まっているのかと改めて驚く。

 

やはり彼はカチューシャに必要な大事な人…。

 

『ノンナ…?あ、ち、違うのよノンナ!これは別に…!』

 

彼に膝枕をしてもらって寝ていたのを見られて恥ずかしいのか、起き上がって弁明を口にするカチューシャ、可愛い。

 

『おはようございますカチューシャ。そろそろ練習の時間ですよ』

 

『わ、分かったわ。それじゃ行ってくるわねソーシャ!』

 

『行ってらっしゃい』

 

『行くわよノンナ!』

 

『はい』

 

立ち上がったカチューシャを肩車してその場を後にする、彼は微笑ましそうに笑ってそれを見送ってくれる。

 

『ノンナ、ソーシャと何を話していたの?』

 

『世間話ですよカチューシャ』

 

シレっと誤魔化す、話していた内容を聞いたら、きっとカチューシャは恥ずかしがって怒ってしまうから。

 

カチューシャの信頼に応える為にも、何としても彼をカチューシャの物にしなければ…。

 

そう思っていた私の計画を、根底から崩す事件が起きた。

 

彼がストーカーに襲われて入院し、戦車道から離れてしまった。

 

プラウダに訪れる事も減り、カチューシャと連絡を取る事も減ってしまった。

 

何とかしようと彼の電話番号を入手し、説得したが彼は受け入れてくれなかった。

 

すっかり覇気が消えてしまった彼、彼の魔王時代を知る生徒は別人を見ているようだと口にした。

 

それだけ心に傷を負ったのだろう、カチューシャも心を痛めている。

 

何とか戦車道に復帰して貰いたかった、けれど無理強いをして彼を傷つけては意味がない。

 

どうすれば彼を癒せるか…それを考えていた時、ふと姿見に映る自分を見た。

 

同年代と比べてもメリハリのある身体、身長が高すぎるのがネックな自分の身体。

 

そうだ、これだ、これしかない。

 

彼も男だ、異性に興味がある筈。

 

女の身体は怖くない、柔らかくて温かくて気持ちのいいものだと分かって貰えれば、きっと心の傷も癒せる筈。

 

幼い身体のカチューシャにやらせる訳にはいかない、彼女の身体が壊れてしまう。

 

だから成熟している自分がうってつけだ。

 

彼にはカチューシャを副隊長に推薦してもらった事も含めて色々な恩がある、恩返しにも丁度いい。

 

手始めに、プラウダを久しぶりに訪れてくれた彼の手を握る。

 

最初は驚いて、そして照れているのか顔を赤くして逃げてしまった。

 

その表情にゾクゾクした、可愛い。

 

何度か試していると慣れてくれたのかされるがままになった、次は腕を組んで胸を押し付けてみる。

 

やはり顔を赤くして逃げてしまった、あぁ可愛い…。

 

カチューシャの世話を焼くように、彼の世話を焼く。

 

あぁ、凄く楽しい、凄く嬉しい、彼を自分のモノにして、私がカチューシャのモノになる、最高だ。

 

ライバルは多い、けれど負ける気などない。

 

カチューシャの為に、カチューシャの幸せの為に。

 

「安心して下さい同志長野…女としてのノンナは、ちゃんと貴方の物になります」

 

同志長野攻略計画と書かれたノートを開く。

 

あぁ、今夜は眠れないかもしれない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無事にプラウダ学園艦に到着した。

 

フェリーから学園艦に乗り込み、階段を登る。

 

船でプラウダに訪れるのは何気に初めてだ、最初の頃は飛行機で、事件以降はパラシュートだし。

 

帰る時は良く船で帰るので迷う事はないけど。

 

「……ん?」

 

上部デッキまで登った所で、1人の女性が通路の真ん中でボードを持って待っているのに気付く。

 

胸の前に掲げられたボードには、歓迎!同志長野叢真と書かれている。

 

俺の迎えなんだろうけど……見覚えがない。

 

金髪碧眼で色白の、あちこちの学校に居るなんちゃって外国人風の生徒と違って、完全に外国人だ。

 

『同志長野ですね、ようこそプラウダへ。お待ちしておりました』

 

流暢なロシア語で出迎えられた、うん完全に外国人だ。

 

『出迎え ありがとう 貴方は?』

 

「クラーラと申します。日本語分かりますから大丈夫ですよ」

 

ならなんでロシア語で出迎えたし。

 

意外と茶目っ気のある人だな…。

 

「お車を用意してあります、どうぞこちらへ」

 

「ありがとうございます」

 

クラーラさんの後を追いかける。

 

途中、通路の影に隠れたニーナとアリーナを見つけた。

 

なんだ、何か言ってる…?

 

何々、に・げ・て…?

 

はて、何から逃げろと言うのだろうか…?

 

「どうかされましたか?」

 

「いえ、何でも無いです」

 

まさか彼女から…?

 

そんな訳無いか、初対面で何で逃げなきゃならないんだ。

 

多少茶目っ気はあるが礼儀正しいし良い人っぽいし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ~、長野さん行っちまっただ…」

 

「ノンナ副隊長が朝から見たこともない程上機嫌だし、クラーラさんも妙にテンション高くて…大丈夫だべか長野さん…」

 

「もうオラ達には無事を祈るしかできねぇべよアリーナ…」

 

「んだなニーナ…」

 

 

 

 

 

 




あばばばばばばば(´・ω・`)

ぶいーんぎゅーんばぶーん(´・ω・`)

おぎゃあああああああああああああ(´・ω・`)










ネタバレ、ラスボス出現(´・ω・`)


さぁだーれだ(´・ω・`)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。