ガルパン日和   作:アセルヤバイジャン

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ロシア語も東北弁もわからねぇだよ(´・ω・`)




Правда

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは本日の練習を終了する!」

 

『お疲れ様でしたー!』

 

河嶋桃の号令の元、挨拶を叫ぶ戦車道履修者達。

 

夕暮れの戦車倉庫前、それぞれのチーム毎に集まってこの後どうするか話し合う。

 

バレー部はこのままバレーの練習へ、自動車部は本日使用した戦車の整備。

 

1年生チームは映画鑑賞会、ネトゲチームは勿論ネトゲ。

 

風紀委員は下校時の見回りである。

 

「お腹空いたねー、何か食べて行こうか」

 

「うん、お腹ぺこぺこ」

 

「食べる」

 

「今日は何処に行きましょうか」

 

武部沙織の提案に、お腹を擦って答える西住みほ。

 

戦車の操縦席から顔を出して賛同する冷泉麻子に、食べる気満々な五十鈴華。

 

「長野殿は何が食べた……あ」

 

秋山優花里がいつもの調子で振り向きながら問い掛けるが、そこに目当ての青年は居ない。

 

「もー、ゆかりんたら…」

 

「ついいつもの調子で…お恥ずかしいです」

 

苦笑する沙織が肩を叩き、顔を赤くして萎縮する優花里。

 

「今頃どうしてるでしょうねぇ、長野さん」

 

「どうせ何時も通り恥ずかしい目に遭って逃げてるだろう」

 

夕日を見つめながら、学園艦巡りをしている青年を思う華。

 

嘆息して答える麻子、正解な辺り青年の事をよく分かっている。

 

「今朝の連絡だと、今頃プラウダじゃないかな」

 

「あれ、沙織さん叢真さんと連絡取ってるの?」

 

愛用の携帯を取り出して呟く沙織に、驚くみほ。

 

出演番組を全員で鑑賞されてその恥ずかしさから逃げ出した叢真、会長からしばらく放置しておけば良いと言われて連絡も控えているのがみほ達の現状。

 

「うん、やっぱり何処で何してるか心配だからねー」

 

「流石、コミュ力おばけ…」

 

周りが連絡を控えてる中、そんなの関係ないとばかりに連絡を取れる沙織。

 

麻子が言う通りのコミュ力おばけである。

 

「プラウダですか、それじゃ今頃北の方ですねぇ」

 

「長野殿も大変ですね、軽く日本縦断してますよ距離的に」

 

華の言葉に、苦笑して答える優花里、サンダースが沖縄近辺だった事も考えると、既に日本を縦断する位の距離を移動している。

 

「なんだ、長野殿がどうかしたのか?」

 

「所在が分かったぜよ?」

 

そこへ、カバさんチームが話に入ってきた、叢真の名前が聞こえたのでやってきたのだろう。

 

「今プラウダだって、長野さん」

 

「ほー、プラウダか。それは遠いな」

 

「ひなちゃ…カルパッチョが朝に、既にアンツィオを出たと言ってたから、もう到着している頃かな」

 

「勢いで飛び出していった割には、計画的に行動してるな」

 

「生真面目ぜよ」

 

沙織の言葉に、北の方を見るエルヴィン。

 

カエサルが連絡を取っているカルパッチョからの情報で、既に到着しているだろうと予想。

 

「おー、なになに、長野ちゃんの話?」

 

「あ、会長さん。叢真さんが今、プラウダについた頃かなって話です」

 

相変わらず干し芋を食べている会長と、小山柚子もやってくる。

 

桃は本日使った機材の片付けをやっている模様。

 

「あー、今日は船で移動してるらしいから今頃かもねー。小山、長野ちゃんの行動履歴ってどうなってんの?」

 

「えっと、既に聖グロリアーナ、サンダース、アンツィオの訪問を終えて、残りはプラウダ、継続、黒森峰の予定ですね。本当はもうプラウダを終えている予定だったんですけど…何故か、西住さんのご実家を訪問して一泊してるんですよね…」

 

「え!?うちに!?」

 

柚子の説明に、驚きの声を上げるみほ。

 

それはそうだ、意中の相手が突然自分の実家を訪問し、しかも泊まっているのだから。

 

「叢真さん、なんでうちに行ったんだろ…おかーさんが何かしたのかな…」

 

「と言うか、何で小山副会長は長野殿の行動を把握しているのだ?」

 

「長野くんが、毎日本日の行動予定をメールしてくれるの。公欠にするのに、詳細な行動予定が必要だから」

 

「生真面目ぜよ」

 

悩むみほを尻目に、疑問を口にするカエサル。

 

授業を公欠にする為に、ちゃんと行動予定を提出している辺り、叢真の生真面目さが伺える。

 

「そうそう、その長野ちゃんがあちこちのお土産を送ってくれたから、明日あたり食事会を開くよー」

 

「ご当地名物とか食材とか送ってくれたから、お鍋にしようと思うの。楽しみにしててね」

 

「まぁ、流石長野さん」

 

「抜かり無いな」

 

会長と柚子の言葉に、目を輝かせる華と麻子。

 

「恥ずかしさから逃げ出した割には、そういう事は抜け目ないな長野殿…」

 

「まぁ長野殿ですからね、気配り上手ですし」

 

「その気配りをもうちょっと、異性への注意に向けれくれればな…アンツィオでもまたやらかしたらしいぞ、カルパッチョが言ってた」

 

「懲りないねぇ長野さんも…」

 

「釣った魚からは逃げる癖に餌は忘れない……天然ジゴロと言う奴か」

 

「ジゴロじゃないと思うぜよ、天然なのは同意だが」

 

帽子を弄りながら嘆息するエルヴィン、叢真が学園艦巡りを始めた理由を知っているだけに苦笑しか出てこない。

 

優花里が苦笑してフォローするのだが、カエサルに一刀両断される。

 

肩を竦める沙織、左衛門佐が何気に酷いことを言っているが、おりょうが訂正する。

 

別に女性にたかって生きている訳ではないのでジゴロではないだろう。

 

天然誑しがこの場合正解だ。

 

「もしかしてお姉ちゃんとの婚約を進めるって話なのかな…もしそうなったらどうしよう…うぅ…」

 

「みぽりーん、そんな1人であわあわしてないで行くよー?」

 

一頻り叢真の事を話して満足したのだろう、再び解散となり散っていくメンバー。

 

1人だけ混乱中のみほを、沙織が苦笑しながら連れて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Правда の場合

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れのプラウダの街並みを、クラーラさんの運転する車両で移動する。

 

各学園艦には免許センターが設置されて、学生でも免許が取れる。

 

学校によっては飛行機や特殊車両、船舶の免許も取れるので結構な数の生徒が免許を持っている。

 

まぁ戦車を乗り回す生徒も居るのだ、珍しくもない。

 

「クラーラさんは、ロシアの…?」

 

「はい、ロシアからの短期留学で、カチューシャ様の元で戦車道を学ばせて頂いてます」

 

流暢な日本語で返答してくれるクラーラさん。

 

生粋の外国人と知り合うのは久しぶりだ、なんちゃって外国人風の子とならよく知り合うが。

 

ダージリンもケイさんもアンチョビもカチューシャも日本人だからなぁ…。

 

うちの佐々木とかエルヴィンも、地毛で金髪だしな…。

 

「同志長野の事はカチューシャ様からよくお聞きしてます、プラウダの栄光の立役者であり、カチューシャ様が隊長に任命されたのも同志長野のおかげだと」

 

「いや、カチューシャが隊長に任命されたのは彼女の実力ですよ…」

 

去年の全国大会、黒森峰戦でみほちゃんが乗るフラッグ車と護衛の車両をまほさん達本体から分断、山道に追い込んだのはカチューシャの作戦。

 

それをアドバイスしたのが俺、というのがプラウダでの認識らしい。

 

確かにカチューシャに黒森峰相手への作戦のアドバイスはしたが、作戦を立てたのも指揮をしたのもカチューシャだ。

 

カチューシャの能力があったからこそ可能だった。

 

その功績でカチューシャは隊長に任命されたのだが、それを俺のお陰、俺が居なければ何も出来ないと揶揄するのが居るらしい。

 

ノンナさん曰く極一部らしいが。

 

ケイさんやダージリンと違って、カチューシャのカリスマは先鋭的だ。

 

一見すると暴君とも思える行動が多い。

 

それ故、彼女に反発する勢力も一定数存在する。

 

だが逆に、ノンナさんのような心酔する人も多いのがカチューシャだ。

 

まぁ…ノンナさんは色々と例外だが。

 

あの人は怖い、カチューシャの為なら何でもする。

 

だがそれがカチューシャの為にならないなら逆らう事も厭わない。

 

典型的なイエスマンではなく、常にカチューシャを支える事を自分に課している。

 

その為、カチューシャの為になる事ならどんな事であっても達成しようとする…。

 

大抵のことが出来てしまい、頭も良い。

 

スタイル身体能力全てが平均以上。

 

敵に回すと恐ろしいことこの上ない。

 

「そう言えば、ノンナさんは?」

 

プラウダを訪れた時、俺の世話をするのは大抵彼女だ。

 

カチューシャの世話をして俺の世話までするのだから恐れ入る。

 

まぁ…世話の大半が腕組んだり擦り寄ったりのスキンシップなんですけどね…。

 

最初はなぁ、カチューシャ思いの優しい人だと思ってたんだけどなぁ…。

 

何がどうしてあんな行動を取るようになったのか…。

 

「ノンナは同志長野の歓迎の準備をしています、お料理に時間がかかっているようなので、私が代理で参りました」

 

「そうですか…」

 

ちょっと安堵する、ノンナさんと二人っきりとか身の危険を感じてしまう。

 

カルパッチョが情熱的に迫るタイプなら、ノンナさんは冷静に迫るタイプだ。

 

しかし料理か、プラウダで料理となると自分で作るか学校外のお店で買うしかない。

 

実はプラウダ高校、お昼は配給制である。

 

正確には給食スタイルなのだ。

 

毎日決まったメニューが提供されるので、栄養はバッチリなのだが好きな物が食べられない。

 

お菓子などは購買で買えるが、ロシアっぽいお菓子がメインで品揃えが悪い。

 

アンツィオの生徒が転校してきたら、一日でアンツィオに帰りたくなる事が容易に想像出来る。

 

そういう学校なのだ。

 

恐らく今頃、ノンナさんが料理を頑張ってくれているのだろう。

 

「ただ、急な来訪だったので会場が押さえられず、普段とは違う場所になってしまいますが…」

 

「構いませんよ、元々予定を前倒しして訪問したのはこっちですから」

 

本来は時間をかけて訪問する予定だったが、つい勢いで大洗を飛び出してしまったので急遽各学校に連絡を取った。

 

どの学校も急な訪問に快く応じてくれたので助かったな。

 

聖グロ、サンダースは日本近海に居たので近かったが、黒森峰は外洋に居る為後回しに。

 

継続も日本海側に居るので、後回し。

 

1番近かった聖グロ、サンダース、アンツィオと周り、やっとプラウダだ。

 

西住家での一泊がなければ、今頃プラウダを出てたんだけどね…。

 

クラーラさんの運転する車両は、学校の北側校舎へとやってきた。

 

ここは古い校舎で、木造になっている。

 

プラウダ名物、シベリア送り25ルーブルの舞台でもある。

 

「どうぞこちらへ」

 

車両から降りてクラーラさんの後を付いていく。

 

この校舎に来るのはいつ以来だろう…。

 

「今日は随分人気がないですね…」

 

「皆さん、買い出しや歓迎会の準備で出ていまして…」

 

なるほど、あの場所にニーナやアリーナが居たのも買い出しにでも出ていたのかもしれないな。

 

クラーラさんの後に続いて階段を降りる、はてこの先は行ったことがないが…地下か。

 

あれかな、歓迎会で騒がしくなると周りに迷惑だから、音が響かない場所でするのか。

 

これがノンナさんなら怪しくて警戒しなきゃだが、初対面のクラーラさんを疑うなんて馬鹿出来ない。

 

真面目で温和そうな人だし、心配するだけ無駄だな。

 

「こちらです」

 

「ありがとうございます。やぁカチューシャ、久しぶ…り…ん?」

 

クラーラさんが開けてくれた扉を潜り、薄暗い部屋の中へ。

 

部屋の中央に立つ、カチューシャに声をかけ…カチューシャじゃない!?

 

「なんだこれ、銅像…!?」

 

そこにあったのはカチューシャそっくりの銅像。

 

なんだこの無駄にクオリティが高いのは…。

 

 

 

――――カチャ――――

 

 

 

…………はて、今の音、俺の耳が確かなら扉の鍵を掛けた音だと思うんだが。

 

背筋を駆け上る、猛烈な嫌な予感。

 

この感覚…ノンナさん!?

 

「……クラーラ…さん…?」

 

まさかと思って後ろを振り返るが、そこに居たのは扉の前に立つクラーラさんだけ。

 

だが、彼女の手は後ろに回され、扉の鍵の辺りにある。

 

え…なんで…。

 

「申し訳ありません同志長野…ですがこれもカチューシャ様の為なんです」

 

そう言って後ろ手に回していた手を胸の前に持ってくる、その手には扉の鍵が。

 

え、この部屋内側からも鍵で閉めるタイプなの…?

 

その鍵を、制服を引っ張って胸元に入れるクラーラさん。

 

巨乳スパイとかがよくやる奴だ!不〇子ちゃんとか!

 

『偉大なるカチューシャ様の為、同志長野…貴方を捕らえさせて頂きます』

 

なんでそこでロシア語になるかな、俺簡単な会話しか分からないんだけど!

 

『大人しくして下さい、乱暴はしたくありません。大丈夫、直ぐに気持ちよくなります』

 

よく分からないけど凄い不穏な事を言ってるのは分かる!

 

笑顔のまま近づいてくるクラーラさん、ヤバい、なんで気が付かなかった…。

 

この人、ノンナさんと同じ匂いがする!

 

擬態してたのか…!?

 

ニーナやアリーナが逃げろと言ってたのは、クラーラさんの事だったのか…!

 

周りを見渡す、窓は無く、廊下に出るにはクラーラさんの後ろの扉だけ。

 

天井は高くて、屋根裏に逃げる事も叶わない…。

 

こうなったら仕方がない…女性に乱暴するのは死ぬほど嫌だが、当て身で気絶させて…。

 

『情事の前に運動がご所望ですか?分かりました、お相手しましょう』

 

「………嘘だろ…」

 

俺が構えたのに合わせて構えるクラーラさん。

 

祖父に鍛えられたお蔭で分かる、クラーラさんの構えに隙が無い。

 

訓練を積んだ軍人みたいな威圧感がある。

 

『父に鍛えられまして。これでも白兵戦は自信があります』

 

父とかは聞き取れた、何、クラーラさんのお父さん何者なの…?

 

『シッ!』

 

「チッ!?」

 

クラーラさんの拳を往なし、避けて、後ろに下がる。

 

『はっ!』

 

「ちょ、スカートなの考えて!?」

 

鋭い回し蹴りを両手で受け止め、なるべく白い布を見ないようにしながらクラーラさんを押し返す。

 

「クラーラさん、なんでこんな事を…!」

 

『カチューシャ様の為です。私は日本に来て、プラウダの素晴らしさ、カチューシャ様の偉大さを感じました。そのカチューシャ様が恋い焦がれる同志長野、貴方を手に入れればプラウダの栄光は完全なモノになります。プラウダの為、そしてカチューシャ様の為に、大人しくその身を捧げて下さい同志長野、その代価として私の身を捧げましょう』

 

「日本語でおけ!」

 

長文はやめろぉ!そこまでロシア語堪能じゃないんだよぉ!

 

「カチューシャ様の代わりに私が抱きますから人生をカチューシャ様の為に捧げて下さい」

 

肉食ぅ!抱きますって何だ!?

 

なんだカチューシャの為って!

 

カチューシャが知ったら絶対怒るぞ、ぷんすか怒るぞ!

 

「カチューシャとノンナさんは知ってるのか!?」

 

『カチューシャ様もノンナも知りません、私の独断です。大丈夫です、ロシアも暮せば良い土地ですよ?』

 

ロシア?今ロシアって言った!?

 

連れて帰る気満々!?カチューシャと俺を連れて帰る気かこの人!?

 

ある意味ノンナさんより怖いよこの人!

 

『抵抗しないで下さい同志長野、貴方が女性には手が上げられない事は調査済みです』

 

「だから日本語でおけ!?」

 

「ヘタレの童貞なのは知ってますから大人しくして下さい」

 

「すっごい失礼!?」

 

ヘタレなのは良いけど何で童貞の事まで知ってるのこの人!

 

「父が調べてくれました」

 

「何者なんだよお父さん!?」

 

親子揃って怖いわ!

 

ジリジリと迫ってくるクラーラさん、美人なだけに恐怖感倍増である。

 

 

 

 

――――ガチャ!ガチャガチャガチャ…ドンドンドン!――――

 

 

 

 

「「!?」」

 

その時、突然扉を開けようとする音と、乱暴に扉を叩く音が部屋中に響いた。

 

誰か来た…?クラーラさんも驚いていると言う事は、彼女も想定外の人物か?

 

 

 

 

――――ガンガンガン!――――

 

 

 

 

物凄い勢いで扉が叩かれている、今にも扉が壊れそうだ。

 

『そんな…ここを利用してる事は誰も知らない筈なのに…!』

 

焦っている様子のクラーラさん、どうやら助けが来たらしい。

 

 

 

 

――――バキィッ!!――――

 

 

 

 

遂に扉が破られた、ベキベキと穴が空いた場所から扉が割られていく。

 

「同志長野…!」

 

「ヒェッ!?」

 

扉の穴から顔を覗かせたのは、長い黒髪にギラリと光る目、口からカハァァと白い息を吐き出す女性…。

 

ノンナさんだった。

 

あまりの衝撃映像に悲鳴が漏れた。

 

俺の姿を確認すると、そのまま扉の鍵の部分を蹴り砕き、扉を開けて入ってくる。

 

『同志クラーラ、これは何の真似ですか…』

 

『どうしてここが分かったのノンナ、偽装工作は完璧だったのに…』

 

『ニーナとアリーナが教えてくれました、貴女に同志長野が連れて行かれたと。私が迎えを頼んだ2人から、強引に迎えの役目を奪われたと…』

 

『そう…口止めをしておくべきだったわね』

 

「同志長野、こちらへ。もう大丈夫ですよ」

 

クラーラさんと睨み合いながら俺を庇う為に身構えるノンナさん。

 

完全には聞き取れなかったが、ニーナとアリーナという単語は聞こえた、あの2人がノンナさんに連絡してくれたらしい。

 

助かった…。

 

『いいわ、計画のためには貴女が1番の障害だと思っていたもの。手間が省けたと思えばいいだけ』

 

『クラーラ…諦める気はないのですね』

 

身構えるクラーラさん、その手には何処から取り出したのかアーミーナイフが。

 

ガチじゃないですかクラーラさん…!

 

「同志長野、逃げますよ。クラーラの白兵戦能力は私よりも上です」

 

むしろ普通の女子高生の筈のノンナさんの戦闘力の高さが謎だよね。

 

とは言え本気のクラーラさん相手は俺も自信が無いので大人しくノンナさんの方へ走る。

 

「こちらです同志長野」

 

俺の手を握り、全力で走り出すノンナさん。

 

『待ちなさい!』

 

後を追いかけてくるクラーラさん、俺達に負けず劣らずの足の速さ。

 

やっぱりあの人も人間離れしてる戦車道乙女か…。

 

「急いで下さい同志長野!」

 

ノンナさんに手を引かれながら階段を駆け上る、人気がない校舎、あまり詳しくないので今どこに居るのか分からなくなってくる。

 

「こちらへ!」

 

通路の途中で小さな部屋に入る。

 

「静かに」

 

「むぐっ!?」

 

中に入ると扉を閉める、そして俺を胸元に引き寄せるノンナさん。

 

ちょ、苦しい!なんで俺の頭を胸の中に抱き入れる必要があるんですか!

 

無理矢理黙らされて息を潜めると、扉の前をクラーラさんが走っていく。

 

そして足音が聞こえなくなった所で、ノンナさんが静かに息を吐いた。

 

「申し訳ありません同志長野、まさかクラーラがあんな手に出るとは…」

 

「むー!むー!」

 

「あ、すみません」

 

窒息するわ!?

 

俺の状態に気付いたノンナさんがやっと離してくれる、下手に呼吸するとノンナさんの良い匂いがするので必死で息止めたよ…。

 

狭い小部屋、物置みたいだな…。

 

「兎に角、カチューシャに言ってクラーラさんを止めて貰わないと…」

 

「カチューシャはお昼寝中です」

 

マジか…いやもう夕方なんだけど、どんだけ寝てるんだカチューシャ…。

 

携帯を確認………ん?

 

「同志長野、ご安心下さい、貴方は私が守ります…えぇ、この身に変えてでも…」

 

そう言いながらそっと俺の肩に触れてくるノンナさん。

 

その手を、身を捩る形で避ける。

 

「同志長野…?」

 

「ノンナさん…カチューシャは起きているようですが?」

 

驚くノンナさんに、携帯の画面を見せる。

 

そこには、カチューシャからのメールが表示されている。

 

内容は『ソーシャ遅い!カチューシャがずっと待ってるのに待たせるなんてシベリア送りなんだからね!』というお怒りのメール。

 

ずっと待ってる、つまりお昼寝からはとうの昔に起きて俺を待っているという事になる。

 

その事にノンナさんが気付かない?ありえない、あのカチューシャ命のノンナさんが、カチューシャの目覚めに気付かないとか。

 

そもそも、ノンナさんはカチューシャがお昼寝に入って起きるまで、絶対に側を離れない。

 

そして、クラーラさんが独断で俺を襲おうとしたのなら、その事をカチューシャに伝えるだろう。

 

クラーラさんを止める事が出来るのがカチューシャだけだと、分かっているのだから。

 

いや、そもそもおかしい。

 

初対面であるクラーラさんが俺を襲う?

 

カチューシャの為に?俺を襲う事がなんでカチューシャの為になる?

 

クラーラさんからはノンナさんと同じ匂いがしたが、いくらなんでも短い間でそこまで心酔するとは思えない。

 

「居るんでしょう?クラーラさん」

 

『………どうしてバレたのでしょう』

 

扉を開けて入ってくるクラーラさん、俺が部屋から逃げ出そうとしたら捕まえる役目か。

 

「………貴方の直感を見縊ってました、流石ですね同志長野」

 

「カチューシャからの連絡が無ければ信じてましたよ…」

 

『どうするのノンナ、同志長野には乱暴な事はしたくないのでしょう?』

 

『当然です、同志長野には傷一つ付けてはいけません、彼を傷つける事はカチューシャを傷つける事と同じです』

 

『それじゃ、これは不要ね』

 

何かしら会話して、クラーラさんがナイフを捨てる。

 

カランカランと軽い音…本物じゃなくてよく出来た玩具かアレ。

 

『暴れないで下さい同志長野…この日のためにちゃんと勉強をしました、安心して下さい』

 

『何も心配いりません、安心して身を委ねて下さい』

 

ロシア語で話しながらにじり寄って来る2人。

 

目がギラギラと光り、口からは白い吐息がカハァァァ…と漏れる。

 

うーん、恐怖映像。

 

何を言ってるか半分もわからないが、捕まったらえらい事になるのは確定。

 

なので。

 

「ふんっ!」

 

『『っ!』』

 

側にあったダンボール箱の山を彼女達の方へ倒す。

 

素早く反応して後ろに下がる2人を尻目に、窓の方へ。

 

素早く窓を開けて外へと飛び出す、1階で助かった。

 

『同志長野!』

 

『逃さないわよ!…ちょ、ノンナ、狭いわ!』

 

『同志クラーラ、胸を押し付けないで下さい、苦しいです!』

 

後ろを見たら狭い窓を2人同時に出ようとして引っ掛かっている2人が居た。

 

どっちも凄いスタイルしてるからね、引っ掛かるだろうね…。

 

2人がまごついている内に、全速力でその場から離れる。

 

目指すはカチューシャの居る場所。

 

カチューシャにさえ辿り着ければ、俺の勝ちだ。

 

「長野さん!」

 

「こっちだべ!」

 

「ニーナ、アリーナ!」

 

呼び声の方を見れば、ニーナとアリーナが両手をぶんぶんと振っている。

 

「無事で良かっただよ」

 

「こっちだべ、ちびっ子隊長が居る部屋に案内するだよ」

 

「ありがとう、助かるよ」

 

案内を買って出てくれる2人の後を付いていく、一瞬この2人も…と脳裏を過るが、2人共カチューシャの我が儘に振り回される側なので、そこまでカチューシャに心酔していない。

 

隊長としては慕っているが、ちびっ子隊長とか呼んでいる位だ、心配はないだろう。

 

木造校舎から本校舎へ。

 

カチューシャはいつものお茶会の部屋で俺を待っているらしい。

 

「うわっ、追ってきただよ!」

 

「急ぐべ!」

 

後ろを見れば、まるで某ターミネーターのように真顔で追ってくるノンナさんとクラーラさんが。

 

走る姿勢がまるで機械のように綺麗なので恐怖倍増である。

 

「ニーナ、もっと早く走るだよ!」

 

「これが限界だっちゃ!」

 

足のコンパスの関係で遅れ始めるニーナ。

 

仕方ない。

 

「ちょっと我慢してくれニーナ」

 

「へ…うわわっ!?」

 

「わ~、羨ましいっぺよ…」

 

ニーナを素早く抱え上げ、階段を駆け上る。

 

腕の中のニーナが真っ赤になってあわあわしているが、構っている暇がないので我慢してもらう。

 

階段を駆け登り、後は部屋までの直線の廊下。

 

だが階段を全力で段飛ばしをしながら上がってきた2人に追いつかれてしまう。

 

「長野さん、先に行けじゃー!」

 

「アリーナ!?」

 

「オラも行くだ、長野さん急ぐんじゃ!」

 

「ニーナ!」

 

急転換してノンナさんに飛びかかるアリーナと、腕の中から飛び出してクラーラさんに挑むニーナ。

 

「ふぎゅ!?」

 

「ぐべっ!?」

 

「弱ッ!?」

 

一瞬で無力化された。

 

いや、2人が弱いんじゃないな、あの2人が規格外なだけだ。

 

ニーナとアリーナの尊い犠牲を背に、全速力を出して廊下を走る。

 

『速い…!』

 

『追いつけない…!?』

 

俺1人なので全力が出せる、扉を突き破る様に部屋に転がり込む。

 

「ふわっ!?そ、ソーシャ!?どうしたのそんなに急いで…!?」

 

「カチューシャ…会いたかったよカチューシャ!」

 

「ちょ、なに、なんなの!?苦しい、苦しいわよソーシャ!?」

 

部屋で1人寂しそうに待っていたカチューシャが、転がり込んできた俺に驚くが、俺は構わず駆け寄ってカチューシャを抱きしめる。

 

会いたかったぞカチューシャ!

 

「も、もう!そんなにカチューシャさまに会いたかったの?甘えん坊なんだからソーシャは。いいわ、好きなだけカチューシャに甘えるのを許してあげる!」

 

そう言って俺の頭を抱えて、良い子良い子と頭を撫でてくるカチューシャ。

 

…………あれ、冷静に考えると、俺、今凄く恥ずかしい事してないか?

 

『素晴らしい光景です…』

 

『これが…これが尊いという感情…ハラショー…』

 

なんか、ビデオカメラとデジカメ片手に撮影してる追跡者が居た。

 

何してんの!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく!ノンナもクラーラもソーシャを騙すなんて何を考えてるの!?」

 

『カチューシャへの愛が暴走してしまいました、反省はしますが後悔はありません』

 

『全てはカチューシャ様への愛が招いた事です、微塵も後悔はありません』

 

「だから日本語で話しなさいよ!?反省してるの!?」

 

あの後、カチューシャに事の経緯を説明し、お説教をして貰っている。

 

しかし、2人は弁明をロシア語で話すので内容が分からなくてカチューシャはぷんすかするばかり。

 

2人はカチューシャの前で正座しているが、全く反省している様には見えない。

 

むしろ怒ったカチューシャを見つめてテカテカしている。

 

ダメだあの2人、どうにかしないと…。

 

「申し訳ねぇだよ長野さん…逆に足を引っ張っちまっただ…」

 

「いや、助けに来てくれて嬉しかったよニーナ」

 

自分達が逆に足を引っ張った事に気付いたニーナ達がしゅんとして謝りに来た。

 

俺1人ならノンナさん達から逃げ切れた事に気付いたらしい。

 

「2人がカチューシャの場所を教えてくれたから無事に済んだんだ、感謝こそしても怒りなんてしないよ」

 

「え、えへへ、そう言って貰えると嬉しいべ…」

 

「んだんだ…」

 

2人の頭を感謝を込めて撫でる、顔を赤くしてモジモジする2人。

 

「まったくもう…ソーシャ!ニーナ達にかまってないでカチューシャを労いなさいよ!」

 

「はいはい…」

 

「2人はそのまま正座!良いって言うまで動いちゃダメなんだからね!」

 

『『はい、喜んで』』

 

まるで堪えてない、ダメだこりゃ…。

 

「まったくもう…ソーシャも、ほいほいついて行っちゃダメじゃない、遅いから心配したんだからね!」

 

「ごめんよカチューシャ」

 

ぷんすか怒るカチューシャの頭を撫でる、途端にむふふ~と笑顔になる。

 

膝の上に乗った小さな暴君、だが俺に取っては可愛い妹分である、言ったら怒られるけど。

 

「まぁいいわ、カチューシャは優しいから許してあげる!その代わり、今日はカチューシャと一緒に寝るのよ!」

 

えぇ…全然許されてないんですけどそれは…。

 

恥ずかしいけど、でもカチューシャだしなぁ…助けてもらった恩もあるし…。

 

「分かった、分かったから大声で言わないでくれ…」

 

ほら、ニーナとアリーナが顔を赤くしてひそひそ話してるから…。

 

チラリとノンナさん達の方を見る。

 

『…………』

 

『…………』

 

無表情で俺とカチューシャを見つめていた、かなり怖い。

 

下手に1人で寝るとこの2人が何をしてくるか分からないし…情けないがカチューシャに居てもらおう…。

 

いのち大事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これで良かったのノンナ』

 

『えぇ、私達に襲われた同志長野は高確率でカチューシャを頼ります。そして私達を警戒するあまりに、カチューシャに対して無防備になります。普段なら拒否される添い寝を承諾してしまう程に…』

 

『なるほど、明確な危機を置く事で、保護者に対して依存させる…考えましたねノンナ』

 

『プラウダから逃亡されてしまう危険性もありましたが、同志長野の中で何かが変わったのでしょう、迷うこと無くカチューシャを頼りました。これは良い傾向です』

 

『でも…もし同志長野が私や、貴女を受け入れていたらどうしたの?彼も男性、その可能性もあったでしょう』

 

『その時は…彼に身を任せるだけです。彼も手に入る、こちらも女として満たされる、そしてカチューシャの為になる』

 

『なるほど…どっちに転んでも得になるのね、流石ねノンナ』

 

『貴女の協力で上手く行きました、まさかあんなに早く気付かれるとは思いませんでしたが』

 

『そうね…でも今は、目の前の至上の光景を堪能しましょう』

 

『撮影は順調ですかクラーラ』

 

『当然よノンナ』

 

2人並んで正座したまま、椅子に座る叢真とその膝に座って甘えるカチューシャを見つめて微笑を浮かべる2人。

 

その襟元や袖の中には、小型カメラの姿が。

 

この2人、全く反省していない。

 

『でも…その結果、同志長野に嫌われたらどうするつもりだったの?』

 

『………悲しいですが、それでカチューシャとの仲が進むなら、私はそれで…』

 

『ノンナ……素晴らしい決意だわ、やはり貴女は素晴らしい』

 

『ありがとうございます同志クラーラ』

 

ガッチリと握手を交わす2人、流石似ているだけはある。

 

『ところでノンナ?』

 

『なんですかクラーラ』

 

『私、そろそろ足が限界なのだけれど…』

 

『我慢ですクラーラ、私も既に限界です』

 

微笑を浮かべたままの2人、だがその両足は既に限界だった。

 

この後、しびれた足をカチューシャにツンツンされて悶える2人という珍しい光景が見られた。

 

だが、それすらも2人にとってはご褒美だった。

 

この2人、既に手遅れである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「上手く行っただなアリーナ」

 

「んだなニーナ」

 

「これでオラ達の好感度はうなぎ登りだべ」

 

「ノンナ副隊長とクラーラさんを敵に回すのは怖いけんれど、長野さんの為なら頑張れるべよ」

 

「頑張って好感度稼いで、ちびっ子隊長みたいに添い寝してもらうだよ」

 

「オラはもっと先の事も……きゃっ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むにゃ……そーしゃぁ……」

 

「………おやすみ、カチューシャ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プラウダの本当の脅威が誰なのかは、誰にも分からない…。

 

 

 

 

 

 




1番の勝ち組はだーれーだ(´・ω・`)












更新に関してですが、書ける時に書くという状態なので更新しない時もあります。
リアルやリハビリの都合がありますので、ご了承下さい。
コメ待ちとかは一切考えておりません。
長期に更新が停止する場合はアナウンス致します。

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